年末調整は、一年の給与に対する所得税額(復興特別所得税を含む)を確定するための重要な手続きです。また、年末調整では、さまざまな控除を受けることもできます。そのため、自分で正しい情報を収集することも大切です。 当記事では、年末調整は自分でできるのかどうかや、年末調整と確定申告の違いについてわかりやすく解説します。
目次
1.年末調整は自分ではできない!自分でできるのは確定申告
年末調整は、給与の支払者である雇用主が実施するものであり、自分だけで実施することはできません。
また、所得税法により、年末調整は雇用主の義務とされており、適切に年末調整を実施しないと、罰則が課されることもあります。(※1)
そのため、従業員を雇用している企業は、年末調整の対象となる人がいる限り、原則として年末調整をおこなわなければなりません。
ただし、従業員によっては、年末調整の対象外のケースに該当し、自分で確定申告をおこなわなければならないこともあります。確定申告の場合は、自分で確定申告書を作成して、所轄の税務署に提出をおこないます。
このように、年末調整は自分で実施できませんが、確定申告は自分で実施することが可能です。
(※1)所得税法|e-Gov
2.そもそも年末調整とは?いつまでに対応が必要?
年末調整とは、毎月(毎日)の給与や賞与などを支払うときに源泉徴収をおこなった税額の合計と、本来納めるべき年税額を比べて、その差額を年末に精算する手続きのことです。
所得税の源泉徴収は、年間を通して毎月の給与が変動しないように作成された源泉徴収税額表をもとに実施されます。また、年の中途で控除対象扶養親族の人数が増減したり、年末調整時に控除を適用したりするため、納税額の過不足が生じ、年末調整で精算する必要があります。
そして、年末調整をおこなうことで、多くの従業員は納税額が確定するので、自分で確定申告をする必要がなくなり、従業員の負担を軽減できます。
年末調整書類の最終提出期限は1月31日が最終締め切りとなっています。そのため、企業では従業員から必要な書類の回収、所得税の納付、源泉徴収票の配布、そして所轄の税務署への年末調整関連書類の提出を1月31日までに全て完結させる必要があります。
3.年末調整と確定申告の違い
年末調整と確定申告は、両者ともに納税に関する手続きという共通点があります。
ただし、年末調整は「先払い」した所得税を勤務先を介して年末に精算する仕組みです。年末調整はその年の年末に申告書などを提出して手続きをおこないます。
一方、確定申告は年間の収入金額や所得金額、各種控除などを自分で税務署に申告して所得税を「後払い」する仕組みです。確定申告はその年の翌年の2月16日から3月15日までが期限となっています。
このように、確定申告のほうが年末調整よりも期限が遅いので、年末調整を忘れたとしても確定申告で対応することが可能です。なお、会社員でも年末調整の対象外に該当する場合もあり自分で確定申告をおこなわければならないケースがあります。
また、年末調整ではなく、確定申告でないと適用できない控除もあり、年末調整で対応できないために確定申告が必要になるケースもあります。
3-1.確定申告のやり方
確定申告をおこなう場合には、その年の1月1日から12月31日までの収入を正しく把握して、年間の所得金額を計算しましょう。また、自分が該当する控除を計算して、確定申告書に記載します。控除を適用する場合には、証拠となる書類を用意しなければならないこともあります。
確定申告書の作成方法には、下記のようにさまざまなやり方があり、自分にあった方法を採用するのがおすすめです。
- 手書きでおこなう
- 確定申告書等作成コーナー(国税庁が提供)を利用する
- 確定申告に対応した会計ソフトを利用する
確定申告書の作成が完了したら、各種提出物を持参して、所轄の税務署に提出をおこないましょう。
4.自分で確定申告をする必要があるケース
ここでは、自分で確定申告をしなければならない(したほうがよい)ケースについて詳しく紹介します。
4-1.会社での年末調整が間に合わなかった場合
会社の年末調整が期限(翌年の1月31日)までに間に合わなかった場合は、自分で確定申告をしなければなりません。
たとえば、転職者で前職の源泉徴収票の提出が年末調整の期限までに間に合わなかった場合などが挙げられます。年末調整よりも確定申告のほうが、手続きの負担が大きいので、早めに必要書類を集めて、年末調整で課税関係を済ませられるようにしましょう。
4-2.年末調整の提出を忘れた場合
年末調整の締め切り期限をうっかり過ぎてしまった場合などには、個人で確定申告をおこなわなければなりません。
ただし、1月31日の年末調整の最終締め切り以前で、かつ、源泉徴収票が発行されるよりも前であれば、年末調整で対応できる可能性もあるので、勤務先に相談してみることを推奨します。
