
企業の非連続な成長に不可欠な「ハイレイヤー人材」。しかし、彼ら、彼女らは従来の採用手法が通用しない、転職市場にはなかなか現れない存在です。
YOUTRUSTが主催するイベント『HR LEADERS』では、採用戦略の最前線を走る株式会社ReBoostの河合 聡一郎氏、株式会社ナレッジワークの徳田 悠輔氏、そして株式会社YOUTRUSTの岩崎 由夏が登壇。ハイレイヤー人材を惹きつけ、採用へと導くための具体的な戦略と実践知が語られました。
本レポートでは、明日から使える「採用の逆転発想」と、それを支える組織・制度設計の秘訣に迫ります。

登壇者河合 聡一郎氏株式会社ReBoost 代表取締役
大学卒業後、大手印刷機械メーカー、リクルートグループを経て、株式会社ビズリーチの立ち上げ期を経験。その後は複数社を経て、ラクスル株式会社の創業メンバーとして参画。人事マネージャーとして、経営幹部をはじめとした多様なポジションの採用、評価制度構築/運用、採用広報、カルチャー浸透など、幅広い人事業務を中心とした会社創りに従事。2017年、株式会社ReBoost創業。未上場/上場問わず、スタートアップを中心に組織/採用戦略の策定と遂行支援を行う。累計で約40社へのエンジェル出資や、VCとの提携を通じた出資先の人事領域全般を支援。経産省のスタートアップ向け経営人材支援事業、SHIFT(X)審査委員。また「J-Startup KANSAI」、「AICHI Manufacturing Acceleration Program」、「NEXs Tokyo」において起業家に対してのメンターを務める。

登壇者徳田 悠輔氏株式会社ナレッジワーク HR 執行役員 VP
2014年、東京大学文学部卒業。 株式会社ディー・エヌ・エー入社。セールス職、人事職に従事。子会社管理部長、 HRBP等を務める。2022年、株式会社ナレッジワーク入社。2023年、HR 執行役員 VPに就任。現在は人事部門にコーポレートIT・AI活用推進部門を統合したResource Management Unitを管掌。

登壇者岩崎 由夏氏株式会社YOUTRUST 代表取締役 CEO
大阪大学理学部卒業後、2012年株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社。採用担当として経験を積む中で、求職者にとってフェアでない転職市場に違和感を覚え、起業を決意。「日本のモメンタムを上げる 偉大な会社を創る」というビジョンを掲げる、株式会社YOUTRUSTを2017年に設立。2018年4月にリリースした、日本のキャリアSNS「YOUTRUST」は累計ユーザー数は約40万人に成長。

モデレーター石原 沙代子氏株式会社YOUTRUST ヒューマンリソース部 部長
大学卒業後、サイバーエージェント入社。人事本部にてエンジニア新卒採用立ち上げに携わる。その後、医療法人で経営企画と医師採用を経験し、金融教育のABCashにて執行役員CHRO、女性のためのコーディングブートキャンプMs.Engineer取締役CHROを経て、株式会社YOUTRUSTへ参画。現在はヒューマンリソース部部長として採用全般を管轄。
目次
なぜ今、ハイレイヤー採用が企業の成長を左右するのか?

企業の成長フェーズが進むにつれ、求められる役割は変化し、ハイレイヤー採用の重要度は増していきます。特にスタートアップが非連続な成長とガバナンス強化を目指すフェーズでは、CFOやCTO、CHROといった経営幹部の獲得が事業の成否を分けると言っても過言ではありません。

しかし、ハイレイヤー人材の採用は、従来の採用手法が通用しにくいのが現実です。そこには「認知の壁」「母集団形成の壁」「競争で勝てない」という、大きく3つの壁が存在します。
では、これらの壁を乗り越え、事業価値の向上に貢献できる人材を獲得するために、成長企業はどのような戦略を描いているのでしょうか。
採用の常識が変わる。第3の採用手法「ネットワークリクルーティング」とは

「Hiring」から「Seeking」へ。未来を見据えた採用戦略

そもそもハイレイヤー人材は、転職市場に出てこないと言われています。この現状について、皆さんはどうお考えですか?
ReBoost 河合:
まさにその通りで、採用の考え方を「Hiring」から「Seeking」に変える必要があります。今すぐ必要なポジションを埋めるのが「Hiring」だとすれば、「Seeking」は1年後、2年後の自社にとって変革をもたらす人材を、時間をかけて探し続ける活動です。転職潜在層、あるいは転職意欲がない層にアプローチし、継続的な関係性の構築を行いながら口説いていくのが「Seeking」ですね。
採用手法の変遷:第3世代「ネットワークリクルーティング」の到来


