変化が激しく、予測困難なVUCAの時代においての組織運営は、経営陣含め全社員がいかに環境に適応しながらスピード感を持って意思決定できるかということが重要になります。
本記事では、VUCA時代を生き抜く上でキーワードとなる概念「アジリティ」についてご紹介します。
1.ビジネスにおけるアジリティとは?
アジリティとは、一般的に、機敏さ、素早さ、敏しょう性といった意味を持ち、スポーツや犬の障害物競技として使われている言葉です。
ビジネスの現場においては、「その場の状況を的確に判断し、素早く行動できること」をアジリティと呼びます。アジリティのある組織や人材は、数多くの変化に適応し成長し続けられる可能性を秘めています。
たとえば、コロナウイルスの感染拡大に伴うリモートワークへの移行など、状況の変化に即時対応できたアジリティの高い企業はコロナ前と変わらず業績を伸ばすことが出来ていました。
1-1.アジリティが重要視される背景
近年アジリティが注目されるようになった背景には、目まぐるしく変わる経済の状況が関係しています。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、現代のビジネスは先行き不透明な状態です。また、デジタル化によってビジネスが大きく変化する過渡期を迎えている企業も少なくありません。
激動かつ不確実、不透明な時代でビジネスは複雑化しています。そのなかで、企業は状況に応じた適切な判断を下し、行動し続けなければならないのです。
意思決定のスピードやフレキシブルな働き方への移行など、ビジネスの変化に即座に対応できる機敏さや素早さは必要不可欠です。
1-2.アジリティとクイックネスの違い
アジリティとよく似た言葉として、ビジネスではしばしばクイックネスという言葉が用いられます。
クイックネスとは俊敏性のことで、ビジネスの純粋なスピード能力を意味します。目の前のことに対して即座に反応したり、素早く仕事を進めたりといった対応力はクイックネスと呼ばれます。
これに対して機敏性を意味するアジリティは、対応力の高さが求められるシーンで頻繁に用いられます。ビジネスにおける障害にどれだけ機敏かつ的確に対応できるのかはアジリティの大切な要素です。また、その場に応じた的確な判断を下し、行動に移せるかといったポイントも重要です。
アジリティやクイックネスといった言葉はスポーツの世界でも使われます。技能上達のためには、それぞれの要素を複合的に用いたトレーニングが必須となります。
2.アジリティの高い組織の特徴
次に、アジリティの高い組織の特徴を3つ紹介します。
2-1 組織のビジョンが明確である
ビジョンが明確だと、現場社員含め全社員の意思決定の判断基準が明確です。そのため、前例のない課題が生まれた際も、柔軟に、正しい方向性で意思決定を下すことができます。
2-2 チーム内のコミュニケーションが活発
情報共有が活発に行われていると、組織や現場社員がどんな状況にあるのか、自分は何をすべきかが把握しやすく、スピード感をもって適切な意思決定ができます。
また、このように情報共有が活発な組織は意見交換を頻繁に行っているため、認識の齟齬が生まれにくいです。そのため、社員は安心して業務に取り組めるので、社員の満足度向上を図れます。
結果的に、経営陣や管理職側の新たな指示に対しても、スピード感もって変化に適応できる組織になります。
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2-3 柔軟な発想力と応用力がある
どんな事象に対しても解決策を考えられる発想力があり、過去の事例や他社の事例などをもとに自社の課題に応用できる柔軟さがある企業は、アジリティが高いと言えます。
このような組織は、変化の激しい時代にも対応しやすいことから、課題解決に向かいやすいです。
また、計画していた戦略を時代の変化に合わせて変更できる柔軟さを持ち合わせている企業もアジリティが高く、変化に適応し、成果を出すことができます。
3.アジリティの高い人材の特徴
次に、アジリティの高い人材の特徴を2つ紹介します。
3-1 行動力がある
状況によって、やるべきことを判断し、自発的に行動に移すことが出来る人材は、組織のプロジェクトを円滑に進めやすくしてくれます。
変化の激しい現代においては、試行錯誤しながら施策を遂行していくことが必要なため、行動力のある人材がいることでアジリティのある組織作りを促進できます。
そのような人材には、適切な判断ができるようにサポートできると、よりアジリティの高い組織作りに繋がります。
3-2 置かれている状況への理解力が高い
社会や他社で起きている事象の情報を集め、自社の状況を客観的に見ることのできる人材は、組織内で起こり得るリスクを想定できる可能性が高いので、突然の社内の変化にも適切な対応をしやすいです。
4.組織のアジリティを高める人事施策
次に、組織のアジリティを高める人事施策を4つ紹介します。
4-1 現場社員の満足度調査
