労働者を新たに雇用するとき、本人の勤務態度や適正、能力を判断するために試用期間を設ける企業も多いでしょう。
とはいえ、試用期間を運用するにあたって、具体的にどれくらいの期間を設定すべきか悩むケースもあるのではないでしょうか。
本記事では、試用期間を6カ月間設けるメリットやデメリットについて詳しく解説していきます。
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目次
1. 試用期間の定義・目的を確認
「試用期間」とは、本採用前に従業員の業務における適性や能力などを確認して、採用するか否かを決定するために導入する期間を指します。
すなわち、企業は本採用する従業員を精査するためにある期間といえるでしょう。
1-1. 試用期間中にチェックすべき項目
試用期間中にチェックすべきポイントは業種や職種、所属部署などによっても異なりますが、一般的には以下のような項目を確認しましょう。
- 与えられた仕事をこなすだけのスキルがあるか
- 上司や同僚との接し方に問題はないか
- 職場環境に適応できるか
- 正当な理由のない遅刻や無断欠勤をすることがないか
ただし、入社していきなり職場環境に適応したり、仕事を完璧にこなしたりすることは簡単ではありません。適切な指導やサポートをしながら、上記のようなポイントを確認していきましょう。
2. 試用期間中の雇用契約・待遇・社会保険の扱い
試用期間中はまだ見習いや半人前の状態だと考える人もいるかもしれませんが、試用期間中であっても雇用契約は基本的に一般社員と同じ扱いになります。契約内容にもとづいて労働させる必要があるため注意しましょう。待遇や社会保険の扱いについては以下の通りです。
2-1. 試用期間中の待遇
待遇に関しては、試用期間中の従業員と一般従業員とを分けるケースもあります。企業が就業規則などで定めている場合、試用期間中の給与などの待遇を一般社員よりやや低く設定することも可能です。ただし、試用期間中の待遇を定める際は、最低賃金を下回らないよう注意しましょう。
最低賃金を20%まで下回る待遇に設定するには、都道府県労働局長の許可が必要であるためです。許可がないにもかかわらず、下回る待遇をしている場合には、違法となります。
2-2. 試用期間中の社会保険
各種社会保険への加入は試用期間中から必要となります。加入条件を満たしているにもかかわらず試用期間中だからと非加入の状態で労働させた場合、法律違反となり罰則を課せられるケースもあるので注意が必要です。
このように、試用期間中であっても雇用契約を締結している状態に変わりないため、不当な待遇にならないよう気を付けましょう。雇用契約の原則や禁止事項について確認しておきたい方は、当サイトで無料配布している「雇用契約手続きマニュアル」もご覧ください。資料では雇用契約の結び方から解雇まで雇用契約の原則についてわかりやすく解説しているため、気になる方はこちらのフォームから資料をダウンロードしてご活用ください。
3. 一般的な試用期間の長さは3〜6カ月程度
試用期間の長さは、労働基準法などの法律に明確に定められているわけではありません。仮に、試用期間が1週間程度と短かったり、6カ月以上と長かったりする場合でも、違法となることはないのです。
労働政策研究・研修機構(JILPT)は平成26年、企業が設ける試用期間の長さに関する調査を実施しました。
この調査によると、正社員の中途採用における試用期間を3カ月から6カ月の間で設けているという企業は80%以上にも及びました。
企業が労働者の雇用を開始して6カ月が経過すると、年次有給休暇が発生します。このタイミングを区切りとして試用期間を6カ月と定める企業は少なくありません。
ただし、有期雇用契約の場合には契約期間の限度が3年までとなっています。有期雇用契約を結ぶ際に試用期間を長めに設けてしまうのはあまり現実的ではありません。この場合には、試用期間をやや短めに設定するなどの工夫が必要となります。
参照:国内労働情報 14-03 従業員の採用と退職に関する実態調査 ―労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)―|労働政策研究・研修機構(JILPT)
4. 試用期間が1年以上になっても問題はない?