採用手法の変遷も大きく関係しています。終身雇用が当たり前だった時代、転職は人生の一大イベントで、プロであるエージェントに頼むのが主流でした。これが第1世代です。その後、平均転職回数が2回を超えると、候補者自身が直接企業とやり取りするダイレクトリクルーティングが第2世代として一般化しました。
そして今、平均転職回数が3回に近づく中で、第3世代である「ネットワークリクルーティング」の時代が来ています。3回も転職を経験すると、そのネットワークは広がり、「知り合いに副業を頼まれていたら、そのまま誘われた」といったケースが当たり前になる。特にトップティアの人材は、気づくと転職している世界線にいます。いかに「つながり」のネットワークを張れているかが、採用のキーになっているんです。
ナレッジワーク 徳田:
ネットワークリクルーティングの良い点は、競合しないことです。候補者の目線では「現職に残るか」「(自社に)チャレンジするか」という二択になるので、採用の勝率が上がります。また、長いリードタイムでしっかりコミュニケーションが取れるため、ミスマッチも起こりにくい。非常に良いマーケットだと感じています。
【実践編1】ナレッジワークに学ぶ、ハイレイヤー採用の「3つの逆転発想」


ハイレイヤー採用を成功させるには、採用に対する考え方そのものを変える必要があると感じます。ナレッジワークさんが掲げる「採用の逆転の発想」について、詳しくお聞かせいただけますか?
- 「採用できる人」から採用するのではなく、「採用したい人」から採用する
- 「ファネル」で管理するのではなく、「プール」で管理する
- 応募数を「増やす」のではなく、応募数を「絞る」
- 「最後に」オファーするのではなく、「最初に」オファーする
- 「現場」が口説くのではなく、「人事」が口説く
- 「合うか合わないか」ではなく、「合わせるか合わせないか」
アトラクトを最優先に。「採用したい人」に会いに行く
ナレッジワーク 徳田:
僕らにとって一番の学びは「前工程に力を注ぐ」、つまり最初が全てを決めるということでした。例えば以前、「次の仕事を考え始めているらしい」という噂を聞いた優秀な方が北海道にいると知り、ファーストコンタクトで、私と役員陣の計4名で会いに行きました。

アセスメント(見極め)の工程を挟まずに、ですか?
ナレッジワーク 徳田:
はい。最初から「この方なら絶対大丈夫」と確信している方を採用しに行くので、見極めは後でしっかり行えばいいんです。北海道にいらっしゃる方のケースでは、仮説を立てた上でファーストコンタクトから「なぜあなたに関心を持っているか」「なぜあなたにナレッジワークキャリアを提案したいか」をプレゼンして、本気度を伝えました。最初の段階でどれだけアトラクトできるかが、潜在層を顕在化させる決め手になります。
候補者の「本気」を引き出す、最初のオファー


「『最後に』オファーするのではなく、『最初に』オファーする」というのも非常に興味深いです。

他社の条件提示を待ってから、最後に上乗せしてオファーを出すのが一般的ですよね。
ナレッジワーク 徳田:
はい。ですが、CXOクラスのような方々は、そもそもそれほど多くの企業の選考を並行して受けてくれているわけではありません。だからこそ、選考を始める前に一番最初に「これぐらいの報酬で、これぐらいの責任を負ってほしい」と提示報酬の見込みを具体的に伝えるんです。そうしないと、本腰を入れて動いてくれません。リアルな条件を伝えて、本気で考えてもらうためのアプローチです。見込みの提示なので、もちろんその後にスキルチェックやリファレンスチェックなど双方にとってのフィットを徹底的に確認していきます。
コミュニケーションの主軸を担う「口説ける人事」

「『現場』が口説くのではなく、『人事』が口説く」というのは、人事の役割として具体的にどういうことでしょうか。
ナレッジワーク 徳田:
弊社ではタレント人材の採用を専門で担う江良という専門役員がいます。彼は候補者とのコミュニケーションを絶対に途絶えさせません。多くの企業が「来週、社長と面談です」と伝えてから1週間、候補者さんとのコミュニケーションを止めてしまう間に、彼は毎日連絡を取り、関係性を深め続けます。あるエグゼクティブ候補者には、毎朝の定例MTGを組んでいました。このコミュニケーションの主軸を人事が担えるかで、候補者の熱意は大きく変わってきます。
【実践編2】採用を成功に導く、組織と制度の作り方

経営と人事の連携:採用の優先順位を毎週アップデートする

ハイレイヤー採用を成功させるには、採用手法だけでなく、それを支える組織や制度も重要です。河合さんは、どのような組織作りが必要だとお考えですか?
ReBoost 河合:
まず、経営陣とどれだけ密に連携できているか。特に重要なポジションの採用に関しては、ウィークリーで経営陣と経営や事業、組織課題が何かを同期できていますか?という点が全てです。ハイレイヤー採用におけるポジションの優先順位は市況や事業フェーズによって常に変わります。この認識がズレると、追いかけていたタレントプール内におけるコミュニケーションの仕方だったり、運用方針に支障が出る可能性があります。社内のタッチポイントを密にすることが非常に重要です。

「採用は人事の仕事」というマインドを変えることも必要ですよね。弊社では、マネージャーに昇格する際に「儀式」を行っています。「自分でチームを作れること」のようなマネージャーに必要な5箇条を満たせなければマネージャーにはしないし、昇格後もできなければ降格させると明確に伝えています。
候補者のために制度を変える、アジャイルな報酬設計

