
業務量に対する人員が少ないことも多い人事部門にとって、AI導入による生産性向上は必須事項になり始めています。特に採用領域でのAI活用を検討し始めている方は非常に多いのではないでしょうか?
今回は、人事領域の専門家であり企業の人事部門へのコンサルティングを日々おこなっている人材研究所代表の曽和さんと、AIの社会実装を進めるPKSHA Technologyで採用領域の事業開発を推進する丸山さんの対談を取材。
AI実装による「コミュニケーションの可視化」にフォーカスし、今後どのような変化が採用領域にもたらされるのかについて詳しくお聞きしました。ぜひ最後までご覧いただければと思います。

人物紹介曽和 利光氏株式会社人材研究所 代表取締役社長
愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。現在、Y!ニュース、日経、労政時報、Business Insider、キャリコネ等、コラム連載中

人物紹介丸山 莉穂氏株式会社PKSHA Technology CEO室 兼 AI HR推進本部 プロダクトマネージャー
米カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、Bain&Co.、IDEOを経て、PKSHA Technologyに参画。様々な業界に対して事業戦略の立案、及びサービスのビジネス設計や顧客体験の策定まで幅広い経験を有する。PKSHA TechnologyではAIと体験設計が融合した事業設計を推進中。
採用業務の効率化におけるAI活用の実態
― まずはお二人とも自己紹介をお願いします。

株式会社人材研究所の代表を務める曽和です。当社は、採用、人事評価制度、報酬制度設計といった人事コンサルティングサービスを提供しています。今まで企業規模を問わず、業界不問でさまざまな企業の人事部門を支援してきました。
過去のキャリアとしては、株式会社リクルート、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社などで人事の実務経験を積み、2011年に当社を立ち上げています。本日はよろしくお願いいたします。

株式会社PKSHA Technologyの丸山です。弊社では、「未来のソフトウエアを形にする」というミッションのもと、社会課題を解決する多様なAIおよびAIエージェントを提供しており、私はCEO室のプロダクトマネージャーとして、さまざまなAIプロダクトの開発に携わっています。
単に製品を開発するだけでなく、人間とAIを共存させ、人間にとって心地よい使い方を見出していくために、AIプロダクトならではのUXの向上ができないかについて日々考えています。
CEO室では、人事領域全体で活用できる総合ソリューション「AI Suite for HR」の開発を進めており、まずは採用領域からスタート、将来的には人事領域全体を網羅するサービスへと展開していく予定です。

― ありがとうございます。まず曽和さんにお聞きできればと思いますが、現在「AI」は人事業務のどのような場面でよく活用されているでしょうか?その実態について教えてください。

2017年5月にソフトバンク株式会社がAI選考を始めるというニュースが大きく取り上げられたことをきっかけに、採用現場でAI活用が進んでいます。現在では、エントリーシートの判定や面接動画の分析などにAIを取り入れる企業が増えています。
採用活動におけるオペレーションの効率化は非常に重要なテーマです。選考の日程調整を効率化するAIの機能がATS(採用管理システム)に実装されたり、応募数や歩留まり数を分析するためにAIを活用したりする企業もあります。
― 採用領域でAI活用が進んだ理由は、やはり人手不足が要因でしょうか。

はい。人手不足による採用難は、AI活用を進める大きな要因の1つだと思います。
例えば、倍率が100倍以上で応募数が殺到する大手企業では、エントリーシートなどの応募書類を確認する業務の負担が非常に大きいです。仮に、100人の採用枠に対して1万人の応募が集まった場合、1日500人の選考を進めていても20日間を要してしまいます。これをAI面接に置き換えれば、大幅な時間短縮が望めるでしょう。
一方、応募数が集まりづらい中小企業では、内定辞退率の高さに頭を抱えています。新卒採用において、昨今の学生は1人あたり3社ほどの内定獲得を目指している、裏を返せば「3人に1人しか内定承諾してもらえない」ことになります。
つまり、採用ポジション数の3倍の候補者に対してアプローチしないと採用数を充足させることが難しく、結果として採用活動の工数増が生まれているのです。
このように、大手企業と中小企業で悩みの種類は異なります。しかし、両者とも採用業務の効率化を図るためにAI活用を進めていることに変わりはありません。ただし、AIには業務効率化に加えて「人間の目では見つけられない要素を発見する」という活用方法もあり、この活用方法は注目度がまだ低い印象ですね。