試用期間の明確な期限は法律に定められているわけではないため、1年以上という試用期間を設けても違法となることはありません。実際、試用期間を1年程度設ける企業もあります。
ただし求職者にとっては、試用期間が年単位に及ぶ企業というのはあまり魅力的ではないかもしれません。
試用期間中の雇用形態や扱いは、一般社員とほぼ同じということになります。とはいえ、試用期間を長く設定すると、その最中ずっと見習いや半人前のように扱われるのではと感じて、応募をためらってしまう求職者もいることが考えられます。
また、試用期間の設定方法によっては思わぬ問題が起きるケースもあるでしょう。
たとえば1年以上という試用期間を設定し、給与などの待遇を低くしたときには、不当であると判断されることがあります。低待遇の試用期間が1年以上続いたことで労働者の雇用が不安定になったことから、民法90条の公序良俗に反すると判断が下された例もあります。
こういった問題を回避するためにも、試用期間を1年以上という長期間に設定するのは避けるのが賢明でしょう。
5. 試用期間を6カ月と設定するケースが多い理由
試用期間の長さに関する法律上のルールはありませんが、6カ月と設定している企業が多いでしょう。6カ月とする主な理由は以下の通りです。
5-1. 従業員のスキルや適性を確認するため
新しく採用した従業員のスキルや適性を確認するために、6カ月の試用期間を設けている企業が多くあります。たとえば1カ月程度の試用期間とすると、短すぎてスキルや適性を把握できないケースもあるでしょう。
また、従業員が新しい職場環境や仕事に慣れるまでにも時間がかかります。たとえスキルがあったとしても、短期間では発揮できないケースもあるでしょう。あまりに短い試用期間のなかで判断しようとすると、スキルのある人材まで本採用拒否としてしまう可能性があります。
5-2. 従業員が会社の雰囲気を把握できるため
6カ月の試用期間を設けることには、従業員にとってのメリットもあります。6カ月ほど働けば、職場の雰囲気や仕事内容をしっかりと把握できるでしょう。残業の頻度や職場内の人間関係なども見えてきます。
試用期間を通して、安心して働ける職場であることを理解してもらえれば、本採用になった後、モチベーションが高まったり長期的に働いてくれたりすることを期待できるでしょう。
5-3. 6カ月経過すると有給休暇が発生するため
有給休暇が発生するタイミングに合わせ、試用期間を6カ月と設定している企業も多いでしょう。入社して6カ月が経過し、全労働日の8割以上出勤している場合は、有給休暇を付与しなければなりません。
このタイミングに合わせて試用期間を終了し、本採用に切り替える企業も多くあります。
6. 企業が試用期間を6カ月設けるメリット3つ
試用期間を長期間設けることには、企業側と労働者側それぞれに大きなメリットをもたらします。まずは、試用期間を6カ月設けることのメリットを見ていきましょう。
6-1. 労働者の適性を十分に把握できる
試用期間の大きなメリットは、労働者の実際の能力や適正について時間をかけて確認できることです。
書類選考や面接のみで労働者の本質を見極めるのは難しいものです。本採用したあと、労働者の能力が企業側の求めているレベルに達しておらず、困ってしまうというケースも見受けられます。
6カ月程度の試用期間を設定すれば、労働者の働きぶりを詳細にチェックできるでしょう。
一定期間をかけて判断ができるため、より自然な状態で働いている様子を確認でき、その後もミスマッチが起きにくくなることが期待できます。
6-2. ミスマッチが起きたときには解雇も可能
試用期間中に、その労働者の能力が要件に満たないと判断した場合には、辞めてもらうという選択も可能です。
もちろん、試用期間はその後の長期雇用を前提としているため、むやみに解雇することはできません。ただし、試用期間中の遅刻や欠勤が多い場合や勤務態度に問題がある場合、指導をしても改善が見られない場合などには、段階を踏めば問題なく解雇できるケースもあります。
試用期間が長ければ、労働者の働きぶりに問題がないかを十分に見極めることができます。
6-3. 求職者が企業の良し悪しを見極める期間になる
6カ月程度の長い試用期間は、労働者側にもメリットをもたらします。6カ月働いてもらうことで、会社の雰囲気や労働環境などを実際に目で見て確認することが可能となるのです。
