日本に居住し所得のある人には、所得税が発生します。1年間を区切りとして、その年の所得に対して適切な納税をおこなう必要があります。今回は、日本国籍を持っていない外国人に対する年末調整を徹底解説します。また、年末調整における外国人区分や、国外扶養親族がいる場合に扶養控除を申請する際の必要書類などについてもわかりやすく紹介します。
目次
1. 外国人従業員も年末調整が必要
ここでは、年末調整のしくみや、年末調整の対象となる人を説明したうえで、外国人従業員の年末調整の必要性についてわかりやすく解説します。
1-1. 年末調整とは?
年末調整とは、その年の1月から12月までの1年間の給与や賞与などに対してかかる税金額を計算し、あらかじめ天引きされている税金額と比較して、その差額を調整する手続きのことです。
年末調整は、所得税法で定められた雇用主の義務です。そのため、企業は年末調整の対象となる従業員の年末調整を正しくおこなわなければなりません。多くの従業員は年末調整をおこなうことで、自分で納税をおこなう確定申告が不要になるので、納税手続きに割く時間や手間を削減することができます。それでは、外国人従業員も年末調整の対象になるのでしょうか。
1-2. 年末調整の対象となる人
まずは年末調整の対象者について確認してみましょう。年末調整の対象となるのは、以下に該当する人です。(※1)
- 1年以上継続、あるいは年の途中で入社して12月の段階で継続して勤務している人
- 心身の障害、あるいは死亡によって年の途中で退職したことで、その年の間に再就職が望めない人
- パートやアルバイトとして働いていたが退職し、その年の給与総額が103万未満の人
- 年の途中で海外へ転勤して非居住者になった人
上記より、原則として年末まで勤めている外国人従業員は、年末調整の対象になります。年末調整の対象となる外国人従業員は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を企業を介して、税務署長へ提出して年末調整をおこなう必要があります。
ただし、主たる給与の収入が2,000万円以上ある人や、災害などにより納税の猶予やあるいは還付を受けている人などは、年末調整の対象とはなりません。これらは、日本で所得がある人全てに適用されるため、外国人従業員であっても同様の扱いとなります。
2. 年末調整における外国人従業員の区分とは
外国人従業員も年末調整の対象になりますが、全員が該当するとは限りません。外国人従業員の場合は、納税者を「(非永住者以外の)居住者」「非永住者」「非居住者」3つの区分に分類したうえで、年末調整を要するかどうかを決定します。
上記の区分は下記の項目によって判断することができます。
- 住所または居所の有無
- 日本国籍の有無
- 居住期間の長さ
まず、住所と居住の違いについてもあわせて確認していきましょう。
2-1. そもそも住所と居所の違い
納税者を「(非永住者以外の)居住者」「非永住者」「非居住者」3つの区分に分類する際に「住所」と「居所」という似た用語が出てきます。これらの違いを正しく把握しておくことは、年末調整の手続きのミスを減らすためにも大切です。
住所と居所の違いについては、国税庁のサイトにも記載されています。(※2)
住所(じゅうしょ) |
その人の生活の本拠(生活の中心地)のこと。なお、生活の本拠であるかどうかは客観的事実により判定されます。 |
居所(きょしょ・いどころ) |
その人の生活の本拠とまではいえないが、一定期間にわたって現実に居住している場所のこと。 |
このように「生活の本拠」かどうかで住所と居所は決まり、必ずしも住民票をおいている場所が「住所」になるとは限りません。
それでは、ここからは「居住者」「非永住者」「非居住者」のそれぞれの区分の定義を紹介していきます。
2-2. 居住者(年末調整の対象)
日本国内で生活の拠点となる住所がある人、あるいは日本国内に1年以上居所がある人は「居住者」として分類されます。(※2)
居住者は、国内と国外におけるすべての所得に対して課税がなされます。
2-3. 非永住者(年末調整の対象)
