年末調整は1年間の給与金額を基に源泉徴収税額を修正し、所得税の還付や徴収をおこなうための手続きです。
所得税の還付ではなく追加徴収が発生すると、給与明細の還付金の項目がマイナスになるケースがあります。この記事では、年末調整のマイナス表記の意味や理由、過不足税額の定義、マイナスになった場合の対処や手続きをわかりやすく解説します。
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目次
1. 年末調整のマイナス表記とは何?
年末調整は1年間の給与所得に基づいて、源泉徴収された所得税や復興特別所得税の過不足額を精算するための手続きです。年末調整の対象となる人は、所得税などの過納額の還付のほか、不足額の徴収や納付をおこなう必要があります。
もし源泉徴収税額が本来よりも少なかった場合、給与から不足額が徴収されるため、給与明細の還付金の項目がマイナスになります。
1-1. 年末調整は所得税などを本来の金額に修正する手続き
そもそもなぜ、年末調整をすると所得税などの還付金が発生するのでしょうか。年末調整をおこなう理由は、毎月の給与を基に計算した源泉徴収税額の合計と、1年間の給与総額に基づく源泉徴収税額(年税額)にずれが生じるからです。通常、毎月の給与から差し引いた源泉徴収税額と年税額は一致しません。
国税庁の「年末調整のしかた」によると、源泉徴収税額のずれが生じる理由は3つあります。
源泉徴収税額表は、年間を通して毎月の給与の額に変動がないものとして作られていますが、実際は年の中途で給与の額に変動があること、年の中途で控除対象扶養親族の数などに異動があっても、その異動後の支払分から修正するだけで、遡って各月の源泉徴収税額を修正することとされていないこと、生命保険料や地震保険料の控除などは、年末調整の際に控除することとされていることなどがあげられます。
年末調整の結果、所得税や復興特別所得税を本来よりも多く納めていたことがわかった場合、差額を還付金として還元する必要があります。
1-2. 年末調整はマイナスになることもある
年末調整の還付金が発生せず、逆に所得税などの追加徴収がおこなわれるケースがあります。
この場合、給与明細の「年末調整還付額」や「所得税還付額」の項目は、プラスではなくマイナスで表記されます。
年末調整がマイナスになったからといって、手続きが間違っているわけではありません。年末調整は「所得税などを本来の金額に修正する手続き」であるため、所得税を納めた金額が少なかった場合は、不足額を追加で徴収するためです。
2. 年末調整でマイナスになるのはなぜ?
年末調整を実施し、1年間の給与所得に基づいて計算した徴収税額を「年調年税額」と呼びます。毎月の徴収税額の合計よりも年調年税額の方が大きい場合、不足額を徴収する必要があるため、年末調整がマイナスになります。
年末調整の結果、給与明細の還付金の項目がマイナス表記になるケースは3つあります。
2-1. 賞与支給額が通常より大きかった
賞与支給額が通常より大きい場合や、給与に比べて賞与が高額な場合に、年末調整の結果がマイナスになるケースもあります。賞与から天引きされる源泉徴収税の金額は、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」によって計算されます。(※1)前月の給与が大きければ大きいほど、税率は高くなります。
そのため、前月の給与が低く、賞与が大きい場合には、賞与に対する源泉徴収税額が小さくなります。結果として、その年の納めるべき税額のほうが、源泉徴収税額よりも大きくなり、年末調整がマイナスになり追加徴収されることになります。
2-2. 給与支給額に大きな変動があった
給与に対する源泉徴収税額表は、先述したように、その年を通じて毎月の給与に変動がないことを仮定して作成されています。つまり、その年の1月から12月まで給与に変動がないことを前提に、源泉徴収税額は計算されています。
時間外労働や休日出勤などにより、給与支給額に大きな変動があると、その年の源泉徴収税額が納めるべき年税額よりも小さくなり、年末調整の結果がマイナス表記になる可能性があります。
2-3. その年の途中で扶養親族の人数が減った
その年の途中で扶養親族の人数が減った場合、控除額が減るため、以降、毎月の源泉徴収税額は大きく計算されるようになります。なお、扶養控除の基準日はその年の12月31日です。
しかし、扶養控除の控除額が小さくなるにも関わらず、遡って源泉徴収税額は修正されないので、本来よりも源泉徴収税額の合計が小さくなる可能性が高いです。
その年の年税額よりも源泉徴収税額のほうが小さくなった場合には、年末調整の結果がマイナスになり追加徴収となります。
2-4. 保険料やiDeCoなどの支払いを減らした
年末調整では、「地震保険料控除」「生命保険料控除」「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」といったさまざまな控除を受けられます。これらの保険料の支払いやiDeCoの掛け金を減らした場合には、控除額が減少して年税額が大きくなります。
このように、年末調整で受ける控除額が小さくなることで、その年の納めるべき税額が大きくなり、年末調整の結果がマイナス表記になる可能性があります。
3. 過不足税額とは?
