有給休暇についてのルールは就業規則に定めなければいけません。1年につき5日間の有給休暇の取得が義務化したことによって、就業規則を変更しなければならないケースもあります。罰則を受けないためにも労働基準法に沿った内容になっているかどうかを確認しましょう。
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目次
1. 有給休暇を就業規則に定める際のポイント
就業規則とは、使用者と従業員との間の雇用に関するルールを定めた規則です。事業所ごとに作成することが義務付けられており、絶対に記載しなければいけない必要事項のなかに「休暇」に関する事項が含まれています。
労働基準法第89条により、有給休暇についても就業規則に必ず記載しなくてはいけないと定められています。
就業規則に有給休暇について定める際のポイントは、次のとおりです。
1-1. 有給休暇の対象者と付与日数について記載する
まず、有給休暇の対象者について記載する必要があります。対象者とは、入社日から6か月継続して勤務し、全労働日の8割を超えて勤務する労働者のことです。なお、産前産後の休業期間など8割の算定基準に含める休暇についても、記載しておいた方が良いでしょう。
次に、有給休暇は勤続年数によって付与される日数が異なります。また、正社員やパート・アルバイトなど週の勤務日数や1日の勤務時間の違いによっても、付与される日数が変わってきます。
就業規則には、それぞれ分かりやすいように区別して付与日数を記載する必要があります。
1-2. 有給休暇の取得ルールについて記載する
有給休暇は、基本的に従業員の請求する日に取得させなくてはいけません。しかし、急な申し出などによって、事業の正常な運営に支障がでる場合も考えられます。そのため、「有給休暇の取得日の5日前に必ず申請する」といったルールをあらかじめ決めておくと、社員の意識付けに効果があります。
また、事業の正常な運営に支障がある場合に、従業員の有給取得日を変更させることができる「時季変更権」についても、就業規則に記載しておかなければなりません。
1-3. 就業規則の内容が労働基準法に沿っているか確認する
会社のルールとして定められている就業規則ですが、労働基準法の内容に沿っていなかった場合、労働基準法優先となり、就業規則は無効となります。
法違反の就業規則を作らないため、また、そのような就業規則で従業員を混乱させないためにも、まずはじめに労働基準法を確認しておきましょう。
1-4. 有給休暇の消滅期限と繰越について記載する
年次有給休暇の消滅期限と繰越に関する規定を就業規則に明記することは重要です。労働基準法第115条では、付与された1年間で取得されなかった休暇について、合計2年間の繰越しが認められています。
ただし、これは最低基準であり、従業員にとって有益な条件であれば企業ごとに変更も可能です。このため、未消化の有給休暇の消滅期限を就業規則に示す必要があります。
また、繰越し分と当該年の分のどちらから消化されるか、明確にしておくと良いでしょう。なお、消滅した有給休暇の買い上げは認められていないため、使用者による適切な管理と労働者への伝達が重要です。
1-5. 有給休暇に関する就業規則の記載例
有給休暇に関する就業規則の記載例は厚生労働省のモデル就業規則をチェックすると良いでしょう。
38ページ以降の第5章休暇等の部分に就業規則の記載例が書かれているので、就業規則を作ったり、見直したりする場合は活用するのをおすすめします。
(年次有給休暇)
第22条 採用日から6か月間継続勤務し、所定労働日の8割以上出勤した労働者に対 しては、10日の年次有給休暇を与える。その後1年間継続勤務するごとに、当該1年間において所定労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、下の表のとおり勤続 期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。
2 前項の規定にかかわらず、週所定労働時間30時間未満であり、かつ、週所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数を定める労働者については年間 所定労働日数が216日以下)の労働者に対しては、下の表のとおり所定労働日数及 び勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。
3 第1項又は第2項の年次有給休暇は、労働者があらかじめ請求する時季に取得させる。ただし、労働者が請求した時季に年次有給休暇を取得させることが事業の正常な 運営を妨げる場合は、他の時季に取得させることがある。
4 前項の規定にかかわらず、労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。(一部抜粋)
上記のモデル就業規則は一部となりますので、全文は引用リンクからご確認ください。
2. 有給休暇取得の義務化で就業規則を変更すべきケース
2019年の働き方改革関連法の成立により、年5日の有給休暇を従業員に取得させることが、使用者に義務付けられました。ほかにも、就業規則を変更しなければならないケースは、以下の通りです。
2-1. 有給休暇を「時季指定」で取得させるケース
時季指定とは、従業員に年5日有給休暇を取得させるために、使用者が有給休暇取得の時季を指定して取得させる方法です。
