年末調整の時期が近づくと、給与担当者や労務担当者の業務負担が大きく増加します。企業によっては、1人の担当者が年末調整業務をおこなうケースもあります。年末調整業務をより効率良くおこなうことができ、2020年に義務化された「電子申告」にも対応できるのが、給与計算ソフトです。この記事では、年末調整業務に対応した給与計算ソフトを導入するメリットや、導入時の注意点と選定ポイントを紹介します。
目次
1.年末調整に便利な給与計算ソフトを導入する6つのメリット
年末調整業務の効率化は、企業のバックオフィスの課題の一つです。とくに2018年の税制改正によって、配偶者控除や配偶者特別控除の取り扱いが変わった結果、「保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」が「保険料控除申告書」と「配偶者控除等申告書」に分割され、書類作成の手間が増えました。
年末調整の業務負担を減らすうえで、給与計算ソフトの導入は必要不可欠です。ここでは、年末調整に対応した給与計算ソフトを導入するメリットを6つ紹介します。
1-1.年末調整業務にかかる時間を大幅に削減できる
給与計算ソフトを導入することで、年末調整の手間を大幅に削減できます。従来の年末調整業務では、次のような業務フローが一般的でした。
- 各種控除申告書を従業員に配布する
- 従業員に記入してもらい、申告書を回収する
- 申告書に間違いがある場合、差し戻しをおこなう
- 申告書の内容を1枚1枚転記し、所得税の再計算をおこなう
- 源泉徴収票を作成し、従業員に配布する
- 給与支払報告書などの法定調書を作成し、税務署や市区町村に提出する
年末調整業務はやるべきことが多く、残業や長時間労働の一因でした。しかし、給与計算ソフトを導入すれば、業務フローは次のように変わります。
- スマートフォンやタブレットから、従業員に必要な項目を記載してもらう
- 給与計算ソフトが、所得税や控除額を自動で再計算する
- 計算結果が各種帳票類に自動で反映される
※一般的な人事労務ソフトを導入した場合の業務フロー
このように、年末調整業務の業務フローを簡略化できるだけでなく、所得税の計算が自動化されるため、計算ミスの発覚による手戻りも発生しません。
また、年末調整の対象者をリスト化し、各種控除申告書の提出状況や差し戻し状況を可視化できるため、進捗状況をひと目で把握できるのもポイントです。給与担当者や労務担当者の業務負担を大きく削減することができます。
さらに、年末調整の対象となる従業員側の負担も軽減されます。従業員は紙の控除申告書へ記入する代わりに、スマートフォンなどで簡単に入力や確認をおこなうことができるため、従業員にとってもメリットがあります。
1-2.バックオフィスのペーパーレス化を実現できる
給与計算ソフトがあれば、従業員に配布する源泉徴収票や、税務署や市区町村に提出する給与支払報告書などの法定調書をソフトウェア上で作成できるため、ペーパーレス化を実現できます。従来のように、何十枚もの書類を印刷する必要がないため、インク代やコピー用紙代などの消耗品費を節約可能です。
また、従来の紙べースの年末調整業務には、書類の保存場所の問題もありました。所得税法施行規則第76条によると、年末調整に使用する書類は、その年の翌年1月10日の翌日から7年間の保存が必要とされています。(※1)たとえば、2022年の年末調整の場合、2030年1月10日が保存期限です。
具体的には、次のような書類が該当します。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の配偶者控除等申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
7年分の書類を保存するには、手間もスペースも必要です。しかし、給与計算ソフトを導入すれば、控除証明書や申告書などを電子データで保存できます。
1-3.電子申告の義務化に対応できる
電子申告とは、インターネット上で申告をおこなうことです。2020年10月から、年末調整手続きの電子化がスタートしました。
たとえば、2019年の年末調整で源泉徴収票を100枚以上提出した企業は、2021年の年末調整より、源泉徴収票および給与支払報告書を電子データで提出しなければなりません。
その際に電子申告に対応した給与計算ソフトがあれば、源泉徴収票や給与支払報告書などの作成から、電子申告までを自動化できるため、電子申告の義務化に対応可能です。
なお、電子申告の義務化に伴い、国が専用の「年調ソフト」を無償で提供しています。しかし年調ソフトには、従業員が提出したファイルを加工する必要があったり、従業員の提出状況を可視化できなかったりと、運用上の課題があります。給与計算ソフトと年調ソフトのどちらが自社に最適なのか、よく検討してから導入するようにしましょう。
1-4.最新の法改正に対応できる
