新型コロナウイルス感染症の影響により、採用面接をオンラインに切り替えることを検討している企業が増えてきています。
そんな中、新型コロナウイルスの採用業務への影響を踏まえ、採用学研究所では「ウェブ面接」にフォーカスした研究知見を紹介するセミナーを2020年4月27日に実施。
面接官は、ウェブ・対面を問わず、面接内で候補者の「見極め」と「動機形成」を同時におこなっていきます。
- 見極め:求職者を評価する際に気をつけるべき点は何か?
- 動機形成:求職者の志望度を高めるにはどうすれば良いか?
この「見極め」と「動機形成」をウェブ面接でおこなうとき、何に気を付けたらいいのか、ウェブ面接ならではの利点はあるのか詳しく解説いただきました。
【登壇者紹介】伊達洋駆|採用学研究所 所長
面接官の二つの役割「見極め」と「動機形成」
伊達さん:面接で面接官がおこなうことは2つあります。
1つは、候補者の見極めです。見極めとは、候補者の企業への適性をきちんと評価していくことです。
もう1つは動機形成、候補者の志望度を上げることです。
面接では候補者の「見極め」と「動機形成」を同時におこなっていく必要があります。これを踏まえて、本日4つの項目をお話していきたいと思っています。
1、ウェブ面接の概観|ライブ式と録画式
伊達さん:ウェブ面接の種類は2種類あります。
1つ目は同期型(ライブ式)と言って、面接官と候補者がリアルタイムでやり取りをする面接です。
2つ目は非同期型(録画面接)と呼ばれるもので、あらかじめ企業が用意した質問に対して、候補者が回答する様子を撮影して、アップロードする方法となります。
そもそも新型コロナウイルスの影響でウェブ面接が増加する以前、どういった企業がどのような背景をもとにウェブ面接をおこなってきたかご存知ですか?
ひとつは、グローバル採用の文脈です。物理的に離れた国の方と面接するとき、自国に招く(あるいは他国に出向く)時間や予算をカットして効率的に選考を進めるために、ウェブ面接が実施されてきました。
もうひとつはグリーン・リクルートメントと呼ばれる文脈です。ウェブ面接を選択することで、たとえば候補者の移動距離がなくなるため、環境に良いという観点でウェブ面接が良いとされてきました。
これらの背景から考えると、ウェブ面接の一般的な利点とは交通費が削減できるなど、移動コストが減らせること。
面接の様子を録画すれば、見返すことができるので、採用担当者の教育・フィードバックができること。そして日程調整がしやすくなる点があげられます。
伊達さん:ウェブ面接を取り入れた成功事例として、ヒルトン・ワールドワイドをご紹介します。
非同期型のウェブ面接に取り組んだヒルトン・ワールドワイドは最初の1年半で12,000件以上のウェブ面接を実施したそうです。
面接のための移動時間をカットできるため、効率よく選考日程を組むことができ、結果として採用プロセスを1か月ほど短縮し、面接のたびにかかっていた出張費用も大幅に削減されたのです。
2、ウェブ面接と見極め|非言語的な手がかりの減少をどうするか?
伊達さん:面接の「見極め」というのは、候補者の適性を評価することを意味します。
自分たちの会社の募集ポジションに対して、候補者の能力・性格が合っているのか見極める必要があるのですが、果たしてウェブ面接で本当に候補者を見極めることができるのでしょうか?
本日のセミナーの事前アンケートを拝見したところ、新型コロナウイルスの影響で、ウェブ面接を既に取り入れられた企業も多いようですが、「対面面接よりもやりにくい」という意見が多く見られます。
たとえば、1回のターンあたりの話す量が増え、やりとりがスムーズにできないようです。ではなぜ、ウェブ面接だと会話にやりにくさが発生するのでしょうか?