4-3.年末調整の書類にミスが見つかった場合
年末調整の必要書類を提出したけれど、後で書類にミスが見つかった場合には、確定申告で修正や訂正ができます。なお、先述したように、年末調整の申請後に確定申告をおこなった場合には、年末調整よりも後に提出される確定申告の記入内容で税務処理がおこなわれるため、両方提出しても問題はありません。
また、年末調整の期限内であれば、年末調整提出後にミスや申請内容の変更が発覚した場合でも、社内で再提出の手続きをおこなえる可能性があります。
4-4.年末調整で受けられない控除を申告したい場合
確定申告では、年末調整で受けられない控除を申告できるため、確定申告をしたほうがよいケースもあります。年末調整で受けられない控除は、下記の通りです。
- 医療費控除
- 寄付金控除
- 雑損控除
- 住宅ローン控除(1年目)
なお、ふるさと納税は、寄付金控除に該当しますが、ワンストップ特例制度を利用すれば、確定申告は不要です。また、住宅ローン控除の2年目以降は、年末調整で対応することが可能です。
4-5.ふるさと納税のワンストップ特例制度が利用できない場合
ふるさと納税のワンストップ特例制度とは、1年間の寄付先が5自治体までであれば、確定申告が不要で、ふるさと納税の寄付金控除を受けられる制度のことです。
ワンストップ特例制度を利用する場合、寄付した翌年の1月10日までに申請書が寄付先の自治体に必着という条件があり、間に合わない場合には、自分で確定申告をする必要があります。なお、確定申告をおこなう場合は、ワンストップ特例制度による申請は無効となります。
このように、1年間の寄付先が5自治体を超える場合や、期限内に申請書が寄付先の自治体に到着しない場合は、確定申告をおこなうことで、ふるさと納税の寄付金控除を受けられます。
4-6.年収が2000万円を超える場合
1年間の主たる給与収入が2,000万円を超える場合は、年末調整の対象外に該当するため、自分で確定申告をおこなう必要があります。
会社に勤めていたとしても、配偶者控除や扶養控除、小規模企業共済等掛金控除などの控除を自分で確認して申告しなければなりません。
そのため、これまでに確定申告をおこなった経験のない方は、手続きに負担がかかる可能性もあるため注意が必要です。
4-7.副業やアルバイトの掛け持ちなど収入源が複数ある場合
副業をしている、アルバイトを掛け持ちしているといった理由で2カ所以上から給与の支払いを受けている方は、合算して所得税を計算し、正しく納税するために確定申告をおこなわければなりません。
2カ所以上の会社から給与をもらっている場合には、「主たる給与」と「従たる給与」のどちらにあたるかを確認することが大切です。なお「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出できるのは、1社のみと定められているため、「主たる給与」をもらっている会社で年末調整をおこないます。
給与所得以外に所得がなく「従たる給与」が年間で20万円以下の場合、確定申告を実施する必要はありません。
4-8.年の途中に退職してその年に再就職していない場合
年の途中で退職してその年に再就職しない場合には、確定申告をおこなったほうがよいケースもあります。
たとえば、退職した会社で毎月(毎日)源泉徴収されていた所得税の合計が、本来納めるべき年税額より大きいという可能性があります。
この場合は、確定申告をおこなうことで、納め過ぎた所得税の還付を受けることが可能です。そのため、確定申告を実施するために、退職した後は、きちんと源泉徴収票を保管しておくことが重要といえます。
4-9.災害減免法の規定により源泉徴収の猶予または還付を受けた場合
災害減免法の規定により源泉徴収の猶予または還付を受けた場合は、年末調整を受ける必要がありません。ただし、災害減免法の適用を受けるには、下記の条件をすべて満たしている必要があります。(※2)
- 災害による住宅や家財の損害金額がその時価の2分の1以上であること
- 災害の被害を受けた年の合計所得金額が1,000万円以下であること
- 雑損控除を適用していないこと
なお、災害減免法を適用するには、自分で確定申告しなければなりません。そのときに、被害の状況や損害金額を確定申告書に記載する必要もあります。
(※2)No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除|国税庁
5.年末調整を受けるために自分で準備すべき書類
ここでは、年末調整のときに、自分で用意すべき書類について詳しく紹介します。
5-1.扶養控除等(異動)申告書
