近年、採用活動で注目を高めている「候補者体験/CX(Candidate Experience)」という概念。
候補者体験とは、求職者が企業を認知してから選考を終えて入社するまでの、候補者と企業の各タッチポイントにおける体験のことを指します。
今回は、そんなCXに焦点をあてたHR Techサービス「HR Fan(エイチアールファン)」についてご紹介。
HR Fanは、不採用者含めすべての候補者の本音を集めて可視化、AI技術により分析し、候補者体験を高めてくれるサービスです。
本記事では、HR Fanを開発したsasry株式会社の大塚さんにインタビューの機会をいただき、HR Fan開発に込めた想いや、プロダクトの特徴、企業にもたらすメリットについてお伺いした内容をまとめました。
【人物紹介】大塚 慎也|sasry株式会社 代表取締役
目次
「自分でキャッシュを生み出し社会に価値提供がしたい」~学生時代から独立まで
ー大塚さんは新卒でアクセンチュアに入社されたとのことですが、そこからHR領域で起業されるまでのお話をお伺いできますか。
大塚さん:話は学生時代にさかのぼるのですが、私は小学校から大学までずっと野球漬けの日々を送っていました。小学校では県大会で2度優勝して、大学1年のときには投手として全国大会に出場しています。
大学2年の秋には、首都リーグオールスター選手に選んでいただき、沖縄開催の大学軟式野球オールスター大会で優勝をすることができたので、「将来は野球の監督になろう」と考え、大学では教員免許を取得しています。
そんな野球人生を送ってきていましたが、ふと「教師になったら海外に行けなくなるな」と思い、思い切って野球を1度辞めて世界一周の旅へ繰り出したんです。
その世界一周の道中で、とある人との出会いがあり、そこから大きく自分の人生は変わっていったと思います。
その方は、後に某有名フリマアプリを立ち上げる起業家の方だったのですが、旅の途中で仲良くなり、「帰国後、会社をつくるから一緒に働いてみない?」と声をかけてくださったんです。
大塚さん:帰国後、その方のもとでインターンとして働かせてもらうことになり、アプリ開発段階でのユーザーインタビューや社内wiki作成、アプリ宣材写真の作成やアプリ内の商品カテゴリリスト作成など、幅広く開発に関わらせていただきました。
そんな刺激的な出会いや、起業家のもとで日本を代表するプロダクト開発に関わる貴重な体験の中で、自分もいつか独立をしたいと考えるようになったんです。
また、当時はインターンと並行して、バングラデシュの学校に行けない子どもたちに向けたeラーニングサービスの提供にも関わっていました。
語弊があるかもしれませんが、「世の中の恵まれない人のために何かをしたい」という思いが当時からあったんですね。
社会に向けて何か価値を提供するためには、継続的にお金を生み出す必要があります。将来的に独立をして、きちんと事業で売上をつくり、その資金で社会的意義のあることをやりたいと考えていました。
新卒でアクセンチュア株式会社に入社してからは、ITコンサルタントとして大手金融機関のシステムに関わるプロジェクトや、全国の役所との連携をするような官公庁のマイナンバー関連のプロジェクトなど上流案件を担当しました。
1年目の終わりにはアメリカやフィリピン出張を経験させていただき、出張初日から徹夜続きで毎日4時間睡眠だったときもあり、社会人になって早々、グローバルな環境でハードワークを経験させていただきました。
そこから転職し、スリランカ支社立ち上げプロジェクトに事業部長として入ることになり、事業計画から立ち上げ後のオペレーション計画と実行まで一任することになります。
スリランカの雇用を生み出すことを目的とした事業で、スリランカ現地人と、現地の学校を連携するBPO事業として展開しました。
このとき、本当は私も現地に赴く予定でしたが、このプロジェクトを進めるうちにどうしても「自分の力で起業したい」という想いが強まったため、コンサルではなくCTOとして入ることになり、その後2018年に起業の道を選びました。
ーもともと、HR の分野での起業を考えていたのでしょうか?
