深夜残業について、時間帯や割増率など、詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。しかし、深夜残業に対して正しく対応しないと、法律違反として罰則を受ける可能性もあります。
今回は、深夜残業の定義や深夜割増の計算方法、深夜残業を減らすコツについて詳しく解説します。健康や生産性向上のためにも深夜残業はできる限り削減していきましょう。
1. 深夜残業とは?
勤怠管理における深夜残業とは、労働基準法で定められた深夜労働と、同法が定める残業の条件が重なった労働に対して用いられる言葉です。
まずはそれぞれの定義を確認しましょう。
1-1. 残業の定義
労働基準法における残業とは、法定労働時間を超えた労働時間のことです。
法定労働時間とは、従業員を働かせることができる上限時間のことで、同法では法定労働時間を1日8時間、週40時間以内と定めています。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
この時間を超えて従業員を勤務させるには、労使間での36協定の締結と、労働基準監督署長への届け出が必要です。36協定を結んだうえで残業をおこなわせた場合、企業は残業時間に対して割増賃金を支払う必要があります。
1-2. 深夜残業は何時から何時まで?
深夜残業とは、先述した通り、深夜労働と残業の条件が重なった労働時間を意味します。
深夜労働とは、22時~翌5時の深夜時間における労働のことです。つまり、深夜残業とは22時~翌日5時までにおこなわれた残業のことを指します。
また、深夜労働をおこなわせた従業員に対しても、労働基準法に従って割増賃金を支払う必要があります。
④ 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
以下、具体例を用いながら定義を確認していきましょう。
具体例(1)12:00〜24:00まで仕事をした場合
たとえば、12:00~24:00まで仕事をした場合は以下のようになります。
- 労働時間:11時間
- 休憩時間:1時間
- 法定外残業:1時間(21:00~22:00)
- 法定外残業かつ深夜労働(深夜残業):2時間(22:00~24:00)
上記のパターンでは、22:00~24:00における2時間分の労働が、深夜残業となります。
具体例(2)20:00〜翌日8:00まで仕事をした場合
では、夜勤など日をまたいで働く職種はどのように扱われるのでしょうか。たとえば、20:00~翌日8:00まで仕事をした場合で考えてみましょう。
- 労働時間:8時間
- 休憩時間:4時間(24:00~翌日4:00)
- 深夜労働:3時間(22:00~24:00、翌日4:00〜5:00)
この場合、法定労働時間の8時間を超えていないため、残業時間は発生していません。しかし、3時間分は深夜労働として割増賃金を支払う必要があります。
なお、休憩時間に関しては労働時間が8時間を超える場合、1時間以上の休憩を与えることが義務付けられていますが、深夜労働に対する休憩の規定は法律で定められていません。
しかし実際は、健康上の問題などを考慮し、深夜労働では仮眠が取れるような一定の休憩時間を設けているケースが一般的です。
休憩時間を待機時間と認めている場合を除き、休憩には賃金の支払い義務がないため、休憩時間は労働時間外とみなされます。よって、深夜の休憩時間に賃金は発生しません。
1-3. 深夜残業を命じることができない従業員
労働基準法により、18歳未満の従業員に深夜労働を命じることは禁止されています。ただし、交替制によって働く16歳以上の男性従業員であれば、深夜労働を命じることが可能です。
(深夜業)
第六十一条 使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。
そのほか、同法の第66条3項に従い、妊産婦から請求があった場合は深夜労働を命じることはできません。
③ 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。
2. 深夜残業の割増率と割増賃金の計算方法
割増賃金が発生する条件と、各条件における計算方法を確認しましょう。
2-1. 割増賃金が発生するケースと各割増率の一覧
割増賃金が発生するのは以下の3つの場合です。
- 時間外労働(残業)
- 深夜労働
- 休日労働
それぞれの規定と割増率は以下の通りです。
割増条件 | 適用条件 | 割増率 |
時間外労働 | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超過した労働 | 25% |
時間外労働 | 法定労働時間を超過した労働が月60時間を超えた場合 | 50% |
深夜労働 | 22時~翌5時に該当する労働 | 25% |
休日労働 | 法定休日の労働 | 35% |
2-2. 深夜残業の割増賃金の計算方法
深夜残業に対する割増賃金は、法定外残業の割増率25%と深夜労働の割増率25%を合わせた50%の割増率を、1時間あたりの基礎賃金にかけて計算します。
つまり、割増賃金の計算には、1時間あたりの基礎賃金が必要です。月給制の場合はまず、1時間あたりの基礎賃金を計算しましょう。具体的な手順は以下の通りです。
1時間あたりの基礎賃金の計算方法
1時間あたりの基礎賃金を算出するには、基礎賃金と月の平均所定労働時間を正確に把握しなければなりません。
基礎賃金とは、基本給に各種手当(一部を除く)を含めたもので、月の平均所定労働時間は年間休日を元に計算します。休日数は就業規則などで確認しましょう。
月の平均所定労働時間の計算方法
うるう年とそうでない年では若干変わりますので、その年の暦日数で計算してください。
深夜残業に対する割増賃金の計算方法
深夜残業に対する割増賃金は、上記の式で計算できます。
それでは、以下の例で計算してみましょう。
- 基礎賃金:30万円
- 勤務時間:8:00~17:00
- 年間休日:120日
- 月間深夜残業時間:10時間
まずは1時間あたりの基礎賃金を求めるために、月の平均所定労働時間を計算しましょう。1年を365日とし、年間休日120日を先ほどの計算式に当てはめると、月の平均所定労働時間は以下のようになります。
月の平均所定労働時間 =(365日 – 120日)× 8時間 ÷ 12 = 163.3333333….
