転職が当たり前となる時代が訪れつつある中、これまで学生の時にだけしていた「OB訪問」を、社会人になっても実施したいと考える人が増えています。
今回、2020年3月にサービスを正式リリースしてから約2カ月足らずで、国内最大級の社会人向けOB訪問サービスとして知られるようになった「CREEDO(現 キャリーナ)」を運営する、株式会社ブルーブレイズの代表である都築さんにインタビューを実施。
サービス立ち上げの経緯や、社会人向けOB訪問サービスとして目指すビジョン、そして企業がキャリア支援をすることでもたらされる影響について詳しくお話をお聞きしました。
【人物紹介】都築辰弥 | 株式会社ブルーブレイズ 代表
東京大学工学部卒。学生時代は、国際学生NPO「アイセック」で活動した後、バックパッカーとして世界を一周。新卒でソニー株式会社に入社し、スマートフォン『Xperia』の商品企画担当を務める。その後、「世界に100億の志を」というミッションを掲げ、アイセック時代の友人とともに2019年8月に株式会社ブルーブレイズを創業。社会人向けOB訪問サービス『CREEDO(クリード)』を運営する。
目次
社会人向けOB訪問サービス「CREEDO(クリード)」とは
ー「CREEDO(クリード)」というサービスについて教えてください。
都築さん:一言で言うと、社会人向けのOB訪問サービスです。自分が興味のあるキャリア選択をするために、そのキャリア選択の先輩に、直接リアルな実態を聞くことができます。
自分が行きたい会社、なりたい職種・業種、働き方、ワーキングママ・ワーキングパパといったピンポイントな情報を聞くことができるので、社会人になってから自分のキャリアを考える際に活用できます。
まさしく、学生の時によくおこなう「OB訪問」に近しいものですが、「大学のOBに訪問する」のではなく、自分の興味のあるキャリア選択をすでにしている人の「経験談を聞く」ことができるという点が少し異なります。
経験者の方に経験談を登録してもらい、その経験談に申し込みがされて、実際にマッチが成立する、というスキームになっているので、「人や肩書」で訪問相手を選ぶのではなく、「聞きたいエピソード」に対して応募していただく形です。
ー具体的に、どのような方が経験談を登録しているのでしょうか。
都築さん:企業に所属されている方はもちろんですが、フリーランスや起業されている経営者の方も多く登録されています。また、医師や調理師など、様々な職種の方にもご登録していただいております。
「未経験から人事になった経験」「大手企業からスタートアップに転職した話」「フリーランスの仕事獲得術」など、現在で700件以上の経験談があります。
学生の時にしていたOB訪問とは異なり、必ずしも「仕事を探すためにOB訪問をする」という点にこだわっているわけではありませんので、「現職でのスキルアップのために、この仕事や職種について詳しく知りたい」といった幅広いニーズに対応していると思っています。
各個人がさまざまなテーマで経験談を登録しているので、ユーザーは、「あ、これだ」というドンピシャな経験談を見つけることができると思います。
一人ひとりに対して「本当にドンピシャなキャリア経験談」を揃えなければならない
ーなるほど。これまでに社会人向けのOB訪問サービスは、どれくらいあったのでしょうか。
都築さん:過去に僕が知っているだけでいくつか近しいものはありましたが、すでにサービスを閉じてしまっているものも多い状況です。
ーそうなんですね。うまくいかなかった原因は、何だったのでしょうか。
都築さん:あくまでも想像ですが、聞き手と話し手のバランスがうまく取れなかった点が大きいのかもしれません。
CtoCプラットフォームですので、CREEDOも「聞き手と話し手をどうバランス良く集めていくか」という点は、サービスを運営する上で特に注意しました。
キャリア選択は本当に百人百様ですので、特定の職種だけあっても駄目なんですよね。全てのユーザーに対して、本当にドンピシャな経験談を揃えないといけません。
一般的に、多くのサービスで初期段階はマッチングが発生しづらいという課題が見受けられるのですが、ユーザーのサイト内での行動をデータで分析していく中で、CREEDOはたいていのニーズに対する経験談が揃ってきたというふうに認識しています。
「ようやく1つの壁を超えることができた!」という感じですかね。
ー実際にCREEDOを利用しているユーザーは、どういった方が多いのでしょうか。
都築さん:やはり、約3分の1は転職を考えている方々となります。特に多いケースが、「未経験で違う職種にチャレンジしてみたいが、エージェントに相談したら、渋い顔をされた」というものです。
