中途採用市場における企業間の競争激化が進んでいます。十分な採用ができなければ事業成長の遅れにつながる一方で、人員計画通りの採用を実現できていない企業も多い状況です。
売り手市場となった中途採用市場においては、より候補者に寄り添い、候補者の体験を高める「アトラクト採用」が必要です。今回はアトラクト採用の可能性や採用におけるAIとデータの活用、具体的な事例についてご紹介いたします。

平田 拓嗣(ひらた ひろし)|株式会社Haul 代表取締役CEO
AIスタートアップ株式会社ABEJAの初期メンバーとしてHR部門でビジネスサイドからAIエンジニアまで幅広い職種の採用に携わる。HRBP(HRビジネスパートナー)として独立後、50社以上のスタートアップ・VCの採用支援を経験。2018年に株式会社Haulを創業し、次世代型採用イネーブルメントSaaS「RekMA」を開発。2024年に累計6.5億円の資金調達を達成し、導入社数100社を突破。
目次
1. 中途採用の現状と課題
新卒採用に重きが置かれていた時代から、中途採用の時代へと変化しています。企業における中途採用の計画人数は年々増加傾向にあり、その割合は40%を超えました。(※1)
一方で、人材獲得の難易度が高まっているのも事実であり、多くの企業が必要な人員を確保できない状況にあります。中途採用のニーズが高まる一方で、総人口と生産年齢人口の激減も進んでおり、約6割の企業が人員確保に苦労しています。(※2)
さらに、人材採用に関するルートやソリューションも急増しています。従来は求人サイトやエージェントの活用などが中心であった採用ルートも、人材獲得競争が激化する中でリファラル採用やSNS採用といったアプローチが登場しました。
また、ミスマッチの増加を受けて、採用時のリファレンスチェックや入社後のタレントマネジメントシステムの導入も進んでいます。このような状況の中で、いわゆる「How」の工夫や差別化により採用競争に立ち向かわれている企業が多いと感じています。
ルートやソリューションが増える一方で、それを使いこなすことは本質ではありません。採用活動においては「誰を採用したいのか(Who)」を定義し、「何を魅力に感じ自社に入社するのか(What)」を磨きこむことが重要です。
「Who」の定義においてよくあるのが、文系や理系、経歴などスペックだけで判断してしまうケースです。しかしながら、これでは「どういうことを志向している方が欲しいのか」といった情報がないため、どの企業でも欲しい人材が似通っていきます。これでは、限られた範囲の人材を取り合う競争に参加せざるを得なくなります。
「Who」の定義においては、企業として「そもそもどういう人と働きたいか」、「どういう人が集まるべき会社であるか」を明確にしたうえで、採用市場とコミュニケーションをとっていくことが重要です。
また「What」として、自社にどのような面白い魅力があり、なぜ候補者は「自社で働くべきなのか」を整理することも大切です。Whatを定義したうえで、採用市場に対してアピールしていくことで、自社への入社を決意しやすくなり、採用後のミスマッチを減らすことにもつながります。
これらのWhoとWhatが整理できていないまま、とにかく候補者を多く集め、目標の採用数を達成しようというアプローチに陥りがちです。WhoとWhatが定まっていれば、少ない候補者の中でも十分に採用数を確保できます。そのうえで、Howを洗練させていくことで、強くて速い採用を実現できます。
(※1)引用:日本経済新聞 中途採用5割迫る、24年度「新卒中心」転換点 日経調査
(※2)引用:リクルートワークス研究所 中途採用実態調査
2. 企業の魅力づくりの重要性〜アトラクト採用とは?