よって、月の平均所定労働時間は163時間です。
続いて、基礎賃金の30万円を月の平均所定労働時間163時間で割ると、1時間あたりの基礎賃金は1,840円と算出されます。1時間あたりの基礎賃金がわかったので、深夜残業に対する割増賃金を計算してみましょう。
深夜残業に対する割増賃金 = 1,840円 × 10時間 × 1.5 = 27,600円
このケースでは、月間の深夜残業代が27,600円であることがわかりました。残業ではなく単なる深夜労働の場合は、割増率は25%(1.25倍)になります。
また、法定休日に深夜労働をおこなったときは、休日労働の割増率35%と深夜労働の割増率25%を足した60%(1.6倍)が適用されますので、間違わないよう注意しましょう。
3. 深夜残業の割増賃金に関する注意点
深夜残業の割増賃金計算をする際には以下の項目に留意しましょう。
3-1. 計算は1分単位でおこない、50銭未満は切り捨てる
賃金の計算は1分単位でおこなうのが原則です。基礎賃金は1時間あたりの金額で算出しますが、労働時間を丸めたり切り捨てたりして賃金計算をすることがないように注意しましょう。
もし賃金計算の際に端数が発生した場合は、50銭以上の端数は切り上げ、50銭未満の端数は切り捨てて従業員に支払います。
3-2. 休日の深夜残業は割増率が異なる
先ほども解説した通り、法定休日に深夜残業を命じた場合は、それぞれの割増率が加算され60%(=35%+25%)となります。割増賃金が発生する条件が重なると、割増率を加算する必要があるため忘れないようにしましょう。
また、割増率が大きくなるほど、企業の負担も大きくなります。従業員の健康を維持しつつ、人件費を抑えるためにも、休日労働や深夜労働がなるべく発生しないよう業務を調整していくことが重要です。
3-3. 管理職にも深夜の割増賃金は支払う
管理職(管理監督者)には、残業に対して割増賃金を支払う必要はありません。しかし、管理職の従業員であっても深夜労働の割増賃金は支払う必要があります。
管理職が深夜残業をおこなった場合については、深夜労働に対する割増率25%を上乗せして賃金を支払いましょう。
3-4. みなし残業代制(固定残業代制)の深夜残業の考え方
みなし残業代制(固定残業代制)とはみなし残業時間を事前に定め、あらかじめみなし残業に対する賃金を基本給に組み込み、残業代を支給する方法です。
みなし残業代制において、残業が深夜に及んだ場合、深夜労働に対する割増賃金を追加で支払う必要があります。
もともと残業が深夜におこなわれることが想定されている場合は、深夜労働や残業に対する割増賃金を含めてみなし残業代を設定しておかなければなりません。
想定外に残業が深夜に及んだ場合には、深夜労働に対しての割増率25%を上乗せする形で追加支給しましょう。また、残業時間がみなし時間を超過している場合に関しては、通常通り50%の割増率で深夜残業の割増賃金計算をおこない、追加支給しましょう。
3-5. 仮眠時間に対して残業代が発生することもある
深夜残業中に仮眠時間を設けている企業もあるでしょう。この仮眠時間については、休憩時間として賃金が発生しないケースと、勤務時間として賃金が発生するケースがあります。
たとえば、仮眠時間という名前が付いていても、自由に過ごすことができず、必要に応じて作業を求められる場合などは、休憩時間とは見なされない可能性があります。深夜労働や深夜残業としての割増賃金を支払う必要があるため注意しましょう。
4. 深夜残業を減らすための5つのコツ
深夜残業は生活リズムが乱れやすくなり、健康への悪影響が懸念されるため、できる限り減らしていくことが望ましいです。
ここでは、深夜残業を減らすためのコツや、効果的な取り組みについて紹介します。
