年末調整の手続きを電子化して効率化を図るため、国税庁は無料で年調ソフト(年末調整控除申告書作成用ソフトウェア)を提供しています。年末調整ソフトにはいくつかの種類があり、自社のニーズにあったものを導入することが大切です。本記事では、年末調整ソフトを導入するメリットやデメリット・注意点、年末調整ソフトの種類・選び方をわかりやすく解説します。
目次
1.年末調整ソフトとは?
年末調整ソフトとは、年末調整業務を効率化させるための機能を備えた計算ソフトのことです。年末調整ソフトを使うと、下記のような作業を自動化して、業務を効率化することができます。
- 必要書類の配布と回収
- 従業員の申告書作成
- 年末調整の計算
- 源泉徴収や法定調書の作成と提出
ただし、年末調整ソフトには目的に応じてさまざまな種類があり、料金や使い方などが異なります。ここでは、国税庁の無料の年末調整ソフトを例に、年末調整ソフトとはどのようなシステムなのかを紹介します。
1-1.国税庁の無料の年末調整ソフトとは
国税庁は年末調整ソフト「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」を提供しています。(※1)年調ソフトは無料で利用することが可能です。
年調ソフトを活用すれば、従業員は年末調整に必要な各種控除申告書をインターネット上で簡単に作成することができます。また、控除額の計算や扶養親族等の年齢判定などを自動化して、作業を効率化することが可能です。
年調ソフトは国税庁のホームページよりダウンロードすることができます。PCやスマホにインストールすることで、使用することが可能です。年末調整ソフトで作成した書類は、社内のルールに従って勤務先に提出しましょう。
このように、国税庁の年調ソフトだけでは、すべての年末調整業務をシステム化することができません。そのため、既存システムに年調ソフトの機能を拡張したり、民間の年末調整ソフトを導入したりするなど、自社のニーズにあった年末調整ソフトを導入することが大切です。
(※1)国税庁:年末調整手続の電子化について ~年調ソフト編~
2.年末調整ソフトを利用するメリット:企業側
年末調整ソフトを利用すると、従業員と企業の双方がメリットを得られます。ここでは、企業側の年末調整ソフトを利用するメリットについて詳しく紹介します。
2-1.年末調整業務の効率化
年末調整ソフトを利用しない場合、帳票作成や控除判定、控除額の計算などを手作業でおこなわなければならず、年末調整の手続きに時間や手間がかかります。また、申告書に修正・訂正が必要な場合、対象者に直接差し戻しをおこなわなければならず、人事労務担当者の業務負担につながります。
年末調整ソフトを活用すれば、面倒な計算や書類作成を自動化して業務を効率化することが可能です。また、システム上で差し戻しもできるので、修正・訂正もスムーズにおこなうことができます。
2-2.ヒューマンエラーの防止
年末調整業務を手作業でおこなう場合、年末調整ソフトを活用する場合と比べて、申告書の書き間違いや控除額の計算ミスなどが発生しやすいです。
年末調整ソフトを活用すれば、システムが人の代わりに計算をおこなうため、ミスを減らすことができます。また、端数処理などの複雑な計算も任せることが可能です。ベンダーによって自動アップデートされる年末調整ソフトを導入すれば、法改正にも随時対応できるため、ヒューマンエラーを防止し、安心して年末調整業務をおこなうことができます。
2-3.ペーパーレス化の推進
年末調整では発行する書類が多く、大きな保管スペースが必要になります。また、後から必要書類を見つけ出そうとしても、時間や手間がかかることも少なくありません。
年末調整ソフトを導入して手続きを電子化すれば、データのまま書類を提出・保管することができるようになります。また、紙での回収が不要になることから、オフィスの省スペース化を実現して、ペーパーレス化を推進することができます。
3.年末調整ソフトを利用するメリット:従業員側
ここでは、従業員側の年末調整ソフトを利用するメリットについて詳しく紹介します。
3-1.各種控除の申請がしやすくなる
年末調整の各申告書は聞き慣れない言葉が多く、どこに何を記入すればよいかわかりにくいと感じている従業員は少なくありません。
年末調整ソフトを導入すれば、従業員は簡単な質問に答えるだけで各種控除申請の書類を作成することができます。また、マイナポータル連携をおこなえば、控除証明書を一括取得できるため、添付書類の用意も簡単です。(※2)このように、年末調整の各種控除の申請がしやすくなることで、従業員の年末調整の負担を軽減することができます。
(※2)国税庁:マイナポータル連携特設ページ(マイナンバーカードを活用した控除証明書等の自動入力)
3-2.時間や場所を問わず手続きができる
紙媒体の書類で年末調整の手続きをおこなう場合、セキュリティの観点からオフィスでないと手続きができないこともあるかもしれません。また、人事労務担当者がいない場合、書類を提出できず、年末調整の手続きに時間や手間がかかり、従業員は本来の業務に集中できない恐れがあります。
年末調整ソフトを導入すれば、インターネット環境を活用して時間や場所を問わず年末調整の手続きができるようになります。また、人事労務担当者がオフィスにいない場合でも、オンライン上で年末調整の書類を提出できるので、スムーズに手続きを進めることが可能です。
4.年末調整ソフトを導入する際のデメリット・注意点
ここでは、年末調整ソフトを導入する際のデメリットや注意点について詳しく紹介します。
4-1.導入コストがかかる