現代の中途採用市場の環境下においては、企業が選ぶ「見極め採用」から、候補者から選ばれる「アトラクト採用」への転換が注目されています。
アトラクト採用とは、採用候補者に企業の魅力を伝えることで「この会社で働きたい」と思ってもらえるように働きかけることを指します。
アトラクト採用においては、候補者の意思決定軸に対して、それに紐づけて自社の魅力をアピールすることがポイントとなります。最終的に、候補者から「ここに一番入社したい」と志望度第一位の状態を作り上げていくことが、アトラクト採用の目標です。
私は選考中だけでなく、初回の面談の前からこの取り組みを進めるべきだと考えています。候補者は、最初に直感的に良いと感じた企業を最終段階で選ぶ傾向にあります。多くの会社が採用の後半になって本気で候補者にアプローチしようとしますが、後から自社の評価を挽回するのは困難です。
3. アトラクト採用実現の事例
実際に、どのようにアトラクト採用を進めていくのかについて、国内外で広告プラットフォーム事業やマーケティングSaaS事業などを展開されている株式会社ジーニー様の事例を通してご紹介します。
同社では、エージェントに頼った採用活動となっているという課題があり、候補者の情報が把握しきれず、内定承諾率も56%という状況に。この改善のために、同社では当社のソリューション「RekMA」を活用し、アトラクト採用へと転換を図りました。
内定承諾率を改善するためには、候補者の状況や心境等の情報を選考プロセスの中で引き出し、企業から候補者へ提供する情報や、選考・面接時に確認するポイントを変えていくことが重要です。
たとえば、1次面接で候補者が懸念していたポイントは、2次面接以降で解消する必要があります。これを実現するために、候補者の心情を可視化できるRekMAの機能を活用いただきました。
具体的には、面接中だけでは十分に候補者の情報を引き出せないことがあります。そこで、面接後に状況や心境が把握できるアンケートを候補者から回答してもらい、その結果を基に次回の面接担当者へ申し送りを行います。
どのような点に懸念を持っているのか、また自社のどのような点を魅力的に感じているのかなどを候補者に合わせたコミュニケーションを図りながらパーソナライズすることで、より候補者体験を高められます。
また、最終的な内定承諾に向けて、これまで収集した転職背景や意思決定軸、入社決定において重要視する要素などをまとめ、オファーレターを作成します。これにより、入社への最終的な意思決定を後押しします。
このような取り組みを行った結果として、ジーニー様の内定承諾率は導入後は3ヶ月間100%に改善。エージェント頼りの採用から採用担当が申し送りをする攻めの採用への転換を果たしました。
4. AIとデータで採用業務の“本質”と向き合う
アトラクト採用を進めるにあたっては、AIとデータの活用が有効です。AI・データの活用にあたっては、まず人とテクノロジーの適切な役割分担がポイントであると考えています。
テクノロジーが実現できる仕事はテクノロジーに任せ、生み出した時間で人にしかできない仕事に集中するべきです。
アトラクト採用においては、候補者の考えや心情などの情報収集は、必ずしもすべて人がやる必要がないと考えています。情報収集のコストは非常に重い一方で、自動化された候補者アンケートなどテクノロジーに任せられる部分もあります。さらに、生成AIも活用し、収集した情報を基にした次面接への申し送り事項の整理や、お礼メッセージのドラフト作成なども一定自動化することができます。
そのうえで、最終的に他社と比較して自社を選んでもらえるように、人が候補者と深くコミュニケーションを行っていくことが重要です。
5. 採用活動における価値観マッチングの重要性
社員は「やりたいこと」で入社を決意し、「人間関係」で退職することも少なくありません。長く自社で働いてもらうためには、自分のありたい姿や価値観が会社とマッチしているかが重要です。
早期の退職を防ぐためにも、履歴書・職務経歴書やスキルだけでなく、候補者の考え方や思想、また自社の従業員から見た印象などの情報を含めて、内定前に「自社の価値観や風土とマッチしているか」をよく確認する仕組みが必要です。
当社では「希望ある未来を実装する」というビジョンの元、次の時代を創るキャリアクレジットの構築をミッションとしています。
多様な働き方や働く形が存在する時代において、自身の価値観や個性と向き合い、生き生きと働ける居場所やチームに出会う機会を創り出すことで、一人ひとりの自己実現や豊かな社会の構築につながると考えています。
今後は選考過程のデータを軸に、求職者の転職活動を支援するサービスや、選考データの利活用で候補者の価値証明ができるようなサービスなど、「個人と企業の出会いの最適化」ができる価値観マッチングを実現するソリューションを作りたいと考えています。
新たな企業とのマッチングや副業・兼業の機会提供など、ありとあらゆる個人のキャリアをエンパワーメントしていきます。