就業時間や労働時間など、仕事に従事した時間を表すさまざまな言葉が存在します。ただし、同じ意味で使われるものもあれば、意味が異なるものもあるため注意しましょう。
言葉の違いを把握しておかなければ、賃金を正しく計算することができず、トラブルが発生する可能性もあります。本記事では、就業時間と労働時間・勤務時間の違いや計算方法について解説しますので、理解を深めておきましょう。
労働時間でよくある質問を徹底解説
この記事をご覧になっているということは、労働時間について何かしらの疑問があるのではないでしょうか。
ジンジャーは、日々に人事担当者様から多くの質問をいただき、弊社の社労士が回答させていただいております。その中でも多くいただいている質問を32ページにまとめました。
【資料にまとめられている質問】
・労働時間と勤務時間の違いは?
・年間の労働時間の計算方法は?
・労働時間に休憩時間は含むのか、含まないのか?
・労働時間を守らなかったら、どのような罰則があるのか?
目次
1. 就業時間の意味とは?
就業時間とは、業務を開始してから終了するまでの休憩時間も含めた時間という意味です。たとえば、9時に営業を開始し、12時から1時間の休憩を挟み、18時に営業を終了するような会社の場合は、9時〜18時までの9時間が就業時間となります。
就業時間は、就業規則の絶対的必要記載事項となっているため、開始時間と終了時間、休憩時間を就業規則内において必ず定めなくてはいけません。
また、就業規則に定めた後に労働基準監督署に届け出をし、就業規則を社内に掲示するなどして従業員に周知する義務もあります。
1-1. 就業時間には休憩も含まれる
前述の通り、就業時間には休憩も含まれます。就業時間という言葉は、始業から終業までの全体を指すことを覚えておきましょう。
なお、休憩は労働時間に応じて付与する必要があります。労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間の休憩を与えなくてはいけません。
2. 就業時間と労働時間・残業時間の違い
就業時間と似た言葉として、労働時間・残業時間などがあります。ここでは、それぞれの言葉の意味を確認しておきましょう。
2-1. 労働時間とは?
労働時間とは、使用者や監督者の指揮命令下に置かれている時間、つまり指示や命令を受けて実際に労働に従事している時間のことです。就業時間と違い、労働時間には休憩時間を含めません。
たとえば、9時に営業を開始し、12時から1時間の休憩を挟み、18時に営業を終了するような会社の場合は、9時〜12時、13時〜18時までの8時間が労働時間となります。
労働時間の考え方には。大きく分けて次の3種類があります。
- 法定労働時間:労働基準法で定められた1日8時間、週40時間の上限時間
- 所定労働時間:法定労働時間内で会社が自由に定めた労働時間
- 実労働時間:従業員が実際に労働をおこなった時間
賃金計算上の労働時間は、法定労働時間の範囲内にある場合、1分単位で計算しなくてはいけません。また、1カ月における時間外労働、休日労働、深夜労働の合計時間数に関しては、30分未満は切り捨て、30分以上1時間未満は1時間に切り上げて計算することができます。
ただし、日々の時間外労働時間などは1分単位で管理する必要があるため、注意しましょう。
このように、「法定労働時間」「所定労働時間」「実労働時間」この3つについては、賃金計算や労務管理にも関わってきますので、しっかり押さえておきましょう。
2-2. 残業時間とは?
残業時間とは、会社で定めた就業時間を超えて働いた時間のことです。法定外残業と法定内残業の2つが存在し、法定外残業をおこなう場合は、事前に36協定を締結する必要があります。
ただし、36協定を締結した場合でも残業時間の上限は存在するため注意しましょう。残業時間については後ほど詳しく解説します。
2-3. 実労働時間とは?
実労働時間とは、実際に働いた時間のことです。実労働時間には休憩時間は含まれませんが、残業時間は含まれます。
たとえば、9時に始業し、12時から1時間の休憩を挟み、18時に終業する会社において、19時まで残業した場合、9時〜12時、13時〜19時までの合計9時間が実労働時間となります。
2-4. 勤務時間とは?
勤務時間は、就業時間と同じ意味で使用されるため、両者に違いはありません。どちらを使用するかは、それぞれの会社によって異なります。
3. 残業時間とは?

残業時間とは、就業時間を超えて働いた時間のことです。残業には、「法定外残業」と「法定内残業」の2種類があります。
3-1. 法定外残業とは?