日本国籍を持っていない居住者のなかで、これまでの10年にわたって住所あるいは居所を持っていた期間が5年以下だった人は「非永住者」に分類されます。
なお、非永住者に該当する人も、住所あるいは居所を持っている期間が5年になったその日の翌日からは「非永住者以外の居住者」となります。
非永住者は、国内で稼いだ所得と、海外で支払われた源泉所得のうち、日本で支払われたものや日本に送金されたものに対して課税されます。
2-3. 非居住者(年末調整の対象とならない)
非居住者とは、居住者以外の個人を指します。つまり、日本に入国してから居所のある期間が1年未満で、国内に住所を持っていない人が当てはまります。
入国してからの期間が1年未満であっても、国内で住所を得たのであれば、その当日から居住者として扱われます。また、住所が無くても居所があって1年以上日本に居た場合も、居住者に該当します。
非居住者は、国内で得られた収入に対しての源泉所得にのみ課税されます。
3. 外国人従業員の年末調整の方法
外国人従業員であっても、年末調整の大部分の基本的な流れや方法は日本人従業員と同じですが、一部注意して対応する必要があるポイントがあります。
ここでは、外国人従業員の年末調整に必要な書類や、非居住者の年末調整への対応について詳しく解説します。
3-1. 外国人従業員が準備すべき必要書類
雇用主が外国人従業員に対して年末調整の手続きをおこなう場合、日本人の従業員と同様に主に次の書類を提出してもらう必要があります。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
2年目以降の住宅ローン控除を適用したい外国人従業員には、「給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」を提出してもらう必要があります。また、転職して入社した外国人従業員の場合、以前にどこに勤めていたのかを把握し、前職の源泉徴収票も提出してもらいましょう。
3-2. 非居住者の年末調整は不要
非居住者に該当する外国人従業員は、年末調整の対象外になります。年末調整の対象外になる場合、基本的に確定申告をおこなわなければなりません。
しかし、非居住者は、国内で得られた収入に対しての源泉所得にのみ課税されます。そのため、源泉徴収のみで課税関係は対応できるので、年末調整や確定申告が不要になります。なお、この際の源泉所得に対する税率は一律20.42%で、納付額が決定したらその翌月の10日までに納めなければいけません。(※4)(※5)
また、非居住者の源泉徴収をおこなう際には、租税条約に気を付ける必要があります。租税条約とは、課税関係の安定や二重課税の除去、脱税および租税回避などを目的に、二国間で結ばれる条約のことで、各国の税法よりも優先的に適用されます。
外国人従業員の出身国と日本とで租税条約が結ばれていると、所得税などが免除される場合があります。2022年9月の時点で150カ国と租税条約が結ばれており、これらの国の一例としてはアメリカやドイツ、カナダ、ブラジルなどが挙げられます。(※6)
租税条約の適用を希望する場合は、雇用主を介して税務署に「租税条約に関する届出書」を提出しなければいけません。
(※4)No.2884 源泉徴収義務者・源泉徴収の税率|国税庁
(※5)No.2885 非居住者等に対する源泉徴収のしくみ|国税庁
(※6)我が国の租税条約ネットワーク|財務省
4. 年末調整で国外居住親族の扶養控除を適用する場合
国外に住んでいる親族がいる場合でも、扶養控除は適用することができます。この親族の範囲は6親等内の血族と配偶者、3親等内の姻族となっています。(※7)
国外に住んでいる親族の扶養控除を適用するには、「親族関係書類」と「送金関係書類」が必要です。なお、これらの書類が外国語で書かれている場合は、内容が翻訳されたものの添付も必要です。
書類の種類 |
概要 |
具体的に必要な書類 |
親族関係書類 |
外国人従業員本人と国外に居住する家族が親族であることを証明する書類。戸籍の附票の写しやパスポートの写しを除いては、原本である必要がある |
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送金確認書類 |