年末調整業務に関わる法改正がおこなわれた場合、その都度、現場レベルでの対応が必要です。たとえば、税制改正により、2020年からは、合計所得金額が2,400万円以下の場合の基礎控除が、38万円から48万円に引き上げられました。(※2)基礎控除の引き上げにより、年末調整業務での所得税の再計算に影響が出ます。
また、控除を受けることができる配偶者や扶養親族などの要件も見直されました。同一生計配偶者及び扶養親族の場合、合計所得金額の要件が、38万円以下から48万円以下に引き上げられています。(※3)
年末調整業務に対応した給与計算ソフトがあれば、こうした法改正にも対応可能です。とくにクラウド型の給与計算ソフトの場合、ベンダー側が定期的にアップデートを提供するため、法改正がおこなわれても安心です。
※2:基礎控除|国税庁
※3:各種控除等を受けるための扶養親族等の合計所得金額要件等の改正(令和2年分以降)|国税庁
1-5.従業員からの問い合わせが減少する
年末調整に使う各種控除申告書には、「甲欄と乙欄の違い」「収入金額と所得金額の違い」など、専門的な用語が多く使われています。
また、「前職の源泉徴収票はどうするのか」「配偶者が会社員ではなく個人事業主の場合、どのような扱いにするのか」など、わかりにくい手続きもあります。そのため、年末調整の時期になると、従業員から担当部署への問い合わせが増加します。
年末調整用のマニュアルを作成している企業もみられますが、給与計算ソフトがあればもっと便利です。年末調整機能が備わっている給与計算ソフトの多くは、従業員がアンケートに答えるだけで控除申告書を作成できる仕組みを用意しています。
また、紙の書類に記入するのではなく、スマートフォンやタブレットから入力できるため、手続きも簡単です。給与担当者や労務担当者への問い合わせ件数が減るため、本来の業務に注力できます。
1-6.テレワークや在宅勤務に対応できる
働き方改革や、新型コロナウイルスの対策のため、テレワークや在宅勤務を導入する企業が増えています。2021年4月、都内の企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は56.6%でした。(※4)
テレワークや在宅勤務の課題の一つが、「年末調整業務をどのようにおこなうか」です。手渡しでのやりとりができないため、各種控除申告書や源泉徴収票を郵送でやりとりする企業もあります。
給与計算ソフトを導入すれば、テレワーク環境であってもスムーズに年末調整業務をおこなえます。各種控除申告書や源泉徴収票などは、すべてシステム上で作成できるため、インターネット環境さえあれば在宅でも問題ありません。郵送費が一切かからないため、コスト削減にもつながります。
2.年末調整に便利な給与計算ソフトを導入する際の2つの注意点
給与計算ソフトは年末調整業務に大変役立ちます。しかし、給与計算ソフトを導入する際には注意点が2つあります。給与計算ソフトの導入に伴い、従業員へ周知徹底を図り、税務署への届出を必ずおこなうようにしましょう。
2-1.従業員へ周知徹底を図る
紙ベースでの年末調整から、給与計算ソフトでの年末調整への移行によって、業務フローが大きく変わります。
年末調整をスムーズにおこなうには、従業員の協力が必要不可欠です。給与計算ソフトの導入にあたっては、あらかじめ従業員への周知をおこない、「これまでの業務フローとどう変わるのか」「どのように控除申告をするのか」を説明しましょう。とくに中高年者など、システムの操作があまり得意ではない従業員が多い場合は丁寧なサポートが必要です。
また、源泉徴収票や給与支払報告書などの作成や、電子申告をおこなう担当者に対しては、必要に応じてトレーニングを実施し、給与計算ソフトの使い方を覚えてもらいましょう。
2-2.税務署への届出をおこなう
年末調整業務の電子化に伴い、必要な書類を紙ではなく電子データで受け取る場合は、税務署への届出が必要です。「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を作成し、所轄の税務署に持参または郵送しましょう。
たとえば、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書や、給与所得者の配偶者控除等申告書、給与所得者の保険料控除申告書などを電子化する場合、「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出しなければなりません。
給与計算ソフトを導入する場合は、忘れずに「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を作成しましょう。
3.年末調整に便利な給与計算ソフトの4つの選定ポイント
ここまで、給与計算ソフトを導入するメリットを解説しました。年末調整業務を効率化するには、自社に合った給与計算ソフトを選ぶことが大切です。ここでは、給与計算ソフトを導入する際に比較すべきポイントを4つ紹介します。