「非言語的手掛かりの減少」と「回線問題」
伊達さん:ウェブ面接では、言葉以外のジェスチャーやアクセント、身体的距離など「非言語的手がかり」が対面面接よりも減少してしまいます。
私たちが普段何気なくおこなっている会話においては、アイコンタクトで「次は自分が話すターンだ」と察知して話を切り出したり、ジェスチャーや声色などの非言語的手がかりと呼ばれる情報で相手の気持ちを読み取ったりしています。
対面よりも、オンラインの方が非言語的手がかりが減少するため、会話が難しいと感じるわけです。
伊達さん:実際に、とある面接官に対する研究によると、同期型ウェブ面接を実施した面接官は「会話のやりにくさ」と「相互理解の難しさ」を課題として挙げていました。
もうひとつ、ウェブ面接での会話の難しさを醸成する要因として、回線の問題も挙げられます。
回線が不安定で会話の内容が聞き取れないことがあるため、面接がスムーズにいかないと感じている方が少なくありません。
このような、会話の難しさが課題となるウェブ面接で、どのように候補者を「見極め」すればいいのでしょうか?
ウェブ面接と対面面接において、評価の精度は大差ない
伊達さん:ここでひとつ、興味深い研究結果を共有したいと思います。
会話がスムーズにいかない、うまく話ができないと指摘されているウェブ面接であっても、必ずしも「候補者に対する面接官からの評価の精度は下がらない」という結果が出ているのです。
たとえば、非同期型のウェブ面接における評価は、その後の候補者の業務パフォーマンスや定着に相関していることが実証されています。
対して、採用学研究所がかつて実施した調査によれば、対面面接においては面接での評価とその後のパフォーマンスなどに有意な相関関係が認められませんでした。つまり、ウェブ面接の方が候補者の見極めができているという解釈もできるのです。
会話がしにくいはずのウェブ面接の方が、対面面接よりも見極めができている可能性があるのは一体なぜなのでしょうか?
対面面接は、言語的情報よりも「非言語的手がかり」が評価に影響する
伊達さん:改めて対面面接の場面を振り返ってみます。
対面面接は、言語的情報よりも、候補者のジェスチャーや声色、目線、服装や髪型など非言語的手がかりをもとに候補者を評価していることが分かっています。
候補者がどのような内容を話したかという言語情報よりも、話し方や振る舞いや雰囲気が評価に影響を与えています。
大切な候補者見極めの場で、非言語的手がかりをもとに評価をするのはとても危険ではないでしょうか。
候補者が話している内容をきちんと評価せず、面接官が半ば無意識のうちに直感的に非言語的手がかりをもとに採用するか判断をする。そのため、対面面接は「認知バイアス」の影響が入り込みやすいと言えます。
今まで会話がしやすいと感じていた対面面接は、認知バイアスの影響を受けやすい環境だったのです。
ウェブ面接はどうでしょうか。ウェブ面接では、非言語的手がかりが少ないがゆえに、認知バイアスの影響が緩和され、話の内容に注目しやすくなると考えられます。
これがウェブ面接で会話はやりにくくなるものの、評価の精度が必ずしも低下しない理由です。
ウェブ面接では内向性の高い候補者は有利に
伊達さん:非言語的手がかりが少なく、言語的情報をもとに見極めをおこないやすいウェブ面接では、普段はあまり社交的ではない人の評価が高まります。
対面面接では、明るくてコミュニケーション力が豊かな人の方が、面接評価が高くなり、このことは様々な研究の中で繰り返し検証されています。
しかし当然ながら、明るい人のすべてが優秀で、そうではない人のすべてが優秀ではない、わけではありません。
ウェブ面接では、内向的な人がきちんと評価される可能性が高まるのです。
ウェブ面接と見極めのPOINTまとめ
3、ウェブ面接と動機形成|きちんと評価されているか不安な候補者
伊達さん:面接でおこなうことの1つ目は候補者の「見極め」でした。続いて候補者の志望度を上げる「動機形成」についてお話しします。
本日のセミナーの事前アンケートでは、「ウェブ面接では動機形成がやりにくい」という声が多くありました。
学術研究の中でも、ウェブ面接は動機形成を苦手とすることがわかっています。ウェブ面接では、どうしても面接官に親しみを感じにくかったり、企業に魅力を感じにくかったりします。
しかも、対面面接を受けた人の方が、ウェブ面接を受けた人より、内定を受諾する傾向にあることもわかりました。ではなぜ、ウェブ面接で動機形成がやりにくいのか考えてみましょう。
ウェブ面接を受けるとき「行為者ー観察者バイアス」が起きている
伊達さん:ウェブ面接で動機形成がうまくいかないのは、会話がうまくできないことが裏目に出てしまったからです。
会話がうまくできないと、候補者は「自分のことを話せていない、能力を発揮できていない」と感じてしまいます。そして「自分のことをうまく話せなかったのは面接官のせいだ」と(無意識のうちに)考えてしまうのです。
このような心理が生じる理由は、「行為者ー観察者バイアス」で説明できます。行為者ー観察者バイアスとは、自分がうまくいかないときは環境に原因を求め、他者がうまくいかないときは他者に原因を求める傾向を指します。
さらにウェブ面接は、非言語的手がかりが少ないのにもかかわらず、ウェブで相手の様子が見えてしまいます。
中途半端に見えてしまうのであれば、いっそのこと見えない方がましかもしれません。そのようなことを示唆する研究もあります。
伊達さん:ウェブ面接で顔が見えるよりも、顔の見えない電話面接の方が面接官に対する好感度が高くなるという研究です。
候補者からすれば電話面接の方が会話の内容に集中でき、自分の能力を発揮できた感覚を持てるのでしょう。そして結果的に、面接官への好印象につながっているのです。
候補者ー観察者バイアスは面接官にも起きているので要注意!
