年末調整ではあらゆる控除を申請できます。控除には種類があり、控除額や要件などが異なります。また、年末調整では控除が受けられないものもあり、その場合には確定申告をする必要があります。当記事では、年末調整における控除の種類や対象者、控除について解説します。また、控除証明書についても紹介します。
1. 年末調整の「控除」とは?
「控除」とは、辞書では「金銭や数量などを差し引くこと」を意味し、大きく「所得控除」と「税額控除」に分類できます。年末調整における所得控除とは、給与所得金額の合計から一定の金額を控除できるものです。なお、所得控除は15種類あります。所得控除により、課税所得金額を減らすことが可能です。
一方、年末調整における税額控除とは、課税所得金額に税率を掛けて計算された所得税額から、一定の金額を控除できるものです。税額控除により、納めるべき所得税額を減らすことができます。
所得控除や税額控除は、従業員それぞれの個人的な事情を加味したうえで、税金を減らすための大切な仕組みであり、基本的に年末調整をおこないことで控除を受けられます。
1-1. そもそも年末調整とは?
年末調整とは、給与所得者(会社員やパートなど)が毎月(毎日)の給与などから源泉徴収されている所得税(復興特別所得税を含む)を再計算し、本来の納税額を調整する手続きのことです。
再計算しなければならない理由には、その年の源泉徴収税額はあくまで概算であることが挙げられます。また、配偶者や子などの扶養人数が変わった場合、源泉徴収税額は変更後から修正されますが、遡って修正されないことも年末調整をおこなう理由の一つです。さらに、年末調整では、従業員によってさまざまな控除を適用できるため、控除額が想定していた額と異なることも、その年の源泉徴収税額と本来納めるべき税額が不一致になる原因として挙げられます。(※1)
年末調整により、税額の不一致が生じた場合には、従業員に対して還付または追加徴収をおこない精算します。これにより、従業員は確定申告が不要になるため、年末調整は重要な手続きといえます。
1-2. 年末調整で受けられない控除は確定申告で対応する
年末調整によりさまざまな控除を受けることができます。しかし、個人情報の保護や、会社の事務業務の負担の観点から、「寄附金控除」「医療費控除」「雑損控除」「住宅ローン控除」といった控除は、年末調整で対応できない場合もあります。このような控除を受けたい場合、基本的に確定申告をおこなう必要があります。
3. 年末調整で受けられる控除
ここでは、年末調整で受けられる控除の種類について詳しく紹介します。
3-1. 基礎控除
基礎控除とは、従業員の合計所得金額に応じて、総所得金額などから差し引くことのできる控除です。(※2)合計所得金額が2,400万円を超えると段階的に控除額は減り、2,500万円を超えると基礎控除を受けられません。
たとえば、合計所得金額が2,400万円以下であれば、基礎控除額は48万円です。なお、令和元年分以前は、合計所得金額に関係なく、一律で38万円であったため、注意する必要があります。
(※2)No.1199 基礎控除|国税庁
3-2. 社会保険料控除
社会保険料控除とは、従業員が自己もしくは自己と生計を一にする配偶者や親族などの社会保険料を支払った場合に受けられる控除です。(※3)
控除額は、その年に実際に支払った金額もしくは、給与や公的年金から差し引かれた金額の全額です。社会保険料控除の対象になる社会保険料には、健康保険料や国民年金保険料、厚生年金保険料、介護保険料などがあります。
3-3. 生命保険料控除
生命保険料控除とは、従業員が生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に受けられる控除です。(※4)
生命保険料控除で受けられる控除額は、新契約と旧契約の場合で異なり、計算方法も違います。控除額は新契約の場合は最大12万円、旧契約の場合は10万円です。なお、新契約と旧契約の両方を契約している場合で、両方の契約について控除を受けるのであれば、控除額は最大12万円になります。
3-4. 地震保険料控除
地震保険料控除とは、従業員が地震保険に加入している場合に受けられる控除です。(※5)控除額は最大5万円です。なお、その年に支払った金額が5万円以下の場合には、その支払った額の全額が控除額になります。
また、2006年の税制改正により、2007年分から損害保険料控除が廃止されています。ただし、経過措置として一定の要件を満たせば、長期損害保険契約等に係る損害保険料を、地震保険料控除の対象にすることが可能です。
