近年では、電子帳簿保存法の改正や、働き方改革の影響も受け、ペーパーレス化の取り組みが注目されています。法律で給与明細の電子化は認められていますが、注意点もあります。 当記事では、給与明細の電子化の概要や、給与明細をペーパーレス化するメリット・デメリット、手順・方法、給与明細を電子化できるおすすめのツールについて解説します。
目次
1.給与明細のペーパーレス化とは
給与明細のペーパーレス化とは、給与計算をおこない、従業員の給与明細をオンライン上で交付することです。平成18年度の税制改正により、給与所得の源泉徴収票や給与などの支払明細書、特定口座年間取引報告書の交付に関する規定が改正されました。
そして、平成19年1月1日以後に交付する給与所得の源泉徴収票などについて、一定の要件を満たせば、書面による交付だけではなく、電子化して提供できるとされています。
国税庁によると、下記のような給与明細の電子交付の方法が挙げられます。
・電子メールを利用する方法
・社内LAN・WANやインターネット等を利用して閲覧に供する方法
・フロッピーディスク、MO、CD-ROM等の磁気媒体等に記録して交付する方法
また、給与明細のペーパーレス化を推進することで、さまざまなメリットを得ることが可能です。
2.給与明細をペーパーレス化するメリット
ここでは、給与明細をペーパーレス化するメリットについて詳しく紹介します。
2-1.印刷や送付のコストを削減できる
紙の給与明細を従業員に交付する場合、印刷や送付をおこなううえでコストがかかります。
一つひとつのコストは小さくみえるかもしれませんが、多くの従業員を抱えている規模の大きい企業の場合、費用が積み重なり、コストが大きくなる可能性もあります。
給与明細のペーパーレス化を推進することで、紙代・インク代などの印刷コストや、切手代・封筒代などの送付コストを削減することが可能です。また、給与明細の作成・印刷・郵送といった一連のプロセスを電子データの活用により効率化できるため、人件費の削減が期待できます。
このように、ペーパーレス化により、給与明細の印刷や送付にかかるコストを削減することが可能です。
2-2.給与データを管理しやすくなる
紙媒体の給与明細を扱っている場合には、紙の書類を管理する手間がかかります。また、紙で管理している場合、紙の給与明細が紛失してしまうというリスクや、必要な書類を探し出すのに時間がかかるというデメリットがあります。
しかし、給与明細をペーパーレス化すれば、社員に交付する給与明細の管理の手間やリスクを減らすことが可能です。また、必要なデータを探すときに、検索機能を使用して、スピーディーに見つけることができます。
さらに、給与明細の発行・交付に至るまでに、給与計算や源泉徴収、年末調整など、さまざまなプロセスがあり、電子化することで、これらの業務も一元化できます。
このように、給与明細のペーパーレス化によって、給与データを一元管理できるため、業務効率を向上させることが可能です。
2-3.時間や場所を問わず給与明細が確認できる
紙の給与明細では、手渡しや郵送により実際に手元になければ、内容を確認できません。
しかし、電子化された給与明細であれば、PCやスマホなどの端末とネット環境があれば、オフィスからだけではなく、自宅や外出先などからでも、時間や場所を問わず給与明細を確認できます。また、システムを利用すれば、ログイン管理や通信の暗号化などが可能なため、紙の給与明細に比べてセキュリティの強化につながります。
このように、給与明細を電子化することで、いつでもどこでもオンライン上で給与明細を安心して確認することが可能です。
3.給与明細をペーパーレス化するデメリット
ここでは、給与明細をペーパーレス化するデメリットについて詳しく紹介します。
3-1.導入までに一定の準備が必要
給与明細のペーパーレス化を実現するまでには、クラウドサービスなどのITツールの導入や、業務フロー・運用ルールの整備、従業員への周知など、時間やコストがかかります。
とくに、給与明細を電子化するために必要なソフトを導入する際には、大きなコストがかかることもあります。そのため、目的・予算を明確にして、自社のニーズにあったツールを導入することが大切です。
3-2.セキュリティリスクへの対策が必要