2019年の法改正により、有給休暇が年5日取得できていない従業員に対して時季指定をして有給休暇を確実に取得させることが会社側に求められています。ただし、取得義務化の対象となるのは、年に10日以上有給休暇を付与されている従業員です。
従業員が5日分有給休暇を自らで請求または取得している場合については、使用者は時季指定することができません。また、時季指定をおこなうにあたっては、必ず従業員の意見を聞いたうえで、本人の希望に沿うよう努めなければならないとされています。
使用者が一方的に取得時季を指定してすることはできませんので、あわせて注意しましょう。
時季指定によって有給休暇を従業員に取得させたい場合は「時季指定によって有給休暇を取得させる旨」「時季指定の対象となる労働者の範囲」「時季指定の方法」について就業規則に記載する必要があります。
万が一、就業規則への記載なしに時季指定をおこなった場合は、罰則の対象となりますので、必ず記載するようにしましょう。
就業規則の記載例
【就業規則第〇〇条】
年次有給休暇が10日以上与えられた労働者は、付与日から1年以内に、該当する労働者の年次有給休暇日数のうち5日をあらかじめ時季を指定して取得させる。時季を指定する際は、会社は該当労働者の意見を尊重したうえで取得させるものとする。
ただし、労働者自身の請求によって年次有給休暇を取得した場合(使用者が時季変更権を行使した場合も含む)や、労使協定に基づき年次有給休暇の計画的付与によって取得した場合は、該当する日数を時季指定の5日から控除するものとする。
2-2. 有給休暇の一斉取得など「計画的付与(計画年休)」をおこなうケース
使用者が時季指定して有給休暇を取得させる方法のほかに、計画的付与という方法もあります。計画的付与とは、使用者が計画的に有給休暇を取得する日を決めて、すべての従業員に一斉に取得させる方法です。
計画的付与によって有給休暇を取得させることができる日数は、5日を超える部分となっています。5日分は従業員に自由に取得させなければなりませんので、注意が必要です。
計画的付与の例として、ゴールデンウィークや夏季休暇、年末年始などに有給休暇を付与して大型連休としたり、飛び石の休日に有給休暇を入れて連休にしたりするなど、さまざまな方法で活用されています。
計画的付与は、使用者にとって労務管理がしやすくなるだけでなく、従業員にとっても有給休暇が取得しやすくなるといった、双方にとってメリットがある方法です。
有給休暇を計画的付与によって取得させたい場合は、まず就業規則へ「労働者代表と書面による協定を締結したときは、労働者の有する年休の内5日を超える部分について、その協定に定める時季に計画的に取得させることがある」などのようにあらかじめ定める必要あります。
また、実際に計画的付与をおこなう際には、次の項目について労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で、事前に書面による協定を締結する必要があります。
- 計画的付与の対象者
- 計画的付与の対象となる有給休暇の日数
- 具体的な方法
- 有給休暇の付与日数が少ない者の扱い
- 計画的付与日の変更
なお、上述の労使協定については、労働基準監督署への届け出は不要となります。
就業規則の記載例
【就業規則第〇〇条】
従業員の過半数代表者との書面の協定に基づき、各従業員が有する年次有給休暇のうち5日を超える日数については、事前に定めた時季に取得させることができる。
2-3. 有給休暇の基準日を統一するケース
有給休暇の付与において、基準日を統一することが認められています(斉一的取扱い)。この際、就業規則への記載が必須です。
通常、有給休暇は、入社から6ヶ月間勤務し、全労働日の80%以上出勤することで権利が発生します。しかし、従業員の入社日によって基準日が異なるため、とくに中途採用が多い場合は混乱や管理ミスが生じることがあります。
全従業員の基準日を統一し、有給休暇の斉一的付与をおこなうことで、管理を簡素化できます。
たとえば、10月1日に基準日を統一する場合、入社日にかかわらず全従業員以外が10月1日に一斉に有給休暇を付与されることになります。
就業規則の記載例
【就業規則第〇〇条】
年次有給休暇の基準日は毎年4月1日とし、各従業員には以下の日数を付与する。ただし、入社後6カ月を経過しない従業員はこの付与の対象外とする。
2-4. 有給休暇の前倒し付与をおこなうケース
有給休暇は前倒しで付与することもできます。例えば、入社時に5日を付与した後、6ヶ月間連続して所定労働日数の80%以上出勤した従業員には、さらに5日が付与されます(分割付与)。
前倒しの付与日は、通常、前の付与日から1年以内で設定される必要があります。
就業規則の記載例
【就業規則〇〇条】
入社日に年次有給休暇を5日付与し、その後6カ月間継続して所定労働日数の8割以上出勤した者には、年次有給休暇をさらに5日付与する。
1年以上の継続勤務をした者は、1年経過につき該当期間に8割以上の出勤をした場合に1日を加算し、3年以上継続勤務した者には1年ごとに2日を加算して付与する。ただし、付与される日数は1年で最大20日とする。
2-5. 半日単位の有給休暇を認めるケース
有給休暇は半日単位で付与することもできます。就業規則には、事前に承認された場合に限り、年次有給休暇を半日単位で取得できる旨を明記し、その際の始業・終業時刻や休憩時間も具体的に示しておきましょう。