3-3. 小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済等掛金控除とは、納税する人が小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金などを支払った場合に受けられる控除です。(※6)控除額は、その年に支払った掛金の全額になります。なお、小規模企業共済等掛金控除の対象となる掛金は、下記の3つです。
- 小規模企業共済法の規定によって独立行政法人中小企業基盤整備機構と結んだ共済契約の掛金(ただし、旧第二種共済契約の掛金はこの控除ではなく生命保険料控除の対象となります。)
- 確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金または個人型年金加入者掛金
- 地方公共団体が実施する、いわゆる心身障害者扶養共済制度の掛金(この共済制度とは、地方公共団体の条例で精神または身体に障害がある者を扶養する者を加入者として、その加入者が地方公共団体に掛金を納付し、当該地方公共団体が心身障害者の扶養のための給付金を定期に支給することを定めている制度のうち一定の要件を備えているものをいいます。)
3-4. ひとり親控除
ひとり親控除とは、2020年分の所得税から適用されており、従業員がひとり親に該当する場合に受けられる控除です。(※7)控除額は35万円です。
ひとり親控除の対象となる従業員は、その年の12月31日に婚姻していない、または配偶者の生死が明確ではない一定の人のうち、下記の要件をすべて満たす人です。
- その人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいない
- 生計を一にする子がいる
- 合計所得金額が500万円以下
なお、生計を一にする子にも、総所得金額などに条件があるため、注意する必要があります。
3-5. 寡婦控除
寡婦控除とは、納税する人が寡婦に該当する場合に受けられる控除です。(※8)なお、寡婦とは、その年の12月31日時点において「ひとり親」にあてはまらず、下記のいずれかに該当する合計所得金額500万円以下の人を指します。控除額は27万円です。
- 夫と離婚した後、婚姻をしておらず、扶養親族がいる人
- 夫と死別した後、婚姻をしていない人
- 夫の生死が明らかでない一定の人
(※8)No.1170 寡婦控除|国税庁
3-6. 勤労学生控除
勤労学生控除とは、従業員自身が勤労学生に該当する場合に受けられる控除です。控除額は27万円です。(※9)
勤労学生とは、その年の12月31日に、下記の要件をすべて満たす人を指します。
- 給与所得など勤労による所得がある
- 合計所得金額が75万円以下で、勤労による所得以外の所得が10万円以下特定の学校の学生または生徒である
なお、税制改正により、2020年分以降の給与所得控除額が変わり、合計所得金額の要件が変更されているため注意が必要です。
3-7. 障害者控除
障害者控除とは、納税者自身や同一生計配偶者または扶養親族が所得税法上の障害者にあてはまる場合に受けられる控除です。障害者控除は、扶養控除の適用されない16歳未満の扶養親族がいる場合でも適用することができます。
控除対象者が障害者に該当する場合は27万円、特別障害者に該当する場合は40万円、同居特別障害者に該当する場合は75万円の控除を受けられます。
(※10)No.1160 障害者控除|国税庁
3-8. 扶養控除
扶養控除とは、従業員に所得税法上の控除対象親族がいる場合に受けられる控除です。(※11)控除額は、扶養親族の年齢や、同居の有無などによって異なります。
たとえば、特定扶養親族(その年の12月31日の年齢が19歳以上23歳未満の方)を扶養している場合、控除額は63万円です。なお、扶養親族に該当するには、その年の合計所得金額などの要件があるため、控除を受ける場合には、きちんと満たしているかどうか確認する必要があります。
(※11)No.1180 扶養控除|国税庁
3-9. 配偶者(特別)控除
配偶者控除とは、所得税法上の控除対象配偶者がいる場合に受けられる控除です。(※12)控除額は、最大38万円(老人控除対象配偶者に該当する場合は48万円)です。
なお、控除を受ける従業員の合計所得金額が900万円を超えると、段階的に控除額は減少します。また、合計所得金額が1,000万円を超えると、配偶者控除は受けられません。
そして、控除対象配偶者に該当するには、その年の合計所得金額などの要件があります。配偶者控除の要件を満たせない場合には、配偶者特別控除(※13)を受けられないかを検討することが大切です。
(※12)No.1191 配偶者控除|国税庁
(※13)No.1195 配偶者特別控除|国税庁