CREEDOを利用すれば、キャリアの先輩からの合格体験記のような経験談を聞くことができるので、実際に今後どのようにしてキャリアを作っていくか考える上で、とても参考になる情報を得ることができます。
また、「転職はそんなに考えていないけれども、これまでと異なる部署に異動するので、社外の詳しい人にちょっと話を聞きたい」といったビジネスマッチング的な面で利用されるケースも多くあります。
外部にいる詳しい人の話を聞き、現在の自分のビジネスに生かすというようなユースケースは、今後も転職と同じぐらいあると考えています。
ユーザーは自分が知りたいと思う情報をピンポイントで聞きたいと考えているので、「こういう経験談を話せます」といったエピソードを中心に置くことが大事だと思っています。
「誰にでもキャリアは存在する」自分のキャリアに自信を持つことが大事
ー都築さんが会社を起業し、「CREEDO」というサービスを立ち上げた経緯についてお聞きしたいと思います。
都築さん:当社は「世界に100億の志を」というミッションを掲げて、2019年の8月に創業をいたしました。
ミッションをある程度言語化した中で、それを実現するためにどのような選択肢を取るべきか考えていたのですが、一体どんな選択肢を取ればいいのか、自分としてもよくわからない状態でした。
もしかしたら起業以外の選択をしている人がいるかもしれないし、思いもよらぬ選択肢でそれに近いことをやっている人がいるかもしれない。
色々な想いを持って仕事をしている人たちに、個人的にも社会人という身分でOB訪問をしたいと考えていたので、CREEDOはそういった自分自身の原体験から生まれたサービスと言えます。
実は、CREEDOというサービスの前には、全く別のサービスを考えていたりもしたのですが、こういったことを考える中で、現在の社会人OB訪問サービスという形に収まりました。
ーそうだったんですね。では、実際に都築さんもキャリアを考える中で、社会人としてOB訪問をしたいという想いがあって、それをサービスにしたということですか。
都築さん:そうなりますね。
私たちは、キャリアに関する経験談を分け合うことを「キャリアシェア」と言っているのですが、今後はキャリア経験談のマーケットプレイスを築くことで、より多くの人が納得のキャリア選択を踏める「キャリアシェア」文化の定着を図ろうと考えています。
キャリアは千差万別ではあるものの、日本だけでも約1億人の人がいるわけで、よく見ていくと自分と似た選択をしている人が多数存在しています。
その一人ひとりが持っているキャリアの経験談がオープンになれば、よりリアルな情報を得ることができたり、キャリア選択の不確実性をもっとクリアにできたりするのではないかと考えています。
ーなるほど。「何もしなければ各個人の中で埋もれてしまうキャリアを、誰もが見ることのできるようにする」ということですね。
都築さん:その通りです。どんなキャリアであっても、その情報を必要とする人は絶対に存在していると考えています。
キャリアって、勝手に「華やかな」みたいな枕ことば付いてくることが多いのですが、たとえば「ニート」だって1つのキャリアなんですよ。
「僕なんか大したキャリアないです」みたいな方も結構多くいらっしゃると思うのですが、世の中に1億人いれば、絶対に1億人のキャリアがあって、そのすべてに価値があります。
だから、特定の一流企業出身者の経験談が聞けるサービスではなくて、どんな経験談でも必ず見つかる、ロングテールなサービスにしていくことが大事だと考えています。
企業は福利厚生として社会人向けのOB訪問サービスを活用すべき
ーCREEDOのような社会人向けのOB訪問サービスを、人事担当者はどのように活用できるでしょうか。
都築さん:最近だと、働き方改革やリモートワークの浸透が進み、企業を取り巻く環境が劇的に変化していますが、このような時代背景の中で企業としても従業員エンゲージメントを向上するために社員一人ひとりに寄り添ったキャリアの選択肢を考えていく必要があります。
効果的なタレントマネジメントをおこない、組織・チームという一体感を企業内で作っていくために、社会人向けのOB訪問はキャリア支援を社内で完結させず、外部のリソースを有効に活用する1つの方法となるのではないかと考えています。
実は、CREEDOは、このたびベネフィット・ワンという福利厚生サービスの1つに入ることになりました。これにより、ベネフィット・ワンを導入している企業は、CREEDOを割引価格で利用することができるようになります。
企業の福利厚生として利用できるようになれば、「転職をしたいわけじゃないが、ちょっと自分の新しい視点を入れたい」「社内には無い新たな知識やノウハウを取り入れたい」と考える従業員のニーズには、より答えやすくなると思います。