外国人従業員本人が国外に居住する親族の生活費や教育費にあてるために送金した事実を証明出来る書類。 原本でなくてもよい |
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これらの書類を提出あるいは提示するのは、「親族関係書類」は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出するタイミング、「送金関係書類」は年末調整がおこなわれるタイミングです。
書類によっては準備に時間がかかるものもあるため、年末調整までに準備をしておく旨を外国人従業員に伝えておきましょう。
なお、国外扶養親族への扶養控除の適用については改正が実施され、年齢30歳以上70歳未満の非居住者で、次のいずれかの条件に当てはまらない場合は扶養控除を受けられなくなります。(※7)
(※7)税制改正等の内容|国税庁
4-1. 令和5年(2023年)1月からの変更点
国外扶養親族への扶養控除の適用については改正が実施され、令和5年分以降の所得税において、非居住者の扶養親族については、次のいずれかに当てはまる人に限って控除対象扶養親族に該当します。
(1) その年12月31日現在の年齢が16歳以上30歳未満の人
(2) その年12月31日現在の年齢が70歳以上の人
(3) その年12月31日現在の年齢が30歳以上70歳未満の人であって次に掲げるいずれかに該当する人
イ 留学により国内に住所および居所を有しなくなった人
ロ 障害者である人
ハ 納税者からその年において生活費または教育費に充てるための支払を38万円以上受けている人
また、国外居住親族における扶養控除を受ける際に、一定の条件に当てはまると「留学ビザ等書類」や「38 万円送金書類」の提出または提示が必要になる場合もあります。(※8)
そのため、年末調整で国外居住親族の扶養控除を適用したい従業員がいる場合は、法改正をきちんと把握して必要書類について注意しましょう。
(※8)令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係)|国税庁
5. 外国人従業員の年末調整の注意点
ここでは、外国人従業員の年末調整における注意点について詳しく紹介します。
5-1. 外国人区分(納税区分)を適切に把握する
外国人従業員の年末調整では、「非永住者以外の居住者」「非永住者」「非居住者」といった外国人区分(納税区分)をきちんと理解し、年末調整が必要かどうかを判断することが大切です。
納税区分を間違えてしまうと、居住者に該当するのに年末調整を忘れてしまったり、非居住者であるにも関わらず年末調整をしてしまったりするなど、大きなミスへとつながるおそれがあります。
5-2. 保険の加入状況や納付状況を確認する
外国人従業員が出身国の社会保険制度を利用している場合や、外国企業との間で生命保険や地震保険などの契約をしている場合、日本での所得控除を受けることはできません。
また、外国人従業員が部屋を借りる場合、入居条件として火災保険(家財保険)に加入することがほとんどです。そこに地震保険が付帯されている場合は、地震保険料控除の対象となります。適切に年末調整をおこなうためにも、保険の加入状況や納付状況を正しく把握することは重要です。
5-3. 早めに必要書類を提出してもらう
外国人従業員は年末調整の必要書類の準備に時間や手間がかかる場合もあります。また、年末調整の必要性を判断するために納税区分を確認するなど、手続きが煩雑になることもあります。
そのため、年末調整の必要書類を期限よりも早めに提出してもらうように呼びかけることが推奨されます。
また、外国人従業員が年末調整に関して疑問点や不明点があったときに相談できる窓口を用意しておくと、スムーズに手続きが進められるかもしれません。
なお、申告の内容に間違いがあった場合や虚偽の申告が発覚した場合は、源泉徴収の義務がある会社が、源泉所得税や過少申告加算税、延滞税などの罰金を支払わなければならない恐れもあるので注意が必要です。
5-4. 外国語で記載された資料を活用して制度を説明する
