HR NOTEの読者のみなさん、こんにちは。転職サービス「doda」編集長の大浦です。
【寄稿者】大浦 征也 | パーソルキャリア株式会社 doda編集長
2002年、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。一貫して人材紹介事業に従事し、法人営業として企業の採用支援、人事コンサルティングなどを経験した後、キャリアアドバイザーに。これまでにキャリアカウンセリングや面接対策をおこなった転職希望者は10,000人を超える。その後、複数事業の営業本部長、マーケティング領域の総責任者、事業部長などを歴任。2017年より約3年間、doda編集長を務め、2019年10月には執行役員に。2022年7月、doda編集長に再就任。転職市場における、個人と企業の最新動向に精通しており、アスリートのセカンドキャリアの構築にも自ら携わる。
求人を出しても求める人材から応募がこない。もしくは、応募すらこない。採用担当者なら、一度はこのような経験をしたことがあるのではないでしょうか。これには、採用条件が関係しているかもしれません。
言い換えると、採用条件を適切に設定できていないがために、候補者が絞られすぎてしまい、応募がこないのかもしれません。
本来、採用条件は上げる、下げる、広げるというものではありません。転職マーケットの「今」を把握し、自社が候補者に求める絶対に外せない必須条件(MUST)と必須ではないけれどあったら嬉しい条件(WANT)を明確にした上で、決めるものです。
そう考えると、「最終学歴」や「転職回数」「実務経験年数」などは、実は絞る必要のない条件かもしれません。
採用条件を見直すと、候補者数はどう変化するのか。
本稿ではこれを、当社が提供する求人要件作成支援サービス「HR forecaster(HRフォーキャスター)」のシミュレーションデータで紐解くと共に、実際に採用成功率がアップした企業の事例も紹介します。
目次
採用は「生もの」。採用条件を設定する前に、転職マーケットの「今」を理解しよう
企業の人材ニーズ、転職市場に顕在化してきている人の数や保有スキル、経験など、転職マーケットは刻一刻と変化しています。つまり、採用は「生もの」といえるでしょう。
それにも関わらず、多くの企業は過去の経験や成功体験をベースに採用条件を設定しがちです。
例えば、転職回数が多い人を採用したらすぐ退職してしまったから、転職回数は2回までにする。過去に活躍した人の多くは営業経験者だったので、営業経験必須とするなど。
しかし、前述したように転職マーケットは日々変化をしており、今「はたらく」を取り巻く環境では以下のことが起きています。
事象①:求められる人材の高度化
新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、DX人材やビジネス変革を起こせる人材など、これまで採用ターゲットではなかったハイクラス層のニーズが急速に高まっている。
事象②:IT人材不足のさらなる深刻化
2022年12月のdoda転職求人倍率では、「エンジニア(IT・通信)」の転職求人倍率が12.09倍に達するほど、IT人材不足に拍車がかかっている。
このような状況下で、これまでと同様に、「○○の経験と△△のスキルを保有している、実務経験3年以上のDX人材を10名採用」という目標を設定した場合、達成できるでしょうか?
おそらく、 IT人材自体が労働市場で不足している今、採用は困難を極めることでしょう。よって、採用条件を設定する前に、まずは転職マーケットの現状を知ることが重要といえます。
採用条件を見直すと、候補者が9倍近くに?