年末調整を受けるには「扶養控除等(異動)申告書」を提出する必要があります。「扶養控除等(異動)申告書」は「扶養控除」「障害者控除」などの控除を受けるために大切な書類です。なお、「扶養控除等(異動)申告書」は下記のように、他の必要書類と提出期限が異なるので注意が必要です。
その年の最初に給与の支払を受ける日の前日(中途就職の場合には、就職後最初の給与の支払を受ける日の前日)までに提出してください
5-2.基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得⾦額調整控除申告書
「基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得⾦額調整控除申告書」は、「基礎控除」「配偶者(特別)控除」などの控除を正しく受けるために必要な書類です。
配偶者の所得金額を記載する必要があるなど、手続きが難しく感じる場合もあります。その場合には早めに勤務先や専門家に相談するようにしましょう。
5-3.保険料控除申告書
年末調整では、「生命保険料控除」や「地震保険料控除」などの各種保険料控除を受けられます。ただし、各種保険料控除を受けるには、保険料控除申告書と各種証明書類を自分で用意する必要があります。
年末調整の手続きのときには、保険会社から送付される控除証明書をもとに、保険料控除申告書に記載して、控除証明書とともに勤務先に提出します。
5-4.住宅借⼊⾦等特別控除申告書
住宅借⼊⾦等特別控除(住宅ローン控除)を受けるには、1年目は自分で確定申告をする必要があります。2年目以降は、年末調整で控除を受けられます。
年末調整で住宅ローン控除を受けるには、住宅借⼊⾦等特別控除申告書と、住宅借入金等特別控除証明書を自分で用意して、勤務先に提出する必要があります。
5-5.前職の源泉徴収票
年の途中で転職した場合、転職先で年末調整をおこなうには、前職の源泉徴収票が必要です。そのため、前職の源泉徴収票を受け取ったら、きちんと保管しておくことが大切です。
また、前職の源泉徴収票が年末調整の期限までに送付されない場合には、自分で確定申告する必要があります。とくに、年末に転職した場合は、必要な書類が揃わず、年末調整を受けられない可能性もあります。
6.確定申告をおこなうために自分で準備すべき書類
ここでは、確定申告をおこなうために自分で準備すべき書類について詳しく紹介します。確定申告を実施する人によって、必要書類は異なるので、国税庁のサイトを確認したり、税務署に相談したりしてみるのもおすすめです。
6-1.全ての人に共通して用意すべき書類
確定申告をおこなう全ての人に共通して用意すべき書類は、下記の通りです。
- 確定申告書
- 収支内訳書(一定の所得がある場合のみ)
- 本人確認書類(マイナンバーカードなど)
- 銀行の口座番号(還付金を受け取る場合)
- 所得を証明するもの(源泉徴収票や請求書・領収書など)
- 控除を証明するもの
所得や控除を証明するための書類は、確定申告を受ける人の状況によって異なります。制度の改正により、ほとんどの書類は添付が不要になったため、確定申告書を正しく記載できるように書類を集めることが大切です。
また、税務調査時に証拠書類として提示するためにも、帳簿や控除証明書などはきちんと管理しておくことが大切です。
6-2.年末調整で受けられない控除を適用するための必要書類
年末調整で受けられない控除を適用するために必要な書類は、主に下記の通りです。
寄付金控除 |
・寄付金受領証明書 |
医療費控除 |
・医療費控除の明細書 |
雑損控除 |
・災害などに関連したやむを得ない支出の金額を受け取ったことを証明するための書類 ・保険金の補填額を把握できる書類(対象者のみ) |
住宅ローン控除 |
・登記事項証明書 ・不動産売買契約書(請負契約書)の写し ・住宅ローンの年末残高等証明書 ・住宅借入金等特別控除額の計算明細書 ・補助金を受け取ったことを証明するための書類(対象者のみ) ・住宅取得等資金額を証明するための書類の写し(対象者のみ) |
これらの控除を受けるには、確定申告書を正しく作成するために、さまざまな書類が必要になるので、早めに書類の作成・取得をおこなうようにしましょう。
7.年末調整を正しく理解して、適切な申告をおこなおう!
年末調整は雇用主の義務であり、自分で実施することができません。ただし、確定申告は自分でおこなうことができます。その場合は、自分で収入金額や所得金額、各種控除を計算して、所轄の税務署に申告書を提出する必要があります。
また、会社の年末調整が間に合わない場合や、年収が2,000万円を超える場合などは、確定申告をおこなわければなりません。また、医療費控除や寄付金控除を受けたい場合などは、確定申告を実施したほうがよいケースもあります。
年末調整と確定申告に関する正しい知識を身に付けて、適切な申告をできるようにすることが大切です。