給与支払報告書は、給与の支払いをしている事業者が必ず提出しなくてはいけない書類です。
故意でなくても忘れていると、罰則が発生する恐れがあります。
給与支払報告書の必要性や正しい取り扱い方法を知っておきましょう。
本記事では書き方や提出方法などをわかりやすく解説します。
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1. 給与支払報告書とは?
給与支払報告書とは、給与の支払いが発生している事業者が提出する法定調書の1つです。どのような書類なのか知っておきましょう。
1-1. 給与を支払った側が提出する書類
給与支払報告書は、給与を支払った側(事業者側)が従業員の住所がある市区町村に提出する書類です。
法定調書のひとつであるため、必ず決められた期日までに提出しなくてはいけません。
給与支払報告書は、前年の1月1日~12月31日の間に給与の支払いが発生した従業員すべての分が必要です。
正社員はもちろんですが、パートやアルバイト、短期雇用の従業員や途中退職した人なども対象です。
1-2. 源泉徴収票との違い
給与支払報告書に記載する内容は、源泉徴収票の内容ととても似ています。
そのため混同されることが多い書類ですが、この2つは提出先や目的が大きく違います。
目的 | 提出先 | |
給与支払報告書 | 住民税額と国民健康保険料を計算するため | 従業員の住所がある市区町村 |
源泉徴収票 | 所得税を納税していることの証明をするため | 税務署 |
給与支払報告書は、従業員の住民税額と国民健康保険料を計算する基準になります。住民税と国民健康保険料は市区町村が管理しているため、提出先が従業員の住所がある市区町村です。
対して源泉徴収票は、源泉徴収として所得税を納税していることを証明する書類です。所得税は税務署の管轄であるため、提出先は税務署になります。
内容は似ていてもまったく性質の異なる書類であるため、しっかりと分けて作成し、正しく提出しましょう。
関連記事:給与支払報告書と源泉徴収票の違いは?代用の可否・作成ポイントも解説
1-3. 給与支払報告書の提出が不要な人・必要な人とは
地方税法第317条の6では、1月1日現在において給与の支払いをする者で、所得税を徴収する義務がある者は、給与支払報告書を作成・提出しなければならないと定めています。[注1]
給与支払報告書の対象となるのは、前年1月1日~12月31日までに給与を支払った全員です。
給与の支払回数は関係なく、年の途中で退職した人や、1度きりしか給与を支払っていない人でも給与支払報告書の対象となりますので注意しましょう。
ただ、6項の3では、前年中に退職した従業員について、給与の支払総額が30万円以下の場合は「この限りでない」としており、給与支払報告書の作成・提出は不要としています。
ただし、市区町村によっては提出を義務としているところもあります。免除の特例を利用する場合は、必ず市区町村役場に問い合わせ、免除が適用されるかどうか確認しましょう。
[注1]「地方税法」|e-Gov法令検索
1-4. 退職者の給与支払報告書は必要か
給与支払報告書は、前項で説明した「支払総額30万円以下の退職者」を除き、原則として給与の支払いを受けているすべての従業員が対象となります。
前年中に退職し、かつ給与を1回しか受けていない場合でも、支払総額が30万円を超えている場合は給与支払報告書を作成・提出しなければなりません。
実際、地方税法第317条の6の3にて、給与の支払いを受けなくなった者(退職者)がある場合は、退職日の属する年の翌年1月31日までに、給与支払報告書を作成・提出することを義務づけています。[注1]
なお、4月1日現在において給与の支払いを受けなくなった者がある場合には、同月15日までに、その旨を記載した届出書を市区町村役場に提出する必要があります。
[注1]「地方税法」|e-Gov法令検索
関連記事:退職者の給与支払報告書の対応方法とは?提出基準・書き方も解説!