外国人従業員が年末調整をおこなう際に日本語で記載された資料しかない場合、専門的な用語の理解に時間がかかるなどの理由により、スムーズに手続きを進められない可能性があります。
そのため、英語や中国語などの外国語を利用して、外国人従業員向けの文書も作成するのがおすすめです。
国税庁のサイトでは、日本語以外の言語(英語・中国語・ポルトガル語・スペイン語・ベトナム語・フィリピノ語)でも各種申告書がダウンロードできるようになっています。(※9)
また、非居住者である親族について扶養控除等を受ける方に向けた資料も多言語で用意されています。(※10)このような資料を活用して年末調整の制度を外国人従業員に説明することで、円滑に手続きを進めることができるようになります。
(※10)非居住者である親族について扶養控除等の適用を受ける方へ|国税庁
5-5. 給与課税漏れに注意する
外国人従業員に対する給与所得は、国内分の給料や賃金、賞与などの性質を持つ給与のうち、国内においておこなうものです。
なお、内国法人かつ役員である場合は、国外の労働に基因するものについても国内源泉所得に該当するため注意が必要です。
外国人従業員の申告書作成においては、給与所得の金額を算出するうえで、次のような金銭による収入に加えて、現物給与があるかや、経済的利益についても注意を払わなくてはいけません。
- 基本給
- 諸手当
- 賞与
外国人従業員は、本国を離れて働くという特殊な事情により、会社からさまざまな経済的利益を受け取っているケースが多く、給与課税漏れには注意が必要です。
たとえば、次の費用を会社が負担している場合は給与となります。
費用 |
概要 |
医療費 |
外国人従業員本人またはその家族が業務とは関係ない医療費を企業が会社から代わりに負担してもらっている場合、その医療費相当額が給与所得として課税されます。 |
教育費 |
外国人従業員の子どもなどの学費を外国人従業員に代わって企業が本人が負担した場合は、給与所得として課税されます。 |
住宅手当 |
企業が会社が外国人従業員に住宅手当を支給している場合は、全額が給与課税となります。また、企業会社が社宅を提供しており、妥当なものと判断される場合には、一定の方法で計算した賃貸料が給与所得として課税されます。 |
水道光熱費 |
外国人従業員が居住する家屋にかかっている電気やガス、電話、水道代などの代金を企業会社が肩代わりした場合の経済的利益は全額給与所得として課税されます |
個人の税金の会社負担分 |
社員や役員に課される所得税を、企業会社が外国人従業員に代わって負担した場合、会社が負担した税額相当額は給与所得として課税されます。 |
個人の税務申告書の作成費用 |
確定申告書の作成を税理士に依頼した場合に発生する費用を企業会社が負担した場合、原則として課税対象です。この場合、その経済的利益の合計額が源泉徴収税引き後の手取り額となるように計算する必要があり、税込金額に逆算した金額を経済的利益の総額とする計算(Gross‐up計算)を使って源泉徴収税額を算出します。 |
6. 外国人従業員が海外に転勤した場合の年末調整
居住者、もしくは非永住者に該当する外国人従業員が海外に転勤した場合は、海外赴任の日本人従業員の場合と同様に、出国する日までに年末調整をする必要があります。年末調整の対象は次の2つの条件に当てはまる人です。
- その年の年末までに支払われる予定となっている給与額が2,000万円以下
- 海外に転勤する期間が1年以上
年末調整の対象となるのは、出国までに支払いが確定している給料です。この際、年末調整で控除の対象となる社会保険料や生命保険料も、出国するまでに支払った金額のみとなります。扶養控除や配偶者控除については出国時に満額控除されます。
7. 外国人の年末調整は納税区分や必要書類に注意しよう!
日本国籍を持っていない外国人従業員についても、日本で収入があれば所得税を正しく納める義務があります。居住者は年末調整が必要になります。
一方、非居住者は年末調整の対象外なので、外国人従業員を雇用する際は覚えておきましょう。
このほか、年末調整のために受けたい控除がある場合は必要な書類が複数あるため、外国人従業員への周知徹底を含め、正しく納められるようにしましょう。