試用期間とは、雇用した従業員の適正や能力を判断するための期間のことです。雇用契約書とは、雇用主が労働条件などを明示し、従業員から同意を得る書類を指します。本記事では、試用期間について雇用契約書に記載する必要性、必要な追記事項、「解約権留保付労働契約」などをわかりやすく解説します。
雇用契約は法律に則った方法で対応しなければ、従業員とのトラブルになりかねません。
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目次
1. 試用期間と雇用契約書についておさらい
まず、試用期間と雇用契約書の概要を今一度確認しましょう。また間違いやすいものとして、試用期間と有期雇用契約の違い、雇用契約書と労働条件通知書の違いについてもあわせて解説していきます。
1-1. 試用期間とは?有期雇用契約との違い
試用期間とは、企業が従業員の適性や能力を確認し、本採用に相応しいか判断するために設ける期間のことです。一般的には、正社員として本採用すべきかどうかを検討する目的で設置されます。
一方で有期雇用契約とは、企業が一定の期間限定で、従業員を雇用したい場合におこなう契約のことです。両者は異なる存在であるため注意しましょう。
1-2. 雇用契約書とは?労働条件通知書との違い
雇用契約書とは、企業が従業員に対して労働条件を提示し、従業員から合意をもらうために交付する書類を指します。法的義務はありませんが、従業員との認識に相違がないよう、作成することが一般的です。
一方で労働条件通知書とは、労働基準法によって規定された「絶対的明示事項」を明記した通知書になります。こちらは作成・交付が義務付けられている書類です。また、トラブルを避けるため「相対的明示事項」をあわせて記載している企業も少なくありません。
相対的明示事項は書面による交付は義務付けられていないため、労働条件通知書に記載していないという企業もあるでしょう。しかし、労働者に明示する義務はあるため、伝えてなかった・聞いていないなどといったトラブルにならないよう、合わせて記載しておくことをおすすめします。
具体的な明示事項を確認したいという方は、当サイトで無料配布している「雇用契約手続きマニュアル」の資料をご確認ください。絶対的明示事項と相対的明示事項の他にも、雇用契約の手続きや注意点、よくある質問もまとめているので、雇用契約の基本を再確認したい方にもおすすめです。
2. 試用期間を雇用契約書にも記載すべきか?
試用期間を設ける際、雇用契約書に記載する義務はありません。ただし、雇用契約書は雇用主が従業員に対して労働条件を提示し、双方納得のもと捺印を押すものです。
そのため、のちに認識相違によるトラブルへと発展しないよう、試用期間に関する情報も記載しておくことが望ましいでしょう。
ちなみに、労働条件通知書への記載は必須であるため、漏れなく明示しなければなりません。
労働条件通知書と雇用契約書は、「労働条件通知書兼雇用契約書」として兼用することが可能です。その際には、試用期間に関する項目を含め、労働条件通知書に記載すべき事項の抜け漏れがないよう注意しましょう。
2-1. 試用期間を雇用契約書に記載する必要がない場合
前述の通り、雇用契約書に試用期間に関する事項を記載する義務はありませんが、トラブルを防止するためにも明記しておくとよいでしょう。
試用期間について雇用契約書に記載しない場合は、就業規則のなかにルールを記載し、従業員へ周知しておくことが大切です。試用期間の長さや期間中の給与については、認識の相違やトラブルが発生しやすいポイントであるため、何らかの形でルールを明記しておきましょう。
3. 雇用契約書に試用期間を追記する方法
ここからは、雇用契約書に試用期間を記載する方法を解説します。
試用期間の情報を雇用契約書に追記するには、Web上にあるテンプレートを参考にするのもよいでしょう。ただし、労働条件通知書兼雇用契約書を作成する際には、そのテンプレートに「絶対的明示事項」と該当する「相対的明示事項」が含まれているか確認したうえで利用するようにしましょう。
3-1. 試用期間を設ける際に記載しておくべき事項
試用期間を雇用契約書に追記する際には、以下の情報を記載することが望ましいでしょう。
- 試用期間の長さ
- 本採用の判断基準
- 期間を変更する可能性がある旨
- 本採用しない可能性がある旨
上記の項目を含めた記載例は、以下の通りです。
【雇用期間】
1.令和〇〇年 〇〇月 〇〇日~ 令和〇〇年 〇〇月 〇〇日まで
2.本人の能力を特段評価をしたときは、期間を短縮することがある
3.本人の勤務成績、能力、健康状態の評価が社員として適当でないと評価した場合には、本採用しないことがある
3-2. 試用期間終了後の勤務形態
試用期間を設ける場合は、期間中のルールについてはもちろん、試用期間終了後の扱いについても明確にしておきましょう。とくに試用期間終了後に勤務形態が変わる場合は、雇用契約書に明記しておくことが大切です。
たとえば、試用期間終了後には夜勤がある、三交代制で勤務する、といった場合は雇用契約書に記載しておきましょう。急な変化に従業員が戸惑うことがないよう、事前に説明しておく必要もあります。
3-3. 試用期間終了後の配属先
試用期間中の働き方や適性を確認してから配属先を決定する場合は、雇用契約書に明記しておきましょう。試用期間終了後に所属部署が変更になる可能性について明記しておくことで、後々のトラブルを防止できます。
4. 試用期間中における「解約権留保付労働契約」とは?