2. 給与支払報告書の書き方
給与支払報告書は「個人別明細書」と「総括表」の二部で構成されています。それぞれの書き方を解説します。
2-1. 個人別明細書の書き方
個人別明細書の内容は、源泉徴収票をもとに記載するとスムーズです。注意が必要な点や、源泉徴収票にはない記載事項は以下にまとめました。記入に迷ったらご活用ください。
支払いを受ける者 | 1月1日時点での従業員の住所や氏名を記載します。平成29年度からは個人番号の記載欄が追加されました。 |
支払金額 | その年の間に支払った給与総額を記載します。 |
給与所得控除後の金額 | 源泉徴収票をもとに各種控除を行った後の金額を記載します。 |
所得控除の額の合計額 | 社会保険料や配偶者控除、扶養控除などを合計した金額を記載します。 ただし、年末調整をしない場合は空欄にします。 |
源泉徴収税額 | 源泉徴収税額と復興特別所得税の合計額を記載します。 (源泉)控除対象配偶者の有無等 |
(源泉)控除対象配偶者の有無等 | 控除対象配偶者がいる場合は「有」に〇を書きます。配偶者控除を受ける配偶者が70歳以上の場合は老人欄に〇をします。 |
配偶者(特別)控除の額 | 従業員から提出された「給与所得者の配偶者等控除申請書」をもとに記載します。 |
社会保険料の金額 | 給与から天引きした社会保険料の総額・「給与所得者の保険料控除申告書」で申告した社会保険料・小規模企業共済掛金の3つを合計した金額を記載します。 |
各種保険料・特別控除の額 | 従業員から提出された「給与所得者の保険料控除申告書」や「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」をもとに記載します。 |
配偶者の合計所得 | 配偶者控除や配偶者特別控除の適用を受けた場合は、配偶者の合計所得金額を記載します。 |
支払者 | 給与を支払った会社の情報を記載します。 |
2-2. 総括表の書き方
総括表は市区町村から送られてくるもので、統一された形式はありません。送られてきた総括表に必要な内容を記載しましょう。
一般的な総括表に必要な内容は以下のとおりです。
給与の支払い方法・期限 |
給与の支払い方法(月給・日給・時給など)と給与の支払い日を記載します。 |
提出区分 | 一般の従業員のみの場合は「年間分」を選びます。退職者のみ提出する場合は「退職者分」を選びます。 |
法人番号 | 会社の法人番号を記載します。 |
給与支払者 | 会社の情報を記載し、代表者印を押印します。 |
事業種別 | 製造業・飲食業・小売業・サービス業など、業種を記載します。 |
提出先市区町村数 | 給与支払報告書を提出する従業員が居住している市区町村の数を記載します。 港区が2人、豊島区が1人、北区が1人だった場合は、3と記載するのが正しいです。 |
受給者総人員 | 給与を受け取った従業員の人数を記載します。雇用形態や雇用期間は問いません。 |
報告人員 | 給与支払報告書を提出する人数を在職者と退職者に分けて記載します。 |
所轄税務署 | 会社の所在地を管轄している税務署の名前を記載します。 |
特別徴収税額の払い込みを希望する金融機関 | 特別徴収税額の支払を希望する金融機関の情報を記載します。 |
給与支払者番号 | 市区町村より通知された給与支払者番号を記載します。新規事業者で通知がまだされていない場合は「新規」に〇をします。 |
給与支払報告書は年末調整後に作成が必要な書類です。 企業の給与担当者の方は年末調整がおわった後にするべきことの手順を方法を理解した上で、上記の書き方をもとに書類を作成する必要があります。 当サイトでは、給与支払報告書の作成方法を含む年末調整関連で対応すべきタスクを1冊にまとめた資料を無料でお配りしています。 年末調整が終わった後にすべきことを時系列ごとに確認したい方はこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
3. 給与支払報告書の提出方法・提出期限
給与支払報告書は正しい提出方法と期限を守らなければいけません。提出できなかった場合は罰則もあるため、十分に注意しましょう。
3-1. 3つの提出方法
給与支払報告書の提出方法は、窓口への持参、郵送、電子申請の3つがあります。
窓口への持参 | 従業員が住んでいる市区町村の担当窓口へ持参します。 自治体によって給与支払報告書が2枚必要な場合があるため、事前に確認しましょう。 |
郵送 | 窓口と同様に該当する市区町村の担当窓口宛に郵送します。 郵送の場合は届くまでに数日を要することもあるため、期限には余裕をもって提出するようにしてください。 |
電子申請 |
