有給休暇で残業時間は相殺できる?ケース別に解説 |HR NOTE

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有給休暇で残業時間は相殺できる?ケース別に解説

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有給休暇と残業の関係については、しっかりと理解しておかなければなりません。両者を相殺できるケースとできないケースがあるからです。

半日単位や時間単位で有給休暇を取得した従業員が残業した場合など、相殺が可能となり割増賃金を支払う必要のないケースもあります。誤って賃金計算しないよう、有給休暇と残業の関係について正しく理解しましょう。

本記事では有給休暇と残業の関係や、残業が相殺されるケースなどについて詳しく解説します。

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1. 原則として有給休暇で残業時間を相殺することはできない

基本的には、有給休暇で残業時間を相殺することはできません。

労働基準法第36条第5項によって、36協定で設定できる残業時間の上限は、45時間までと決められています。

仮に月の残業時間が45時間を超えそうな従業員がいた場合、有給休暇を1日分与えて、1日相当の残業時間を相殺するのは違法となりますので注意が必要です。

そもそも、法律で定められた労働時間を超えて働いた分については、25%を上乗せした割増賃金で支払わなくてはならないとされています。にもかかわらず、所定賃金と同等の扱いとなる有給休暇で残業時間を相殺するのは、従業員が不利益を被ることになります。

2. 有給休暇と残業の関係

残業時間を有給休暇で相殺できるのかについて考える際は、有給休暇と残業、それぞれの意味を押さえておくとスムーズに理解することができます。

有給休暇とは、賃金が発生する休暇で、条件を満たした労働者全員に与えられる権利です。休暇をとっても所定賃金の支払対象となります。

ただし、有給休暇を取得した日は実労働時間にカウントしないことになっています。なぜなら、労働時間の定義は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」であるからです。自由に行動できる有給休暇は、実労働時間には含まれません。

一方の残業とは、会社の所定労働時間を超えて労働することを指します。残業には法定内残業と法定外残業があります。労働基準法第32条では「労働時間は1日8時間、週に40時間」とされており、これを超えた時間は全て法定外残業となります。
会社は、労働者に対して法定外残業をさせた場合には労働基準法第37条に基づき、使用者はその残業時間に対して25%上乗せした割増賃金を支払わなくてはなりません。

したがって、有給休暇をあたえて残業時間を相殺しようとすると、支払われるべき割増賃金が未払いになってしまうため、有給休暇をあたえて、かわりに残業時間を相殺することはできないのです。

1-1. フレックスタイム制の場合の残業時間

フレックスタイム制を採用している場合でも、清算期間内に法定労働時間の総枠を超えて働いた従業員に対しては、割増賃金を支払わなければなりません。たとえば、清算期間を1カ月と設定しているなら、その月の実労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合、割増賃金が発生します。

ただし、実労働時間のカウント方法については注意が必要です。前述の通り、基本的には有給休暇取得日は実労働時間に含まれません。しかし、フレックスタイム制において有給休暇を取得した場合には、実労働時間に労使協定で取り決めた標準となる1日の労働時間の時間数分を労働したものとして実労働時間に加えることとなります。

ここで分かりにくいのが、割増賃金の計算においては、実労働(実際の労働)が基礎なので有給休暇の取得によって労働したものとされた時間は対象外となります。

3. 有給休暇で残業時間が相殺されるケース

基本的には、有給休暇で残業時間を相殺することはできません。しかし、次のようなケースの場合は、「有給休暇は実労働時間とみなさない」という意味合いから、割増賃金が発生せず、残業時間と相殺できます。

3-1. 時間単位の有給休暇を取得した日に残業した場合

有給休暇は労使協定を締結すれば、時間単位での取得も可能です。
たとえば、1日の所定労働時間が8時~17時の会社において、2時間の時間単位の有給休暇を取得し、10時から出社したケースを考えてみましょう。その日、19時を超えて働いた場合、法定労働時間である8時間を超えた19時を超えて残業した時間が割増賃金の対象となります。

つまり、8時から10時(2時間分)の有給休暇を取得したため1日の実労働時間が法定時間(8時間以内)となり、本来なら17時から19時(2時間分)まで残業した分は割増賃金の対象となるところが相殺されて割増賃金が発生しないということになります。

3-2. 半日の有給休暇を取得した日に残業した場合

就業規則で定めれば、有給休暇を半日単位で取得することも可能です。

たとえば、1日の所定労働時間が8時~17時の会社で半日の有給休暇を取得し、12時から出社したケースを考えてみましょう。その日、21時を超えて働いた場合、法定労働時間である8時間を超えた21時以降の残業のみが割増賃金の対象となります。17時~21時までの4時間分は割増賃金の対象から外すことができます。

