退職時の有給休暇申請に対して時季変更権は行使できる?強制力の有無を解説 |HR NOTE

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退職時の有給休暇申請に対して時季変更権は行使できる?強制力の有無を解説

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退職時に有給休暇の残日数をまとめて取られるケースが多々あります。退職時までに全く取得していなければ、1ヵ月近く有給消化されることもあり、業務の引き継ぎなどにも大きな支障を及ぼすことがあるでしょう。

事業の正常な運営に支障をきたすとして、時季変更権を行使する方法もありますが、退職者に行使するには注意が必要です。

本記事では、退職者に対しての時季変更権行使の可否やトラブル防止法について詳しく解説します。

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1. 退職日までに全ての年休を取得させるのが原則

有給休暇とは、条件を満たした労働者全員に認められている権利です。労働基準法第39条第1項、第5項により、使用者は労働者が請求する時期に有給休暇を与えなければならないとされています。

これは、退職日が決まっている従業員に対しても同様です。退職者が有給休暇の取得を申請してきた場合、会社側は申請に応じて取得させるのが原則です。

しかしながら、有給休暇を退職前に長期間取られるのは、業務の引き継ぎなどに支障がでることが考えられます。次に、有給休暇が最大で何日間取得できるのかについて紹介します。

1-1. 有給休暇は年間で最大で40日間取得することができる

有給休暇は、6ヵ月以上継続して勤務しており、6ヵ月間の全労働日80%以上勤務している正社員の場合10日間付与されます。その後は、以下の表のように、1年ごとに日数が加算されていき、6年6ヵ月後に20日間となります。

 

有給休暇には2年間の時効があるため、仮に前年で20日間全て未使用であれば、その年は40日間有給休暇を取得できることになります。

2. そもそも時季変更権とは

そもそも時季変更権とは、企業が従業員の有給休暇取得時季を変更できる権利です。ただ、原則として有給休暇を希望の時季に取得することは従業員の権利であるため、特段の理由がない限り、従業員が有給休暇を取得することに対して、会社側はこれを拒否することができません。

しかし、事業の正常な運営に支障がでるとみなされる場合に限り、従業員の有給休暇の時季を変更することができます。これを時季変更権といいます。

3. 退職時の有給休暇申請に対して時季変更権は行使できる?

仮に、退職者が退職の申し出をした日から有給休暇を40日間連続で取得されてしまっては、業務に大きな支障が出てしまう恐れもあります。

時季変更権は、有給休暇の取得時季の変更を前提に行使されなくてはいけません。このようなケースの場合、時季変更を申し出ても退職日が迫っているため、変更日が確保できません。

退職者の場合、退職日までの勤務日が限られているため、時季変更権を行使するのは実際のところ難しいでしょう。

4. 時季変更をしなければならなくなる理由

本来であれば、従業員に有給休暇を消化させ、円満に対処したいところです。しかし、場合によっては会社側にも退職者に対して時季変更権を行使せざるを得ない事情があります。次に、会社側が時季変更権を行使しなければならなくなる理由についてみていきましょう。

4-1. 繁忙期で業務に支障をきたす可能性がある

繁忙期に従業員から退職の申し出があった場合、代わりの要員がすぐに見つかれば良いですが、業務内容によっては退職されると非常に困るケースもあるでしょう。

しかし、このケースでは、会社側が時季変更権を行使しても認められない可能性が高いです。

時季変更権の行使に当たっては、事業の正常な運営に支障をきたすとみなされる事由が必要で、繁忙期だけを理由に行使するのは不当とされる可能性があります。権利を行使する前に、代替人員を調整するなど努力もしたという事実も必要です。

また、前述のように、時季変更権は有給休暇の取得日を変更するという趣旨の権利ですので、かわりに有給休暇を取得できる日がほとんど無いようであれば、行使することができない可能性が高いです。

4-2. 業務の引き継ぎが終わっていない

従業員が急に退職することが決まった場合、業務の引き継ぎがすぐにはできないケースがあります。業務を引き継ぎしないまま退職されてしまっては、後任者や部署、また会社にとっても大きな痛手となります。

