試用期間満了による解雇が正当な条件とは?不当解雇の対策方法も紹介 |HR NOTE

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試用期間満了による解雇が正当な条件とは?不当解雇の対策方法も紹介

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試用期間満了後、本採用を拒否することは可能でしょうか。労働者に明らかな勤務態度不良が見られる場合や、採用後の経歴詐称が発覚した場合は労働者を解雇することができます。労働者とのトラブル防止のため、本採用を拒否が正当とされる条件、不当解雇とならないよう対応策を確認しておきましょう。

1. 試用期間満了での解雇は可能

労働者を雇用する際に3ヵ月や半年の試用期間を設け、自社に合った労働者かどうか見極める企業が少なくありません。試用期間中は、使用者に一定の範囲内での解雇権が認められています。そのため、労働者に十分な能力や適格性がなく、自社の業務を期待通りに遂行できないと使用者が判断する場合、試用期間の満了後に本採用を拒否することができます。

ただし、試用期間とは、本採用をするかどうかを自由に決められる「お試し期間」ではありません。試用期間は「解約権留保付労働契約」と呼ばれる労働契約の一種と考えられています。

つまり、試用期間中も使用者と労働者の間で労働契約が成立しているため、本採用を拒否することは「解雇」に該当します。労働契約法上、使用者は労働者を合理的な理由なしに解雇することはできません。

労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

引用:労働契約法 | e-Gov法令検索

したがって、試用期間満了後に本採用を拒否する場合は、労働者を解雇するための正当な理由が必要になります。労働者とのトラブル防止のため、労働者を期間満了後に解雇できる条件を確認しておくことが大切です。

1-1. 解雇には4種類が存在する

企業側から従業員に対して一方的に労働契約の解除をおこなう「解雇」ですが、具体的には以下の4種類が存在します。

  • 普通解雇:従業員による「能力不足」「勤怠不良」「明らかな協調性の欠如」「法令・社内規則違反」などを理由にした解雇
  • 整理解雇:従業員ではなく、企業の経営上の問題により生じる解雇(「リストラ」などが該当する)
  • 懲戒解雇:従業員が企業の秩序を乱すような重大な不祥事・非行をおこなった場合の制裁としておこなう解雇。懲戒処分の中で最も重い処分。
  • 諭旨解雇:懲戒処分の中で「懲戒解雇」よりも一つ軽い処分。企業が従業員に自主退職を促し、今後のキャリアや生活に支障をきたさないための温情措置。

2. 試用期間満了時に解雇するための条件

それでは、どのような場合に本採用を拒否することができるのでしょうか。

試用期間後の本採用拒否をめぐる裁判例を確認すると、試用期間中に勤務態度不良や職務不適格がみられる場合や、採用後に経歴詐称が発覚した場合は、本採用の拒否が認められています。

ただし、いずれの場合も就業規則に本採用拒否についてのルールを記載しておくことが大切です。試用期間満了時に労働者を解雇することが可能なケースや条件を解説します。

2-1. 労働者に勤務態度不良が見られる場合

試用期間中の無断欠勤や無断欠席が多く、指導しても改善されないなど、労働者に勤務態度不良が見られる場合は、試用期間満了時に解雇することができます。

実際に1971年の日本コンクリート工業事件では、「試用期間中の出社率が90%に満たない」「無断欠席が3回以上あった」ことを理由として、試用期間後の解雇が正当であると認められました。

また、1968年の三協工業事件でも、試用期間中の遅刻回数が多く、上長が注意しても改善が見られないことを理由とした本採用拒否は、解雇権の濫用には当たらないとしています。