年末調整ソフトを導入するには、端末やネット環境の整備費用や、ソフトの購入・運用費用などの導入コストがかかります。年末調整の業務を効率化できたとしても、導入コストが大きいと、費用対効果が小さくなってしまいます。導入コストが気になる場合は、国税庁の年調ソフトのように、無料で提供されている年末調整ソフトを利用してみるのも一つの手です。
4-2.社内に定着するまでに時間がかかる
年末調整ソフトは使いこなせるまでに時間がかかる場合もあります。そのため、使い始めはなかなかメリットを感じられないこともあるかもしれません。
年末調整ソフトを社内に定着させるには、従業員の協力が不可欠です。年末調整ソフトの操作マニュアルを用意したり、社内に年末調整に関する問い合わせ窓口を整備したりするなど、従業員へのサポート・フォロー体制を強化しておくことで、従業員はスムーズに手続きができます。
5.年末調整ソフトの種類
ここでは、年末調整ソフトの種類について紹介します。自社の目的にあったタイプの年末調整ソフトを選定することが大切です。
5-1.年末調整に特化したタイプ
年末調整に特化したタイプとは、提出状況の管理や従業員への通知などの機能が搭載されており、年末調整業務を効率化させるために特化したシステム・ソフトです。また、給与計算システムや労務管理システムなどの既存システムと連携させれば、データの入力・出力の手間を削減し、生産性を向上させることができます。
5-2.給与計算システムを活用するタイプ
給与計算システムを活用するタイプでは、給与計算システムのなかに年末調整機能が含まれています。なお、給与計算システムとは、給与・賞与の算出や各種手当・保険料の計算などを自動化・効率化できるシステムを指します。給与計算システムの年末調整機能を活用することで、給与の計算から源泉徴収票の作成・発行までワンストップで業務をおこなうことが可能です。
5-3.労務管理システムを活用するタイプ
労務管理システムを活用するタイプでは、給与計算システムを活用するタイプのように、労務管理システムのなかに年末調整機能が含まれています。なお、労務管理システムとは、労働時間の管理や社会保険への加入手続きなどの労務に関する業務を効率化するためのシステムを指します。労務管理システムの年末調整機能を活用することで、従業員の個人情報や勤怠状況などを管理しながら、システム上で年末調整業務をおこなうことが可能です。
6.年末調整ソフトの選び方のポイント
ここでは、年末調整ソフトの選び方のポイントについて詳しく紹介します。
6-1.年末調整ソフトに必要な機能を明確化する
年末調整ソフトには、先述したように、年末調整に特化したタイプや、給与計算システム・労務管理システムを活用するタイプなど、さまざまな種類があります。機能が多いほうが便利にみえるかもしれませんが、コストの負担が大きくなったり、操作が難しくなったりする可能性もあります。
そのため、必要な機能のみ搭載された年末調整ソフトを導入するのがおすすめです。まずは自社の年末調整業務の課題を洗い出し、年末調整ソフトに必要な機能を明確にしましょう。
6-2.従業員のITリテラシーを考慮する
年末調整ソフトを社内に定着させるには、従業員にとって使いやすいシステムかどうかが重要です。年末調整ソフトを選ぶ際は、従業員のITリテラシーを考慮し、操作しやすいシステムを導入することが大切です。また、サポート体制に強みのある年末調整ソフトを選べば、安心して導入・運用することができます。
6-3.クラウド型とオンプレミス型のどちらが適しているか
年末調整ソフトの導入形態には、主にクラウド型とオンプレミス型があります。クラウド型の場合、インターネット環境を利用して既に構築されているシステムを使用するため、導入コストがあまりかかりません。一方、ソフトウェアのアップデート・メンテナンスのために、一定の運用コストがかかります。
オンプレミス型の場合、自社のサーバーにシステムを構築して利用するため、初期コストが大きくかかります。一方でオリジナルの機能を搭載したり、セキュリティを強化したりできるなど、カスタマイズ性の高さが特徴です。
このように、クラウド型とオンプレミス型にはそれぞれメリット・デメリットがあるので、自社のニーズにあわせて導入形態を決めたうえで、導入するソフトを選定しましょう。
6-4.既存システムとの連携性に優れているか
年末調整ソフトを導入する際は、既存システムと連携できるかどうかが重要です。年末調整ソフトと既存の給与計算システムや労務管理システムが連携できれば、データの入出力の手間を削減し、業務を効率化することができます。また、外部サービス連携機能により既存システムの機能を利用することで、年末調整ソフトに必要な機能が少なくなるので、導入コストを大きく減らせるかもしれません。
6-5.無料トライアル期間が用意されているか
年末調整ソフトを導入するには、コストがかかります。初期費用が大きいと、思うようなコストパフォーマンスが得られない場合を懸念して、導入に踏み切れないこともあるかもしれません。
コストに不安がある場合、無料トライアル期間が用意されているシステムを導入してみるのも一つの手です。年末調整ソフトの使用感を無料トライアル期間で確認することで、コストの不安を取り除き、安心して年末調整ソフトの導入を進めることができます。
7.年末調整ソフトで業務を効率化しよう
年末調整に関するあらゆる業務を電子化できる年末調整ソフトは、従業員にも企業にも多くのメリットをもたらしてくれます。従来の紙ベースでの手続きに課題を感じていた企業は、ぜひ年末調整ソフトの導入を検討してみてください。
年末調整ソフトにはさまざまなものがあり、機能も大きく異なります。複数のソフトを比較して、自社に合ったものを見極めることが大切です。