「年収の壁」に対する政府の支援制度|ポイントをまとめて解説 |HR NOTE

「年収の壁」に対する政府の支援制度|ポイントをまとめて解説 |HR NOTE

「年収の壁」に対する政府の支援制度|ポイントをまとめて解説

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※本記事は、リアライ社会保険労務士法人の島田雄太さんより寄稿いただいた記事を掲載しております。

こんにちは。リアライ社会保険労務士法人の島田です。

本記事では、巷で話題の「年収の壁」についての説明と、「年収の壁」対策として政府(厚生労働省)が打ち出した「年収の壁・支援強化パッケージ」の具体的な支援内容と注意点をご紹介します。

本記事をきっかけに、についての理解を深めていただければ幸いです。

島田雄太(しまだゆうた)|リアライ社会保険労務士法人 代表 / リレーションシップ&ヒューマンリソース株式会社 代表取締役 / 社会課題解決型へデザインする株式会社 代表取締役

大学卒業後、家具インテリア業界、警察官を経て社労士として独立。社労士法人の他2社経営し、幅広い角度から支援するのが特徴。独立からの5年間での相談実績は300社を超える。事例が豊富に社内に蓄積されている為、レアケースな労務相談でも対応が迅速に行える社労士事務所へと成長させる。保育園の労務監査員を務めるなど支援する業種業界も多岐に渡る。直近では、採用コンサルティングの仕事が増加し、企業の根幹部分の支援強化を行っている。

1. 「年収の壁」に対する支援制度が導入された背景

我が国は労働問題で大きな転換期を迎えています。「少子高齢化」で人手不足はますます深刻化し、企業活動に影響が及ぶと考えられます。まずは生産性をあげることが急務ではありますが、量的な人員確保も必要です。

また、我が国では扶養範囲内で働くパートタイム労働者・アルバイト(短時間労働者)が多いという現状があります。短時間労働者は貴重な働き手ですが、年収が一定額を超えると手取りが減るため就労調整を行うことが多いです。いわゆる106万の壁、130万の壁などと言われる「年収の壁」です。

「年収の壁」には大きくわけて税金の壁と社会保険の壁があります。税金の壁は主に4つあります。

  • 100万の壁(本人の住民税に影響)
  • 103万の壁(本人の所得税に影響)
  • 150万の壁(配偶者の税金に影響)
  • 201万の壁(配偶者の税金に影響)

社会保険の壁は主に2つあります。

  • 106万の壁(パート先の社会保険加入の壁)
  • 130万の壁(社会保険扶養の壁)

これらの壁は手取りに影響するため、壁を越えないように就労するケースが一般的です。
さらに近年最低賃金が上昇しているため、壁を越えないようにするためには、以前より厳しい就労調整が必要になってきています。また、配偶者が勤務している企業が扶養手当を支給している場合は、「就労調整をしたほうが得」と考える人が多いでしょう。

2. 「年収の壁」に対する政府の支援制度の詳細

このような「年収の壁」問題を鑑みて、政府は年収が一定額を超えると手取りが減るパートタイム労働者やアルバイトが就労調整をするといういわゆる「年収の壁」問題への対応策を示しました。それが2023年9月、厚生労働省より公表された「年収の壁・支援強化パッケージ」です。

2-1. 【106万の壁】対応策(キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の新設)

106万円の壁の対応策として、キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されました。雇用中の従業員の社会保険(健康保険・厚生年金)加入にあわせて手取りを減らさない取組を実施する企業に対して助成されます。この助成金には3つのメニューがあります。

①手当等支給メニュー

事業主が雇用中の労働者を新たに社会保険適用させるとき、「社会保険適用促進手当」の支給等により労働者の収入を増加させる場合に支給されます。

要件

申請時期

1人当たり助成額

1年目

①賃金の15%以上を追加支給(社会保険適用促進手当)

左欄の取組を6ヶ月間継続した後2ヶ月以内

6か月ごとに10万円×2回
(大企業は7.5万円×2回

2年目

②賃金の15%以上を追加支給
(社会保険適用促進手当)とともに3年目以降、以下③の取り組みが行われること

6か月ごとに10万円×2回
(大企業は7.5万円×2回)

3年目

③賃金(基本給)の18%以上を増額させていること(労働時間の延長との組み合わせも可能)

6か月で10万円
(大企業は7.5万円)

②労働時間延長メニュー

所定労働時間の延長により社会保険を適用させる場合に助成を行うものですが、週所定労働時間を4時間以上延長させるか、以下の表の②~④の週所定労働時間の延長と賃金の増額を組み合わせる場合に支給されます。

所定労働時間の延長

賃金の増額

申請時期

1人当たり助成額

①4時間以上

+

左欄の取組を6ヶ月間継続した後2ヶ月以内

6か月で30万円
(大企業は22.5万円)

