リクルートマネジメントソリューションズ「2025年新卒採用 大学生就職活動調査」などから見えてきた2025年卒の採用活動・就職活動の動向、学生たちの価値観の変化を紹介するとともに、採用コミュニケーションの新たな問題を取り上げ、今後の方向性を提案します。
第4回は、これからの採用コミュニケーションについて考察します。

執筆者飯塚 彩(いいづか あや)氏株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRアセスメントソリューション統括部 主任研究員
面接者・リクルーターを対象とする採用関連トレーニング(年間300件超実施)の開発・統括を10年以上担当。採用後の人材育成に関する企業向けコンサルティングも行う。

執筆者橋本 浩明(はしもと ひろあき)氏株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRアセスメントソリューション統括部 研究員
「2025年新卒採用 大学生就職活動調査」の実施・分析および面接者・リクルーターを対象とする採用関連トレーニングの開発を担当。
目次
1. 「学生の個を尊重する姿勢」がコミュニケーションの土台になる
これまでの3回(第1回・第2回・第3回)の調査分析を踏まえて、最後の第4回では、これからの採用コミュニケーションの方針を示したいと思います。
私たちリクルートマネジメントソリューションズは、これからの採用コミュニケーションのポイントを3点にまとめました。「学生の個を尊重し、理解しようとする姿勢」「学生にとっての衛生要因の把握・すり合わせ」「学生の自己決定感・納得感の醸成」の3点です。
1つ目のポイントは、学生の個を尊重し、理解しようとする姿勢です。
学生が「自分に向き合ってくれている」「尊重されている」と感じられるような、企業の誠実な姿勢が採用コミュニケーションの土台となります。この土台なくして、新卒採用の成功はありえないといってもよいほどです。
実際、私たちの調査では、「企業が学生にしっかり向き合ってくれている」と感じられると、学生の選考参加意欲は上がり、感じられないと下がることが分かっています(下図表)。
企業は、学生を選ぶだけではなく、学生から選ばれる立場でもあることを意識し、学生の個を尊重する姿勢を持つことが、これからの新卒採用において最も大事なことの1つです。
2. 企業の「誠実さ」には学生の選考辞退を減らす力がある
誠実な姿勢が大事なことは、次のデータからも分かります。
私たちの調査では、面接後の選考辞退理由として、約半数の学生が「面接官の態度から、学生にしっかり向き合ってくれていないと感じた」を選択していました。また、35.6%が「採用担当者の態度から、学生にしっかり向き合ってくれていないと感じた」を選択していました(図表2)。
つまり、面接官や採用担当者が学生と向き合っていないと感じられてしまうと、面接後の選考辞退が増える可能性が高まるのです。逆に言えば、企業の誠実さには学生の選考辞退を減らす力があると言っても過言ではありません。
選考辞退を減らしたいのなら、面接官や採用担当者が学生にしっかり向き合っていると感じられるコミュニケーションをお勧めします。
3. 学生にとっての「衛生要因」を把握してすり合わせよう
2つ目のポイントは、学生にとっての「衛生要因」を把握してすり合わせることです。
衛生要因とは、満たされないと不満につながる要因のことです。具体的には、勤務地、給与、福利厚生、人間関係(自分が尊重してもらえる環境)、勤務時間、働き方などが衛生要因に当たります。
第3回で説明したとおり、今の学生は「勤務地ガチャ」や「配属ガチャ」といった不確実な要素を嫌う心情が強まっています。VUCAへの不安が強まり、「自分に合った間違いのない選択をしたい」という安定志向の強い学生にとって、勤務地や給与、働き方といった衛生要因の重要性が増していると考えられるのです。まずは学生の衛生要因を満たすことが肝要です。
ただし、一言に衛生要因と言っても、学生によって重視するポイントやその理由は様々です。そこで、まずは目の前の学生がどの衛生要因を重視しているのかを把握することが大切です。
次に、その理由や背景を把握します。そして、会社として応えられる範囲で条件をすり合わせ、衛生要因に関する不安を解消・軽減していくのです(図表3)。
この3ステップでコミュニケーションをとることで、学生の志向や不安を深く理解し、企業としてそれらに寄り添う姿勢を示すことができます。
もちろん、なかには会社として応えられない要望もあるでしょう。
例えば、職種によっては転勤が必須というケースは珍しくありません。しかし、そうした場合でも、会社の考えやルールなどを誠実な態度で説明したり、なぜ転勤を避けたいのかその背景を聞くことで別の観点での対応や配慮を考えたりと、違った形で学生の不安に寄り添うことはできます。
繰り返しになりますが、最も大事なのは、学生の個を尊重して向き合う姿勢です。
4. 内定者インタビューで学生の不安ポイントを把握しよう
衛生要因などの学生の不安ポイントを把握するためには、内定者や入社者へのインタビューが有効です。難度は上がりますが、選考・内定辞退者へのインタビューも効果的です。
インタビューで内定者や選考・内定辞退者に就職活動を振り返ってもらい、自社や自業界が学生にどう見られているか、自社について学生が不安を感じやすいポイントは何か、といったことを把握するのです。
その上で、次年度に学生の不安を解消・軽減するような情報発信をしていくと、採用コミュニケーションの質を高められるでしょう(図表4)。
採用活動は多忙を極めますが、適切な情報発信や誠実なコミュニケーションを行うために、しっかりと採用の振返りを行うことが重要です。
5. 学生の「自己決定感」と「納得感」を醸成しよう
3つ目のポイントは、学生の自己決定感と納得感を醸成することです。
第3回で説明したとおり、今の学生は自分に合った間違いのない選択をしたいと考える傾向があります。彼らは自己決定感(必要な情報を考慮して自分自身で決定したと感じられている状態)と、決定に対する納得感を重視しています。
採用コミュニケーションを通じて自己決定感や納得感を醸成することは、学生が内定承諾や入社といった意思決定をしやすくなるだけでなく、入社後の組織適応や活躍を促すことにもつながります。
企業が学生の自己決定感と納得感を醸成するためには、最初に、対話を通じた相互理解が必要です。面接官や採用担当者が、学生の個を尊重する姿勢で対話し、学生の不安や大切にしていること、その理由や背景を把握します。
また、学生の考えを引き出し、企業としての理解をフィードバックすることで、自己理解や企業理解を促すのも効果的です。私たちの調査によれば、学生の約7割が、就職活動時の企業からのフィードバックに良い印象を持っています。誠実なフィードバックは、企業と学生の相互理解に有益です。
次に、意思決定基準の明確化と情報提供を行います。対話で得た情報から、学生の意思決定の基準となる価値観ややりたいことを明確にします。また、その基準に照らして、学生の意思決定に必要となる情報を具体的に提供するのです。
最後に、学生の選択を尊重します。企業は強引に選択や決定を求めたり誘導したりすることなく、学生一人ひとりの選択と決定を尊重し、支援する姿勢で関わることが肝要です。
学生とのコミュニケーションにおいては、この「対話を通じた相互理解」→「意思決定基準の明確化と情報提供」→「学生の選択の尊重」の流れをぜひ意識してみてください。
人手不足のなか、新卒採用は年々難しくなってきていますが、この連載で少しでも皆様の会社のお役に立てましたら幸いです。