曽和さんが仰るとおり、人事部は膨大な業務を抱えているため、AIによる業務効率化は必須といえます。中でも、当社はAIの社会実装、特に人とコミュニケーションするAI技術に強みを持ち、現在は人間同士のコミュニケーションの可視化と、面接官のサポートに重きを置いて開発をおこなっています。
採用課題と一口に言っても皆さまが抱える悩みは多様ですが、私たちは面接における「候補者の見極め(評価)」と「面接官トレーニング」に着目しています。企業で採用基準を定めていても、評価者によって解釈のズレが生じてしまい、一律の軸で候補者を評価することは難しいものです。そこで、属人的な見極めを是正できるような機能を開発しています。
AIが実現する「コミュニケーションの可視化」
― PKSHA Technologyさんでは自然言語処理技術が強みとのことですが、具体的にどのようなアプローチをおこなっているのでしょうか?

自然言語処理の技術は、人と人が交わす言葉をデータとして捉え、そこから意味や特徴を抽出するものです。採用の現場では、この技術がさまざまな場面で役立っています。
一つは、応募書類やレジュメのテキスト解析です。書類選考のプロセスは非常に負担が大きく、担当者の経験や感覚に頼る部分も少なくありません。
そこで当社の「書類選考AI」を活用すると、応募者の経歴やスキルをテキストから構造的に抽出し、評価の観点を整理することができます。結果として、従来は時間をかけざるを得なかったプロセスが効率化されるだけでなく、属人的になりがちな判断を標準化し、見落とされがちなポテンシャル人材を拾い上げられるようになります。
もう一つは、音声対話を解析する場面です。たとえばAI面接サービス「SHaiN」では、候補者がスマートフォンなどを通じてAIと会話を行い、その発話内容を自然言語処理で分解・分析します。あらかじめ設定された評価軸に照らしてスコアリングすることで、候補者の特徴を定量的に捉えることができます。
均一化されたアルゴリズムのため、候補者同士を公平に評価できるのはもちろん、会話の流れを要約したりと、人間の記憶や印象だけに依存しない検証も可能になります。これにより、効率化だけでなく、評価の透明性を高めることにもつながっています。
もちろん、これら点数だけで合否を決めるわけではなく、あくまでも人間の評価者の見極め、評価業務を補助する想定となります。このように、コミュニケーションの可視化だけではなく、評価の可視化まで任せられる点が強みです。
人事領域におけるAI活用の壁
― 面接現場のAI活用に対して、曽和さんの率直な意見をお聞かせいただけますか?

多くの企業で実施されている非構造化面接は、非常に精度が低いと知られています。まだまだ面接力の向上に課題が散見されるため、AIをはじめ、データ活用などを積極的に進めるべきでしょう。
別の論点となりますが、人材データをタレントマネジメントシステムに集約し、活用をおこなうPeople Analyticsを取り入れている企業では、早期から採用現場でのAI活用に着目しています。上司と部下のマッチングや人材配置の適正化において、People Analyticsの効果を体感していれば、おのずと採用現場での活用を検討するようです。
何十年も前から、適性検査は活用されているものの、適性検査は入社タイミングで1度しか実施されないケースが多いです。People Analyticsの観点でいえば、入社前から入社後にかけて継続的にデータを活用すべきでしょう。People Analyticsの時流に、AIというテーマが加わったものと解釈しています。
― では、AIやデータ活用を進める際の壁は何だと思いますか?

そうですね、また別の論点となりますが、面接官トレーニングは重要だと思います。面接官の能力が低いから、AIに代替しようという話ではありません。面接の精度を高めるために、AIをうまく取り入れて、面接官自身のスキルアップをおこなう必要があると考えています。
そもそも採用戦略の在り方も、見つめ直していただきたいところです。これだけの売り手市場が続く昨今、優秀な業界経験者や高学歴の新卒者ばかりを狙うことは、あまりおすすめできません。私だったら、他社がまだアプローチしていない、いわゆる“ダイヤモンドの原石”を探すことに主眼を置き、その原石探しにAIを活用すると思います。
玉石混交の候補者からダイヤモンドの原石を探し当てるのは、非常に骨の折れる作業ですから、そういった業務こそAI活用が適しているのではないでしょうか。
― たしかに、候補者の中から“ダイヤモンドの原石”を見抜くには、面接官にそれ相応のスキルが求められますね。

