※本記事は、株式会社サポーターズ公式note内で掲載されている『 「エンジニア不足」について本気で考えてみませんか? 』を加筆・修正したものです。
私たちサポーターズは2012年の創業以来、約7万人の学生エンジニアの就活支援、約1,000社の採用支援を行ってきました。手前味噌ですが、新卒エンジニア採用の領域では相当実績のある会社だと思っています。
ただ、どれだけ採用支援しても「エンジニアが足りない」「採れない」というのがほぼ全ての経営者、採用担当の方から言われる言葉です。今日は、それがなぜなのか、そのために何ができるのか、について、少し考えてみたいと思います。
楓博光 | 株式会社サポーターズ 代表取締役
慶応義塾大学経済学部卒。 学生起業→大手広告代理店→ベンチャー企業人事を経て、2012年サポーターズを創業。 これまでに約1000社の新卒エンジニア採用支援、約7万人の学生エンジニアのキャリア支援を行う。 著書『ゼロからわかる新卒エンジニア採用マニュアル』
株式会社サポーターズHP:https://corp.supporterz.jp/
1.「エンジニア不足」は社会課題だ
お察しの通り、ITエンジニアは今、日本で最も採用が難しい職業です。
転職サイト「doda」が公開する【doda 転職求人倍率レポート(2023年6月)】から、ITエンジニアの求人倍率は約10倍と、全職種中最高倍率。1人の候補者を10社で獲り合っている状況です。採用難易度がかなり高いことがわかると思います。
(参照:転職求人倍率レポート(2023年6月)-転職サービス「doda」)
また、この人材不足は悪化の一歩を辿るとされており、平成30年に経済産経省が実施した「IT 人材需給に関する調査」によると、2030年には約80万人のITエンジニアが不足する可能性もあると予測されています。
(参照:IT 人材需給に関する調査-経済産経省)
この極端な人材不足は、一企業の課題という範疇を大きく越え、今や大きな社会問題だと私は認識しています。最新の「世界デジタル競争力ランキング2022」では日本は29位と、もはや後進国と言われるレベルのポジションです。
結果、「デジタルで新しい挑戦がしたい!」「イノベーション起こせそう!」となっても、その担い手がおらず、その一歩を踏み出すことすらできない、という状況が起きています。
少子化によるGDP減少という危機的状況が迫る中、カギを握るデジタル領域がこの惨状だと、はっきり言って日本はかなりまずい状況にあると思っています。
2.この危機的状況は、割と放置されている
残念なことに、この危機的状況に対して、ほぼ何もアクションがされていないのが現状です。企業内で「エンジニア採用」への対策は講じられますが「エンジニア不足」への対策は行われることはまずありません。多くは「一企業の採用課題」という短期的な問題として処理されてしまうからです。
国としても、デジタル庁の設立、プログラミング教育必修化など、少しずつ策を講じていますが、一朝一夕で改善されるものではありません。
プログラミングスクールなども増えてはきていますが、社会で求められるレベルのエンジニアを育成するには、なかなかハードルが高いのも現実です。一部ではエンジニア=お金稼ぎツールのように扱われていて、とても残念な気持ちになります。
そんな中、DeNAの常務執行役員の小林さんが仰られていた、こんな言葉が忘れられません。
これまでの採用活動は、どこかで誰かが育てた実を、季節になったら勝手に収穫して「まだ足りない。もっとよこせ」と言ってるようなもの。そうではなくて、自分たちで畑を耕し、種を蒔き、水を与えて、皆で育てていくのが本来あるべき採用の姿。そんな活動を少しずつでも企業はやっていくべきだと思うんです。
(DeNA 常務執行役員 小林 篤 氏)
サポーターズの創業以来、ずっと採用をお手伝いさせてもらっているDeNAの常務執行役員からの重い一言。
僕らは畑をどこにつくるべきか、水をどう与えるべきか、またそれを誰と行えば真の意味での社会課題解決になるのか、ずっと考え続けてきました。
3.どのように社会課題を解決していくのか
エンジニア不足という社会課題に対して、サポーターズは「エンジニア採用支援」と「エンジニア育成」の2軸で取り組んでいます。
「エンジニア採用支援」は、エンジニアを志す学生と企業をつなぐマッチングサービス。創業10年間、ずっと取り組んでおり、毎年情報系学生の1/3となる7,000名以上に「出会うべき企業」との出会いを創り続けています。
しかし、前述の通りエンジニアの求人倍率は約10倍。マッチングを生んでも生んでも、まだ全く足りていません。「畑を耕し、種を蒔き、水を与える」ことからしないといけない、という危機感から始まったのが「エンジニア育成」の取り組みです。
その名も『技育プロジェクト』。未来の “技” 術者を “育” てる、学問不問のエンジニアキャリア育成プログラムです。根本的に技術者を増やし、育てる活動を行っています。
先日開催された「HRアワード2023」では、優秀賞を受賞しました。
- 技育祭:国内最大級のエンジニア学生向けテックカンファレンス
