年末調整は、雇用主の義務であり、年末にかけて業務が増加します。そのため、人事労務担当者は、年末調整の業務に時間を取られ、本来の業務に集中できない恐れもあるでしょう。そこで、外部委託することで、業務を代行してもらえる年末調整のアウトソーシングが注目されています。 当記事では、年末調整アウトソーシングの業務委託とはどういったものかについてメリットや注意点をまとめて解説します。
目次
1.年末調整のアウトソーシングとは
年末調整のアウトソーシングとは、会社が従業員の年末調整に関する一連の事務を業務委託できる代行サービスのことです。なお、外注先によっては、年末調整業務の一部だけでも外部委託できます。
年末調整のアウトソーシングサービスを利用すれば、下記のような業務を代行してもらうことが可能です。
- 年末調整に関する書類の印刷や発送にかかる資材の確保
- 従業員への申告書の配布から回収・督促・チェックまで
- 従業員から年末調整に関する問い合わせ対応
- 年末調整の控除データ作成
- 年税額の計算および12月の給与への過不足税額転記
- 源泉徴収票の発行
- 法定調書合計表や給与支払報告書の作成・発送
手間のかかる面倒な作業を代行してもらえるため、年末の忙しい時期の業務を効率化できるでしょう。
2.年末調整とは
そもそも年末調整とは、給与の支払いを受ける従業員について、毎月(毎日)の給料や賞与などから源泉徴収をした税額の合計と、その年に納めなければならない年税額を比較して、その差額を精算する手続きのことです。
基本的に、企業に勤めて給与所得を受け取っている従業員は、勤務先の年末調整により、その年の所得税(復興特別所得税を含む)の納税が完了するため、自分で確定申告をおこなう必要はありません。企業には従業員に対して年末調整を実施する義務があり、年末調整は適切な所得税額の納付のために必要な業務の一つといえます。年末調整をしっかりと実施しないと、労使間のトラブルにつながる可能性もあるため注意しましょう。
3.年末調整の代行は違法ではない?
年末調整の代行自体は違法にはなりません。ただし、2016年に全国社会保険労務士会連合会と日本税理士会連合会の間で、税理士または税理士法人の付随業務の範囲について、下記の内容を含む覚書が取り交わされました。
年末調整に関する事務は、税理士法第2条第1項に規定する業務に該当し、社会保険労務士が当該業務を行うことは税理士法第52条(税理士業務の制限)に違反する
このように、年末調整に関する事務は、税理士の占有業務であるとされ、社会保険労務士(社労士)が業務をおこなうのは、税理士法の違反になります。そのため、年末調整をアウトソーシングする場合には、税理士のいる外注先に依頼する必要があります。
4.年末調整アウトソーシングで外注できる内容
年末調整アウトソーシングで外注できる内容はさまざまですが、ここでは主な内容について紹介します。
4-1.申請書の配布や回収
申請書の配布や回収は、年末調整のアウトソーシングで依頼できる作業のひとつです。年末調整で必要となる各種の申請書を従業員へ配送し、生命保険の控除証明書などと一緒に回収してくれます。必要な書類を把握したうえで配布や回収をおこなってくれるため、配布ミスや回収漏れを防止できるでしょう。
4-2.申請書のチェックや修正
年末調整のアウトソーシングサービスを利用すれば、年末調整に必要な申請書類のチェックや修正を代行してもらうことができます。
たとえば、年末調整では、従業員は主に「扶養控除等(異動)申告書」「保険料控除申告書」「基礎控除申告書」「配偶者控除等申告書」「所得金額調整控除申告書」を勤務先に提出しなければなりません。
アウトソーシング先には、専門のスタッフが在籍していることが多く、申請書の内容を確認して、修正・訂正箇所がある場合には、連絡してもらえます。そのため、安心して外注をおこない、スムーズに年末調整の手続きを進めることが可能です。
4-3.年調データの作成
年末調整では、従業員の提出書類を確認後、さまざまなデータを作成して、税務署や市区町村に提出する書類を作成する必要があります。
年末調整のアウトソーシングサービスを利用すれば、従業員ごとの所得税控除額など、年調データの作成を代行してもらうことが可能です。そのため、年末調整に必要な書類の作成が期限までに間に合わないといったトラブルを未然に防ぐことができます。
