賃金規定の変更の流れを解説!労基署への届け出や必要な手続きとは? |HR NOTE

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賃金規定の変更の流れを解説!労基署への届け出や必要な手続きとは?

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このページでは、賃金規定を変更する際の流れについて、4ステップで詳しく解説しています。賃金規定の変更は使用者と従業員からの合意が得られるのであれば、変更が可能です。スムーズに賃金規定を変更するために、その流れについて確認しましょう。

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1. 賃金規定は変更できる?

賃金規定は、就業規則に含まれる要素のひとつで、企業が必ず記載しなければならない部分です。この賃金規定は、使用者および従業員との間で合意があった場合に、変更することができます。このことは、労働契約法8条のなかで決められています。[注1]

従業員から合意が得られていない状況で、就業規則を使用者の判断で一方的に変更することは、原則できません。従業員が不利になるような賃金規定の変更を、使用者の一方的な判断で行わせないためです。

賃金規定の変更は大変デリケートな問題であるため、とくに従業員の合意については判断に慎重さが要されます。

一方で、結果として従業員にとって不利になるような賃金規定の変更が提案されたとして、それについて従業員から合意が得られなかったとしても、以下2つの条件を満たすのであれば変更は可能です。

変更後の就業規則について従業員に周知している
変更後の就業規則が客観的に見て合理的だと判断される

[注1]労働契約法|e-Gov法令検索

2. 賃金規定を変更するときに必要な手続き

賃金規定の変更には、使用者と従業員の合意が必要です。変更するにあたって、最終的に手を加えた後の就業規則については、その内容をまとめて改めて労働基準監督署へ届け出をしなければいけません。

以上を踏まえ、できるだけスムーズに賃金規定を変更するための流れを4つのステップで解説いたします。

2-1. ステップ1:変更案の作成

今回の賃金規定の変更にあたって、どういった点に手を加えるのかわかりやすいように案を作成します。変更案はさまざまな作成方法がありますが、現状の給与の内訳を書き出し、それと比較してどういった点に手が加えられるのか並べて記載するとわかりやすいでしょう。

賃金規定には、労働基準法などさまざまな法律が関わってきます。作成した変更案で問題がないか、行政官庁などで確認することも必要です。

変更案が完成したら、実際にその案で計算するとどうなるか試算をして、最終調整を行います。問題がなければ、取締役会にて提出して経営陣からの承認を得ます。

その後、賃金規定を変更したことを労働基準監督署に届け出るために、就業規則の変更届を作成します。届け出の書類について、その様式は法律で決められているわけではありません。各地方労働局で配布されているものがあるので、そちらを利用しても良いでしょう。

部分的な変更については、どういった点が変わったのか古いものと新しいものとで並べて記載したほうがわかりやすいです。一方で、大幅に手を加えるのであれば、就業規則をすべて作り直したほうが良いケースもあります。

2-2. ステップ2:代表者の意見書作成

就業規則を変更するには、従業員の合意も必要です。具体的には、従業員のうち過半数の代表者の意見をまとめた意見書の提出が求められます。条件に当てはまる労働組合があれば、その代表者の意見書が必要です。

この代表者は、監理や監督の立場にあったり、使用者のほうから指名した人であったりしてはいけません。

変更についてとくに意見がなかったとしても、本文として「特になし」と記載した意見書が必要です。また、仮に反対意見であったとしても、変更の効力には影響を及ぼしません。

2-3. ステップ3:就業規則変更届の提出

完成した就業規則変更届を代表者の意見書と合わせて労働基準監督署へ届け出します。複数の事業所があり、それぞれで就業規則を変更するのであれば、それぞれで就業規則変更届を作成しなければいけません。

ただし、本社もどの事業所でも同じ内容なのであれば、届け出をまとめて行うことが可能です。これを「本社一括届出制度」といいます。[注2]

提出する際は、控えの分と合わせて各書類をそれぞれ2部ずつ用意しましょう。労働基準監督署の窓口に直接持ち込むだけでなく、郵送やCD-ROMなどによる電子媒体での提出も可能です。このほか、電子申請も行えます。

[注2]就業規則一括届出制度|厚生労働省東京労働局

2-4. ステップ4:変わった就業規則の周知

就業規則の変更が認められたら、従業員に対して周知を徹底する必要があります。この周知の徹底については、労働基準法の第106条で触れられています。[注3]

これまでの手順を踏まえて問題なく賃金規定を変更できたとしても、その後の周知が徹底されていなかったために、トラブルに発展するケースは珍しくありません。すべての従業員が見られる場所に提示するだけでなく、メールなどを用いてそれぞれで確認できるようにしましょう。