2-2. 労働者の職務遂行能力が著しく不足・欠如している場合

労働者の職務遂行能力が著しく欠如しており、職務不適格だと判断できる場合も、試用期間満了後に本採用を拒否することが可能です。

過去の裁判例としては、1973年の静岡宇部コンクリート事件があります。

東京高等裁判所は、運転手の著しい不注意により、勤務中にコンクリートミキサー車の操作を何度も誤ったことを理由として、試用期間後の解雇を有効だと認めています。

また、1965年の新田交通解雇事件では、試用期間中の労働者が著しく協調性を欠き、同僚に対する暴言を繰り返したことを理由とした解雇に対して正当だと認めています。

2-3. 採用後に経歴詐称が発覚した場合

採用後に選考結果が変わるような経歴詐称が発覚した場合も、試用期間後に解雇できる可能性があります。

例えば、2009年のアクサ生命保険ほか事件では、「履歴書に意図的に虚偽の記載をした」「前職でトラブルを起こし、解雇されていた事実を秘匿していた」といった理由により、本採用拒否をおこなったことは解雇権の濫用には当たらないとしています。
参考:(8)試用期間|雇用関係紛争判例集|労働政策研究・研修機構

3. 試用期間で不当解雇になりやすい条件とは

ここまで、試用期間終了後の解雇が認められる条件と事例をともに解説しました。

ここからは、試用期間で不当解雇と判断されやすくなる条件について2つ紹介します。不当解雇に該当しないよう、あらかじめ以下のポイントを押さえておきましょう。

3-1. 解雇予告をおこなわない場合

試用期間の従業員を解雇するには、試用期間開始日から14日以上経過した場合には、必ず解雇予告をおこなわなければいけません。予告なしに解雇をしてしまうと、不当解雇に該当し、裁判に発展する可能性があるため注意しましょう。

また予告のタイミングは、解雇日から30日以上前におこなう必要があります。

解雇予告日が解雇日から30日前に予告が出来ない場合には、解雇予告手当を支給する必要があります。

3-2. 本採用に向けた指導・教育をおこなわなかった場合

従業員の能力不足や、勤怠不良等の問題により試用期間後に解雇をおこなう際には、「上司や指導者からの適切な指導・措置があったか」という観点が重要となります。

特に新卒採用や未経験採用の場合には、指導や教育をおこなう必要があるため、不十分の場合には、不当解雇に該当しやすくなるでしょう。

4. 本採用可否が不当解雇とならないための対策

ここからは、本採用可否が不当解雇とならないよう企業がおこなうべき具体的な対策について解説します。

新卒社員と中途社員では、従業員に求める要素が異なるため、両方のパターンで必要な対策について把握しておきましょう。

4-1. 新卒社員への対策

先述の通り、新卒社員に関しては企業による研修や指導等を通した十分な教育がおこなわれているかが重要となります。

具体的な対策としては、以下の観点から試用期間中の指導面を補うことが有効と考えられます。

  • 丁寧に体系的な指導をおこなっているか
  • 日報等を通して、フィードバックの機会を提供しているか
  • 問題点においては、改善を促したか

日報に関しては、裁判時に継続的に十分な教育をおこなったという証拠ともなりうるため、取り入れるとよいでしょう。

4-2. 中途社員への対策

中途社員の場合には、裁判で求められる指導レベルは、新卒採用と比較して緩やかであるといえます。

そのため採用時に前提としていた能力・経験が、採用後に不足していると判明した場合には、本採用の拒否も認められやすい傾向にあるでしょう。

とはいえ、すぐに解雇と判断することは、不当解雇となるリスクが高まるため、避けるのが望ましいでしょう。中途社員においても、まずは指導を通して改善を促すようにしましょう。

5. 試用期間満了時に解雇する際の流れ

試用期間満了時に労働者を解雇したい場合、いきなり本採用を拒否するのではなく、まず退職勧奨をおこないましょう。従業員が退職勧奨に応じない場合は、本採用拒否通知書を交付し、本採用を拒否する理由を労働者に明示する必要があります。

その後、通常の解雇の場合と同様に解雇予告をおこなうか、所定の解雇予告手当を支払いましょう。試用期間満了時に労働者を解雇するときの手続きの流れを解説します。

5-1. 本採用を拒否する前に退職勧奨をおこなう

試用期間後の本採用拒否は、従業員にとっては非常に重い処分と感じられるでしょう。そのためいきなり本採用の拒否を通知すると、労働者が解雇されたことに不満を持ち、係争やトラブルに発展する恐れがあります。

