みなし労働時間制は、労働基準法38条に規定された働き方のため違法ではありません。ただし、明らかにみなし時間以上働いているのに残業代を支払わなかったり、深夜・休日労働の賃金を割り増さなかったりすれば違法となります。本記事では、みなし労働時間制運用時に違法にならないための注意点を解説します。
労働基準法の改正によって、裁量労働制とは別にフレックスタイム制の清算期間が延長されるなど、近年柔軟な働き方を導入しやすい体制が確立されてきました。
実際にフレックスタイム制や裁量労働制など、柔軟な働き方を導入した企業も増えているのではないでしょうか? しかし、出勤・退勤時間が従業員によって異なるため、今までよりも勤怠管理が複雑になってしまう傾向が見られます。
そこで今回は「働き方改革に対応した勤怠管理対策BOOK」をご用意しました。 柔軟な働き方を導入しつつ、勤怠管理を効率的おこなうためにもぜひご覧ください!
目次
1.みなし労働時間制自体は違法ではない
みなし労働時間制とは、実際の労働時間ではなく、あらかじめ定められた労働時間だけ働いたものとみなす制度です。
例えば、みなし労働が8時間の場合、実労働時間が5時間でも、12時間でも、8時間分働いたものとみなして給与を支払います。
みなし労働時間制は、労働基準法38条に規定された働き方であるため、その要件を守る限り、違法な働き方ではありません。
同法では次の2種類3タイプのみなし労働時間制を認めています。
- 事業場外みなし労働時間制
- 裁量労働制(専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制)
本章では、みなし労働時間制の種類をそれぞれ詳しく解説します。
1-1.事業場外みなし労働時間制
外回りの営業職のように、労働時間の全部または一部を事業場外で従事したときに、所定労働時間労働したものとみなす仕組みです。なお、適用できるのは、労働時間の把握が困難な場合のみです。
導入の際は、就業規則への明記が必要ですが、一定の場合を除き、労使協定の締結は義務付けられていません。
1-2.専門業務型裁量労働制
専門性が高く、使用者が時間配分や手段などの指示が難しいため、進め方を労働者の裁量にゆだねる必要のある業務が該当します。
新商品の研究開発職やシステムエンジニア、デザイナーなど、採用できる業務は19業種に限られています。[注1]
就業規則への明記、労使協定の締結、1日8時間を超えるみなし労働時間の設定では36協定の締結と届出が必要です。
[注1]専門業務型裁量労働制|厚生労働省
1-3.企画業務型裁量労働制
事業運営に関する企画や立案、調査、分析などをおこなう業務に対して適用できる裁量労働制です。例えば、経営状況や経営環境を分析し経営計画を策定する業務などで、使用者から具体的指示を受けない者です。
導入には、就業規則への明記すること、労使委員会を設置し必要事項について4/5以上の決議をとること、労働者本人の同意を得ること、法定労働時間を超えるみなし労働の設定では36協定を締結し届け出ることなど、より厳格な要件が課されています。
1-4.みなし残業との違い
みなし残業時間制とは、残業の有無に関わらず、一定の残業代を給与にあらかじめ含めて支払う制度です。
みなし労働時間制は労働時間そのものを所定時間働いたものとみなすのに対し、みなし残業時間制は残業のみを所定時間おこなったものとみなす点に違いがあります。
どちらも、運用方法を誤らない限り、違法性はない制度です。
2.みなし労働時間制が違法になってしまうケース
みなし労働時間制であっても、労働時間の把握は労働安全衛生法によって定められた企業の義務です。
使用者は労働者の健康確保をする必要があり、みなし労働時間を超える労働には割増賃金の支払いも必要です。みなし労働時間制が違法となるケースを紹介します。
2-1.残業代を支払っていない
裁量労働制などのみなし労働時間制は一定の業務量に対して所定労働時間分働いたとみなすものなので、実際にその業務量にかかる時間が多くなっても残業代は原則発生しません。
ただし、設定しているみなし労働時間が1日8時間、週40時間を超過している場合は残業代を含めた賃金を支給しなければなりません。
残業代が発生しないのは、あくまでみなし労働時間が法定労働時間内におさまっているケースです。
