【第1回】 転職市場の動向・現状、そこから見えるオンボーディングの重要性 |HR NOTE

【第1回】 転職市場の動向・現状、そこから見えるオンボーディングの重要性 |HR NOTE

【第1回】 転職市場の動向・現状、そこから見えるオンボーディングの重要性

  • 採用
  • 中途採用手法

※本記事は、株式会社リクルートマネジメントソリューションズより寄稿いただいた内容を掲載しております。

転職者数が新卒者数の約2.8倍近くとなった今、多くの企業が共通して直面している現実があります。それは優秀なキャリア入社者を採用したのに、期待した成果が出ない」「思ったより早く離職してしまうという課題です。

リクルートマネジメントソリューションズでは、現場でのインタビューと調査、および外部調査の実施を通じて、この課題の根本原因を探り、「キャリア入社者が入社後に適応するまでの3つの段階」を明らかにしました。

多くの企業では「キャリア入社者は即戦力だから大丈夫」という前提で、現場のOJT任せになっているのが実情です。しかし実際には、キャリア入社者にも新卒社員とは異なる特有の適応課題があり、各段階で適切な支援が必要になります。

キャリア入社者の定着・成果発揮には、キャリア入社者の適応プロセスを踏まえたうえで、時期に応じた適切な関わりと計画的なフォローを行っていくことが不可欠です。

本連載では、全5回を通じてキャリア入社者のオンボーディングの重要性と、会社・組織への適応プロセスについてお伝えしていきます。第1回となる今回は、なぜ今キャリア入社者のオンボーディングが重要な経営課題なのか、また「即戦力だから大丈夫」という思い込みの危険性と、体系的・計画的な支援が必要な理由を紹介します。

執筆者小澤 一平株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 技術開発統括部 研究本部 アナリスト

東京大学大学院経済学研究科修了後、コンサルティング会社を経て、2021年リクルートマネジメントソリューションズ入社。新卒・若手社員やキャリア入社者のオンボーディング、中堅社員のキャリア自律などのテーマで、アナリティクスを活用した顧客向けサービスの研究開発に従事。社外広報担当としての経験も活かし、データと現場を繋ぐインサイト抽出および研究成果の発信にも力を注いでいる。

1. なぜいま「キャリア入社者のオンボーディング」なのか?

1-1. 転職市場の構造変化が示す現実

現在の転職市場は活況を呈しています。転職市場は日進月報(※1)によれば、転職市場の求人数はコロナ禍前の約2倍の水準まで回復しています。

また、令和6年上半期の労働動向調査結果(※2)によれば、転職入職者数(キャリア入社者)は277.8万人(入職率5.5%)に達し、新規学卒者数の99.9万人(入職率2.0%)を大きく上回っており、これはキャリア入社者が新卒での入社者の約2.8倍に達していることを意味しています。

このデータが示すように、労働市場全体に占めるキャリア入社者の割合は非常に高くなっており、企業にとってキャリア入社者の活躍支援は避けて通れない重要な経営課題となっています。いまや「中途採用は新卒採用の補完」という時代ではなく、キャリア入社者が組織の一翼として事業運営を担う時代が到来しているのです。

1-2. 「キャリア入社者は即戦力」という危険な誤解

新卒社員の早期離職が注目される一方で、近年、企業の大きな経営課題となっているのが「キャリア入社者の定着支援」です。

大手企業を中心に、これまでは新卒採用を主軸にして人材の確保を行ってきたために、企業の現場ではキャリア入社者の受け入れ経験が少なく、急増した中途入社者の組織適応に課題を抱えるケースが増えているのです。

一方で、企業の現場では、すでに社会に出て働いた経験を持つキャリア入社者に対して、「新卒ではないから、即戦力として自発的に活躍できるだろう」という誤解が根強く存在します。

確かにキャリア入社者は新卒社員と異なり、前職で身に付けた知識・スキルを持っていることがほとんどです。しかし、だからといって、それだけで簡単に新しい組織に定着して成果を出していけるわけではありません。

一例をあげると、キャリア入社者は社内人脈を持たない状況からスタートしますが、このことは仕事で成果をあげていくうえで大きな壁となります。リクルートマネジメントソリューションズが実施した調査・インタビューによると、キャリア入社者が入社後に直面しやすい課題として、主に以下のようなものがありました。

