企業には、従業員を雇入れる際に労働条件通知書を交付する義務があります。労働条件通知書には記載事項が定められており、それらの事項が不足していると労働基準法違反となるため注意が必要です。本記事では、労働条件通知書の必須記載事項や、厚生労働省による記載例の紹介、注意点を解説します。
目次
労働条件通知書とは
労働条件通知書は、雇用主が従業員を新たに雇い入れる時に、交付することが義務付けられている書類です。
また労働条件通知書には、労働基準法で定められた必須記載事項を漏れなく明示する必要があります。
労働条件通知書に記載すべき事項(絶対的明示事項)とは
労働基準法には、労働条件通知書に明示しなければならない労働条件の具体的な項目が定められています。雇用の際には労働基準法に従い、以下の項目を記載した労働条件通知書を作成しましょう。
- 契約期間に関する事項
- 就業場所と業務内容に関する事項
- 就業時間に関する事項
- 休日、休暇に関する事項
- 賃金に関する事項
- 退職に関する事項
- そのほかの事項
上記の記載事項について一つずつご説明いたします。
契約期間に関する事項
労働条件として、「労働契約時間の定めがあるか否か」、ある場合には「更新をするか否か」を記載します。一般的に、正社員として雇用するときには契約期間を定めることはありません。また、無期雇用労働者に関しても契約期間の定めはなしということになります。
一方で、有期契約である契約社員・パート・アルバイト・派遣社員などの雇用形態では、契約期間の始まりと終わりの年月日を明示する必要があります。
契約期間は上限が3年となっており、やむを得ない事情がなければ途中での解除ができません。(ただし専門的な知識を有する従業員、60歳以上の従業員は5年とする)更新の有無に関しては、「自動的に更新する」「更新する場合がありうる」「契約の更新はしない」などと記載します。
また契約更新がありうるとした場合には、本人の勤務態度や能力、会社の経営状況など、契約更新の判断基準をともに明示することが求められます。
就業場所と業務内容に関する事項
雇用の際には、労働者の勤務場所や事業所を明示します。複数の場所で業務をおこなう必要がある場合には、住所を併記するなどの方法で対応します。
また、テレワークや転勤を見越して「会社が指定した就業場所」と併記するケースもあります。この欄には、採用時の部署や業務内容についても記載します。
本人に任せる業務を具体的に説明するほか、業務マニュアルまたは内規を添付することもできます。イレギュラーな業務を依頼する場合を想定し「その他、会社が指示する業務」と併記しておけば、安心でしょう。
就業時間(始業・終業・所定労働時間・休憩)に関する事項
この欄には始業時刻と終業時刻、所定労働時間について明記します。また、休憩時間についても必ず記載しておきます。
変形労働時間制や、交代制勤務を導入している場合には、「就業時点転換」を明示する必要があるため、ベースとなる就業時間の組み合わせを明記します。
また必要に応じて「勤務日時はシフト表で事前に通知する」などと併記しておきましょう。フレックスタイム制を導入している際にはコアタイムや選択できる時間帯について記載したり、月の所定労働時間を示したりするとよいでしょう。
休日・休暇に関する事項
企業が定めている休日や休暇制度も、労働条件として盛り込むべき項目です。
労働基準法には、法定休日として最低で週に1回、4週間で4回の休日付与が定められています。変形労働時間制を取り入れている場合には、年間の休日数を記載するなどの対応が必要です。
またこの欄には、有給休暇取得の有無についても記載します。6ヵ月以上継続して雇用され、その間の出勤率が8割以上の場合は、アルバイトやパートといった雇用形態であっても有給休暇を与える義務が生じます。
賃金に関する事項
労働者に支給する給与額や諸手当の金額に加え、締め日と支払い日、支払い方法を明示することも大切です。
賃金の額は最低賃金を下回らないよう設定し、労働条件として具体的な金額を提示します。残業の割増賃金や深夜手当、通勤手当や家族手当といった諸手当についても記載しておきましょう。
退職に関する事項(解雇の事由を含む)
この欄には、労働者が退職を希望する際の手続き方法を明記します。特に重要なのは、退職日の何日前に予告が必要かを具体的に定めることです。
後任者を雇用し引き継ぎをおこなうのにかかる時間を考慮し、適切な予告期間を設定することが大切です。
また、企業が定年制度を導入している場合には、労働条件として必ず提示しましょう。ただし、定年制度には60歳以下の年齢を設定することはできません。
有期雇用契約に関する事項(パート・アルバイトなどの有期雇用のみ)
パートやアルバイトなどの有期雇用契約を結ぶ従業員に対しては、パートタイム労働法第6条にて定められている以下の4項目を明記する必要があります。
●「昇給の有無」
●「退職手当の有無」
●「賞与の有無」
●「相談窓口」
これらを労働条件通知書等による明示をおこなわないと、10万円以下の罰金が科される可能性があるため、漏れなく記載しましょう。
口頭で明示してもよい事項(相対的明示事項)とは