[注3]労働基準法|e-Gov法令検索

3. 賃金規定を変更するときの注意点

賃金規定を変更する際は、変更案を作成する段階から以下3点に注意することが極めて重要です。

  • 法律の遵守に加えて、直近の法改正や判例を踏まえている
  • 従業員にとって不利になるような変更内容ではない
  • その企業の現状と合致した内容になっている

とくに、直近の法改正や判例については、細かく確認したいところです。就業規則に関連する法律には、これまでに挙げてきた労働契約法や労働基準法のほかに、パートタイム労働法や男女雇用機会均等法、労働安全衛生法など多岐にわたります。そして、これらはなにかしら毎年改正がなされています。

また、従業員にとって一方的に不利にならないようにすることはもちろんのこと、自社の現状と合致した変更内容になっていることも重要です。賃金規定や就業規則は、従業員が働きやすい環境を用意するために設けるルールです。どこかにアンバランスな部分があってはいけません。

たとえば、複数の雇用形態があるにもかかわらず、一部について記載されていないような就業規則はあってはいけません。このほか、他社が作成したものや厚生労働省が提示しているモデルをそのまま流用しても、それがその企業にふさわしいかどうかはわからない部分があります。

その企業に合った就業規則を作り、また従業員が安心して働けるように改善を試みるため、視野を広く持つことが大切です。

3-1. 変更をするためには合理的な理由が必要

賃金規定は企業・従業員双方にとって重要な決まりのひとつですが、変更の際に必ず従業員の同意を得なければならないというものではありません。しかし、企業側の一方的な都合による変更で従業員にとって不利益となることがないように、従業員の意見書の添付と周知が義務付けられています。

つまり、賃金規定を変更する際、とくに従業員にとって不利益な内容になる場合には合理的な理由が必要です。従業員の理解を得て今後も業務に従事してもらうためには、変更が必要な理由や変更の範囲、企業と従業員での交渉の可否などについて明確に説明しましょう。

ただし、たとえ従業員の許可を得ていたとしても、法律に違反する賃金規定に変更することはできません。賃金規定を変更する際は法律を守り、双方が納得できる着地点を見つけることが大切です。

3-2. 法改正の内容の確認が必要

賃金規定の変更では、関連する法律を遵守していることを確認しながら進めましょう。また、最低賃金に対応した賃金規定になっていることも確認しておかなければなりません。
各法律は不定期な見直し・改訂が行われているので、最新の情報を確認することが大切です。

賃金規定の変更の際に確認が必要な法律は以下のとおりです。

  • 労働基準法
  • 労働契約法
  • 労働安全衛生法
  • 高齢者雇用安定法
  • 男女雇用機会均等法
  • 育児介護休業法
  • パートタイム・有期雇用労働法(2021年4月1日より全面施行、「同一労働同一賃金」のこと)
  • 労働者派遣法(2020年4月1日より施行)

とくに注目すべきは2021年4月1日より施行された「パートタイム・有期雇用労働法」です。少し前までは「パートタイム労働法」と呼ばれており、正規雇用労働者と非正規雇用労働者で起きている不合理な待遇差の改善を目的とした法律です。

働き方改革が進む中、賃金規定を見直す際にはぜひ取り入れたい項目のひとつです。従業員の待遇格差を減らし、働きやすい環境づくりを推進しましょう。

3-3. 労働基準監督署長への届出をおこなう

賃金規定を変更した際は、労働基準監督署長に就業規則変更届を提出しなくてはなりません。

また、賃金規定も就業規則のひとつなので、意見書の添付も必要です。労働組合がある場合には労働者の過半数を代表する労働組合の意見書を、労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する従業員の意見書を提出しましょう。

なお、就業規則変更届を提出しない場合は30万円以下の罰金が課される可能性もあるので注意が必要です。

4. 賃金規定は携わる誰もが納得いくように作ることが大切

賃金規定は、賃金や給与に関わる重要な取り決めです。作る際はもちろんのこと、手を加える際も誰もが納得できるように慎重に判断しなければいけません。賃金規定の変更は、携わる誰もが納得して、安心して働ける環境を作れるように心がけましょう

 

【監修者】涌井好文(社会保険労務士)

涌井社会保険労務士事務所代表。就職氷河期に大学を卒業し、非正規を経験したことで、労働者を取り巻く雇用環境に興味を持ち、社会保険労務士の資格を取得。 その後、平成26年に社会保険労務士として開業登録し、現在は従来の社会保険労務士の業務だけでなく、インターネット上でも活発に活動を行っている。

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