ここからは、「データアナリスト」、「経理」、「営業」の3つの職種を例にとって、『採用担当が絞ってしまいがちだが、実はそこまで重要でないケース』が往々にしてある条件を見直すことで、候補者がどれほど増えるか、当社の求人要件作成支援サービス「HR forecaster」で検証していきます。
データアナリストの場合
首都圏の企業が、データアナリストの主担当クラスを正社員として採用したい場合、採用担当者が絞りがちな、「最終学歴」と「転職回数」を以下のように見直すと、条件を満たす候補者は、約220人から約1,900人と約8.6倍になります。
ただし、条件を満たす人の平均年収は、619万円から622万円と若干ですが引き上げています。
いくら候補者が増えたとはいっても、マーケットに即した平均年収を提示できないと、オファー金額で他社に負けてしまう可能性があるので注意が必要です。
採用条件 | 変更前 | 変更後 |
最終学歴 | 理系大卒以上 | 文理問わず大卒以上 |
経験職種・年数 | 企画・管理職( 人事・総務・経理・マーケティング・経営 ) 、 データアナリスト・データサイエンティスト・リサーチャー3年以上 | 左記と同様 |
転職回数 | 3回以下 |
不問 |
経理の場合
首都圏の企業が、経理の主担当クラスを正社員として採用したい場合、絞ってしまいがちな「経験業種」と「転職回数」を以下のように見直すと、条件を満たす候補者は、約920人から約7,200人と約7.8倍になります。
さらに、条件を見直すことでオファー年収が43万円(664万円→621万円)減ります。
採用条件 | 変更前 | 変更後 |
最終学歴 | 文理問わず大卒以上 | 左記と同様 |
経験職種・年数 | 企画・管理職( 人事・総務・経理・マーケティング・経営 ) 経理・財務・管理会計・内部統制 3年以上 | 不問 |
経験業種 | メーカー ( 自動車・機械・電気・電子・半導体 ) | 不問 |
転職回数 | 2回以下 |
不問 |
営業の場合
首都圏の企業が、営業の主担当クラスを正社員として採用したい場合、絞ってしまいがちな「経験職年数」と「保有経験①」を以下のように見直すると、条件を満たす候補者は、約1,800人から約5,300人と約2.9倍になります。
加えて特筆すべきは、採用決定までの平均日数が34日間短縮されます。
採用条件 | 変更前 | 変更後 |
最終学歴 | 文理問わず大卒以上 | 左記と同様 |
経験職種・年数 | 営業職 広告・メディア営業3年以上 | 営業職 広告・メディア営業2年以上 |
保有経験① | 無形商材の営業 | 不問 |
保有経験② | 新規顧客向けの営業 | 左記と同様 |
転職回数 | 3回以下 |
左記と同様 |
「HR forecaster」のシミュレーションからも分かるように、採用担当者が絞りがちな採用条件を見直すと候補者の人数がぐっと増えます。
つまり、採用難易度が下がります。しかし、ここで多くの人が思うのは、採用条件を見直して、本当に採用できるのか、ということだと思います。
この疑問に答えるために、ここからは、実際に採用成功率がアップした企業の事例を紹介したいと思います。
事例①:条件を見直すだけでなく、現場も巻き込みエンジニア採用に成功したケース(ランサーズ)
まずは、日本最大級のクラウドソーシングサイト「ランサーズ」を運営するランサーズ株式会社(以下ランサーズ)のエンジニア採用の事例を見ていきましょう。
ランサーズ社では、事業拡大に向け、エンジニアの採用を強化する必要性に迫られていました。しかしながら今は、社会問題と化すほどエンジニア不足が深刻な状況。そこで同社は、採用条件を見直すことに。
同社のエンジニアの傾向から見るに、大卒であるか、どこに住んでいるかは、エンジニア経験者のパフォーマンスに大きな影響を及ぼさない、さら同社ではコロナ前よりリモートワーク環境を整備していたため、「学歴」と「居住地※」を不問条件としました。(※エンジニアの経験値によって判断)
また、エンジニア獲得競争が激化する中で「雇用形態」も見直す必要性を強く感じ、長期プロジェクトにおいては正社員採用を、短期プロジェクトにおいてはフリーランスエンジニアに業務を委託することに。