徳田さんは、報酬設計において「実態主義」「即納主義」「構造主義」と掲げています。これはどのような考え方なのでしょうか?
ナレッジワーク 徳田:
「誰かのためにではなく、目の前の人のために」「いつかの備えではなく今目の前で」「個別対応ではなく全体対応を」というスタンスです。例えば、ある候補者の採用のために1週間程度でSO(ストックオプション)の制度を作ったこともあります。企画をする人事が最前線で候補者の要望を拾い、会社のシステムを作り替えていく。個別の特別対応ではなく、全社に適応できるシステムとしてスピーディーに設計することで、組織をできるかぎり歪ませずに対応しています。
経営視点を持つ人事の重要性

「人が良い人だけを人事にするのではなく、頭が良い人を人事にする」というのも本質的ですね。
ナレッジワーク 徳田:
ありがとうございます。採用は複雑で難しい仕事です。特にハイレイヤー採用では、会社のシステムを変える思考や、PLを理解し「この人に投資すれば、どれだけのリターンがあるか」を経営陣に数字で説明できる能力が求められます。経営者としては、数字で返ってくると非常に判断しやすいはずです。
ReBoost 河合:
ハイレイヤー人材とのコミュニケーションも同じです。「ビジョンやミッションの実現に向けてどれくらい難易度が高い課題があり、どのような面白さがあるか」や、「あなたの中長期でのキャリアにおいて、どれだけのリターンがあるか」を論理的に説明できることが重要です。究極的には、オファー時に財務諸表を全て見せて「この数字を見て、あなた自身で報酬を決めてください」と交渉することもあります。曖昧な中で意思決定をすることも、ハイレイヤー人材に求められる素養だと思っています。
Q&Aセッション:現場のリアルな疑問に答える

Q1. ハイレイヤー採用の成功率は何割くらいだと考えますか?
ReBoost 河合:
会社のフェーズによりますが、五分五分くらいではないでしょうか。それは候補者が悪かったのではなく、会社側が受け入れきれなかったというケースも多い。その失敗から何を学ぶかが重要です。
経営者としてはポートフォリオ思考なので、どこかが失敗しても全体がうまくいけば良いと考えます。一方で、人事のスタンスとしては「採用にミスはない」と考えるべきです。入社した人が活躍できていないとしたら、それは受け入れ側の自分たちの責任だと。このスタンスの違いを理解することが大事だと思います。
Q2. ハイレイヤーのアセスメント(評価)は具体的にどう行っていますか?
ナレッジワーク 徳田:
アセスメントは徹底的に行います。その中で、「カルチャーに合うか合わないか」ではなく、「お互いにどう合わせていけるか」というすり合わせのコミュニケーションを重視しています。
ReBoost 河合:
私は「これまでで最大のアンラーニング(学習棄却)の経験は何か」を必ず聞きますね。環境が大きく変わる中で、過去の成功体験を捨てて自分自身をどう変えてきたか。変えざるを得ないほどのミッションは何だったのか?なぜ変えようと思ったのか、結果はどうだったのか?などです。そのプロセスを聞くことで、変化への対応力が見えてきます。
Q3. ハイレイヤー人材のオンボーディングは、どのように行っていますか?
ReBoost 河合:
(前職での話なりますが)私たちの場合は、採用プロセスそのものがオンボーディングでした。例えば、選考段階で経営会議に参加してもらい、会社がどのようなレベルで、どういう議論をしているのかを体感してもらう。入社後の期待値を事前にすり合わせることを徹底していました。現在は出資先やご支援先に関してで言うと、面接時に伝えたり、オファーレターに「入社後から半年までの期待値」を細かくロードマップ化して、事前に期待値をすり合わせるような提案をしています。
明確に「この人を育てる」と決めて、コミットするようにしています。誰がその人を引き上げるのか、伴走役を必ず決めていますね。
Q4. ハイレイヤー採用では、どのようなKPIを設定していますか?
ナレッジワーク 徳田:
応募獲得数のような、従来のファネル型のKPIは設定していません。その代わりに「ヨミ」という概念で管理しています。これは、採用したい人のリスト100人の中から、「オファーを出す確率」と「承諾してくれる確率」を掛け算して作る、いわば売上予測のようなものです。大手企業向けの営業が、リード数ではなくパイプラインの総額で管理するのに近い考え方ですね。たくさんの方にお声掛けして集めるのではなくて、一人ひとりの候補者に対して、いかに「ヨミ」を高めていくか、という活動を追いかけています。
編集後記:採用の常識を疑うことから始まる、未来の組織づくり
今回のイベントで3社から一貫して語られたのは、ハイレイヤー採用がもはや単なる「人事の仕事」ではなく、「経営そのもの」であるという事実でした。
転職市場に現れないトップタレントを迎え入れるために、採用の常識を疑い、候補者のために制度を変え、経営陣が毎週コミットする。それは、採用活動という枠組みを超え、会社というシステムのあり方を常に問い直し、未来から逆算して組織をデザインしていく営みそのものです。
「Hiring」から「Seeking」へ、そして「待ち」から「仕掛け」へ。今回の議論は、企業の非連続な成長を本気で目指すすべてのリーダーにとって、採用戦略の、ひいては経営戦略の転換を力強く迫るものでした。
