稟議書と決裁書はどちらも業務を遂行するうえで欠かせない書類ですが、その違いがわからないという方は少なくありません。 業務を円滑に進めるためにも、稟議書と決裁書の違いをしっかり理解しておきましょう。 今回は、稟議と決裁それぞれの概要と、稟議書と決裁書の違い、決裁をスムーズにする稟議書のポイントについて解説します。
目次
1. 稟議とは?
稟議とは、企業などの組織において、自分の裁量や権限のみで決められない事項の承認を得るための手続きです。 社員は業務をおこなうにあたり、会社からある程度の権限を与えられており、一定の範囲内であれば自分の裁量で物事を選択し、また決定、遂行することができます。
しかし、会社のお金を大きく動かす場合や、会社の経営に影響を及ぼす事柄については、上司など複数の関係者から承認を得なければなりません。 巨額の取引や大口契約の場合は、別途会議が開かれることもあるものの、多くは、稟議というかたちで承認の手続きが進みます。
この稟議に際して、あらかじめ用意するのが稟議の内容をまとめた稟議書です。稟議書はその性質から、「起案書」「立案書」と呼ばれることもあります。 稟議書の書式は会社ごとに決まっているケースが多いようです。しかし、稟議に回されたからといって必ず承認されるわけではなく、場合によっては否認されてしまうこともあります。
同じ起案・立案内容でも、稟議書の書き方によって結果が左右されることもあります。そのため、稟議書を作成する際はポイントを押さえておくことが大切です。 決裁をスムーズにする稟議書のポイントについて、詳しくは後述します。
1-1. 稟議をおこなう主なケース
稟議は上層部の承認を得なければならないケースでおこなわれるため、そのパターンは多岐にわたります。 大別すると、以下3つのパターンに分類されます。
- 契約・新規取引
- 購入・購買
- 採用
1は新しい取引先や顧客と契約を締結したり、取引を始めたりする際におこなうものです。なぜ契約を締結するのか、取引先はどういった企業なのか、契約によってどのようなメリットが生じるのか、などを説明し、承認を申請します。
2は業務に使用する設備や備品などを購入する際におこなうものです。たとえば劣化したPCの買い替えや、業務効率化に役立つシステムの導入などを認めて欲しい場合は、購入・購買稟議書を提出します。
3は新卒や中途入社の社員を採用する際におこなうものです。なぜその人材を採用しなければならないのか、候補者はどのような人物なのか、などを説明し、雇用の承認を得ます。
2. 決裁とは?
決裁とは、起案・立案された内容について、承認または否認をおこなう手続きのことです。決裁は誰でもおこなえるものではなく、決裁をおこなう権利=決裁権を持つ人(決裁者)のみが実行できます。
たとえば、営業担当が新規契約の稟議書を申請したときは直属の上司である営業部長が決裁者となる場合が一般的です。書類審査や面接を経て採用候補者の場合は、人事部長が決裁をおこなう場合が多いでしょう。 決裁がおこなわれると、起案・立案された事柄やプロジェクトが本格的に開始されます。そのため、決裁は意思決定プロセスの最終段階といえます。
2-1. 決済・承認との違い
決裁と混同されやすい言葉に、「決済」と「承認」があります。決済とは、お金をやりとりすることによって債務や債権を解消することです。 いわゆる「支払い」のことで、決裁とは同じ読み、かつ字面も似ていますが、その意味は全く異なるので注意が必要です。
一方、「承認」は意思決定プロセスの途中におこなわれる手続きです。起案・立案の内容を認めるという点は決裁と同じですが、承認はあくまで中途プロセスであり、最終的な判断を下す決裁とは意味が異なります。 起案・立案が複数の関係者を通して決裁される場合は、承認の後に決裁、という順で稟議が進みます。
3. 稟議書と決裁書の違い
稟議書と決裁書の違いは、ここまで説明してきた稟議と決裁の違いそのものに該当します。 稟議書は稟議を申請し、承認を得るために作成し、提出するものです。一方、決裁書は最終的な決裁を得るために作成し、提出するものです。 稟議書の場合、関係者から承認を得られても、最終的な決定を下すのは決裁者です。
そのため、別途決裁書を作成し、決裁者に提出する必要があります。 一方、決裁書はそれ自体が最終工程にあたります。したがって、決裁者の押印を受ければ、それだけで起案・立案した内容を実行に移せるようになります。 最初に複数の関係者に稟議書を回して承認を得てから、あらためて決裁書を提出するケースもあるものの、会社によっては承認のプロセスを省略し、いきなり決裁書を作成し、提出するところもあります。
とくに迅速な意思決定を必要とする場では、稟議書の作成を省略し、決裁書を作成して提出するケースが多いようです。 一方で、決裁書を兼ねた稟議書を作成し、提出するルールを設けている会社も少なくありません。その場合、稟議書の下部に決裁者の所見や決裁条件、決裁の可否などを記載する欄が設けられています。
4. 決裁をスムーズにする稟議書のポイント
稟議書は必要に応じて作成し、提出するものなので、なるべく早く承認と決裁を得る必要があります。決裁までスムーズに進めるために、稟議書を作成する際は以下のポイントを押さえておきましょう。
4-1. 簡潔かつ明確な文章にする
稟議書では、稟議の対象(取引や購入、採用など)について、その目的や内容、メリットなどを詳しく説明しなければなりません。 しかし、詳細に説明しようとすると、まとまりのない文章になってしまい、かえって訴求力のない稟議書になってしまう恐れがあります。
稟議書では、各項目のスペースも限られています。要点を簡潔に、かつ明確に記載するよう心掛けましょう。
4-2. 数字を交えてメリットを明示する
取引と購入、採用のいずれの場合でも、会社には相応のコストが発生します。 稟議書では、そのコストを補って余りあるメリットやリターンがあることをアピールするのが重要なポイントです。
ただ「メリットがある」「利益が生じる」と説明しても説得力がないため、「○%の売上向上が見込める」「○分の作業時間短縮を期待することができる」など、具体的な数字を交えてメリットや効果を明示するのが理想です。
この時点では概算でも、統計などに基づいた裏付けがあれば説得力が増し、稟議の承認が通る可能性が高くなります。
4-3. リスク対策を示す
ビジネスは必ずしもメリットやリターンを生み出すわけではなく、多少なりともリスクを伴います。それは、承認者や決裁者も理解しているでしょう。
そのため、リスクについて言及しないようにするのではなく、考えられるリスクへの対策や、リスクの影響度が小さいことなどを説明するほうがよいでしょう。
5. 稟議書と決裁書の違いをよく理解しておこう
稟議書は、意思決定のプロセスの途中で関係者から承認を得るものです。一方、決裁書は意思決定の最終プロセスである決裁を得るために作成し、提出するものです。 決裁書を兼ねている稟議書もあるものの、通常は稟議書で承認を得てから決裁書で決裁を受けます。
稟議書や決裁書は必ずしも承認・決裁されるとは限りません。簡潔かつ明確な文章にする、リスクと対策を示すなどのポイントを押さえて作成しましょう。