法定外残業とは、労働基準法で定められた1日8時間、週40時間の上限を超えて働いた時間を指します。
たとえば、就業時間が9時〜18時(休憩1時間)までの人が、20時まで残業した場合、18時〜20時までの2時間が法定外残業となります。
法定外残業の場合、次の割増率を乗じた割増賃金を支払わなくてはなりません。
- 残業手当(時間外手当):25%
- 深夜手当(22時~翌朝5時):25%
- 休日手当(法定休日):35%
※時間外労働が1カ月60時間を超えた場合は50%
仮に、18時〜23時まで残業した場合、18時〜22時までは25%、22時〜23時までは深夜手当が加算され50%の割増率で計算しなくてはなりません。なお、従業員に残業を命ずる場合は、事前に労使間で36協定を結び、労働基準監督署に届け出をする必要があります。
3-2. 法定内残業とは?
法定内残業は、労働基準法で定められた法定労働時間内でおこなった残業を指します。
たとえば、就業時間が9時〜14時で16時まで残業した場合、2時間の残業となりますが、実労働時間は労働基準法の上限8時間を超えていませんので法定内残業となります。
法定内残業の場合は、賃金を割増する必要はありません。また、36協定や労働基準監督署への届け出も不要です。
4. 就業時間の計算方法
就業時間の計算方法は、賃金を正しく算出するためにも正しく知っておく必要があります。ここでは、パターンごとに残業なども含めた計算方法について紹介するので、チェックしておきましょう。
4-1. 通常勤務の場合
始業が10時、終業が19時と定められている会社の場合は、以下の通りとなります。
- 10時~13時 所定労働時間…3時間
- 13時~14時 休憩時間…1時間
- 14時~19時 所定労働時間…5時間
就業時間は9時間ですが1時間の休憩を挟むため、実労働時間は8時間となります。法定労働時間内に収まっているため、割増賃金の発生はありません。
4-2. 法定労働時間内で残業をおこなった場合
始業が10時、終業が16時ですが17時まで残業した場合は、以下の通りとなります。
- 10時~13時 所定労働時間…3時間
- 13時~14時 休憩時間…1時間
- 14時~16時 所定労働時間…2時間
- 16時~17時 法定内残業…1時間
就業時間は7時間となります。1時間の休憩を挟むため、所定労働時間は5時間です。さらに1時間の法定内残業があるため実労働時間は6時間となります。この場合も法定労働時間内に収まっているため、割増賃金の発生はありません。
4-3. 法定労働時間外で残業をおこなった場合
始業が10時、終業が19時ですが23時まで残業した場合は、以下の通りとなります。
- 10時~13時 所定労働時間…3時間
- 13時~14時 休憩時間…1時間
- 14時~19時 所定労働時間…5時間
- 19時~23時 法定外残業…4時間
就業時間は13時間となります。1時間の休憩を挟むため、所定労働時間は8時間です。さらに、4時間の法定外残業があるため実労働時間は12時間となります。
ただし、労働基準法上の1日の上限8時間を超えているため、4時間は法定外残業となり、19時~22時の3時間は25%、22時~23時の1時間は深夜手当を加算した50%の割増賃金が発生します。
4-4. 遅刻や早退ががあった場合
始業が10時、終業が19時ですが、遅刻し11時に出社した場合は、以下の通りとなります。
- 10時~11時 遅刻…1時間
- 11時~13時 所定労働時間…2時間
- 13時~14時 休憩時間…1時間
- 14時~19時 所定労働時間…5時間
1時間遅刻し、休憩を1時間取得しているため、就業時間は8時間、実労働時間は7時間となります。
遅刻により1時間不足している分については、「ノーワーク・ノーペイの原則」により減給することが可能です。減給する場合は、自社の就業規則に従って処理しなくてはなりません。早退があった場合も同様の計算となります。
4-5. 深夜労働がある場合
深夜労働とは、22時から5時までの間に労働するという意味です。深夜労働が発生した場合には、割増賃金が発生します。給与を計算する際には、「深夜労働時間数 × 時給(1時間あたりの基礎賃金)× 1.25」の公式にあてはめると、算出が可能です。
深夜時間に時間外労働(法定時間外の労働)があった場合には1.50、法定休日である場合には1.60を、該当するもの全てを加えて掛け算することで算出ができます。
たとえば始業が14時、終業が19時の従業員が23時に帰宅した場合は、以下の通りとなります。
- 14時~19時 所定労働時間…5時間
- 19時~22時 法定内残業時間…3時間
