2009年に成立した育児・介護休業法により、企業は時短勤務制度の導入が義務付けられています。「時短」という言葉のとおり、フルタイムよりも短い時間で働くことになりますが、そもそも時短勤務は最低何時間働くことを指しているのでしょうか?
今回は時短勤務として認められる勤務時間や、時短勤務における休憩時間の取り扱い、勤務時間を変更する方法について解説します。これから時短勤務の導入を検討している企業の方はぜひ参考にしてみてください。
「社内で時短勤務をした例が少ないので、勤怠管理や給与計算でどのような対応が必要か理解できていない」とお悩みではありませんか?
当サイトでは、時短勤務の法的なルールから就業規則の整備、日々の勤怠管理や給与計算の方法まで、時短勤務の取り扱いについてまとめた「時短勤務のルールBOOK」を無料で配布しております。
「法律に則って時短勤務制度を運用したい」という方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 時短勤務として認められる勤務時間
そもそも、時短勤務とは育児・介護をしている従業員が仕事との両立ができるように、労働時間を短縮して働くことができる制度です。
労働基準法では1日の労働時間の上限を8時間としており、育児・介護休業法では原則6時間を時短勤務として認めています。ただし、原則6時間というのは、あくまで目安であり、企業によっては、より短い時間で勤務時間を設定することができます。本章では、労働基準法で定められた時短勤務の勤務時間について詳しく解説します。
1-1. 法律で時短勤務の明確な最低勤務時間の基準はない
時短勤務を希望する従業員の状況はそれぞれ異なり、なかには「5時間だけ働きたい」という従業員もいるかもしれません。
育児・介護休業法では時短勤務を原則として6時間(5時間45分から6時間まで)としていますが、何時間以上働かなければならないといった最低勤務時間の基準は設けられていません。「5時間だけ働きたい」という従業員の希望を受け入れるかどうかは、企業の判断になります。
また、従業員によっては「1時間だけ時短にしたい」という人もいるかもしれません。この場合も、企業の判断となりますので、1時間だけの時短勤務で7時間労働も可能です。30分単位で時短勤務の時間を決めることができるなど、自由な選択ができる規定を設けている企業もあります。
ただし、3歳未満の子を養育する従業員が5時間45分から6時間の時短勤務を希望した場合、企業は受け入れなければなりません。
1-2. 1日の労働時間が6時間未満の従業員が時短勤務を希望する場合
育児・介護休業法では、時短勤務は雇用形態にかかわらず適用されるものとしています。
ただ、時短勤務に該当する従業員の条件として「1日の労働時間が6時間以下ではない従業員」という要件があるため、1日の労働時間が6時間未満の従業員に時短勤務を希望したとしても、適用する義務はありません。
育児・介護休業法では、時短勤務は雇用形態にかかわらず適用されるものとしています。
ただ、時短勤務に該当する従業員の条件として「1日の労働時間が6時間以下ではない従業員」という要件があるため、1日の労働時間が6時間未満の従業員が時短勤務を希望したとしても、企業に適用する義務はありません。
ただし、従業員の事情を考えて、時短勤務を認めることには問題ありません。
1-3. 時短勤務の設定時間で注意すべきこと
前述のとおり、時短勤務の最低勤務時間は法律等で特に定められていないため、企業の判断次第で何時間にも設定することが可能ですが、その場合、注意すべきことがあります。
企業の判断で、時短勤務を認めた結果、週の労働時間が20時間未満になってしまった場合、社会保険の適用外になる可能性もあります。
健康保険や厚生年金保険の適用外となってしまった場合、企業側は手続きが必要です。
社会保険の適用外となった場合は、管轄の年金事務所に健康保険資格喪失証明書を提出して、国民健康保険に切り替えなければなりません。
社会保険に影響が出る可能性があることを理解したうえで、時短勤務の勤務時間設定をおこないましょう。
2. 時短勤務における休憩時間の取り扱いと注意点
時短勤務を導入するにあたって、休憩時間をどのように扱えばいいのか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。労働基準法では、1日の労働時間が6時間を超える場合は最低45分、8時間を超える場合は最低1時間の休憩時間を与えることを義務としています。
そのため、時短勤務で6時間勤務とする場合、休憩時間を設ける義務はありません。
ただし、従業員が気持ちよく働くために、休憩時間を設定する際は気をつけておきたいポイントがあります。
2-1. 勤務時間が6時間を超えるケースがあることを考慮する
時短勤務で6時間勤務となっていても、毎日確実に6時間で業務が終了するとは限りません。労働基準法に則ると、6時間を1分でも過ぎると45分の休憩を取らなければなりません。
そのため、確実に毎日6時間での確実な退勤を担保できないのであれば、休憩時間を設定しておいた方が良いでしょう。
2-2. 育児時間は休憩時間ではない
育児時間とは、1歳未満の子供を持つ女性の従業員に取得の権利がある、1日2回30分以上の育児のための時間のことを指します。
例えば事業所内に託児所があって利用している場合、業務中に育児時間として業務を離れることもあるでしょう。しかし、これは休憩時間には含まれません。そのため、1日8時間労働をして、1時間の休憩を取るべき従業員が30分の育児時間を取得したとしても、これとは別に1時間休憩を取らせなければいけないということです。