  • 周囲から期待通りの成果を出すことへのプレッシャー
  • 悩みを周囲に気軽に相談できない孤独感
  • 組織の暗黙のルールや文化の理解不足
  • 社内のキーパーソンとの関係構築の難しさ

また、『リクルートエージェント』転職決定者アンケート集計結果(※3)によれば、転職者の転職先での戸惑いランキングとして以下のようなものがあります。

「前職との仕事の進め方ややり方の違い」「社内や業界用語等、専門知識がわからない」「職場ならではの習慣や規範になじめない」の選択割合が高く、これを見ても、前職での知識・スキルを持っているだけでは必ずしも新しい組織に定着して成果を出せるわけではないことが分かります。

2. 適応できない場合の深刻なリスク

問題なのは、キャリア入社者を受け入れる現場の上司や職場のメンバーが、キャリア入社者が遭遇しやすいこのような困難について正しく認識していないケースです。「キャリア入社者なのだから、フォローは不要」という認識でいると、キャリア入社者はこれらの課題を解消できないまま停滞し、結果的に転職を繰り返してしまうということも懸念されます。

キャリア入社者をめぐるこうした状況があまりよく理解されていないこともあり、企業の現場ではキャリア入社者に対する「オンボーディング(定着・成長支援)」が十分に設計されていないケースが多く見られます。

新卒社員に対しては手厚い研修プログラムやメンター制度を用意している一方で、キャリア入社者に対しては「経験者だから大丈夫だろう」という前提で、現場のOJT任せになってしまっているのが実情です。

支援が不十分であるためにキャリア入社者の適応がうまくいかない場合には、以下のようなリスクや損失が生じます。

  • 早期退職により採用にかけたコストが無駄になる
  • 静かな退職(エンゲージメントの低下)による生産性の低下
  • 他の従業員への悪影響
  • 企業イメージの悪化による採用ブランドの低下

3. 計画的なオンボーディングの必要性

キャリア入社者に早期に適応してもらうためには、現場のOJT任せではない、体系的・計画的なオンボーディングが必要となります。経験者だからといって放任するのではなく、充実した支援体制を構築することが重要です。

しかしながら、尾形(2021)「中途採用人材を活かすマネジメント ー転職者の組織再適応を促進するために」(※4)によると、企業における現状は、オンボーディングに「力を入れていない」、「どちらかと言えば力を入れていない」と回答した企業の割合は合計56.6%と過半数を超えており、多くの企業でキャリア入社者への体系的な支援が不足していることが明らかになっています。

また、リクルートキャリア「中途入社後活躍調査 第1弾」2018年10月(※5)を見ても、キャリア入社者向けの各支援策が取られている会社の割合はあまり多くはなく、実施率が44.3%と最も高い「歓迎会など非公式イベント」でも、全体の過半数を下回ることが分かります。

一方で、尾形(2021)「中途採用人材を活かすマネジメント ー転職者の組織再適応を促進するために」(※4)によれば、オンボーディングに力を入れている企業では、力を入れていない企業と比べてキャリア入社者の定着やパフォーマンスの水準がより高いスコアを示すということがわかっています。

このことは、現状ではキャリア入社者のオンボーディングに力を入れている企業の数はまだ少ないものの、オンボーディング施策を適切に実施することによって、キャリア入社者の定着やパフォーマンスの水準を高められるということを示しています。

実際にオンボーディング施策を設計する際には、自社におけるキャリア入社者の適応のプロセスを的確に理解したうえで、それぞれの段階に応じて適切な打ち手を講じていく必要があります。

次回以降は、キャリア入社者が入社後に組織に適応するまでの「3つの段階」について詳しく解説するとともに、各段階で必要な効果的なオンボーディング施策の内容についてお伝えしていきます。

参考資料

※1 リクルート:転職市場は日進月報 2024年度下半期
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20250310_work_02.pdf

※2 厚生労働省:令和6年上半期雇用動向調査結果の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-1/dl/gaikyou.pdf

※3 『リクルートエージェント』転職決定者アンケート集計結果2017年9月実施

※4 尾形(2021)「中途採用人材を活かすマネジメント ー転職者の組織再適応を促進するために」

※5 リクルートキャリア「中途入社後活躍調査 第1弾」2018年10月

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