- 22時~23時 深夜労働かつ時間外労働…1時間
深夜労働にあたる時間と時間外労働時間(法定外残業)にあたる時間がかぶっているため、この場合の割増率は両方の割増率を足し合わせて50%となります。
5. 就業時間が特殊である労働形態
法律で定められた労働形態であるものの、就業時間の取扱いが通常とは異なる労働形態が4つ存在します。定時制とは異なる箇所を理解し、自社に適した就業時間の管理を実現しましょう。
5-1. 変形労働時間制
変形労働時間制とは、1カ月単位、もしくは1年単位で実労働時間の平均が法定労働時間を超えていなければ、特定の日や週において法定労働時間を超えて働かせることが可能となる制度です。したがって、割増賃金が必要となる残業時間の数え方が通常とは異なるため注意しましょう。
季節により需要の変動性が高いレジャー、旅館、スキーなどの事業をおこなう企業は、1年を通して固定されている就業時間で労働するより効率的であるため、導入されていることが多いです。
5-2. フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、仕事の始業や終業のタイミングを従業員自身が自由に選択できる制度です。必ず勤務しなければならない「コアタイム」という特定の時間帯を設けている企業が多く、その前後の就業時間は、自身の裁量で決められます。
清算期間内(あらかじめ定めた期間)に、所定労働時間分(あらかじめ定めた労働時間)働くよう調整し、労働時間が上回った場合には、残業代が発生する制度です。
5-3. 裁量労働制
裁量労働制とは、特定の職種のみ適用が認められる、就業時間を労働者の裁量に委ねる制度です。裁量労働制は、大きく分けると3種類の制度が存在します。
- 事業場外みなし労働時間制度(外回り営業職などが該当)
- 専門型裁量労働制(研究職、開発職などが該当)
- 企画型裁量労働制(マーケティング職、データ分析職などが該当)
出勤や退勤時刻を自由に選択できるため、自身の裁量によって早く業務を終えることも可能です。休日労働、深夜労働への手当はありますが、時間外労働に対してはあらかじめ考慮して賃金に組み込むため残業代が発生しない制度です。
5-4. シフト制
シフト制とは、従業員ごとに異なる始業時刻・終業時刻を設定する仕組みです。勤務時間が長くなりがちな介護職・サービス職・販売職などに適用されることが多いでしょう。
また、アルバイトやパートの従業員を雇用するときにもよく用いられます。シフト制を導入すると、従業員ごとの労働時間管理が複雑になるため、ミスのないよう丁寧に管理しなければなりません。
6. 就業時間を管理するときの注意点
就業時間を管理するときは、以下のような点に注意しましょう。
6-1. 就業時間は1分単位で管理する
就業時間は1分単位で正確に管理しなければなりません。従業員が働いた分の賃金は、全額を支払うべきことが義務付けられているからです。
たとえば、15分未満の労働時間を切り捨てると、全額を支払うことになりません。就業規則のなかに会社独自のルールを設定しても、法律に違反している部分は無効となるため注意しましょう。
6-2. 就業時間を勝手に変更することはNG
原則として、設定している就業時間を従業員の同意なしに変更することはできません。就業規則や雇用契約にも関わる変更であるため、基本的には従業員の同意を得るようにしましょう。
ただし、就業規則や雇用契約のなかで、就業時間が変更される可能性について記載している場合は、変更が認められる場合もあります。その場合でも、従業員の不利益がないように配慮することは必要です。
6-3. 着替えの時間も就業時間に含まれるケースがある
着替えの時間も就業時間に含まれる場合があります。たとえば、会社が指定した制服や作業着に着替える時間は、労働時間に含まれると考えるのが一般的です。また、休憩時間中に自席で電話番をさせるようなケースも、労働時間と見なされるため注意しましょう。
7. 就業時間と労働時間の違いを理解して賃金を正しく算出しよう!
今回は、就業時間の意味や計算方法、労働時間との違いなどを解説しました。就業時間は、会社の就業規則で定められた始業から終業までの時間です。一方で、労働時間は使用者の指揮命令下にある時間であり、労働時間のなかには「法定労働時間」「所定労働時間」「実労働時間」が含まれます。
従業員へ正確な賃金を支払うためにも、就業時間や労働時間についてしっかりと理解しておかなければなりません。両者の違いが曖昧なままになってしまうと、賃金計算のミスにつながってしまう恐れもあります。今回の記事を参考に、就業時間と労働時間の違いをしっかりと把握しておきましょう。
労働時間でよくある質問を徹底解説