伊達さん:先ほどお話した候補者ー観察者バイアスは、候補者だけでなく面接官側にも起きている可能性があるので、注意が必要です。
たとえば、ある研究によれば、ウェブ面接をおこなっているとき、回線が上手くつながらずトラブルが起きると、面接官は「プロバイダなど第3者が悪かった」と思うだけではなく、「候補者が悪かった」と認識してしまうこともあるようです。
面接官もついバイアスをかけてしまわないよう、気を付けなくてはならないのです。
では、以上のことを踏まえて、候補者の動機形成をどのようにおこなっていけばいいのでしょうか。
ウェブ面接で候補者の動機形成をしっかりおこなうためには、「候補者がいかに能力を発揮しやすいか」を考えて、次の3つのアプローチを検討する必要があります。
(1)人道的アプローチを取り入れる
①人道的アプローチ…事前に質問を見ることができ、回答を考える時間も与えられる方法 ②敵対的アプローチ…事前に質問がわからず、回答時間も限られている方法
伊達さん:この2つを比較すると、人道的アプローチの方が候補者の満足度が高くなる傾向がありました。
すなわち、候補者の能力発揮感をうながすためには、事前に質問を見られるように配慮し、候補者の満足度をあげる対策をおこなうことが有効なのです。
(2)面接官にウェブ面接のトレーニングを実施する
伊達さん:2つ目のアプローチとして、面接官にウェブ面接に関するトレーニングを提供することが挙げられます。
場合によっては候補者の方が日ごろ、LINE電話やオンライン飲み会などの機会が多くウェブ環境に慣れていたり、ウェブ面接そのものの経験が豊富だったりする可能性もあります。
面接官についても、事前にウェブ面接のトレーニングを受けていれば、会話のやりにくさが低減されるという研究結果があります。会話のやりにくさが低減すれば、候補者の能力発揮感もアップしやすくなり、ウェブ面接を通じた動機形成につながります。
ウェブ面接に関する面接官トレーニングを企業として提供する必要があるでしょう。
(3)ピクチャー・イン・ピクチャーを再考する
伊達さん:細かい話になりますが、ピクチャー・イン・ピクチャー(自分の顔が見える状態)は、候補者の集中を妨げます。
「自分がどのような様子で話しているのか?」と、無意識に映っている自分が気になり、面接の受け答えに力を注ぎにくくなった結果、能力発揮感が感じられなくなるのです。
ピクチャー・イン・ピクチャーは、面接官や候補者が慣れていない場合、無理に使わない方がいいかもしれません。
ウェブ面接と動機形成のPOINTまとめ
伊達さん:このように、“いかに候補者の能力発揮感を高める支援をしていくのか?”を多方面から検討し、ウェブ面接の動機形成を改善していきましょう。
4、ウェブ面接の構造化|会話しやすくなることによるメリット
伊達さん:最後に、ウェブ面接で有効と言われている面接の「構造化」についてお話してきます。
既にご存じの方も多いと思いますが、面接での質問を統一したり、面接官の中で共通基準を設けて評価することが構造化の意味するところです。
構造化されていない面接と比較すると、構造化した面接の方が、候補者の見極め精度が高くなることが知られています。
対面面接の構造化は動機形成に悪影響/ウェブ面接の構造化は動機形成に役立つ
伊達さん:対面面接を構造化すると、面接に対する満足度や企業に対する印象が低下するという課題があります。
面接を構造化することで(本来なら円滑に遂行できたはずの)会話が不自然になるため、候補者の能力発揮感が低くなり、動機形成に悪影響を及ぼしてしまうのです。
一方、ウェブ面接での構造化については、対面面接の構造化と少し違う傾向が見られました。
ウェブ面接はそもそも、対面面接より会話がやりにくいという事実があります。