試用期間が短期間で終了してしまった場合、労働者は仕事内容を十分に把握できないまま本採用へと進むことになります。本採用後にミスマッチが起こり、せっかく入社してもらったのに早期退職に至るケースもあるかもしれません。
6カ月ほどの期間があれば、会社にも慣れてさまざまなことを覚えてもらえます。十分に会社の環境を確認し、納得したうえで働いてもらえるのが、試用期間を長く設けるメリットです。
7. 企業が試用期間を6カ月設けるデメリット2つ
試用期間を長く設けることには多くのメリットがある一方、以下のようなデメリットも考えられます。ここからは、試用期間を6カ月設けるデメリットを見ていきましょう。
7-1. 求職者が応募を敬遠することがある
試用期間を長めに設ける場合、求人票や求人広告にその旨を記載するのが一般的です。記載がない場合には、面接などの段階で求職者に試用期間の長さを伝えることになります。
求職者は、できるだけいい条件で就職できる企業を探しています。試用期間が長い企業に対して求職者は「待遇が悪いのでは」「いつまでも見習い扱いなのではないか」という印象を抱き、応募を見送ってしまうこともあるでしょう。
7-2. 労働者が退職や転職をするケースがある
6カ月という試用期間を設けることで、労働者がその期間の長さに不安を抱くケースもあります。
正社員になるつもりで就職した労働者にとっては、本採用までの半年という期間は決して短いものとはいえません。試用期間中の待遇が低く設定されている場合、なおさら不安が高まるでしょう。こういった不安が原因で、せっかく雇用した労働者が他社に転職してしまう可能性も十分に考えられます。
また、試用期間中にミスマッチを感じ、離職されてしまう懸念もあります。
8. 試用期間に関してよくある質問について
ここからは、試用期間に関連する質問を紹介します。最適な試用期間の設定方法、試用期間中に退職された場合の対応方法、試用期間の延長の可否について解説していきます。
8-1. 最適な試用期間はどのように決めたらいい?
最適な試用期間は、企業の環境や業務内容、新たに入社する従業員の属性によっても異なってくるのが現実でしょう。
試用期間の決め方において重要な考え方としては、「試用期間後のビジョン設定」が挙げられます。試用期間を満了した後の従業員に、どのような状態でいてほしいかを考慮して、長さを設定するとよいでしょう。
8-2. 試用期間の途中で退職された場合の手続き方法は?
試用期間においても雇用契約は成立しているため、法律上、即日辞職は認められていません。民法では、退職日の2週間前から申出をおこなう必要があると定められています。そのため、雇用契約時にあらかじめ従業員に伝えておくなどの対策をとることで、トラブルを防ぐとよいでしょう。
ただし、退職代行業者や弁護士などから連絡を受けた場合、従業員の辞職を拒否することはできないとされています。その場合には、円満に手続きを完了できるよう、手続を進めていくようにしましょう。
8-3. 試用期間を延長することは可能?
基本的には試用期間の終了時に本採用するかどうかを決定しますが、特別な事情がある場合は試用期間を延長することも可能です。ただし、試用期間を延長する可能性について、事前に就業規則に記載しておかなければなりません。
就業規則のなかに試用期間の上限が定められている場合、その範囲内での延長が認められます。上限が定められていない場合でも延長は可能ですが、従業員の不利益が大きくならないよう配慮することが重要です。
また、延長するためには、合理的な理由がなければなりません。従業員にも理由を伝えたうえで、納得してもらうようにしましょう。
9. 試用期間を6カ月程度設ければ労働者の特性や能力を十分に把握できる
今回は、試用期間の意味や適切な長さについて解説しました。試用期間の長さに関する絶対的なルールはありませんが、6カ月程度に設定する企業が多いでしょう。6カ月程度の試用期間を設定すれば、採用した労働者の能力や適性を十分に見極めることができ、その後のミスマッチが起きにくくなります。
なかには試用期間を1年前後という長さに設定する企業もありますが、長すぎることで応募者が減ってしまう可能性もあります。職種や募集人数などを考慮して、企業ごとに適切と思われる期間を設定してみましょう。
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