休憩時間は業務の途中に設定するのが原則となっているため、休憩時間を労働時間の最後に移動して早上がりをすることは不可能です。しかし、育児時間はいつ取っても良いので、労働時間の前後に取る形での、遅出・早上がりは認められています。
育児時間の給与について企業に支給義務はないため、育児時間を取得した場合に給与をその時間分減らすことには問題ありません。
2-3. 勤務時間とのバランスを考慮する
労働基準法で定められている休憩時間は最低時間が決まっているだけで、これよりも長い時間に設定しても問題はありません。
そのため、企業によっては最低の休憩時間よりも長い休憩時間を設定しているケースもあるでしょう。
しかし、6時間の時短勤務をしているのに、フルタイムの社員が1時間半の休憩を取るからといって、時短勤務の従業員にも同じ休憩時間を設定すると労働時間に対して休憩時間が長くなってしまいます。時短勤務の場合、勤務時間を考慮して、バランスのいい休憩時間を設定しましょう。
2-4. 休憩時間は自由の原則が大前提
休憩時間は事業主や上長の指揮命令下から離れて、自由に過ごして良い時間のことです。そのため、休憩時間に業務をさせたり、指示待ちをさせたりすることは認められていません。
時短勤務制度を利用している場合、「短い時間しか働かないのだから」と従業員が罪悪感を感じ、休憩時間を削って業務をしてしまうこともあります。休憩時間は自由の原則が大前提で、しっかり休憩できなければ意味がありません。休憩時間と勤務時間はしっかり区別するように企業側も意識して、休憩をきちんと取るように促すことが大切です。
3. 勤務時間を変更する方法
従業員が時短勤務を開始する際、何時間の時短勤務をするか決めてスタートすることになるはずです。
ただ、実際に時短で働き始めてから「7時間勤務を希望していたけれど、6時間勤務に変更したい」という要望が出てくることもあるでしょう。逆に6時間から7時間に勤務時間を増やしたいというケースもあるはずです。
時短勤務を利用している期間中に、時短勤務の変更をするにあたって、法律で明確な取り決めはありません。そのため、会社が認めるのであれば、時短勤務の変更をすることは可能です。
3-1. 就業規則で定めておく
時短勤務に関して規定を設ける場合、労使間で協議したうえで就業規則に定め、周知をおこないましょう。
時短勤務中に勤務時間の変更をおこなうことは違法ではありません。そのため、会社で従業員の要望を聞いたうえで自由に決めることができますが、決めた内容は就業規則にあらかじめ定めておく必要があります。就業規則に定めておらず、ある人の勤務時間変更には応じたのに、別の人には応じなかったとなると、従業員間で不公平だと感じてしまうでしょう。
就業規則には「1ヵ月前の申し出により勤務時間の変更が可能」「時短勤務利用中1回に限り変更が可能」などという変更に関する規定も定めておくことで、スムーズな運用につながるでしょう。
就業規則に記載する際の注意点や具体的な記載例が気になる方は、当サイトで無料配布している「時短勤務のルールブック」もご覧ください。資料では、時短勤務の基本から給与計算の方法、労務管理上で気を付けるべきことも解説しているため、法律に則った適切な時短勤務制度を運用したい方は、こちらのフォームから資料をダウンロードしてご活用ください。
3-2. フレックスタイム制を導入する
時短勤務を希望する従業員の状況は個人差があるうえ、育児・介護中となると予測できない出来事が起きて頻繁な勤務時間の変更を希望する人も出てくるかもしれません。ただ、その度に勤務時間の変更に応じるのは大変です。
頻繁な勤務時間の変更が予測される場合は、時短勤務ではなくフレックスタイム制を導入することもひとつの手段です。
フレックスタイム制は1~3ヵ月以内で所定の労働時間を決め、その時間を満たすのであれば自由に出勤・退勤時間が決められるという制度です。必ずオフィスにいなければならないコアタイムを設定することもでき、それ以外の時間であれば従業員の裁量で働くことができます。
時短勤務の導入は事業主に義務付けられていますが、フレックスタイム制を代替措置とすることも可能なので、時短勤務制度の運用が難しい場合はフレックスタイム制を導入すれば問題ありません。必要に応じて使い分けることで、頻繁な勤務時間の変更や規定上変更できないことによる混乱を避けられます。
4. 時短勤務の勤務時間は原則6時間だが、企業によって設定可能
育児・介護法では、時短勤務の勤務時間は原則6時間となっています。ただし、最低の勤務時間は定められていないため、最低時間を何時間にするかは企業側の判断となります。勤務時間を短くしすぎると社会保険の適用外となるなど、影響を与える場合があるため、その点も考慮したうえで時間を決めましょう。
また、6時間の時短勤務であれば休憩時間は必要ありませんが、1分でも過ぎると休憩が必要になるなど、休憩時間のことも考えたうえで、従業員が育児・介護などと両立できるような労働環境整備に努めましょう。
【監修者】小島 章彦(社会保険労務士)
「社内で時短勤務をした例が少ないので、勤怠管理や給与計算でどのような対応が必要か理解できていない」とお悩みではありませんか?
当サイトでは、時短勤務の法的なルールから就業規則の整備、日々の勤怠管理や給与計算の方法まで、時短勤務の取り扱いについてまとめた「時短勤務のルールBOOK」を無料で配布しております。
「法律に則って時短勤務制度を運用したい」という方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。