給与明細を電子化することで、時間や場所を問わず確認できるというメリットがありますが、同時に、セキュリティリスクも高まります。不正ログインや改ざんなどが起こらないように対策をおこなうことが必要です。
そのため、セキュリティ対策の万全なシステムを利用したり、従業員に対してセキュリティ研修を実施したりするなどの対策をおこなうことが大切です。給与明細は従業員の重要な個人情報であり、セキュリティ対策に気をつける必要があります。
4.給与明細をペーパーレス化する手順
ここでは、給与明細をペーパーレス化する手順について詳しく紹介します。
4-1.給与明細を電子化するシステムを導入する
まずは給与明細をペーパーレス化する目的を明確にし、その目的にあった給与明細を電子化できるシステムを導入しましょう。
近年では、IT技術の発展や働き方改革の影響もあり、さまざまなITツールが登場しています。たとえば、給与計算システムに給与明細発行機能の搭載されているツールもあれば、給与明細の発行のみができるツールもあります。
そのため、自社の状況を踏まえて、複数のサービスを比較し、自社の目的や規模にあったツールを導入することが大切です。また、無料トライアル期間などを活用して、使用感を確認することも重要といえます。
4-2.社員への周知と同意書の締結をおこなう
給与明細を電子化して交付するには、従業員の同意が必要になります。そのため、同意書を締結する必要があります。同意書のやり取りは、紙の書類でも問題ありませんが、給与明細を電子化できるシステムの機能でもおこなえます。
従業員から給与明細の電子化の同意が得られない場合には、紙で給与明細を交付しなければなりません。そのため、従業員に給与明細をペーパーレス化する目的やメリットを事前に周知することが大切です。
4-3.給与明細を作成・配信する
従業員から同意が得られ、給与明細を電子化できるシステムの導入ができたら、実際に給与明細を作成して送付をおこないましょう。
電子化された給与明細の交付方法には、メールで送付する方法や、クラウド上にアップロードする方法など、複数の手段があります。従業員の使いやすさや、コスト削減・業務効率の観点から、自社にあった方法を採用するのがおすすめです。
5.給与明細のペーパーレス化の注意点
ここでは、給与明細をペーパーレス化を進めるうえでの注意点について詳しく紹介します。
5-1.電子化に同意しない従業員には紙の給与明細が必要
給与明細のペーパーレス化を推進するにあたって、従業員から給与明細の電子交付の同意を得る必要があります。そして、電子化に同意しない従業員がいる場合には、紙で給与明細を交付しなければなりません。
所得税法231条では、従業員の承諾を得られれば、給与明細を電子化して提供できるとされています。ただし、従業員から承諾を得ている場合であっても、従業員から書面による交付の請求があるときは、書面により給与明細を交付しなければなりません。
このように、給与明細の電子化を進められても、従業員の同意がなければ、紙で給与明細を交付しなければならないため、管理が煩雑になってしまうという恐れがあります。そのため、従業員の協力を得られるように、ペーパーレス化の目的やメリットをきちんと周知することが大切です。
5-2.セキュリティ対策が充実したシステムを選ぶ
給与明細は大切な個人情報であるため、セキュリティ対策の充実したシステムを導入することが大切です。
たとえば、無料のツールを使用すると、セキュリティが脆弱であり、不正アクセスなどにより、給与データの情報が漏洩してしまうという恐れがあります。
そのため、安全性を重視したい場合には、セキュリティ対策における豊富な機能があるシステムを選びましょう。
また、システムの機能だけではなく、ウイルス対策ツールを導入したり、社内教育をおこなったりするなど、自社で対策をおこなうことも大切です。
6.給与明細のペーパーレス化で人事業務を効率化しよう!
給与明細のペーパーレス化により、コストの削減や業務効率の向上、多様な働き方の実現などのメリットがあります。
ただし、給与明細を電子化するにあたって、従業員の同意が得られない場合には、紙で給与明細を交付しなければならないため、注意が必要です。
また、給与明細は重要な個人情報であるため、セキュリティ対策にも気を付けることが重要といえます。