大塚さん:「人材系の仕事を絶対にやりたい!」と決めていたわけではありません。
ですが、HR領域は市場がさほど大きくないものの、ビジネス観点で面白そうな領域だなと感じていたんです。
長い時間、働くことになる重要な会社選び・採用シーンでのミスマッチは、その後の人生に大きな影響をもたらすということ。
また、そんな人生の大きな岐路である採用の局面に、事業として携わることには面白そうだなと思っていました。
採用選考における「2つの気づき」から生まれたHR Fanの開発背景
ーそれでは、大塚さんが現在注力されているサービス「HR Fan」の開発背景を教えてください。
大塚さん:もともとは、HR Fanの前に「サスリースカウト」というサービスを展開していたんです。
スキル・能力は高いけれど、惜しくも採用につながらなかった優秀な人材をプールして、紹介しあうスキームを組んだサービスです。
「採用選考は通してあげられなかったけど、他の企業で頑張ってほしい」という思いを込めて、人事担当者がお見送り人材にエールを送る(他社へ紹介する)世界観をつくっていました。
しかし、タレントをプールをしてスカウトをし合うプラットフォームを作る場合、プラットフォームに関わる人数がどうしても多くなってしまいます。
人事、転職エージェント、候補者、それぞれの立場のエンゲージメントを高め合うための、サービス内部設計が難しく、一度サービスをクローズしました。
サスリースカウト自体は1回止めてしまったものの、プロダクト開発過程で2つの気づきがありました。
②不採用者がネガティブ感情を持ってしまう可能性があること
サスリースカウトで、「人事担当者向けのサービス利用価値をどう作っていくか?」と議論・調査をしているときに、「人事担当者は候補者からのフィードバックを欲している」というニーズに気がつきました。
大塚さん:オンライン選考で、面接を録画している企業も増えてきたものの、多くの面接はブラックボックスとなってます。
面接慣れしていない面接官が選考に臨むこともありますし、全国展開の小売り業では「面接回数も多くすべての面接の場をチェックしきれない」という課題があります。
採用選考がうまくいかない理由の1つとして、候補者体験のエンゲージメントが低いのでは?という背景があり、「面接官である人事担当者へのフィードバックが必要だ」という結論に至りました。
2つ目に、不採用者のネガティブ感情を無視してはいけない、という気づきです。
採用選考で不採用になった方の7割が、「選考を受けた企業に対して何かしら嫌な感情を盛ってしまう」というデータがあります。
採用選考に不満があると、面接を受けたあとその企業の商品を買わなくなる傾向もあります。採用もできず、自社商品の不買行動にもつながるとは、誰も得しないし残念ですよね。
この2つの気づきから、選考プロセス全体の候補者満足度を測るサービスをつくろうと考え、HR Fanを作りました。
ーどのようなメンバーでHR Fanを作っているのですか?
大塚さん:実は社員ゼロ人で、業務委託・副業メンバー約10名で今日まで進めてきました。
アクセンチュア時代のデータサイエンティストの同期、筑波大学出身でコナミに入社したスーパーエンジニアなど面白いメンバーが集まっています。
その他、各企業の人事担当者やフリーランスの方にサポートしてもらいながら、サービスをつくってきました。
業務委託だけで固めようと狙っていたわけではありませんが、今集まっているメンバーのアウトプットの質が高いので、うまく回ってきたのだと思っています。
「これやっておいてくれますか?」と軽くお願いしただけでも、とんでもなく質の高いアウトプットを自然にしてくれる大人な方が多くて、非常に心強いです。
ただこれからは、HR Fanの販売にも力を入れていくフェーズなので、学生インターンや、エンジニアも積極的に採用していきたいと考えています。
「候補者の“本音”をもとに採用改善ができる」HR Fanの機能とは?
