労働安全衛生法の改正により、企業は労働時間を客観的な記録で把握するよう義務付けられています。今回は、労働時間の把握の義務化とは具体的にどのようなことなのか、対象や労働時間について解説します。また、適正な労働時間を把握する方法も紹介していますので、システム導入を考えている方は参考にしてみてください。
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1.労働時間の把握の義務化とは
従業員の労働時間を把握することは、給与を正しく計算するためだけでなく、長時間労働を防ぐためにも大切です。
そのため、以前より労働時間の把握は重要視されていましたが、労働安全衛生法の改正で、2019年4月から企業は労働時間を客観的な方法で把握することが義務付けられました。
従業員の健康と安全を守るためにも、労働時間の把握は必要不可欠です。
まずは、義務化の把握対象や労働時間について解説します。
1-1.対象となる範囲や人について
労働時間の把握は、労働基準法が適用される全ての企業が対象です。
労働時間を把握する対象者は、一般従業員だけでなく管理監督者や裁量労働制、みなし労働時間制の従業員も含めます。
管理監督者とは、以下の基準に当てはまる人物のことを指します。
- 経営者と一体的立場にあり責任の重い職務内容である
- 自己裁量で労働時間を管理している
- 地位にふさわしい報酬を受け取っている
- 会社経営に関与している
管理職と管理監督者は混同されがちですが、、立場や待遇が違うだけでなく、法律の適用範囲も異なります。
自己の裁量で労働時間や業務量の調整ができ、それ相応の報酬も支払われているという理由から、管理監督者は残業代や休日出勤手当が発生しません。
ただし、時間外労働が80時間時間を超えた場合におこなわれる可能性のある「産業医の面接指導」や、深夜労働に対する割増賃金の支払は対象から除外されないため、管理監督者であっても労働時間の把握をおこなう必要があります。
1-2.労働時間の定義とは
従業員の労働時間を正しく把握するためには勤怠管理をおこなう必要がありますが、そもそも労働時間とは何を指しているのでしょうか。
企業が記録しなければならない労働時間の定義は「労働者が使用者の指揮命令下にある時間」です。したがって、着用が義務付けられている制服への着替え時間や、強制でおこなわれる掃除等も「労働時間」として記録しなければなりません。
1分単位での管理と計算が求められるため、正しい労働時間を把握することが重要です。
また、労働時間には「法定労働時間」と「所定労働時間」が存在します。
法定労働時間とは、労働基準法が定めた労働時間の上限時間で、1日8時間、週40時間までと決められています。
対して所定労働時間とは、企業ごとに異なる就業時間のことです。
法定労働時間を超えて労働をさせた場合には、時間外労働に対する割増賃金を支払う必要があります。
ただし、労使間で36協定を結んでいる場合については法定労働時間を超えて時間外労働をさせることができます。働き方改革関連法案により、2019年から時間外労働の上限は下記のようになりました。
- 原則として月45時間、年360時間
- 臨時的で特別な事情があり36協定を結んだ場合に限り年720時間
- 年720時間以内の規制においては、「2~6ヶ月の間で平均80時間以内」「月100時間未満」「月45時間を超えるのは年6回まで」
2.労働基準法で義務付けられている内容
労働時間を適切に把握するために、労働基準法ではいくつか規定が設けられています。
2-1.客観的な勤務記録
2019年の働き方改革関連法案の施行により、労働時間を把握するための始業や終業時の打刻及び勤務記録は客観的方法によっておこなわれなければならないとされました。
客観的方法の例には打刻システムによる記録、パソコンのログ記録などがあります。それぞれの打刻方法については、後の章で詳しく解説します。
2-2.賃金台帳への記入
企業は、労働基準法108条及び労働基準法施行規則54条により、従業員の労働日数や労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数などの勤務記録を賃金台帳へ記入することが義務付けられています。
各種記録の未記入や記録の改ざんが発生した場合、30万円以下の罰金が課せられる可能性があります。
2-3.労働時間の記録書類の保管
労働基準法109条では、企業に対し、従業員の勤務記録を、賃金台帳等と同様に5年間保管することを義務付けています。
保管をおこなわなかった場合にも30万円以下の罰金が課せられる可能性があるため、勤務記録は適切に保管しましょう。