また、「CREEDOを利用することで転職してしまうのではないか?」といった心配を抱えることもあるかと思いますが、反対に、自分のキャリアを見つめ直すことで、今の仕事に対するモチベーションが向上することも考えられます。
これまでは、「キャリア支援を人事担当者やマネージャーが全部やらなければならない」と考えてしまうことも多かったかもしれませんが、さまざまなキャリア経験談を持ち寄って生かすことができるようになれば、負担はかなり軽くなると思います。
こういった世界観が、まさに私たちの提唱する「キャリアシェア」です。
「社外の人のキャリアの経験談をとりあえず聞いてみよう!」というユースケースが増えていくことで、働く個人がキャリアについてモヤモヤした状態で働き続けることが少なくなれば、企業にとってもプラスになるのではないでしょうか。
「キャリアシェア」は、リファラル採用の可能性も広げる
ーなるほど、面白いですね。人事担当者の方としては、他にどういった活用方法があるでしょうか。
都築さん:すでにユースケースとしてあるのは、「リファラル採用」です。
リファラル採用では、社員の知り合いの中から、さらに自分の会社に誘いたいと思える人を採用候補者としてカウントすることになると思います。しかし、その数は有限ですので、当然ながら採用候補者数が枯渇するという問題が出てきてしまうでしょう。
こういった場合、企業の担当者がCREEDOに話し手側として登録をしてもらうことで、新たな採用候補者と接点を持つことができるかもしれません。
正直、創業初期のスタートアップやベンチャー企業では、大企業ほど会社の名前としてのネームバリューはないため、なかなか採用できないという悩みを抱えていると思います。
しかし、「この人のキャリアにはすごく興味があるぞ!」といった新しいフックから自社との接点を作ることができれば、新しい採用ルートを作ることができるのかなと。
最近ではベンチャー企業を中心にカジュアル面談がかなり浸透してきましたが、結局誰に会えるのかって行ってみるまでわからないことが多いですよね。
CREEDOの場合は、当然「この人の経験談を聞く」ということが前提になっていますし、その人のキャリアのことがトークテーマの中心になるので、フラットに色々なことを聞くことができると思います。
実際のリアルな経験談を話す中で、自然と今働いている会社に対して興味を持ってもらうことができると思うので、人事の方にはこういった採用の新たな形としても使っていただきたいと思います。
また、CREEDOでは、経験談を登録していただきTwitterで投稿すると、目立つアイキャッチ画像が出るようになっており、実際にこれでかなりシェアが広がっています。
これまでは、会社のビジョンや事業内容など、母集団形成においてどうしても会社の話でしか採用候補者を惹き付けることができなかったかもしれません。
しかし、Twitter採用に力を入れられている企業様も多くなる中で、社員一人ひとりが自分のキャリアという武器でリファラル採用のチャンスを掴むことができるようにもなると思います。
「キャリアを語ってモチベーションを上げる」新たなエンゲージメント向上施策としての可能性
ー最後に、CREEDOの今後について教えてください。
都築さん:あえて言うならば、経験談として登録されているのは、まだ700件程度しかありません。
これで、世の中のキャリア選択のニーズを全て網羅できているつもりは毛頭ありませんので、非常にロングテールな話になりますが、多種多様なキャリア選択のニーズから地道に経験談の数や幅を広げていきたいと思います。
最終的につくりたい世界観としては、ある個人がキャリア選択を考る際に、ドンピシャで「まさにこんな経験談を求めていた!」というキャリアの先輩が見つかるプラットフォームにしていきたいですね。
また、経験者としてキャリアについて話す側も、自分のキャリアについて誰かに話すことで自分のキャリアについて整理するための機会に使っていただければと思います。
実は、この経験談を話すプロセスで、自分のキャリアに対して自信を持ったり、日々の仕事に対するモチベーションが上がったり、さらに、言ったことに恥じないようにちょっと明日からちゃんと仕事しようという気持ちになれると、みなさん口を揃えておっしゃいます。
社会人向けOB訪問サービスは、一方が価値を得る人、価値を与える人みたいな構図ではなく、実は持ちつ持たれつの関係にあると思っています。
先ほども申し上げたように、キャリアって勝手に「華やかな」みたいな枕ことばが付いていてしまいがちで、「僕のキャリアなんてたいしたことない」と思っている方が結構いらっしゃると思うんですよ。
でも、そうじゃないぞと。
CREEDOを通して、「一人ひとりのキャリアは固有の価値があり、それを参考にしたい人は絶対にいる」ということを伝えつつ、日本全体のキャリアへの納得度を、話す側としても聞く側としても上げていきたいと思っています。