4-1. 朝型勤務制度を取り入れる
夜は残業をせずなるべく定時で切り上げ、その分早めに出勤する取り組みが朝型勤務です。深夜よりも朝のほうが頭の回転が速いので、生産性が向上する効果を期待できます。
早起きで健康的な生活習慣が身につき、通勤ラッシュも避けられるので精神的なストレスが軽減されるかもしれません。
朝型勤務制度を取り入れるのであれば、朝の時間帯も深夜残業と同じ割増手当を支給するなど、従業員にメリットを感じてもらう工夫をすることが、深夜残業を減らすコツです。
4-2. 業務を効率化させる
通常の業務時間内に仕事が終わるよう業務内容を見直し、作業効率を図ることで深夜残業を減らしていくことができるでしょう。そのためには、上司や管理職が部下の業務量や進捗具合を常に把握できる仕組みを取り入れる必要があります。
たとえば契約書の締結において、取引先や上司の承認を得るのに時間がかかっているという場合には、電子契約システムやワークフローシステムを利用することで手続きにかかる時間を短縮することができるでしょう。
4-3. 残業申請制を導入する
残業申請制とは、事前申請して許可されなければ残業できない制度です。そのため、自分の判断で好きな時間だけ残業することができなくなり、とくに深夜まで残業するには相応の理由が必要になります。
ただし、残業申請制を導入するときは、申請者と承認者それぞれのルールを明確に設定することが大切です。
深夜残業は生産性を下げ、翌日の勤務にも影響を及ぼす可能性があります。残業申請を導入したとしても「残業は原則22時まで」と決めるなど、なるべく深夜残業ができない仕組みを作ることで効果を高めることができます。
4-4. 残業に対する意識改革をおこなう
「長い時間働くことが頑張っている証拠」など、残業を良いことと思っている従業員がいると、社内全体が退社しづらい雰囲気になってしまいます。
やるべき仕事を時間内に終わらせて定時で帰る従業員よりも、深夜まで長く働く従業員のほうが評価される会社は、生産性の高い従業員のモチベーションを下げてしまいます。その結果、残業があたり前の風潮が強まり、さらに人件費もかさむため、悪循環に陥るでしょう。
対策としては、まずマネジメント層の残業に対する意識改革をおこなう必要があります。若手がいくら残業を減らそうとしても、上司がそれを良しとしなければ意味がありません。
管理職対象の研修を開催したり社内の残業実態を把握したりして、全員が残業に対する共通認識を持つことが大切です。
4-5. 勤怠管理システムを導入する
深夜残業を削減するためには、勤怠管理システムを導入することも重要です。勤怠管理システムを導入すれば、部下の残業時間をリアルタイムで把握でき、残業時間が多い従業員にすぐに気づくことができます。
深夜残業が恒常化している従業員がいた場合には、なぜ深夜残業が発生しているのかをヒアリングして業務量を調整したり、過剰な負荷がかかっている場合はサポートしたりして、従業員に負担がかかりすぎないようにしましょう。
5. 深夜残業は割増率が上がる!残業はなるべく減らそう
今回は、深夜残業の定義や割増賃金の計算方法、残業を減らすコツなどを紹介しました。深夜残業とは、22時から翌日5時までにおこなう残業のことで、割増率は1.5倍になります。計算の際は、割増賃金率を間違うことのないよう気を付けましょう。
また、深夜にまで及ぶ残業は、生産性を下げるだけでなく、従業員の健康面にも悪い影響を及ぼす恐れがあります。さらに割増率が高くなるため、人件費の負担も大きくなってしまいます。従業員の健康を守りつつ、経費を削減するためにも、今回紹介した深夜残業を減らすためのコツや取り組みを参考に、残業削減を目指しましょう。