この場合でも、時季変更権を行使されるケースがありますが、前述の繁忙期のケースと同様、有給休暇の取得日を変更できる日が無いようであれば難しいでしょう。

退職者と話し合いをし、引き継ぎのために退職日をずらしてもらえないか交渉をするしかありません。

4-3. 後任者が決まっていない

退職者が特別な役割や仕事に従事していた場合、後任者を探すのが難しいケースもあるでしょう。急に退職が決まった場合は、なおさらです。

後任者が決まるまで退職日を引き延ばしてもらうのがベターですが、会社側でそれを強制することはできません。また、退職者に対して時季変更権を行使するのも難しいため、有給休暇の取得を拒否することもできないでしょう。

この場合には、退職者に業務フローが分かるマニュアルを作成してもらうなど、後任者が決まってスムーズに移行できるような準備をしておくのが良いでしょう。

5. 退職時の有給休暇申請でのトラブル防止法

時季変更権が使えない場合、業務に支障がでないようトラブル回避するために、他にどんな方法があるでしょうか。ここでは、退職時の有給休暇申請でのトラブル防止法について紹介します。

5-1. 有給休暇の計画的付与を活用する

有給休暇の計画的付与とは、前もって有給休暇の所得日をきめておき、計画的に取得させる制度です。有給休暇の付与日数から5日を除いた日数が対象となります。

この制度を上手く活用することで、退職時にまとめて有給休暇を取得されるリスクを無くすことができます。

有給休暇の計画的付与を利用するにあたっては、労使協定の締結があれば有給休暇の計画的付与を可能とすることを就業規則へ明記し、労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で書面協定を結びましょう。

休暇の設定方法には、全社で一斉に休暇を取得する「一斉付与方式」、班やチーム別に交替で休暇を取得する「交替制付与方式」、取得計画に基づき個人ごとに取得する「個人別付与方式」の3方式があります。

計画的付与を利用することで、年5日の取得義務にも対応できるため、有給休暇の取得率が低い場合は導入を検討してみるとよいでしょう。

5-2. 就業規則に退職時の引き継ぎについて明記しておく

有給休暇を取得することは従業員の権利ではあるものの、業務の引き継ぎがなされないまま有給休暇を消化して退職されてしまっては、会社としても業務に大きな支障がでてしまいます。

これを回避するための手段として、あらかじめ就業規則に明記しておく方法があります。

「退職の日までに業務の引き継ぎを完了させ支障が無いようにする」といったように退職事項に業務の引き継ぎについて記載しておくことで、従業員の意識付けにも効果が期待できます。

5-3. 普段から有給休暇を取りやすい環境を整えておく

退職者が長期的に有給休暇をまとめて取得する要因のひとつとして、有給が取得しづらい職場環境にあることが考えられます。

このため、普段取得できなかった有給休暇を、やむを得ず退職時に取らざるを得ない状況になっている可能性があります。

退職時に長期間まとめて取得されるのを防止するという観点からも、普段から有給休暇を取りやすい職場環境に整備しておくことが重要です。

たとえば、業務の役割分担を見直しするとか、1人が休んでも他の従業員でカバーできる体制を整えるなど、有給休暇を取りやすい環境を作ることが必要でしょう。

6. 有給休暇の時季変更権は退職者に対して行使できない

時季変更権は、事業の正常な運営に支障ができる場合に行使できる権利ではありますが、退職者のように、有給休暇の取得日が限られているような場合は、時季変更権を事実上行使できないケースもあります。

繁忙期や業務の引き継ぎなど業務に支障が及ぶ場合、会社としても退職者に有給休暇を取得されると困るケースもあります。

そのようなことにならないためにも、企業は有給休暇の計画的付与や退職時の業務引き継ぎについて就業規則に定めるなどの方法によって、あらかじめトラブルを回避する対策を講じることが重要です。

改めて、有給休暇が計画的に取得できている状況であるかどうか、就業規則に問題がないかどうかなどを確認してみましょう。

【監修者】涌井 好文(社会保険労務士)

涌井社会保険労務士事務所代表。就職氷河期に大学を卒業し、非正規を経験したことで、労働者を取り巻く雇用環境に興味を持ち、社会保険労務士の資格を取得。 その後、平成26年に社会保険労務士として開業登録し、現在は従来の社会保険労務士の業務だけでなく、インターネット上でも活発に活動を行っている。
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