なぜなら、実際に労働した時間に半日の有給休暇分は含まれないからです。12時~21時から休憩時間を1時間を除いた8時間が労働時間となり、それを超えた分に割増賃金が発生します。そのため、このケースの場合では17時を超えて21時以前に退勤した場合は、割増賃金ではなく所定賃金のみ支払えば良いということになります。

ただし、21時から23時まで労働した場合は、労働時間が10時間となりますので、8時間を超える2時間分に関しては割増賃金を支払わなくてはいけません。また、22時から23時までの間は深夜労働に対する割増賃金を支給しなければならず、その加算率は25%と決められています。

つまり、時間外労働と深夜労働とを合わせた50%の割増賃金の支払いが生じるということです。

今回のケースでは、21時からの1時間に対し25%、22時からの1時間に対し50%の割増賃金を支払うことになります。

3-3. 有給休暇を取得した週の所定休日に出勤した場合

次に、有給休暇を月曜日に取得し、業務上の都合により所定休日(土曜日)に出勤した場合についてみていきましょう。
このケースで考えるべきなのは、「1週間の労働時間が40時間を超えているかどうか」ということです。
月曜日に有給休暇を取得し、火曜日~金曜日まで32時間労働して、所定休日である土曜日に8時間働いたとします。

この場合は、週の労働時間が40時間となり、法定労働時間は超えないので、所定休日に出社していたとしても割増賃金の支払いはありません。つまり、月曜の有給休暇と土曜の労働を相殺できるということです。

しかし、火曜から金曜までの間で残業をしていて40時間労働していた場合は、土曜日の出勤に割増賃金が25%発生します。
また、所定休日ではなく法定休日に出勤した場合は、先述とは扱いが異なります。法定休日に出勤した場合は、法律で35%の割増賃金を支払うことになっているため、有給休暇との相殺はできません。

3-4. 代替休暇制度を使う場合

代替休暇制度を活用すれば、残業の一部を有給の休暇(年次有給休暇を除く)で相殺することが可能です。

基本的に月60時間を超えて労働させる場合には50%以上の割増賃金を支払う必要があります。ここで代替休暇制度を使えば、25%の割増賃金のみを支払って、残りの25%分は有給の休暇(代替休暇といいます)を付与することで相殺できます。ただし、代替休暇制度を使うためには、事前に労使協定を結ばなければなりません。

4. 遅刻・早退と残業時間は相殺できる?

 

ここでは、遅刻・早退と残業時間の相殺について解説します。

4-1. 遅刻と残業の相殺

遅刻については、同日内であれば残業との相殺が可能です。たとえば、所定労働時間が10時から19時(休憩1時間)の会社において、2時間遅刻したケースを考えてみましょう。

この日に21時まで働いた場合、通常は19時から21時までの労働に対して割増賃金が発生しますが、2時間の遅刻があるため法定労働時間内に収まり、割増賃金は発生しません。つまり、2時間の遅刻と2時間の残業を相殺できるということです。

ただし、他の日の残業と相殺することはできません。他の日の残業に対しては、適切に割増賃金を支払う必要があるため注意しましょう。

4-2. 早退と残業の相殺

早退と残業を相殺することはできません。たとえば、所定労働時間が10?19時(休憩1時間)の会社において、2時間早退したケースを考えてみましょう。

仮に次の日に2時間の残業をおこなったとしても、前日の2時間の早退と相殺することはできません。次の日の残業に対しては、割増賃金が発生するため注意しなければなりません。

5. 有給休暇で残業時間が相殺されるケースは限られている

有給休暇で残業時間が相殺されるのは、「半日年休を取った日の残業」や「有給休暇を取得した週の所定休日の残業」など、結果的に1日の法定労働時間や週の法定労働時間内におさまることになった場合となります。

このようなケースでの残業は、割増賃金を支払う必要がない場合もありますので、賃金計算時には注意が必要です。

基本的には有給休暇は通常の賃金の対象であり、法定労働時間を超える残業時間は割増賃金の対象となるため、賃金形態の異なるもの同士で相殺することはできません。

そのため、単純に月の残業時間の一部を、有給休暇を付与するなどして相殺することはできません。また、有給休暇を取得したことによって1日や週の法定労働時間を超えなかったため割増賃金が発生しなくなっているということで、結果的に相殺と同じ効果をもたらしているのです。

従業員の健康増進を図るうえでも、残業と有給休暇は正しく管理しましょう。

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