4-4.ファイリングやデータ加工
ファイリングやデータ加工の業務をアウトソーシングすることも可能です。回収した書類を種類ごとにまとめたり、データを整理したりしてくれます。データの加工については、各種のシステムにすぐにアップロードできる形式に整えてもらえます。事前に、どのように分類してもらうか、どのように加工してもらうかを具体的に伝えておくとよいでしょう。
5.年末調整アウトソーシングの料金相場
年末調整のアウトソーシングには、ある程度の料金相場が決まっています。料金相場を適切に把握することで、自社の予算にあった外注先を選ぶことができます。
なお、年末調整アウトソーシングサービスの料金体系は、基本料金と従業員一人あたりの料金を合計した額になることが多いです。なかには、基本料金が無料であるサービスもあります。
基本料金は1~3万円、従業員一人あたりの料金は1,000円~3,000円が料金相場の目安です。ただし、あくまでも目安であり、外注先によって、さまざまな料金体系を用意しているため、ホームページを確認したり、実際に問い合わせをおこなったりして、正しい料金を把握するのがおすすめです。
6.年末調整アウトソーシングのメリット
ここでは、年末調整アウトソーシングのメリットについて詳しく紹介します。
6-1.年末調整業務の負担を軽減することができる
年末調整の業務は、年末にかけて忙しくなります。また、12月には給与だけではなく、賞与を支給する企業も多いため、人事労務担当者の業務負担が大きくなるという恐れがあります。
そこで、年末調整のアウトソーシングサービスを利用すれば、年末調整の業務を外部委託できるため、年末調整に関する業務負担を軽減することが可能です。年末調整の業務負担が軽減されれば、本来リソースを割くべき業務に集中して取り組むことができます。
このように、年末調整アウトソーシングは、人事労務担当者の年末調整業務の負担を軽減して、ほかの重要度の高い業務に手を回せるというメリットがあります。
6-2.従業員がミスなく申請できる
年末調整は従業員側にとっても負担が大きい作業です。各従業員で提出するべき書類や記載すべき項目が異なるため、ミスや提出漏れがしばしば発生します。
年末調整のアウトソーシングサービスの中には、従業員がアンケート形式で回答することで、自動で書類を作成できたり、必要書類を明示してくれるものもあります。
また、書類の提出も写真を撮影したり、書類データを読み込んだりするだけで書類の回収が済むサービスもあり、添付書類を会社まで持って行って提出する手間を省けるサービスもあるため、リモートワークの従業員が多い企業や拠点が複数あり取りまとめるのが難しい企業にとっては書類の回収がスムーズにおこなえる点もメリットになるといえます。
6-3.コストを削減できる
年末調整の時期は、通常の業務や12月の賞与の計算に加えて、従業員からの申請書の確認や年税額の計算、税務署や市区町村に提出する書類の作成といった、多くの業務が集中します。
そのため、残業や休日出勤が多く発生したり、追加で人員を雇う必要があったりするなど、人件費が大きくなるという可能性もあるでしょう。
そこで、年末調整のアウトソーシングサービスを利用すれば、年末調整の業務を外注できるため、人件費などのコストの削減が期待できます。
6-4.法令改正に簡単に対応できる
法令改正に対応できることも、年末調整アウトソーシングを利用する大きなメリットです。税率などが改正されると、変更内容を把握したうえで、正しく計算しなければなりません。しかし、たびたび改正される内容を把握しきれず、間違いが発生してしまう可能性もあるでしょう。
年末調整アウトソーシングを利用すれば、専門のスタッフが最新の法律に従って正しく計算してくれます。知らないうちに法律違反をしてしまうというトラブルを防止し、コンプライアンスを強化できるでしょう。
7.年末調整アウトソーシングの注意点
ここでは、年末調整アウトソーシングの注意点について詳しく紹介します。
7-1.税理士法の違反にならないように注意が必要
年末調整の業務は、税理士のみが代行できるため、社労士に依頼するなど、税理士法に違反しないように注意する必要があります。