現場社員が作業する上で抱えている不満を解消することで、社員の満足度が高くなり、アジリティのある組織作りに向けて体制を整えられます。また、生産性の低い業務プロセスがないかヒアリングし、解消することで、業務効率の向上に向けて体制を整えることが出来ます。
しかし、規模が大きい企業ほど、社内の仕組みや体制をすぐに変えることは難しいです。そのため、短期的ではなく、長期的に取り組むものであるということを念頭に入れて実施しましょう。
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4-2 現場社員への理念浸透
適切な意思決定をしてもらうためには、根本となる経営理念や行動指針を共有することが大切です。
理念を伝える際には現場社員の視点に立ち、抽象的で解釈が複数生じてしまうものになっていないかなど、実際に行動に移しやすい内容になっているか確認しましょう。
また、理念を組織に浸透させるためには、長期的な取り組みや、認知する機会を数多く設ける必要があります。そのために、社内報を発行したり、社内ポータルサイトに掲載したり、1on1など社員と関わる際に理解しているか確認するなど、浸透に向けた施策を打ちましょう。
4-3 社員の裁量権を増やす
現場の社員の裁量を増やし、意思決定の範囲を広げることでスピード感をもってプロジェクトを進められるようになります。
現場社員に裁量を与えることは、人材育成の観点から見て主体性と自立を促すことになるので、社員の能力や特性を見て裁量を与えるようにしましょう。その際、報連相の基準決めや上司や管理者のフォロー体制の構築が必要になります。
4-4 IT環境を整備する
紙を通じて承認申請や事項の共有をするとなると、時間のロスが大幅に生まれてしまいます。
そのため、コミュニケーションツールを導入したり、申請・承認手続きを電子化したワークフローシステムの導入を進めたりと、IT環境を整えることが必要になります。
5.アジリティの高い企業事例
それでは、具体的にアジリティ強化に向けた取り組みを進めている企業では、どのような施策が進められているのでしょうか?
実際の事例について、今回は3社を取り上げてご紹介いたします。
5-1 エアビーアンドビー
エアビーアンドビーでは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、10億ドル分を超える予約がキャンセルされ、事業の拡大計画は延期になり従業員数の4分の1が削減されました。
そのような状況の元、アジリティを意識して施策を打ち進めた結果、売り上げの回復を実現しました。
- 旅行制限が不可避だとわかりすぐに、打撃回避措置を実施
- 施設の消毒ルールに厳しい基準を導入
- 宿泊客のチェックアウト後、次の客をチェックインさせるまで部屋を一晩空室にする事を義務付け
- キャンセルの受理条件を緩和し、ホストには売上げを補填
- 予約の減少とキャンセルの増加によるダメージを吸収するため、資本を増強
- コロナ禍の影響を比較的受けていない分野への進出を加速
- 長期間にわたって「自己隔離」するための滞在プランの販売
5-2 ウォルト・ディズニー・カンパニー
ウォルト・ディズニー・カンパニーでは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、映画館、テーマパーク、小売店の休業。これらによって、大幅に売上減少しました。
しかし、変化に迅速に対応できたことで2020年5月頃から状況が回復し始め、同月には中国のパークを再開、7月には日本のパークが再開しました。2020年末の時点で、「ディズニープラス」の有料契約者数は9000万人を突破し、予定を上回る好成績を出しました。
【具体的な施策】
- 全ての施設、スタッフ、そして来場するゲストに強力な感染予防対策を課した
- 店舗、テーマパーク、クルーズ船の事業の従業員を一時的に解雇
- 動画配信サービス「ディズニープラス」の体制強化
- 配信コンテンツの増強
- 一部コンテンツは課金でにより見られるようにするなどのアップセル施策を運用
5-3 ニトリ
ニトリでは、定期的に従業員のエンゲージメント調査を実施し、業務上の課題に限らず個人的な課題までヒアリングして解決に臨むことで、アジリティの高い組織を作るための人事施策を打っています。
その結果、新型コロナウイルス感染症のパンデミックがありながらも、業績、従業員のエンゲージメント共に平常時と変わらない状態で運営を進められています。
【具体的な施策】
- 定期的に従業員(特に店舗にいる社員)にエンゲージメント調査を実施し、業務上の課題、個人的な課題や思いをヒアリング
- 人事や経営陣への不満の声も聞き入れ、従業員の不満に対する解決施策を行い、コロナ前と同様のオペレーションを維持
- 従業員一人ひとりのキャリアを考慮した教育プログラムを配備し、個人の自律や個を活かす経営に努めた
6.まとめ
これからの組織運営には、アジリティの高さがますます求められるようになります。しかし、組織のアジリティを向上させるのには、時間を要し、新たに取り組むべきことが多いため、簡単な事ではありません。
そのため、今回の記事を通して、アジリティのある組織作りに向けて少しでも参考になれば幸いです。