毎月の給与から差し引いた源泉徴収税額の合計と、年末調整で算出した源泉徴収税額(年調年税額)が一致しない場合、その差額を「過不足税額」と呼びます。過不足税額には、所得税などを本来よりも多く徴収した「過納額(超過額)」と、徴収税額が本来よりも少ない「不足額」の2種類があります。
種類 | 説明 |
過納額(超過額) | 所得税を支払いすぎた金額のこと |
不足額 | 所得税が不足している金額のこと |
年末調整の結果、過納額(超過額)が発生した場合は、従業員に差額の徴収税額を還付しなければなりません。逆に不足額が発生した場合、差額を従業員の給与から天引きする必要があります。このとき、給与明細の還付金の項目がマイナス表示されます。
4. 過不足税額を計算する方法
所得税や復興特別所得税の過不足税額は、源泉徴収簿の「年調年税額」と、毎月の徴収税額の合計を比較することで計算できます。過不足税額を計算する手順は次の通りです。
- 年末調整を実施し、1年間の給与所得に基づく年調年税額を計算する
- 源泉徴収簿を参照し、毎月の徴収税額の合計を計算する
- 年調年税額と毎月の徴収税額の合計を比較する
- 年調年税額の方が大きい場合、源泉徴収簿の「差引超過額又は不足額」に「不足額」として表示する
- 毎月の徴収税額の合計の方が大きい場合、源泉徴収簿の「差引超過額又は不足額」に「過納額(超過額)」として表示する
5. 年末調整でマイナスになった場合の対処・手続き
もし年末調整でマイナス(不足額)が発生した場合、原則として、不足額は年末調整を実施した12月分の給与から差引き、足りない場合はその後の給与から順次徴収する必要があります。
ただし、追加徴収の結果、その月の給与が平均給与額(平均月額)の70%を下回る場合は、支払いの繰り延べをおこなうことも可能です。ここでは、年末調整でマイナスになった場合の手続きを解説します。
5-1. 12月分の給与から不足額を徴収する
年末調整でマイナスになった場合は、不足額を「年末調整をする月分の給与」、つまり12月分の給与から徴収します。(※1)
追加徴収をおこなっても不足額が残っている場合は、翌月以降の給与から順次徴収できます。
5-2. 「年末調整による不足額徴収繰延承認申請書」を提出する
追加徴収をおこなった結果、12月分の給与が平均月額の70%を下回る場合は、徴収を繰り延べられます。(※2)
年末調整をする月分の給与から不足額を徴収すると、その月の税引手取給与(賞与がある場合には、その税引手取額を含みます。)が、本年1月から年末調整を行った月の前月までの税引手取給与の平均月額の70%未満となるような人については、「年末調整による不足額徴収繰延承認申請書」を作成して給与の支払者の所轄税務署に提出し、その承認を受けて、不足額を翌年1月と2月に繰り延べて徴収できます。
徴収の繰り延べをおこなうには、「年末調整による不足額徴収繰延承認申請書」を作成し、所轄の税務署に提出する必要があります。
6. 年末調整で対応できない控除
住宅ローンを組んだり、ふるさと納税をおこなったりしているのに、年末調整の結果がマイナスになってしまい追加徴収されることに対して不思議に思う人もいるかもしれません。
これらの控除は年末調整で対応できない場合があります。そのため、確定申告で正しく控除を申請することで、還付を得られる可能性があります。
ここでは、年末調整で対応できない控除について詳しく紹介します。
6-1. 寄附金控除(ふるさと納税など)
寄付金控除とは、国や地方公共団体などに特定寄附金を支払った場合に受けられる所得控除のことです。(※3)なお、特定寄附金の合計額は、およそ総所得金額の40%相当が上限となっています。
ふるさと納税をおこなった場合には、確定申告で寄附金控除を適用することで、控除を受けることができます。なお、ふるさと納税のワンストップ特例を利用できれば、年末調整で控除を適用することも可能です。
(※3)No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
6-2. 医療費控除
医療費控除とは、その年に医療費を一定以上支払った場合に受けられる所得控除のことです。(※4)
対象となる医療費の範囲のなかには、自分だけでなく生計を一にする配偶者やその他親族も含まれます。
医療費の支払いが大きかった場合には、確定申告で医療費控除の明細書を作成して提出することで、控除を適用することが可能です。なお、医療費控除の代わりに、セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)を適用することもできます。ただし、医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらも受けることはできないので注意が必要です。
(※4)No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
6-3. 雑損控除
雑損控除とは、災害や盗難、横領により、一定の要件に当てはまる資産について損害を受けた場合などに受けられる所得控除のことです。なお、災害で損害を受けた場合は、雑損控除でなく「災害減免法」を利用できるケースもあります。ただし、両方を適用することはできません。
雑損控除は確定申告により適用することができます。確定申告書には、災害に関連したやむを得ない支出金額と、災害に関連して受け取った保険金や損害賠償金の金額を記載する必要があります。
(※5)No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)|国税庁
6-4. 住宅ローン控除の1年目
住宅ローン控除の正式名称は「住宅借入金等特別控除」で、住宅ローンなどを活用して住宅の新築や増改築などをおこなったときに受けられる税額控除のことです。住宅ローン控除は所得控除でなく、税額控除であるため、大きな減税効果が得られます。
住宅ローン控除を適用する場合、1年目は確定申告をしなければなりません。ただし、2年目以降であれば、住宅ローン控除は年末調整で受けられます。
(※6)年末調整で住宅借入金等特別控除の適用を受ける方へ|国税庁
7. 年末調整でマイナスになったら不足額の追加徴収を
年末調整の結果、所得税などの還付金が発生せず、逆に追加徴収が必要なケースがあります。年末調整がマイナスになるのは、賞与の増加や扶養家族人数の変更などの要因によって、源泉徴収税額が不足した場合などです。年末調整でマイナスが発生した場合、12月分の給与から不足額を支払うなどの対応が必要です。