そのため、ウェブ面接においてはむしろ構造化している方が、候補者が自分の能力を発揮しやすい感覚を抱け、候補者の動機形成に良い影響があります。
- 対面面接…非構造化面接の方が、候補者が企業に惹かれる
- ウェブ面接…構造化面接の方が、候補者が企業に惹かれる
という結果が出ています。
面接の構造化による面接官の評価への影響
伊達さん:面接の構造化をすることで、候補者の面接官への評価はどう影響するのでしょうか。
研究結果を見てみると、対面面接では非構造化の場合に面接官を高く評価する傾向がありますが、ウェブ面接の場合は構造化をしたときに面接官への評価が高いことがわかります。
伊達さん:これも先ほどと同じで、もともと会話がやりにくいウェブ面接では、構造化した方が会話がやりやすくなり、能力発揮感も覚え、面接官に対しても良い印象を持つということです。
面接の構造化の方法については、今回のセミナーの範囲外のため簡単にポイントだけご紹介すると、
– 能力・性格の明確化 – 測定する質問の開発 – 評価基準表の作成
主にこの3つを意識すると良いでしょう。
ウェブ面接の構造化POINTまとめ
5、参加者からのQ&A
【質問1】面接のフェーズによって、対面とウェブ面接を使い分けした方がいいのでしょうか?
伊達さん:たとえば、候補者の見極めが重視される面接初期(一次~二次)は、ウェブ面接でおこなった方が、非言語的手がかりによって生まれる認知バイアスに影響されず見極めができるかもしれません。
いずれにせよ、どの段階で候補者の動機形成をするのか、あるいは見極めをするのかを設計し、対面面接とウェブ面接を使い分けていくと良いでしょう。
【質問2】ウェブ面接と対面面接を比較すると、ウェブ面接の方が内定承諾をしにくい傾向があるのはなぜですか?
伊達さん:ウェブ面接の方が内定承諾しにくいのは、本日お話した動機形成の難しさが要因だと思われます。
そのため、たとえば面接プロセスの後半においては、動機形成しやすい対面面接を取り入れるなどの対策が必要になるかもしれません。
とはいえ、動機形成は1~2回のわずかな機会でいきなりおこなえるものでもありません。ウェブ面接を実施する際も人道的アプローチや、構造化を取り入れて、動機形成を段階的におこなっていく必要があるでしょう。
【質問3】構造化や人道的アプローチをとると、候補者が事前準備できてしまいます。準備できると候補者の本当の力を見極めることは難しいのではないでしょうか?
伊達さん:たしかに、候補者は事前に回答を準備することが可能になります。ただし、そのことが問題かどうかは、その会社の業務内容によります。
たとえば、即興で物事を判断し瞬時に発言する必要がある業務なら、事前準備をされてしまうと見極めがうまくいきません。
しかし、そこまで即興力が求められない業務なら、事前準備に対してそこまで問題視する必要はないと考えられます。
【質問4】ウェブ面接の良し悪しは、候補者の年齢によって異なりますか?
伊達さん:日ごろからウェブ面接に近しい状況を経験してきた人は、ウェブ面接での能力発揮感を持ちやすい可能性があります。
その意味では、年齢による違いもさることながら、個人差が大きいのではないでしょうか。
6、最後に
伊達さん:新型コロナウイルス感染症の影響で採用のオンライン化が余儀なくされる以前から、「ウェブ面接はもっと有効に使えるのでは」といった議論がありました。
ウェブ面接の見極め精度が低くないのであれば、コロナが収束した後も、たとえば、選考の前半でウェブ面接を活用できるかもしれませんし、しっかり構造化すれば、選考の後半でもウェブ面接を用いることも可能です。
これを機に、ウェブ面接のさらなる活用可能性を改めて考えるとよいかもしれません。
本日は、ありがとうございました。