近年では、働き方改革の影響やIT技術の発展により、多様な働き方が整備されつつあり、ダブルワークをおこなう方は増えています。しかし、ダブルワークの場合の年末調整や確定申告の方法は複雑になることもあります。 当記事では、ダブルワークにおける年末調整のやり方や、ダブルワークをおこなう場合の確定申告の注意点などについて解説します。
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目次
1. 年末調整とは
年末調整とは、その年の本来納めるべき税額と、源泉徴収税額の合計を比べて、従業員の所得税(復興特別所得税を含む)の過不足金額を精算する手続きのことです。年末調整の手続きで企業が従業員の代わりに所得税を再計算して精算することで、多くの従業員は確定申告の必要がなくなります。
源泉徴収税額表は、年間を通して毎月の給与に変動がないものとして作成されているため、年の途中で給与の変動があると、それに応じて過不足金額が生じます。また、配偶者や扶養親族が変わると、給与の支払額は修正されますが、源泉徴収税額は遡って修正されません。さらに、生命保険料控除や地震保険料控除などといった控除が、年末調整の際に適用されることも過不足金が発生する理由として挙げられます。
このように、年末調整によって過不足金額が生じた場合の差額を従業員に還付したり、追加徴収したりすることで精算をおこないます。
2. そもそもダブルワークとは
ダブルワークとは、定職をもちながら夜間や休日などにほかの仕事をすることや、収入の不足を補うために副業をもつことを意味します。
厚生労働省では、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表するなど、「働き方改革実行計画」を踏まえ、ダブルワークの普及や促進を図っています。
ダブルワークと似た言葉に兼業がありますが、兼業とは、本業のほかに他の事業・仕事を兼ねておこなうことを意味し、ダブルワークとほとんど意味は変わりません。
3. 「ダブルワーク」といっても副収入の種類はさまざま
ダブルワークとは、本業とは異なる仕事をおこなうことですが、その仕事に明確な定義があるわけではありません。
たとえば、本業の勤め先以外にアルバイトをおこない、給与収入を増やす方もいます。また、会社員とは別に、自分で事業をおこなったり、フリマアプリやクラウドソーシングサービスを利用して副業をおこなったりする方もいます。
このように、ダブルワークといっても、人によって方法は異なり、税金の計算方法も異なります。たとえば、給与収入だけの場合であれば、給与所得控除額を差し引いて、給与所得を求めることが可能です。しかし、事業所得や雑所得がある場合には、収入から必要経費を差し引いて、所得を求めます。
4. ダブルワークの場合の年末調整は両方で必要?書類の書き方は?
ダブルワークをしている場合、すべての勤務先で年末調整をおこなわなければならないと考えている方もいるかもしれません。
年末調整の書類である「扶養控除等(異動)申告書」は1カ所の勤務先にしか提出できないため、年末調整は1カ所の勤務先のみ受けることができます。そのため、複数の会社で年末調整を受けることはできません。
また、医療費控除や寄付金控除、雑損控除などの控除は、年末調整では適用できません。そのため、どの勤務先でも年末調整を受けず、自分で確定申告をおこなって、所得税を納める従業員が出てくる可能性があります。
なお、ダブルワークの従業員の年末調整をおこなう場合でも、提出する書類や書き方は他の従業員と同じです。副業分は確定申告を行うのが前提で、あくまでも本業分の年末調整を行うためです。記入例などを参考に、「給与所得者扶養控除等(異動)申告書」などに必要事項を記入し提出してもらいましょう。
5. ダブルワークの年末調整はどっちでやるべき?収入が少ない方でもできる?
2カ所以上から給与を受け取っている従業員がいる場合には、自社が「主たる給与」と「従たる給与」のどちらに該当するかで対応が変化します。
「主たる給与」とは、扶養控除等(異動)申告書を提出している勤務先から受け取る給与のことです。一方、「従たる給与」とは、「主たる給与」以外の勤務先から受け取る給与のことです。
一般的には、収入が最も多い勤務先から受け取る給与を「主たる給与」として、その勤務先で年末調整を受けます。なお、扶養控除等(異動)申告書は、1社のみにしか提出できないため、それ以外の勤務先では年末調整を受けられません。
これにより、給与から天引きされる源泉徴収税額の計算方法が変わります。年末調整を受ける勤務先の税額は、年末調整を受けない勤務先の税額よりも安くなります。
6. ダブルワークの場合、いくらまでなら年末調整できる?