相対的明示事項とは、その事項に関連する定めを設けている場合には、明示しなければならないものです。
相対的明示事項には、以下のものが挙げられています。
① 退職手当に関すること
② 賞与などに関すること
③ 食費、作業用品などの負担に関すること
④ 安全衛生に関すること
⑤ 職業訓練に関すること
⑥ 災害補償などに関すること
⑦ 表彰や制裁に関すること
⑧ 休職に関すること
例えば企業が設けている「退職金制度」がある場合には、その支給条件や対象者について明示します。
また「その他」の事項として、社会保険や雇用保険の加入や適用に関する情報などについても明示しておくとよいでしょう。
厚生労働省による労働条件通知書のテンプレート・記載例を紹介
労働条件通知書には、必須記載事項はあるものの書式に規定はなく、自由とされています。web上にも無料のテンプレートが多数掲載されています。使用する前に、絶対的明示事項に抜け漏れがないか必ず確認するようにしましょう。
厚生労働省では、雇用形態に応じた労働条件通知書のテンプレートを公開しています。
参考:一般労働者用(常用・有期雇用型)労働条件通知書|厚生労働省
参考:一般労働者用(日雇型)労働条件通知書|厚生労働省
参考:短時間労働者用(常用・有期雇用型)労働条件通知書
参考:派遣労働者用(常用・有期雇用型)労働条件通知書|厚生労働省
参考:派遣労働者用(日雇型)労働条件通知書|厚生労働省
上記のほかにも、建設労働者、林業労働者には専用のテンプレートも掲載されているため、下記からご確認ください。
参考:様式集 (必要な様式をダウンロードしてご使用下さい。)|厚生労働省
また記載例も公開されているため、必要に応じてご活用ください。
参考:労働条件通知書 参考 記入例|厚生労働省
労働条件通知書の記載・取り扱いに関する注意点
労働条件通知書の記載内容や処理方法を間違えると、のちにトラブルへと発展することもあるので細心の注意を払う必要があります。
ルールに従って正しく書類を作成し、紛失が起きないよう適切に保管しましょう。
ここからは、労働条件通知書の扱いに関する注意点やポイントをご説明いたします。
電子化での交付は書面に出力できるものに限る
2019年4月より、労働条件の明示方法を電子化することが認められました。とはいえ、電子化して交付するには「従業員が希望している」「出力して書面を作成することが可能」といった条件を満たす必要があります。
特に電子契約サービスを活用すると、雇用契約の手続きをオンライン化して業務が効率化できるため、業務を削減したい方には有効です。
労働条件通知書および雇用契約書兼労働条件通知書の具体的な電子化方法については、以下の記事にてご確認いただけます。
雇用形態によって労働条件の通知項目は異なる
労働条件通知書に記載する項目は雇用形態によって異なります。そのため、使い回すと明示事項が足りていないなどのトラブルとなりうるため、注意が必要です。
特に「 有期雇用契約に関する事項」にお伝えしたように、アルバイトやパートタイムなどの有期雇用契約は、追記で明示すべき労働条件があります。
また、正社員とそうでない人の待遇の違いについて問い合わせができる相談窓口についても記載が必要とされています。
パートタイム・有期雇用契約の従業員に対する相談窓口においては、後述します。
必要に応じて労働条件の見直し・改訂対応をおこなう
労働基準法の法改正がおこなわれた場合、労働条件通知書の内容を変更しなければならないこともあります。2018年に職業安定法が改正され、雇用時に明示した労働条件を変更するときには変更内容を具体的に通知する旨が定められたのです。
例えば、2015年にはパートタイム労働法が改正され、業務に関する相談窓口の記載が必須となりました。この法改正により、それ以前に雇用した労働者に対しても相談窓口を明示する必要性が生じました。
参考:パートタイム・有期雇用労働者の雇用管理の改善のために|厚生労働省
今後も法改正により、労働条件通知書の見直しや改訂が求められる可能性は十分考えられます。労働条件告知に不備があった場合には罰則の対象となることもあるので、法改正の情報をチェックし、正しく対応することが肝心です。
労働者の退職後にも労働条件通知書は保管しておく
労働者に対して交付した労働条件通知書は、法律に従って正しく管理しなければなりません。労働者が勤務している期間だけでなく、退職または亡くなった日以降も書類を保管する必要があります。
かつては労働条件通知書の保管期間は3年間でしたが、2020年に法改正がおこなわれ書類保管期間が5年に延長されました。移行期間の保管期間は3年とされていますが、万一のためにも労働条件通知書は5年間保管しておくことが望ましいでしょう。
労働者を雇用する際には正しい方法で労働条件通知書を作成することが重要!
労働条件の告知には、労働者に労働内容を伝えて納得してもらうという重要な目的があります。労働条件を書面として残すことで、のちのトラブルを防ぐこともできます。
労働条件通知書を交付しなかったり、必要となる項目を明示しなかったりした場合には罰則の対象となることもあります。労働者を雇用する際には、テンプレートを活用するなどの方法で適切な労働条件通知書を作成しておくことが大切です。