なお、半日単位での取得を認めるかどうかは、企業の任意で決定されます。この制度を整えることで、より多様な働き方を促進することが可能です。
就業規則の記載例
【就業規則〇〇条】
会社が事前に承認した場合、年次有給休暇を半日単位で取得できる。具体的な半日単位の休暇取得において、午前休と午後休の始業終業時刻は以下のとおりとする。
なお、年次有給休暇を半日単位で取得した場合、終業時刻を超過する労働は認めない。
【午前休】
始業時刻:午後1時
終業時刻:午後6時
休憩:15時から45分間
【午後休】
始業時刻:午前9時
終業時刻:午後1時
2-6. 時間単位の有給休暇を認めるケース
時間単位の有給休暇を認めるケースでは、従業員が有給休暇を時間単位で取得できる制度を導入することが可能です。ただし、年5日が限度とされ、前年度からの繰越分も含めてこの制限が適用されます。
時間単位年休を導入するには、労使協定を締結し、就業規則にその内容を明記することが必要です。
取得する際の時間数は、分単位の端数を1時間に切り上げなければなりませんが、必ずしも1時間単位である必要はなく、2時間、3時間を単位にすることもできます。
就業規則の記載例
労働者代表との書面による協定に基づき、年次有給休暇の日数のうち、1年について5日の範囲で時間単位の年次有給休暇(以下「時間単位年休」という。)を付与する。
(1)時間単位年休の対象者は、すべての労働者とする。
(2)時間単位年休を取得する場合の、1日の年次有給休暇に相当する時間数は以下のとおりとする。
① 所定労働時間が5時間を超え6時間以下の者・・・6時間
② 所定労働時間が6時間を超え7時間以下の者・・・7時間
③ 所定労働時間が7時間を超え8時間以下の者・・・8時間
(3)時間単位年休は1時間単位で付与する。
(4)本条の時間単位年休に支払われる賃金額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間当たりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。
(5)上記以外の事項については、年次有給休暇に関する規定と同様とする。
3. 就業規則がない企業での有給休暇の扱い
通常は有給休暇についての申請手続きなどを就業規則で定めますが、10人未満の労働者を使用する企業で就業規則がない場合、労働者から申請されれば、使用者は有給休暇を与えなければなりません。
10人未満の企業には就業規則の作成は義務付けられていないものの、従業員を雇っている以上労働基準法には則る必要があります。そのため、就業規則がなくても、従業員に有給休暇を付与する義務は発生するため、注意が必要です。
また、就業規則がないことで起きるトラブルを防ぐためにも、企業規模に関わらず就業規則を作成しておいた方が安心でしょう。
常時10人以上の労働者を使用する企業で就業規則がない場合は、まず就業規則を作るようにしましょう。常時10人以上の労働者を使用する企業は就業規則の作成が義務付けられています。労働基準法第89条の「就業規則の作成及び届出の義務」に対する違反となり、30万円以下の罰金が科されます。
就業規則がないことで有給休暇以外の面でも賃金の規定がなくてトラブルが発生するなど様々な不都合がでてきます。
4.就業規則に記載していても無効となる有給休暇のルール
就業規則に記載していても無効となる有給休暇についてのルールがいくつかあります。労働基準法に違反し、労働者の不利になるような就業規則を定めていた場合、無効となるだけでなく、罰則を科される可能性もあるので注意が必要です。
4-1. 「有給休暇はない」という就業規則は無効
有給休暇は労働基準法で定められた労働者の権利です。そのため、会社独自で有給休暇はないと定めていても、その規則は無効となります。
業種、業態にかかわらず、また、正社員、パートタイム労働者などの区分なく、
一定の要件を満たした全ての労働者に対して、年次有給休暇を与えなければな
りません(労働基準法第39条)。
このとおり、一定の要件を満たせば、パート・アルバイトを含む全ての労働者に有給休暇が付与されます。そのため「パート・アルバイトには有給休暇がない」といった就業規則も無効となります。
4-2. 「有給休暇は繰越できない」という就業規則は無効
「有給休暇は繰越できない」といった就業規則を定めていた場合も、それは無効となります。
労働基準法で有給休暇の請求権に2年の時効があることが定められているため、有給休暇は付与された翌年であれば繰越することができます。繰越できないと規定していた場合、労働基準法違反であり、無効となります。
5. 年5日の有給取得義務化に応じて就業規則の変更を正しくおこないましょう
2019年の4月から年5日の有給取得が義務化され、それに対応した就業規則の変更が必要になりました。
使用者の時季指定または計画定期付与、いずれかの手段を講じて有給休暇を取得させる際には、あらかじめ就業規則に定めておく必要があります。
年5日の有給取得義務に違反した際は、従業員1人につき30万円の罰金を科せられますので、会社に適した方法で有給取得を推進させなくてはいけません。
また、義務化以外でも有給休暇に関する就業規則が労働基準法に則っているのかどうかを確認する必要があります。
就業規則を適切に変更し、ルールに則った有給休暇の管理をおこないましょう。
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