3.適正な労働時間把握をするための対応
従業員の労働時間は適正な方法で正しく把握されなければなりません。近年、テレワークの増加により「始業時間と終業時間は自己申告制で記録している」という企業も増えています。
自己申告制とは、従業員が手作業でエクセルや出勤簿などに時刻を入力する方法です。
厚生労働省は、適正な運用を従業員に十分に説明することを条件に、自己申告制を認めていますが、入力ミスや虚偽の入力などが起こる可能性も考えられます。
また、労働時間の把握義務は「客観的な方法でおこなうこと」としている点も重要であることから、自己申告制は適正な把握方とはいえない可能性があります。
3-1.タイムカード・ICカード
紙のタイムカードでの勤怠管理は、最もシンプルで昔から使われてきた方法です。
導入コストが抑えられ、誰でも簡単に使える特徴がありますが、紙媒体であることから集計の際のミスが発生しやすく、「他の人に打刻してもらう」などの不正が起こる可能性も考えられます。
そのため、最近では紙のタイムカードではなく、ICカードを用いた打刻を導入している企業が増えています。
ICカードでの打刻は出勤と退勤時に、機械へかざすだけなのでタイムカードと似た側面がありますが、デジタルに記録される点はタイムカードと異なり、集計や計算も自動でおこなってくれる点が便利です。
3-2.勤怠管理システム
ICカードも勤怠管理システムのひとつですが、さらに不正を防ぐための方法として指紋や顔認証を用いた打刻方法があります。
生体認証を活用すれば、他人が打刻するなどの不正を確実に防止することができ、会社の入り口などに設置しておけば、打刻忘れも防ぐことができるでしょう。
また、営業職など外回りが多い場合は、GPS機能が備わった打刻システムがおすすめです。スマートフォンの位置情報と打刻時刻を同時に記録してくれるため、どこでいつ打刻したのか正確に把握できます。
不正の防止だけでなく、事業所に戻ったり連絡したりする手間も省けるなど、効率化を図るためにも有効的でしょう。
3-3.パソコンのログを利用する
テレワークで自己申告制を導入している企業におすすめな方法がパソコンのログを使った勤怠管理です。
パソコンは起動した時間がログとして保存されているため、そのデータを労働時間として記録できます。勤怠管理ソフトで申告している時刻よりも長く働く「隠れ残業」が見つかる可能性もあるため、正確な労働時間を把握する方法として活用できるでしょう。
ただし、パソコンをログアウトし忘れてしまった場合は、正しい時間が記録されません。また、ログの確認は従業員の数が多いほど手間がかかり、データの一元管理も難しいため、ログ管理システムの利用や、勤怠管理システムとの併用がおすすめです。
4.労働時間の把握における罰則
労働時間の把握は義務化されていますが、正確に把握されていなかったとしても現時点での罰則規定は存在しません。
しかし、先ほど説明した「時間外労働時間の上限」を超えた場合は、罰則があるため注意が必要です。この場合は「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。
また、労働基準法108条及び109条では、賃金台帳の作成と記録の保存が義務付けられており、賃金台帳には従業員の労働日数や労働時間の記入が必要です。
労働時間管理に用いたタイムカードや出勤簿は賃金台帳とともに、5年間保管しなければなりません。
決められた期間保管していなかった場合や、適切に記入されていなかった場合は、先述の通り「30万円以下の罰金」が科せられる恐れがあります。
労働時間の把握に関しては罰則がないにしても、把握や記録を怠ると労働基準法で定められた他の規定によって罰則があるため、労働時間管理は必ずおこなうようにしましょう。
5.労働時間は適正な方法で把握して管理しよう
労働時間を管理することは、従業員の健康や正しい給与計算のために必要なので義務化されています。
労働時間とは何を指すのか、対象者や罰則についても理解し、適正な方法で把握することが大切です。
手作業での申告や管理は、手間がかかりミスや不正も起こりやすいため、勤怠管理に適したシステムを利用して、客観的な労働時間の把握を実現しましょう。
【監修者】涌井好文(社会保険労務士)
涌井社会保険労務士事務所代表。就職氷河期に大学を卒業し、非正規を経験したことで、労働者を取り巻く雇用環境に興味を持ち、社会保険労務士の資格を取得。 その後、平成26年に社会保険労務士として開業登録し、現在は従来の社会保険労務士の業務だけでなく、インターネット上でも活発に活動を行っている。