- 技育博:全国から主要エンジニアサークル・団体が集結するリアルミートアップ
- 技育展:アウトプットを発表する、エンジニア学生向けピッチコンテスト
- 技育CAMP:ハッカソンと技術イベントを軸にしたスキルアップ支援プラットフォーム
この「技育プロジェクト」は今年で4年目を迎えますが、このような変化が起きています。
・年間でのべ1.2万人が参加するまでの規模に成長
・年間の協賛企業がのべ60社に増加
・技育「祭」は国内最大のテックカンファレンスに成長。河野デジタル大臣、落合陽一さん、ひろゆきさん、東大松尾先生など業界のキーマンも登壇
・技育「展」では180チーム、400名が登壇し、自らのプロダクトを世の中に発信
・技育「CAMP」では年25回のハッカソンを開催。合計のべ2,000名が参加し、約400作品が誕生
・技育「博」では全国から100の学生エンジニア団体が集結
少しずつではありますが、確実に未来の “技” 術者を “育” てるプロジェクトが広まりつつあります。
そんな「畑を耕し、種を蒔き、水を与える」ところからやるのが、サポーターズなりの社会課題解決だと考えています。
4.少しずつ動き始めた「うねり」
そんな活動を通して、少しずつIT界隈を中心に「うねり」が起き始めているのを感じています。
今年からは、同じ想いを抱く企業さまが、長期的な目線でエンジニアを「育てる」ために週2回ほどのペースで学生向けの勉強会『技育CAMPアカデミア』を開催してくださっています。
毎回テーマは異なり、サポーターズを利用している学生は無料で参加し、学ぶことができます。
今年からは、オンラインだけではなく、リアルな場で学生にものづくりのアドバイスをする『技育CAMPキャラバン ハッカソン』も実施。現役エンジニアの方が、実際に日本各地に赴きました。
また、私自身が大学で授業をさせていただくという機会もいただくようになりました。「エンジニアのキャリア論」をテーマに、学生のキャリアを支援する目的で4年連続で開講されています。
(参照:サポーターズ、代表の楓が武蔵野大学データサイエンス学部でエンジニアのキャリアに関する特別講義を開催)
同様に「エンジニア不足」に危機を感じている企業も、各社エンジニア新卒採用や育成に力を入れてさまざまな取り組みを実施しています。
サポーターズをご利用いただいている企業の取り組みを一部ご紹介します。
■株式会社サイバーエージェント
サイバーエージェントでは、2008年に約30人採用したのを機に、新卒エンジニアの採用を年々拡大中。ここ10年は毎年60人ほど、直近では100名弱の新卒エンジニアを迎えています。
過去には技術力を重視していた時期もあったそうですが、社内で活躍しているエンジニアを分析し、独自の採用基準を策定してからは、足元の技術だけで判断しないように技術テストも止めたそうです。その結果、より採用基準にマッチする選考を受けてくれるようになったり、入社後の離職率が劇的に下がったのだとか。
新卒エンジニアはいかに育成するかが大事で、即戦力だけを求める必要はないとおっしゃっていました。サイバーエージェントでは、入社後に若手を重要なポジションに抜擢し圧倒的な成長機会を与えることで、入社1年で8割弱がエンジニアとしてほぼ一人前になっていくそうです。(参照:入社1年で8割が一人前 サイバーエージェントの新卒エンジニアが急成長できる理由)
■株式会社NTTデータグループ
NTTデータでは、毎年プロジェクト型インターンシップとワークショップ型インターンシップを開催しています。なんと、年間800名もの学生が参加するとのこと。
世間的な知名度だけではなく、エンジニア学生の間でのポジティブな口コミが重要であると捉え、なるべく学生扱いをせず、難易度の高いインターンプログラムを設計。
社員も相当なエネルギーを使ってインターンの設計に力を入れた結果、エンジニア学生の間で「NTTデータでインターンをすると、夏の間にすごく成長できる」という口コミが広がるようになったそうです。
NTTデータでは、ウォーターフォール一辺倒ではなく、アジャイルなプロジェクトも数多く存在しています。インターン期間中から成長の機会を提供することで、入社後も幅広く活躍できるような人材育成を行っています。(参照:「NTTデータって開発できるんですか?」「いや、めっちゃ作ってまっせ」)
しかし、まだまだ、ごく一部のアツい想いをもった経営者、採用担当、エンジニア、教育関係者の方々の中の「うねり」にとどまっているのが現状です。
本当の意味で「畑を耕し、種を蒔き、水を与える」ためには、もっと多くの方にこの現状を知ってもらい、関心をもってもらい、1人1人、1社1社がアクションを起こし、日本全体を巻き込むような「うねり」にしていく必要があると思っています。
それは、今エンジニア採用に困っている企業はもちろん、いつか開発を内製化したい、いつかDXで大きな挑戦をしたい、と考えている全ての企業、全てのオトナの共通の課題であり、関心事であってほしいと思っています。
一緒に「うねり」を起こして、「エンジニア不足」という社会課題に挑戦していく仲間が社会全体に増えていくことを願っています。