また、年末調整のアウトソーシングサービスを利用するにあたって、貴重な従業員の情報を提供するため、契約内容や業務範囲、サービス内容、税理士のこれまでの実績などをきちんと確認することが大切です。
7-2.自社に合う料金プランのものを選定しよう
近年では、さまざまな年末調整のアウトソーシングサービスがあります。そこで、アウトソーシングサービスを利用するにあたって、自社の予算を明確にすることが大切です。予算がわかれば、それにあった外注先を探すことができます。
また、外部委託する目的を明確にすることも重要です。たとえば、コストの削減を目的にする場合に、料金の高いサービスを利用すると、アウトソーシングの効果が薄くなってしまいます。
年末調整のアウトソーシングには、外注先によって、さまざまなサービスや料金プランが用意されているため、自社の予算や目的にあったサービスを利用することが大切です。
7-3.情報漏洩に注意する
情報漏洩についても注意しなければなりません。年末調整をアウトソーシングする場合は、従業員の氏名や住所、マイナンバーといった個人情報を提供することが必要です。セキュリティ対策がゆるいサービスを利用すると、提供した情報が流出してしまう可能性もあります。
情報漏洩が発生すると、従業員に迷惑がかかるだけではなく、企業としての社会的信用を失ってしまう可能性もあるため注意しましょう。プライバシーマークを取得しているかチェックするなど、アウトソーシング先を慎重に選ぶことが大切です。
8.アウトソーシング以外で年末調整を楽にする方法
アウトソーシングをおこなうと、場合によっては、大きな費用がかかることもあります。アウトソーシングのほかに、年末調整の業務負担を軽減するためには、年末調整に対応した人事・労務ソフトを導入する方法が挙げられます。
年末調整に対応した人事・労務ソフトを利用すれば、オンラインでやり取りができる、年末調整の深い知識が不要といったメリットがあります。
年末調整ソフトには、さまざまな機能の搭載されたものがあるため、自社のニーズにあったシステムを導入するのがおすすめです。
以下、年末調整に対応したソフトを導入するメリットを紹介しますので、チェックしておきましょう。
8-1.オンラインでやり取りできる
クラウド型の年末調整ソフトを導入すれば、基本的にはオンラインでやり取りできるため、テレワークやリモートワークにも対応できます。システム上で従業員に必要事項を入力してもらえばよいため、書類を郵送したり、作成するためにわざわざ出社してもらったりする必要はありません。複数の店舗や事業者がある場合でも、オンライン上でデータを一元管理できます。
8-2.年末調整に関する深い知識が不要
年末調整に関する深い知識が不要となることも、年末調整ソフトを導入するメリットのひとつです。基本的な知識さえあれば、年末調整ソフトに従って入力するだけで作業が完了します。誰でも簡単に使えるように設計されているため、業務の属人化を防止できるでしょう。
クラウド型の年末調整ソフトであれば、法律改正があった際には自動的にアップデートされます。法律改正についての概要のみ知っておけば問題なく、わざわざ手作業で設定を変更する必要がなくなるため、担当者の業務軽減にもつながるでしょう。
8-3.ペーパーレス化を図れる
年末調整ソフトを導入すれば、ペーパーレス化を図れます。年末調整に必要な書類をシステム上で作成できるため、時間をかけて印刷する必要はありません。各従業員へ書類を配布したり、回収したりする手間もなくなるため、業務効率化にもつながります。
書類の保管スペースが不要になることも大きなメリットです。年末調整に関する書類は、基本的に7年間保存しなければなりません。年末調整ソフトを活用すれば、書類の保管スペースが不要になるため、執務スペースを有効活用できるでしょう。
9.自社に合う方法で年末調整業務を効率化しよう!
年末調整の時期には、膨大な業務量を処理しなければならないため、人事労務担当者の業務負担が大きくなるという恐れがあります。そこで、年末調整のアウトソーシングサービスを利用すれば、業務を外部委託できるため、本来の業務に集中することが可能です。
ただし、年末調整の代行は税理士のみが対応できるなど、注意点もあるため、知識を深めておくことが大切です。また、アウトソーシングサービスのほかに、年末調整に対応した人事・労務ソフトを利用して、業務を効率化させる方法もあります。