解約権留保付労働契約とは、試用期間中の従業員を解雇したり、期間後の本採用を拒否したりする権利が付いた労働契約のことです。ただし、簡単に解雇が認められるわけではありません。
たとえば、仕事をこなすための能力が不足している場合でも、まずは適切な指導やサポートをおこなうことが必要です。入社してすぐに能力を発揮できるとは限らないため、指導やサポートをおこなわずに解雇することは基本的に認められません。解約権留保付労働契約であるからといって、自由に解雇できるわけではないことを覚えておきましょう。
5. 試用期間の設定に違法性が問われる場面
試用期間は法律に則って正しく設定する必要があります。試用期間を不適切な形で運用したときは無効とされたり、罰則を科せられたりするケースもあるので気をつけましょう。
5-1. 試用期間の設定が長すぎるケース
多くの企業は、試用期間を3~6カ月程度に設定しています。試用期間の長さに法的な規制はないため、期間がこれより短かったり長かったりしても基本的には問題ありません。
ただし、合理的な範囲を超えて試用期間を設定したときには違法とみなされることもあります。過去には、見習い社員として約1年間、その後試用期間を6カ月~1年間設けた企業が、合理的範囲を超えているとみなされたケースがあります。このような場合には、試用期間の設定が無効となるため注意しましょう。
なお、給与の支払い額を大きく削減するなどの目的で故意に長期間の試用期間を設けた場合、違法性があると判断される可能性もあります。
5-2. 試用期間中の給与が最低基準を満たしていないケース
試用期間中は、給与を減額して支給することが可能です。最低賃金を下回ることも認められますが、最低賃金から最大20%までしか減額できないため注意しましょう。それ以上減額すると、違法となります。
また、試用期間中における賃金の減額については、従業員にも説明しておきましょう。
5-3. 試用期間後むやみに従業員を解雇するケース
試用期間を本採用に進むためのテスト期間として扱うのも不適切です。
たとえば複数の従業員を雇用して試用期間を設け、期間中の働きを比較してより成績のいい者のみを採用するというケースが考えられます。また、試用期間を終えたタイミングで不適格であることを指摘し、本採用に進ませないケースもあるでしょう。
しかし、試用期間とは原則としてそのまま本採用へと進むためのステップです。試用期間の働きの良し悪しをチェックすることはもちろん大切ですが、むやみに従業員を解雇してしまうと解約権を濫用しているとみなされ、違法とされることがあります。
5-4. 試用期間を不当に再延長するケース
試用期間は面接などの際に従業員に明示し、合意を得る必要があります。従業員が合意した試用期間をむやみに延長したときには、違法とされる可能性があるので気をつけましょう。
試用期間満了のタイミングで、従業員の合意を得ず期間の延長をおこなうことは認められていません。
試用期間を延長できるのは、社会通念上適切と考えられる明確な理由がある場合に限られます。また、延長する際には従業員にその期間を明示し、合意を得なければなりません。
5-5. 試用期間中に社会保険に加入させないケース
試用期間中の従業員であっても、基本的には社会保険に加入させなければなりません。本採用していないからといって、社会保険に加入させないと法律違反となり、罰則を受ける可能性があります。
健康保険・厚生年金保険・雇用保険などの手続きを忘れないようにしましょう。
6. 試用期間は労働条件通知書兼雇用契約書に記載しておこう!
試用期間とは、実際に働いてもらうなかで従業員の適性を見極められる重要な期間です。試用期間を適切に運用することは、企業と従業員それぞれに大きなメリットをもたらします。
ただし、試用期間の従業員にとって負担のかかる運用ルールや安易な解雇は、企業の権利濫用とみなされることがあります。試用期間に関する社内ルールが違法とされることがないよう、慎重な運用を心がけましょう。
また、トラブルを防止するためにも、試用期間について労働条件通知書兼雇用契約書に記載しておくことが大切です。