②3時間以上4時間未満

+

5%以上

③2時間以上3時間未満

+

10%以上

④1時間以上2時間未満

+

15%以上

③併用メニュー(手当等支給メニューと労働時間延長メニューの併用)

・1年目に手当等支給メニューの1年目の取組を行った場合に支給されます。
・2年目に労働時間延長メニューにより、週所定労働時間を4時間以上延長させるか、以下の表の②~④の週所定労働時間の延長と賃金の増額を組み合わせる場合に支給されます。

要件

申請時期

1人当たり助成額

1年目

賃金の15%以上を追加支給(社会保険適用促進手当)

左欄の取組を6ヶ月間継続した後2ヶ月以内

6か月ごとに10万円×2回
(大企業は7.5万円×2回

2年目

上記の取組を行った上で、以下のいずれかの取組を行う。

所定労働時間の延長

賃金の増額

①4時間以上

②3時間以上4時間未満

5%以上

③2時間以上3時間未満

10%以上

④1時間以上2時間未満

15%以上

6か月で30万円
(大企業は22.5万円)

2-2. 【130万円の壁】対応策(事業主の証明による被扶養者認定の円滑化)

パート・アルバイトで働く方が、繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能です。事業主の証明を添付することで迅速な被扶養者認定を可能とします。

2-3. 【配偶者手当】対応策(企業の配偶者手当の見直し促進)

収入要件がある企業の配偶者手当の見直しに向けては、見直しの必要性・メリット・手順などを示す分かりやすい資料を作成し、周知します。

3. 今回の支援制度に関するポイント

上記では「年収の壁・支援強化パッケージ」について紹介しました。

ここではそれぞれの壁やパッケージにおける支援制度のポイントについてまとめています。

3-1. 【106万の壁】社会保険の加入を勧める

社会保険に加入することや、労働時間の増加を望まないパートタイム労働者は多いです。人事担当者はこのような従業員に社会保険加入のメリット・デメリット、手当の支給などの説明を行う必要があります。説明しても社会保険の加入はしたくないという場合は、従業員の意志を尊重する必要があります。

3-2. 【130万の壁】被扶養者認定の仕組みづくり

収入が一時的に上がったとしても、即社会保険の被扶養者から外れるというわけではないということを人事担当者が理解しておくことで、130万の壁(社会保険扶養認定の壁)の就労調整を行うパートタイム労働者がいる場合に、必要なときに限って多少ならオーバーして働いていただくことができます。(被扶養者認定には事業主が証明書を発行する必要があります。)

3-3. 【配偶者手当】着手するタイミング

現状、配偶者手当への対応は助成があるわけではなく、該当していない(配偶者手当を支給していない)企業も多いです。我が国の問題として取り組んだほうがよいですが、早急に着手しなくてもよいと言えます。

3-4. キャリアアップ助成金の活用

106万の壁(社会保険加入)は2024年10月に適用事業者が拡大される予定(従業員51人以上100人以下も対象となる)なので、該当する企業は対策のひとつとして助成金利用はおすすめです。

上記でも紹介したキャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」を利用する際には、2025年度末までに従業員に対して被用者保険の適用を行う必要があるため、導入を検討している場合は早めの対応を心がけることでスムーズになります。

3-5. 最新情報をこまめに確認する

「年収の壁・支援強化パッケージ」は新設されたばかりで変更や追加、廃止の可能性があるので動向に注視しておく必要があります。

パートタイム労働者にとって扶養から外れてしまうことや、年収の壁を越えてしまうことに関して慎重な人もいるため、最新情報をこまめにチェックし、働きやすい環境づくりに取り組みましょう。

4. まとめ

「年収の壁・支援強化パッケージ」は、パートタイム労働者の「年収の壁」を取り払うための政府の施策です。今後、人手不足と企業活動の低下を解消するためには、パートタイム労働者にも働き手としてさらに活躍していただく必要があり、そのためには「年収の壁」対策は急務であると言えます。

パートタイム労働者が「年収の壁」を意識せずに働ける環境作りを推進していく必要がありますが、まだまだ企業だけでこの問題を解決していくのは限界があると言えます。

新設された助成金を活用することで、社会保険加入により減ってしまう手取り金額に相当する手当を支給することができ、パートタイム労働者の社会保険加入促進・労働時間増加の助けになるでしょう。

企業によって事情は様々なので、すべての企業が活用すべき施策というわけではないですが、パートタイム労働者を多く抱える企業や、2024年10月に改正される社会保険の適用事業者となる企業にとって、キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」は活用したい助成金と言えます。

「年収の壁・支援強化パッケージ」は、今後拡充される可能性が高いので、動向に注視して人手不足を解消していくための手段のひとつとして、賢く活用していきましょう。

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