従業員がダブルワークをおこなっている場合、自分で確定申告をしなければならない可能性が高まります。しかし、一定の範囲内であれば、ダブルワークをおこなったとしても、確定申告をする必要がありません。
ここでは、ダブルワークの従業員が勤務先で年末調整をおこなうケースの一例を挙げます。
- 年収103万円以下だが、月給8万8,000円以上のため源泉所得税を徴収している場合
- 年末調整を受けた給与所得を除き、副業の所得の合計が20万円以下の場合
なお、勤務先で年末調整をおこなうには、扶養控除等(異動)申告書を提出してもらう必要があります。年末調整に必要な書類を提出していない場合は年末調整を受けられず、確定申告をしてもらうことになるので、注意が必要です。
7. ダブルワークで確定申告が必要な場合
ダブルワークの従業員から「会社で年末調整を受けられるか?」と聞かれることもあるかもしれませんここでは、ダブルワークをおこなっている方で確定申告が必要な場合について詳しく紹介します。自社で年末調整が必要な従業員か判断するのに役立つので、しっかりと確認しておきましょう。
7-1. 副業の所得が20万円を超える場合
年末調整を受けた勤務先の給与以外の、副業の所得の合計が20万円を超える場合には、確定申告が必要になります。
なお、事業所得や雑所得の場合は、下記の方法で所得を計算します。
事業所得(雑所得)=収入ー必要経費
副業の収入が20万円を超えていたとしても、必要経費により、副業の所得の合計が20万円以下になれば、確定申告をする必要はありません。ほかにも、一時所得や不動産所得など、自分が副業で得る所得の計算方法をきちんと把握しておきましょう。
7-2. 本業の会社で年末調整がされない場合
扶養控除等(異動)申告書を提出していないなど、本業の会社で年末調整を受けられなかった場合には、基本的に確定申告をする必要があります。
この場合は、すべての勤務先から源泉徴収票を受け取り、それらを参考に確定申告書を記載して、確定申告をおこないます。なお、年間の合計所得金額が48万円以下(給与のみであれば給与収入が103万円以下)の場合には、基礎控除(48万円)により、所得税がかからないため、確定申告は不要になります。
7-3. 年末調整の対象者に該当しない場合
給与収入がある場合でも、年末調整の対象者に該当しない場合には、基本的に確定申告をおこなう必要があります。
ダブルワークの方で年末調整の対象外になる場合は、下記の通りです。
- その年の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える場合
- 災害減免法の規定により、その年の給与に対する源泉所得税および復興特別所得税の徴収猶予もしくは還付を受けた場合
- 年末調整をおこなうときまでに扶養控除等(異動)申告書を提出していない場合
- 年の中途で退職した人で年末調整の対象者に該当しない場合
- 非居住者
- 継続して同一の雇用主に雇用されていない日雇労働者など
このような場合で、所得税を納める必要があるときは、確定申告をおこなう必要があります。
8. 年末調整でダブルワークがバレた場合の対処法
年末調整をきっかけに、従業員のダブルワークがバレるケースも珍しくありません。正確には、年末調整ではなく、年末調整が終わって翌年の住民税額が決定したことを知らせる通知が会社に届いたタイミングでダブルワークがバレるケースがほとんどです。
年末調整で申告した収入に副業分の収入が加わり、住民税の源泉徴収額が増えていることで副業を疑うケースが目立ちます。とはいえ、従業員全員の住民税額をチェックするわけではないので、必ずしもダブルワークがバレるわけではありません。
もし、従業員のダブルワークがバレた場合、副業に対する考え方・扱い方によって企業の対応は大きく異なります。就業規則で副業を禁止していたり、無断での副業を禁止している場合は、戒告や懲戒処分となる可能性があります。また、それほど厳しい処分でない場合も、人事評価でマイナスとなることもあるでしょう。
しかし、法律上、勤務時間以外の副業は禁止されていません。そのため、就業規則で副業を禁止していなければ、年末調整でダブルワークがバレても問題ありません。ダブルワークの従業員がいても、勤務状況に問題がなければ特に問題視する必要はないでしょう。
また、ダブルワークの従業員の年末調整をおこなうにあたり、自社が「主たる給与」の事業者か否かを従業員に直接ヒアリングする必要はありません。年末調整をどこで行うかはあくまでも従業員の判断に任されます。年末調整の申告書類の提出がなければ、他社で年末調整をおこなうか自身で確定申告をおこなうものと判断します。
ただし、扶養控除申告書を提出している場合は、勤務先に年末調整をおこなう義務が発生するため、自社での年末調整が必要です。副業の所得の合計が20万円以下のケースなどであれば、翌年以降も自社で年末調整をおこないます。
9. ダブルワークの確定申告をする従業員がいる際の注意点
ダブルワークの確定申告をする従業員がいる場合は、自社が副業の勤務先であっても、本業の勤務先であっても源泉徴収票を発行する必要があります。
ダブルワークの従業員が自身で確定申告をおこなう場合、会社としてできることは源泉徴収の発行までです。それ以外は従業員本人が対応しますが、念のためダブルワークの確定申告のやり方を確認しておきましょう。
9-1. 従業員が確定申告を忘れてしまった場合どうなる?
確定申告の期限は、原則としてその年の翌年の2月16日から3月15日までです。確定申告をおこなう義務のある方が、この期限までに確定申告の書類を提出できなかった場合には、従業員個人に無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されます。
確定申告を期限内にし忘れた場合でも、気づいた時点で素早く申告すれば「期限後申告」として扱われる可能性があります。これにより、無申告加算税が軽減されるかもしれません。
もし、確定申告を忘れた従業員がいた場合は、できる限り早く申告をおこなうようアドバイスしましょう。
9-2. 年末調整を両方の会社でしてしまった場合どうなる?
年末調整は1カ所の会社のみでおこなうため、ダブルワークで複数の会社で年末調整を実施したことが発覚した場合、従業員は、年末調整の取り下げをおこなう必要があります。
その後の対応方法は、本業以外の勤務先から受け取った「従たる給与」が20万円を超えるかどうかで異なります。
「従たる給与」が20万円以下の場合、「主たる給与」を受け取った勤務先で扶養控除(異動)申告書を提出し、年末調整を受けていれば、確定申告は不要です。一方、「従たる給与」が20万円を超える場合、確定申告をおこなう必要があります。
10 . ダブルワークの場合の年末調整を理解して正しく申告をおこなおう!
ダブルワークの従業員がいる場合、副業の所得の種類や金額などによって、年末調整の手続き方法や確定申告の必要性が変わってきます。
複数の勤務先から給与を受け取っている場合には、年末調整は1カ所だけ受けられるため、収入の最も多い会社に「扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらいます。また、副業の所得が20万円以下であれば、基本的には勤務先での年末調整のみで対応可能です。ただし、源泉徴収税額が本来納めるべき税額よりも大きい場合などは、従業員自身で確定申告をおこなってもらう必要があるため、きちんとアナウンスしましょう。
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