3-1.料金体系はどうなっているか
給与計算ソフトの料金体系は、「定額制(月額制)」と「従量課金制」の2種類に分けられます。定額制とは、毎月固定の利用料金が発生する料金体系で、従業員数が増えてもコストは変わりません。一方、従量課金制とは、従業員数に応じて利用料金が変わる料金体系です。どちらの料金体系の方が割安であるかは、企業の従業員数によって判断することができます。
従業員数が少ない場合は、利用料金が固定の定額制よりも、従業員数によって変動する従量課金制のほうが安くなるケースがあります。逆に従業員数が多い場合は、従量課金制のほうがコストが高くなる傾向にあります。
たとえば、1ユーザーにつき300円の利用料金がかかる給与計算ソフトを例に挙げます。従業員数が5名の場合は、毎月1,500円の料金で利用できますが、従業員数が200名の場合は、毎月6万円の支払いが必要です。給与計算システムの運用コストを重視する場合は、まず料金体系に着目しましょう。
3-2.セキュリティ対策が充実しているか
年末調整業務では、さまざまな個人情報を取り扱います。たとえば、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書や、給与所得者の配偶者控除等申告書、給与所得者の保険料控除申告書には、従業員の氏名や家族構成、加入している保険や住宅ローンなど、さまざまな個人情報が記載されています。
こうした各種申告書を電子化する場合、サイバー攻撃や不正アクセスなどに備える情報漏洩対策が必要です。もし、従業員の個人情報が外部に流出した場合、従業員のモチベーション低下や、損害賠償請求、取引先からの信用低下といったリスクが発生します。
そのため、年末調整ソフトや給与計算ソフトを導入する場合は、「セキュリティ対策が充実しているか」をチェックしましょう。とくに第三者の不正アクセスを防ぐうえで、IDやパスワードの管理が重要です。アカウントの権限設定や、アクセスログを記録する機能など、セキュリティ対策の充実度で製品を比較しましょう。
3-3.どのような帳票を作成できるか
年末調整にはさまざまな帳票の作成が必要です。給与計算ソフトによって、対応している帳票と対応していない帳票があるため、対応帳票数を比較しましょう。たとえば、年末調整に関連した帳票には、次のようなものがあります。
帳票 | 提出先 |
---|---|
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 会社保管 |
給与所得者の配偶者控除等申告書 | 会社保管 |
給与所得者の保険料控除申告書 | 会社保管 |
給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表 | 税務署 |
支払調書 | 税務署 |
源泉徴収票 | 税務署 |
給与支払報告書(総括表) | 市区町村 |
給与支払報告書(個人別明細書) | 市区町村 |
給与計算ソフトがあれば、こうした帳票を自動で作成できます。対応できる帳票数が多い給与計算ソフトであるほど、書類作成の手間や、データを転記する手間がなくなります。給与計算ソフトを選ぶときは対応帳票数に着目しましょう。
3-4.電子申告に対応しているか
2020年10月から、年末調整の電子申告が可能になりました。手作業で電子申告をおこなう場合、次のような業務フローが一般的です。
- PCdesk(ピーシーデスク)などのeLTAX対応ソフトウェアの利用申請をおこなう
- eLTAX対応ソフトウェアをインストールし、申告書の提出先を登録する
- 源泉徴収票や給与支払報告書などの法定調書に電子署名をおこなう
- 法定調書の提出後、受付完了通知を確認する
給与計算ソフトによっては、年末調整に必要な帳票類の作成だけでなく、電子申告にも対応している製品があります。あらかじめe-Taxの「利用者識別番号」と「暗証番号」を取得する必要はありますが、事前準備を済ませておけば、帳票類の作成から提出までをまとめて実行することが可能です。
年末調整の電子申告の義務化対象の企業は、電子申告に対応した給与計算ソフトを選びましょう。
4.年末調整業務の効率化のため、給与計算ソフトを導入しよう
年末調整業務は給与担当者や労務担当者にとって大きな業務負担が発生します。年末調整の電子申告の義務化なども影響し、ますます年末調整業務の効率化が重要です。
年末調整業務に課題を抱える企業は、年末調整に対応した給与計算ソフトの導入を検討しましょう。給与計算ソフトを導入すれば、年末調整業務の時間短縮やペーパーレス化のほか、電子申告の義務化に対応できます。
また、テレワークや在宅勤務を推進する企業にとって、インターネットがあれば利用できるクラウド給与計算ソフトの存在は心強い味方です。
給与計算ソフトを導入するときは、自社に合った製品を選びましょう。電子申告に対応している製品や、対応帳票数が多い製品を選べば、より年末調整業務を効率化することが可能です。