ーHR Fanの機能・特徴、活用方法について教えてください。
大塚さん:HR Fanは、簡単に言うと「候補者の本音を引き出す分析ツール」です。
HR Fanは、
- アンケートツールとしての機能
- データ分析のレポートサービス
という2つの機能があります。
- 企業の採用担当者と打ち合わせをして、候補者への設問設計をしアンケートURLやQRコードを作成
- デフォルトで15問ほどの事前設問が用意されているが、企業ごとに独自質問の設計も可能
- 採用選考を受けた候補者に順次、採用担当者からURLを送付し、アンケート結果をHR Fanが分析してレポート提出
1.アンケート機能/高いアンケートの完遂率
大塚さん:とてもシンプルな設計ではありますが、アンケートの回答までの完遂率は非常にこだわって開発をしています。
回答率を高めるためにデザインにこだわり、QRコード・URL発行も掛け合わせることで、アンケート回答率はGoogleフォームよりも20%高くなっている点は特徴です。
2.データサイエンティストによる独自のデータ分析×レポートサービス
大塚さん:アクセンチュア時代の同僚の中に、AI活用をして大手クライアントの勤怠管理・離職防止システムを作っていたデータサイエンティストのメンバーがいます。
彼らの知見を借りながら、HR Fanにも独自の分析機能を実装させました。
2-1.自然言語処理を用いたコメント分析機能
自社で候補者向けのアンケートを作る場合、Googleフォームを利用することが多いと思いますが、自由記述の回答を的確に分析するのは難しいのではないでしょうか。
HR Fanを利用すれば、自然言語処理で自由回答欄のテキストデータを読み取りコメント分析をしてくれるので、効率的に分析レポーティングすることが可能です。
アンケートの自由回答欄から、ポジティブな側面を持つ言葉とネガティブな印象を持つ関連ワードをそれぞれ抽出して、回答全体の中にそれらのワードが何%含まれているか計算していきます。
たとえば、「遅い」「遅かった」という単語はネガティブワードになるので、アンケートの自由回答欄に「遅い」「遅かった」というワードがどれだけ含まれているかはじき出し、データサイエンティストが分析していきます。
選考フェーズごとのワード分布から、候補者の志望度の変化を分析し、自動レポーティングしていくのです。
複数の候補者の自由回答欄を、採用担当者が独自に分析するのは非常に困難です。
アンケートを集めてたとしても、忙しい採用業務の中では「候補者の気になるコメントはないか、目立つ回答はないか?」と、さらっとチェックして終わりではないでしょうか。
アンケートの自由回答のコメントを分析しきれないのであれば、無駄な時間を割かずにHR Fanを利用して、採用業務の効率化を図っていただいた方が良いのではと考えています。
2-2.志望度の変化分析
志望度の変化を、応募経路別や希望ポジションごとに確認することができます。
HR Fanを導入することで、エージェント経由、自社応募などの応募経路別での志望度の変化や候補者の選考体験の満足度を可視化します。
これらをチェックすることで、「今はどの流入経路に採用予算を割くべきか?」「複数の改善要素がある中で、候補者満足度の1番低い〇〇から改善していこう」と、採用担当者の意思決定を後押ししてくれるでしょう。
また、営業職・エンジニア職など、職種別に志望度の変化をチェックすることもできるため、「営業職は応募直後の志望度が高いのに、エンジニアは意外と低いな…」など、職種ごとの採用課題に気付くこともできます。
職種別に選考フェーズのどこにボトルネックがあるか浮き彫りにすることで、スムーズにネクストアクションにつなげることが可能です。
3.採用担当者の負担を削減し、面接官の評価シートとしての使い道も
大塚さん:HR Fanは、煩雑で業務量の多い採用担当者の負担を削減することも大きな狙いとしています。
企業の採用業務は、募集職種・応募人数・採用人事など関わる人が増えるほど、チェック項目や業務内容が膨れ上がることが大きな課題としてあげられます。
また、採用業務の改善点が複数あると、どこから着手すればいいか悩む採用担当者も多いです。
そこで、HR Fanでは「採用担当者の業務が増えないこと」「採用のボトルネックをピンポイントであぶり出し、効率的に採用改善できること」を重視して開発を進めました。
採用担当者の業務が増えないこと
候補者に面接お礼メールを送るときにアンケートをURLかQRコードで、簡単に送ることができる仕様にしています。
採用のボトルネックをピンポイントであぶり出し、効率的に採用改善
複数職種・複数応募者に対するアンケート配布、回収、分析とネクストアクションの設計という時間のかかる作業を、HR Fanひとつで完結できるようにしています。
その他のメリットとして、企業様の希望があれば、面接官のバイネームを入れることも可能です。
全国各地の拠点にいる面接官になかなか目が行き届かず困っている場合、面接官の評価シートとして利用いただくと良いと思います。
ー候補者へのアンケートは、どのタイミングで実施するのですか?
大塚さん:一次面接のあとに使用することを推奨しています。
ただ、先ほどお伝えしたように、Wantedly・エージェント・自社HPなど、どの応募経路でのエンゲージメントが高いのか見極めることも重要ですので、「認知~応募」「応募~選考」のすべての選考フェーズにて利用いただきたいですね。
応募から一次、二次面接、最終面接にかけてすべての選考フェーズで定点チェックを実施することで、候補者の志望度が選考の後半にかけて上がっているか確認することもできます。
ー「選考に落とされたくない」という気持ちから、候補者が本音を書いてくれないという懸念はありませんか?