また、みなし労働時間に対する業務量が極端に多すぎる場合や、残業が過剰に発生している場合に残業代を支給しないことは違法になる可能性があるので、注意しましょう。
2-2.深夜労働・休日労働の割増賃金を支払っていない
深夜労働とは22時から翌5時までの労働で、25%以上の割増賃金の支払いが必要です。
休日労働とは、毎週少なくとも1回、または4週間の間に4日以上の法定休日におこなう労働で、35%以上の割増賃金が必要です。
みなし労働時間制でも、上記に該当する労働に対してはそれぞれ割増賃金を支払わなければなりません。
2-3.36協定を結ばず、みなし労働時間が法定労働時間を超えている
みなし労働時間が1日8時間、週40時間を超過している場合は、必ず36協定を結ばなくてはなりません。みなし労働時間が法定労働時間を超えているにもかかわらず、36協定を結んでいない場合は、労働基準法違反となり、罰則を科される可能性があります。
2-4.労働時間を把握できるのに事業場外みなし労働時間制を採用する
行政通達(昭63.1.1基発1号)では以下に該当するケースは、労働時間の算定が可能であり、事業場外みなし労働時間制の要件を満たしていないと判断しています。
メンバーで事業場外労働する場合、メンバー内に労働時間の管理をする者がいる
無線やスマートフォンなどで随時、使用者の指示を確認しながら労働をしている
訪問先や帰社時刻などの指示を受け、事業場外で指示通りに勤務し、その後会社に戻る
外勤や工場など、事務所の外でおこなう労働であっても、使用者からの具体的指示があり、なおかつ時間管理が可能である者に対して事業場外みなし労働時間制の採用はできません。
2-5.使用者の具体的指示を受けている者に裁量労働制を適用する
裁量労働制は専門的な知識やスキルが必要な限定的な職種・業務にしか適用できません。そのため、「業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる業務」であることが求められます。
例えば、情報処理システムの設計業務に従事していたとしても、直属の上司の指示に従って、マニュアル通り仕事をしているならば、裁量労働制の適用条件である専門的な知識やスキルを有しているとはいえず、裁量労働制は適用できません。
2-6.年少者・妊産婦等に関する規制を守っていない
年少者や妊産婦に対してもみなし労働時間制は適用して問題ありません。
しかし、両者には労働基準法により下記の労働制限が設けられており、みなし労働時間制の規定よりも優先されます。
- 年少者(18歳未満の者)は時間外労働、休日労働、深夜労働を制限すること
- 妊産婦が請求した場合、時間外労働はさせないこと
これらの規定を破り、労働させた場合は違法となります。
3.みなし労働時間制を導入する場合、ルール作りと勤怠管理が重要
みなし労働時間制は、労働者の裁量により自由に働くことができ、会社は労働時間の厳格な算定が不要である点がメリットです。
しかし、全く従業員の労働時間管理をしないと、タスクをこなすために働きすぎたり、逆にみなし労働時間を大幅に下回る働きしかしなかったり、あえて深夜や休日に労働し割増賃金を請求する可能性も否めません。
それだけでなく、残業代の未払いなどを理由に、従業員から訴訟などを起こされやすい制度でもあります。
みなし労働時間制のメリットを活かし、従業員が健康で働きやすい会社を作るためには、みなし労働時間に関するルールを定めて運用することと労働時間をできる限り正確に把握することが重要です。
4.みなし労働時間制でも労働時間の把握は必要!適切な方法を導入しよう
みなし労働時間制では業務の進め方を労働者に委ねる制度ですが、労働時間の把握は必須です。使用者は長時間労働をおこなわせないことや、健康確保を図ることが求められています。
また、残業代を一切支払わなくてもよい制度ではないため、ある程度労働時間の管理が必要です。
みなし労働時間制を正しく理解し、適切な運用をすることでメリットを活かしていきましょう。
【監修者】涌井好文(社会保険労務士)
涌井社会保険労務士事務所代表。就職氷河期に大学を卒業し、非正規を経験したことで、労働者を取り巻く雇用環境に興味を持ち、社会保険労務士の資格を取得。 その後、平成26年に社会保険労務士として開業登録し、現在は従来の社会保険労務士の業務だけでなく、インターネット上でも活発に活動を行っている。