上記のリスクを防ぐためにもまずは退職勧奨をおこない、自主退職をする意向がないか確認しましょう。その際に、本採用拒否となった理由は明確に伝えつつ、パワハラや強制退職に捉えられることのないよう、伝え方にも注意しましょう。

ただし、退職勧奨には強制力がないため、労働者が応じない場合は退職を強要することはできません。

5-2. 退職勧奨に応じない場合は本採用拒否通知書を交付する

もし労働者が退職勧奨に応じない場合は、本採用を拒否する意思を労働者に伝える必要があります。通常の解雇における解雇通知書(解雇予告通知書)と同様に、本採用拒否の理由を記載した本採用拒否通知書を作成し、労働者に交付しましょう。本採用拒否通知書に記載すべき内容は、後述します。

5-3. 解雇予告をおこなうか、解雇予告手当を支払う

本採用拒否通知書を交付したら、労働者に対して解雇予告をおこなうか、解雇予告手当を支払います。ただし、労働基準法20条により、解雇予告は解雇日の30日前におこなう必要があります。

もし試用期間の長さの都合上、解雇予告までの日数が不足する場合は、不足分の日数の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。

労働基準法20条

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

引用労働基準法 | e-Gov法令検索

6. 試用期間満了の解雇に関連するよくある質問について

ここからは、試用期間満了時の解雇に関連したよく生じる疑問について解説していきます。

試用期間中の解雇の可否、本採用拒否通知書の書き方、離職票の交付の必要性について紹介します。

6-1. 試用期間中の解雇は可能?必要な対応とは

試用期間中における解雇は、「客観的に合理的」かつ「社会通念上相当である」と認められる理由に限定し認められるケースもあります。とはいえ、単なる「能力不足」などの理由は認められにくい傾向にあります。

試用期間中における解雇について詳しく確認したい方は、以下の記事をご確認ください。

6-2. 本採用拒否通知書の書き方とは

試用期間満了時に本採用を拒否する場合、本採用拒否通知書を作成し、労働者に交付することが大切です。本採用拒否通知書は、解雇後のトラブルを避けるために重要な文書のため、作成することが望ましいでしょう。そのためには、本採用を拒否する理由を始めとして、次の点を明確に記載しておく必要があります。

  • 本採用拒否通知書の作成日
  • 本採用拒否通知書の作成者の氏名
  • 解雇する社員の氏名
  • 本採用の拒否を通知した日
  • 解雇する社員の退職日
  • 本採用を拒否する理由

特に本採用を拒否する理由については、「労働者のどのような点が問題となり、解雇するに至ったか」「労働者の問題点を改善するため、使用者がどのような注意指導をおこなったか(にもかかわらず、改善しなかったか)」がわかるよう、明確に記載する必要があります。

6-3. 試用期間後に解雇した場合、離職票の交付は必要?

試用期間中を終えた従業員が、雇用保険に加入しており、且つ離職票の発行を求められた際には、発行対応をするようにしましょう。

従業員に離職票を交付するには、企業からハローワークへ「離職証明書(雇用保険被保険者離職証明書)」と、「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出しなければなりません。必要に応じて以下のフォーマットをご活用ください。

参考:様式(労働者が離職する場合に必要な手続関係)|厚生労働省 宮城労働局

上記の書類提出を終えるとハローワークからは、退職する従業員の基本情報が記載された「離職票-1」と、賃金の支払い状況や退職理由等が記載された「離職票-2」が届きます。

離職票が届き次第、両方の離職票をあわせてすみやかに退職者に送付しましょう。

7. 試用期間満了後の本採用拒否は可能!解雇できる条件を確認しよう

試用期間満了後、使用者は本採用を拒否することができます。しかし、通常の解雇と同様に、合理的な理由がなければ労働者を解雇することはできません。もし「試用期間が終わったから」という理由で労働者を解雇する場合、解雇権の濫用として無効となる可能性があります。

労働者に勤務態度不良がみられる場合や、職務遂行能力が著しく欠如している場合、採用後に経歴詐称が発覚した場合など、本採用を拒否できる条件を理解しておきましょう。

また、労働者とのトラブルを避けるためには、いきなり本採用拒否を通知するのではなく、まず退職勧奨をおこなうことが大切です。

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