結果、同社の採用担当者曰く「候補者数、採用数ともに確実に増えた」とのこと。
同社が採用条件を見直すにあたり、特に注意したことは2つあるそうです。
1つ目は、絶対に外せない条件を採用予定部署としっかりとすり合わせ、その条件に沿って採用活動を進めたこと。
2つ目は、現場(採用予定部署)を巻き込むこと。
なぜなら、候補者が増えるということは、採用活動における工数やリソースをこれまで以上に割かなければならないということです。
さらに、候補者が増えれば採用数は増えるかもしれませんが、その分、組織にフィットしない人や、スキルレベルが十分でない人なども多く応募してくる可能性が高まるため、採用担当部署にしっかりと見極めてしてもらう必要があります。
これら2つに徹底的に取り組んだ結果が、同社のエンジニア採用の成功に繋がったといえるでしょう。
事例②:理系営業職の採用成功率が約1.6倍アップしたケース(アトテックジャパン)
次に、ドイツに本社を置くアトテックジャパン株式会社(以下アトテックジャパン)の営業採用の事例を見ていきましょう。
アトテックジャパン社は、環境に優しいめっきだけでなく、めっきを製造する装置も作っている点で競合優位性が高く、さらに昨今の世界的な半導体需要急増もあり、顧客ニーズは高まり続けている状況にあります。
こうした顧客ニーズに応えるために同社は、化学のバックグラウンドと知見を有する理系営業職の採用を強化するも、売り手市場にますます拍車がかかる中で、採用は困難を極めていました。
「要件定義(マーケットとペルソナが噛み合っていない)」が課題と考えた同社は、採用条件を見直し、【実務経験不問で、工業高校or理系のバックグラウンドを有する人材】をターゲットに、面接確約で採用活動をリスタート。
また、理系人材は慎重な人が多い傾向にあり応募前辞退が起きかねないため、応募障壁を少しでも軽減させるべく、求人票内の「必須条件」を以下のように記載するなど工夫を凝らしました。
(変更前)
■必須条件:工業高校卒業以上または理科系の専攻を修了(化学系が望ましい)
(変更後)
■必須条件:営業未経験の方もご応募可能です!理系の大学を卒業されている方
(化学系、電気系、生物系、薬学系、農業・農学系、水産系、畜産・酪農系、金属系、機械系、応用物系、獣医系)
その結果、採用成功率はなんと約1.6倍アップ。
これは、「理系」を絶対に外せないMUST条件とし、「実務経験の有無」「理系の分野」はWANT条件とし間口を広げたことで、候補者(母集団)が増えたからだと考えられます。
さらに、MUST条件はぶらさずに、採用したい人物像、具体的には自らが携わる製品が顧客の役に立っているといった実感や、エンドユーザーに信頼される営業職として成長実感を持ちたい方などを人材エージェントと何度もすり合わせながら採用活動をおこなったため、約1.6倍という採用成功率を収めると同時に、入社後のミスマッチも起こっていないのでしょう。
採用条件は、MUSTとWANTを明確にした上で設定すべし
2社の事例からもわかるように、採用条件を見直すと、候補者数は増えていきます。
さらに、採用条件は単に下げれば、広げればよいというものではないこともわかります。
絶対に譲れないMUST条件は何か。なくても問題のないWANT条件は何か。これらを、転職マーケットの「今」を理解した上でアップデートし続け、採用条件として設定する。
そうすることで、候補者の幅を広げながらも、絶対に譲れない条件を満たした人にアプローチすることができ、採用成功率をアップさせることができます。
逆に、MUSTとWANT条件が曖昧なまま単純に採用条件を見直してしまうと、候補者数の幅はとても広がるかもしれませんが、求めていない人材を採用することになり兼ねなく、ミスマッチが起こる可能性が高まってしまいます。
採用条件を設定する際にはぜひ、「なぜ転職回数は3回以下でなければならないのか?」「なぜ、5年以上の実務経験が必要なのか?3年ではいけない理由は何なのか?」など、自らに問うことから始めてもらえればと思います。
これらに対して明確な解がない場合には、採用条件を見直すことをお勧めします。