4. 年末調整で受けられない控除
ここでは、年末調整だけでは受けられない控除について詳しく紹介します。
4-1. 寄附金控除
寄附金控除とは、従業員が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに「特定寄付金」を支払った場合に受けられる控除です。(※14)
ただし、学校の入学に関する場合や、寄付をおこなった人に特別の利益があると認められる場合、政治資金規正法に違反する場合などは、特定寄付金に該当しません。
たとえば、ふるさと納税は寄付金控除に該当し、寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税と住民税からそれぞれ控除が受けられます。(※15)なお、ワンストップ特例制度を利用すれば、年末調整で控除を受けることが可能です。そのほかの寄附金控除を受けるには、確定申告をおこなう必要があります。
(※14)No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
(※15)No.1155 ふるさと納税(寄附金控除)|国税庁
4-2. 医療費控除
医療費控除とは、その年の1月1日から12月31日までの間に自己または自己と生計を一にする配偶者や親族のために医療費を支払い、一定額を超える場合に受けられる控除です。(※16)年末調整では受けられないため、確定申告で控除申請する必要があります。
医療費控除の控除額は最大200万円であり、計算式は下記の通りです。
(医療費の合計額-保険金などで補てんされる金額)-10万円
ただし、その年の合計所得金額が200万円未満の場合には、「10万円」の代わりに「合計所得金額などの5%の金額」を計算式に当てはめます。
なお、通常の医療費控除の代わりに、医療費控除の特例としてセルフメディケーション税制を選択することも可能です。セルフメディケーション税制を利用する場合も、確定申告をおこなう必要があります。
(※16)No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
4-3. 雑損控除
雑損控除とは、災害や盗難、横領により、生活に必要な資産に損失があった場合に受けられる控除です。(※17)医療費控除や寄附金控除と同じように、雑損控除は年末調整で対応できないので、確定申告をおこなう必要があります。
雑損控除の控除額は、下記の2通りのうち、金額が大きいほうが採用されます。
- (損害金額+災害関連支出の金額-保険金などの金額)-合計所得金額×10%
- (災害関連支出の金額-保険金などの金額)-5万円】
なお、雑損控除は、年末調整を受ける従業員だけではなく、その従業員と生計を一にする親族なども対象になります。
(※17)雑損控除とは|国税庁
4-4. 住宅ローン控除
住宅ローン控除とは、正式には住宅借入金等特別控除のことであり、住宅ローンを利用してマイホームを新築・取得・増改築などをおこなった場合に受けられる控除です。(※18)
住宅区分や居住年数に応じて、借入限度額や控除期間が異なります。また、2022年度の税制改正により、住宅ローン控除は変更点があるため、注意が必要です。
住宅ローン控除を受ける場合、1年目は確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整で対応できます。
(※18)No.1212 一般住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)
5. 控除の申告で必要な「控除証明書」とは?
控除証明書とは、各種保険料を支払ったことを証明するための書類であり、年末調整や確定申告で各種保険料控除を受ける場合に必要になります。
控除証明書は、郵送だけでなく、電子データで交付を受けることも可能です。(※19)申告書には、控除証明書をもとに内容を記載します。また、場合によっては、控除証明書を申告書に添付する必要があります。そのため、送付された控除証明書は、きちんと管理をおこなうことが大切です。
(※19)控除証明書等の電子的交付について|国税庁
6. 控除のしくみを知って適切に年末調整をおこなおう!
控除には、所得控除と税額控除があり、従業員それぞれの事情を考慮して、その年の所得税を減らすことができます。寄付金控除や医療費控除、雑損控除、住宅ローン控除(1年目)は、基本的には年末調整を受けられないため、確定申告で控除を受ける必要があります。
また、年末調整では、各種書類を提出する際に、控除証明書などを添付しなければならないこともあるため、適切に管理することが大切です。