eLTAX(エルタックス)を利用して申請する方法です。会社で作成したcsvファイルをアップロードするだけで提出が完了するため、書類作成や郵送にかかるコストと時間を大幅に削減できます。 また、光ディスクの提出も電子申請の扱いになります。 |
電子申請をする場合は、eLTAXの利用届出や対応したソフトウェアの準備が必要です。初めて電子申請を行う際は準備や利用方法の確認などに時間を取られますが、次回からは業務を大幅に効率化できます。
ソフトウェアは、無料で使えるPCdeskのほか、税務や会計ソフトでもeLTAXに対応しているものがあります。
[参考]eLTAX
3-2. 提出期限
給与支払報告書の提出期限は、毎年1月31日(土日の場合は2月の第1月曜日)です。
2022年度の給与支払報告書の場合は、2023年1月31日までに提出しなくてはいけません。
自然と年末調整が終わった後に作成して提出する流れになるため、スケジュールを組んでいればこの提出期限は厳しくないでしょう。
しかし、年末年始の休みや繁忙期と重なると時間が足りなくなる場合もあります。
できるだけ余裕をもって、年が明けたらすぐに提出期限を意識するように心がけましょう。
万が一提出が遅くなった場合でも、罰則は生じません。
しかし、6月に行われる住民税の割賦作業に間に合わなかった場合は、12カ月で割られるはずの住民税が少ない月数で割られます。
これは1カ月あたりの住民税額が上がり、従業員の負担が増える結果を招きます。支払う合計の住民税額に差はありませんが、特別な事情がない限りは期日を厳守しましょう。
また、虚偽の記載や提出をしない場合は罰則があります。
遅れてしまった場合でも、必ず正確な情報を記載して提出しましょう。
3-3. 給与支払報告書を出し忘れた場合の罰則
給与支払報告書は、市町村民税や都道府県民税といった個人住民税の計算の基準となる書類です。
そのため、期限までに給与支払報告書を提出しないと、個人住民税の計算が遅れ、税額通知の発送に遅延が生じる原因となります。
個人住民税は基本的に年4回に分けて納付しますが、税額通知の発送が遅れると、支払回数が減少し、1回あたりの納付額または給与からの天引き額が大きくなってしまいます。
従業員の家計に大きな負担をかけるおそれがありますので、給与支払報告書は期限までに必ず作成・提出するようにしましょう。
また、給与支払報告書を故意に提出しなかった場合、地方税法第317条の7の定めにより、一年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される可能性があることにも注意が必要です。[注1]
[注1]「地方税法」|e-Gov法令検索
4. 提出にあたっての注意点
給与支払報告書の提出にあたって注意しなければならないことがあります。本章で詳しく解説するので、確認しましょう。
4-1. 2017年からマイナンバーの記載が必要になっている
マイナンバー制度の導入にともない、金銭等の支払いに係る法定調書を提出する際にマイナンバーの記載が必要となりました。マイナンバーも個人情報であり、扱うためには、適切な管理や従業員からの同意と収集が必要です。
特に、従業員からの同意がなければ企業はマイナンバーを収集できないため、注意しましょう。
4-2. 電子データによる提出が義務化される場合がある
前々年に提出した源泉徴収票の枚数が100枚以上の場合、源泉徴収票と給与支払報告書の電子提出が義務化されました。
もし、2年前の源泉徴収票の提出枚数が120枚で、1年前の源泉徴収票の提出枚数が90枚だった場合、『今年は電子提出が義務化、翌年は紙提出でも構わない』となります。2年前の提出枚数によって変化するため、注意しましょう。
参考:給与支払報告書等のeLTAX又は光ディスク等による提出義務基準が引き下げられました!|地方税共同機構
4-3. 年間支給額が30万円以下の退職者については提出不要
給与支払報告書は、年間支給額が30万円以下の退職者の分について、法的な提出義務はありません。そのため、市区町村によっては、提出不要としている場合があります。ただし、公平性や正確性を保つためにも提出をお願いしていることもあるため、注意しましょう。
5. 給与支払報告書は期日を守って提出しよう
給与支払報告書は、従業員の住民税額と国民健康保険料を決定する重要な法定調書です。
記載内容は源泉徴収票と似ているため、作成は比較的簡単です。
しかし、提出期限が1月31日で年が明けてからすぐです。
期日を守れないと従業員が毎月支払う住民税額が高くなる恐れもあるため、余裕をもって書類を準備しましょう。
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