面接は、候補者から適切な情報を引き出しつつ、同時に良い候補者体験を提供しなければならないという、非常にマルチタスクなコミュニケーションの場です。その場をうまく進行するには高いスキルが求められます。実際の現場で経験を積むことも有効ですが、効果的な面接を行い、評価のばらつきをなくすためには体系的なトレーニングが欠かせません。
面接官トレーニングAI「面トレAI」では、AIを相手に面接ロールプレイを行い、質問力や回答への深掘りを練習できます。様々なタイプの候補者を想定したシナリオがあり、面接官は複数パターンのロープレで事前に練習ができます。ロープレ終了後には、STAR法の活用度合いやオープンクエスチョン比率などがスコア化され、面接官自身の強みや課題が可視化されます。
特にSTAR法に沿った質問や深掘りを習慣化できると、評価の一貫性が増し、心理的バイアスの影響も少なくなります。これは「似たタイプの人を高く評価してしまう」といった面接特有の偏りを和らげ、公正な判断を支援する効果があります。
経験の浅い面接官にとっては実践的なトレーニングになり、ベテランにとっても癖を客観視できる機会になります。AIによって「候補者を見る」だけでなく「面接官を育てる」ことができる点は、これからの採用全体の質を大きく底上げすると思います。

仰るとおり、採用面接の精度が低くなる要因の1つに、心理的バイアスがあります。自分と似ている人をつい求めてしまうことは多いですね。
人間の無意識なバイアスがかからないように、AIと事前に練習したり、セカンドオピニオンとしてAIを使うのが良いと思います。面接官には、なぜこの人を採用するのか、なぜ不採用にするのかについて、説明責任がありますから、その説明責任をAIの力を借りて、しっかり果たしていくと良いでしょう。
そもそも面接はブラックボックスで、各候補者をなぜ採用・不採用にしたのかについて、正当な検証がおこなわれない現状がありますからね。
― 実際にPKSHAのAI Suite for HRを活用している企業の声をお聞かせください。

実際にPKSHA AI Suite for HRを導入いただいている企業様からは、いくつか共通した声をいただいています。
一つは、選考プロセス全体の効率化です。書類選考での膨大な工数や、面接にかかる時間的負担が軽減され、採用担当者が本来注力すべき候補者とのコミュニケーションに時間を割けるようになった、という声があります。
次に、判断の一貫性と公平性です。AIが提示する観点や面接官自身のスキルアップを通じて、候補者をより公平に比較できるようになり、従来は見落としていた人材にも目を向けられるようになったと評価されています。
さらに、候補者体験の向上も挙げられます。場所や時間に縛られず受験できるAI面接は利便性が高く、候補者にとって負担が少ない選考体験を実現しています。加えて、トレーニングを受けた面接官については「質問の仕方や進行が改善され、より安心して面接に臨めるようになった」との声もいただいています。
総じて、AI Suite for HRは単に工数を減らすだけでなく、採用の質や候補者との関係性を高めるツールとして受け止めていただいていると感じています。
― 反対に、AIを活用するうえでの課題や懸念点は何だと思いますか?

やはり、候補者のネガティブな反応を気にされる方が多いと思います。適性検査をおこなうだけでも、選考から離脱する可能性は出てきますから、多かれ少なかれ、候補者にマイナスな印象を与える可能性は否めません。
とはいえ、不信感でなかなか進めないのも問題です。業務効率化や、何かしら人事業務の改善を目指すのであれば、AIやPeople Analyticsの活用は欠かせないと思いますね。
昨今では、人事部の中にデータサイエンティストのような専門人材を置くなど、先進的な取り組みも見られます。人的資本の開示も、データ収集・活用の後押しになったのではないでしょうか。

私は、AIの役割が曖昧なままで進めると、AI活用でつまづくおそれがあると思います。どこまでを人間が担い、どこからをAIに任せるのか線引きが重要です。とくに面接はセンシティブなため、すべてをAIに任せないことが大切ですね。
AI活用は1日でも早く始めるのが鍵
― 最後に、HRNOTEの読者へメッセージをお願いします。

人事部のAIやデータ活用のポイントは「1日でも早く始めること」です。
例えば、従業員の早期退職に悩む企業が対策を検討する際、すでに退職した方に接触するのは難しいものです。従業員の在職中から何かしらのデータを蓄積していけば、万が一辞めてしまっても、活用の余地があります。AIの活用は一定期間のデータの蓄積が求められるため、一刻も早くデータ収集を開始することをおすすめします。
もう1つ、お伝えしたいのは、採用活動の初めからデータをとることの重要性です。最終面接間際のデータや、入社後の従業員データしか保有していないと、母集団形成に活かすことが難しくなります。選考開始時からデータを集めていくように推奨したいと思います。
AIの活用を進めれば、業務効率化によって「人間だからこそできること」に時間をかけやすくなります。人事部がコア業務に集中できるように、引き続き「AI Suite for HR」の開発に取り組んでいきたいと思います。