大塚さん:あくまでも「第三者が集計している」と明記し、候補者には匿名で回答してもらうので本音を引き出すことが可能です。
おっしゃるように、企業が独自でアンケートを実施してしまうと、「このアンケートに変なことを書いたら選考に落ちてしまう」と捉えられ、バイアスがかかった回答になってしまう可能性が高いです。
また、アンケート回答結果をもとに「この人を採用するかどうか」と、選考の判断材料にすることもおすすめしていません。これは、候補者が「採用してもらうための回答をしよう」と考えることを防ぐためです。
候補者に不採用連絡をした直後だけにHR Fanを入れると、どうしても回答が恣意的になりやすくなります。
そのため、応募から最終面接まで、選考プロセスごとに定点チェックをする目的で導入していただくと良いでしょう。
あくまでも、選考全体の改善のためにアンケートツールを入れてもらうのであって、回答結果をもとに候補者の採用可否を判断するものではありません。
利用目的を間違えると、候補者体験のエンゲージメントが下がることとなり逆効果になると考えています。
HR Fan活用で企業にもたらされるものとは?
ーHR Fanを利用しているユーザーからはどのような声がありましたか?
大塚さん:いち消費者でもある候補者の満足度を高め、候補者の不買行動やネガティブ行動を防ぐことが可能です。
また、選考全体のエンゲージメントを高めることで、企業ブランディングにもつながり、最終的には採用成功・採用コスト削減へとも導いていきます。
とくに、候補者がお客様となるBtoCの業界、全国拠点があり複数の面接官がいる企業様でのニーズが強いと感じています。
応募時にはその企業のファンだったにもかかわらず、圧迫面接をされて不買行動につながってしまっては誰も幸せになれません。いち消費者でもある候補者個人の気持ちをHR Fanで可視化することをおすすめします。
直近のお話ですが、コロナの影響でオンライン面接を導入する企業様が増えました。
慣れないオンライン面談で会話がしづらいことから、「企業の話は候補者にきちんと伝わっているのか?」と不安になることも多いようです。
コロナ後もウェブ面接・オンライン選考は続くと思いますので、ぜひHR Fanを導入して、候補者体験の満足度をチェックしていただきたいと思います。
ー使用した企業からどのような感想をもらっていますか?
大塚さん:「人事担当者が気づけていなかった候補者の本音を収集できる」と、前向きな感想をいただいています。また「採用施策の意思決定を後押ししてくれた」という感想もいただきました。
たとえば、もともと選考の連絡スピードを意識していた企業様でアンケートをとったところ「選考結果の連絡が遅いので他の企業を受けることにしました」という回答がありました。
企業は連絡を急いでいるつもりでも、候補者にとっては十分な対応スピードではなかったことに気づくことができたのです。
その他にも、自社HPからの応募とWantedly経由からの応募者に、志望度の差があると感じていた企業様にHR Fanを利用いただきました。
実際の分析レポートを見ると、やはり自社HP経由の応募者志望度が高くなっていたため、その後Wantedlyではなく自社HPに注力しようと決断をすることができました。
なんとなくこうだろうなと予測していたことが、HR Fanの分析を通してはっきり可視化することで、採用担当者の意思決定の助けになった良い事例だと受け止めています。
また違う見方ですが、「自社でデータサイエンティストを採用して分析させる人的コストを削減できた」という声もありました。
HR Fanはデータ分析人材の代わりとなり、従量課金サービスなので面接をしなければ費用が発生しない仕組みとなります。この点から、コスト感に関しても一定の評価をいただけていると感じています。
ーありがとうございます。最後に、今後の展望と採用担当者向けにメッセージを一言お願いします。
大塚さん:このサービスをきっかけに、候補者の定性的な考え・情報を活用することが当たり前になり、企業ファーストではなく候補者ファーストな採用現場に改善されるといいなと考えています。
採用現場は、人生の意思決定がおこなわれる場です。候補者の不満がない状態で、エンゲージメントを高めながら入社に至るような世界観を描いていきたいと思います。
採用人事の皆さんはの業務は、非常に忙しいと思います。採用以外にも、労務や総務に関わる人事担当者もいらっしゃいますし、経営の傍ら採用業務を進めている社長様も多いです。
そんな多忙な中で、候補者との複数のタッチポイントでの情報を集め、分析し、注力ポイントを決めていくことはとても骨の折れる作業です。
ぜひHR Fanを活用して、効率的な採用の見極めをおこなっていってください。
今後の展望としては、まずはHR Fanを多くの企業様に知っていただき、1社でも多くの採用現場が明るくなることを願っています。
https://hrfan.jp/