
第4回では「オンボーディングとつながりの関係性設計」をテーマに、社員と会社、そして仲間同士の“つながり”が人材定着を支えるという内容をお伝えしました。
しかし、制度がどれほど整っていても、長く働くなかで社員の心には不安や迷いが生まれる瞬間があります。
一見、普段通り働き元気に見える社員の中にも、孤独感や焦りを抱えながら日々を過ごしているケースは少なくありません。
定着を支えるうえで必要なのは単なる”メンタルケア”ではなく、社員が自身を理解し、状況を客観的に捉え、自ら一歩を踏み出せるよう導くための“仕組み”を整えることが重要です。
今回は、プレシャスパートナーズが実際に行っている取り組みを例に、「不安を抱える社員をどのようにサポートするのか」についてお伝えします。

執筆者矢野 雅氏株式会社プレシャスパートナーズ 取締役
1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。
社員が抱える“不安”とは
社員の不安は、キャリアステージや役職によって多岐にわたります。
- 上司や同僚との人間関係の悩み
- キャリアの先行きが見えない
- 成長実感が得られない
- 評価に納得できない
- 成果が正当に認められていないと感じる
ここには挙げきれないほど、社員の数だけ悩みがあります。また、不安は表情や言動の奥に隠れることも多く、「がんばっているように見える人ほど悩みを抱えている」ことも珍しくありません。
こうした不安を放置すると
- モチベーションの低下による業績悪化
- エンゲージメント低下からの転職検討
といった重大なリスクにつながります。
ただし、寄り添うだけでは不安は解消しません。不安には必ず原因があり、人間関係・業務過多・私生活の変化など背景を特定し、社員自身が自分の状態を客観視できるようにすることが、定着支援の第一歩となります。

不安を見逃さない仕組みづくり
不安を放置せず原因を掴むために必要なのは、「上司や人事が変化に気づくこと」ではなく、「気づける仕組み」をつくることです。
プレシャスパートナーズでは、“気づきは環境任せ”ではなく、“仕組みで感情の変化を捉える”ことを目指し、以下の3つを実践しています。
①パルスサーベイ
社員の気持ちや職場環境を定量的に把握するための仕組みです。業務満足度・負荷・コミュニケーションなどを定期的に測定し、小さな不安や変化を早期にキャッチします。
アンケート結果は「フォローのタイミング」として活用し、数値に変化がみられた社員には人事面談を設定。「なぜそう感じたのか」「どんなサポートが必要か」を対話で深掘りし、不安の放置を防ぎます。
さらに、社員自身が結果推移を確認できるようにすることで、セルフマネジメント力の向上にもつながります。
②人事面談
社員の価値観やキャリア意向と、会社の方向性や期待とのギャップを可視化し、早い段階で調整するための仕組みです。
中立的な立場である人事が面談を行うことで、上司には話しづらい本音を引き出し、必要な支援へとつなげていきます。主な対象者は以下のとおりです。
入社半年以内の社員
会社や文化に慣れるため、毎月定期的にフォローを実施。
人事がフォローが必要と判断した社員
若手は環境変化で不安を抱きやすいため、こちらから積極的に声をかける。
希望者
パルスサーベイや社内チャットから気軽に申し込める仕組みが有効。ランチ面談などカジュアルな場も有効です。
③1on1
上司と部下が定期的に1対1で行う対話の場です。業務指示ではなく、成長・キャリア・心理状態にフォーカスし、継続的に行うことで本音を話しやすい関係が育まれます。
ポイントは「どれだけ耳を傾けるか」。注意や指摘よりも信頼関係を深め、本人の言葉を引き出すことが重要です。
- 仕事でうまくいっていること/悩んでいること
- チームの人間関係・働きやすさ
- 今後のキャリアや挑戦したいこと
- 不安や負荷の有無
- 評価への納得感や改善したいポイント
1on1は「上司が答えを出す場」ではなく、社員が気持ちを整理し、自ら次の行動を決める場にすることが重要です。プレシャスパートナーズでは、この取り組みにより、離職率を削減することができました。
単に面談などの施策を導入するのではなく、「何のために実施するのか」という目的を明確にし、全社員がその意図を理解した上で運用を続けることで、早期離職の防止やモチベーションの向上につながってきました。
そして「不安を見逃さない仕組み」から、「社員が自ら成長へと動ける環境づくり」へと発展していきます。

定量データを“フォローのタイミング設計”に活かす
パルスサーベイ・人事面談・1on1は、実施自体が目的ではありません。得られた情報を可視化し、アクションにつなげることで初めて機能します。
| ①パルスサーベイの定期実施 | スコアが低下・急落した場合は、人事面談を即設定。 |
|---|---|
| ②人事面談での早期フォロー | ヒアリング内容を人事内で共有し、必要に応じて上司とも連携。 ※ただし、社員から共有範囲を限定してほしいと言われた内容は配慮する。 |
感情という抽象的な要素を、定量的な“気づき”と具体的な“アクション”に変換することで、属人的ではない再現性のある定着支援が可能になります。
“寄り添いすぎない支援”が自立を生む
サポートの際に注意すべきは、寄り添いすぎて依存状態をつくらないことです。過剰な支援は「何かあれば助けてもらえる」という意識を生み、主体性を奪うリスクがあります。
活躍する人材とは、「自ら課題を見つけ、周囲を巻き込みながら解決に向かう人」。そのため、人事や上司は“答えを与える立場”ではなく、社員が自分の答えを導く支援者であるべきです。
面談や1on1は、悩みを解消してあげる場ではなく、社員が状況を整理し、次の行動を自ら決める場であることがポイントです。これにより、“守られる社員”から“挑戦する社員”へと意識が変化し、組織の活力と定着率の向上につながります。
まとめ
人事面談、1on1、パルスサーベイといった施策は、単なる制度ではなく、社員の不安や心理変化を捉える「組織のセンサー」です。これらを定量的に把握し連動させることで、不安を放置しないマネジメントが実現します。
社員が自分を理解し、客観視し、自ら行動できるようにすること。その力を育むことが、結果的に辞めない・育つ・活躍する人材を生み出す最も強い定着支援となります。
