雇用保険料納付の仕組み・納付方法をわかりやすく解説! |HR NOTE

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雇用保険料納付の仕組み・納付方法をわかりやすく解説!

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雇用保険の納付の仕組みや、仕訳方法、納付手続き方法をわかりやすく解説します。雇用保険の納付手続きは複数選択肢があり、便利な方法も増えています。自社にとって最適な方法を選択し、正しく雇用保険料を納付しましょう。また雇用保険料未納時のリスクや対応方法、納付時の注意点についてもあわせてご確認しておきましょう。

1. 雇用保険料の納付の仕組みについて

以下2つの要件を満たす人は、雇用形態にかかわらず原則として雇用保険の被保険者となるため、毎月雇用保険料を支払う必要があります。[注1]

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 31日以上の雇用見込みがある

雇用保険料は、被保険者の賃金総額(総支給額)に雇用保険料率を乗じて算出します。[注2]
令和5年度の雇用保険料率は以下のとおりです。[注3]

  労働者負担(①) 事業主負担(②) 雇用保険料率(①+②)
一般の事業 6/1,000 9.5/1,000 15.5/1,000
農林水産・清酒製造の事業 7/1,000 10.5/1,000 17.5/1,000
建設の事業 7/1,000 11.5/1,000 18.5/1,000

雇用保険料は労使で負担する仕組みになっていますが、その割合は事業主のほうが大きくなります。
計算式の一例を挙げると、一般の事業所に勤める会社員の月収が25万円だった場合、6/1,000が労働者負担分となりますので、25万円×0.006=1,500円という計算になります。
一方、事業主負担分は9.5/1000なので、25万円×0.0095=2,375円となります。
労働者に給与を支給する際は、あらかじめ雇用保険料を差し引いたうえで賃金が支払われます。

[注1]「雇用保険の被保険者について」|厚生労働省

[注2]「雇用保険被保険者からの雇用保険料の控除方法」|厚生労働省

[注3]「令和5年度雇用保険料率のご案内」|厚生労働省

2. 雇用保険料の基本的な納付方法・流れ

雇用保険は企業と従業員の双方が保険料を負担し、企業が従業員に代わって納付しなけれなならないものです。まずは基本的な雇用保険の納付方法から見ていきましょう。

2-1. 前年度の労働保険料を確定する

労働保険とは雇用保険と労災保険のことです。雇用保険料を納付する場合、まず前年度の4月1日から3月31日までの賃金をベースにして、労働保険料を確定させなければなりません。

雇用保険を含む労働保険料は、前年度の見込み賃金の概算で計算して6月1日から7月10までの期間に納付を行います。また、その際同時に、前年度に概算で支払った保険料の過不足を調整して、当年度の概算保険料を納付するのが基本です。

2023年度の労働保険料は、以下のようにして確定させます。

まず、2022年度の発生見込み賃金を概算し、その概算をベースにして労働保険料を概算します。そして、労働保険料を納付しましょう。

2023年度に入ったら、2022年度の実際の賃金をベースにして確定保険料を計算します。概算で納付した労働保険料との過不足があるはずです。2023年度の概算保険料を納付する際に、過不足を調整します。

例えば2022年度の概算保険料が25万円で、確定保険料が20万円だった場合、5万円多く納付していることになります。2023年度の概算保険料が20万円だった場合、前年度5万円多く納付していることになりますから、5万円を差し引いた15万円を納付する仕組みです。

毎年このようにして概算保険料を確定し、前年度の確定保険料との過不足を調整して保険料を納付しなければなりません。

2-2. 今年度の労働保険料を概算する

前年度の労働保険料を確定させたら、概算で今年度の労働保険料を確定させます。概算に用いるのは、今年度の4月1日から3月31日までの見込み賃金です。

今年度の見込み賃金は、前年度の確定賃金総額をベースにして計算します。大きく変動がない場合は、前年度の確定賃金と同じ額で計算できることになっていますので、今年度の賃金の見込み総額が前年度の1/2以上〜2倍以下の間であれば、前年度の確定賃金額を使って計算しましょう。

雇用保険を含めた労働保険の前年度の確定保険料と今年度の概算保険料が計算できたら、申告と納付を行います。

全期一括納付が基本となりますが、継続事業(10月1日以降に保険関係が成立した事業を除く)の場合であれば、雇用保険料と労災保険料が40万円を超える場合や、労働保険事務組合に労働保険に関する事務を委託している場合は分割での納付も可能です。

また、有期事業(事業の期間が6月以内の事業を除く)の場合であれば、概算保険料額が75万円を超える場合や、労働保険事務組合に事務処理を委託している場合に分割納付が可能です。

2-3. 申告・納付手続きをする

申告・納付の方法はいくつかあります。自社にとって負担のない方法を選んで納付しましょう。

3. 労働保険料の納付時の仕訳をおさらい

雇用保険料は、賃金から当該従業員の負担分をあらかじめ控除し、自社の負担分と合わせて企業が納める仕組みになっています。

そのため、帳簿に記帳する際は、労働者の負担分を貸方の「立替金」に仕訳します。

賃金からは住民税や社会保険料なども控除し、同じように「立替金」として仕訳しますので、摘要欄に「◯月分 雇用保険料」などと記載しておくと、あとから見直したときにわかりやすくなります。

なお、雇用保険料の控除額を何に仕訳するかは企業の裁量で決められます。
「立替金」のほかにも「預かり金」や「法定福利費」といった勘定科目を使ってもOKですが、月によって表記がバラバラにならないよう注意しましょう。

4. 雇用保険料の申告・納付手続きをする方法

雇用保険料の申告と納付には、大きく分けて以下3つの方法が存在します。

  • 管轄の労働基準監督署で納付
  • 口座振替で納付
  • 電子納付

以下から、それぞれの方法について詳しく解説していきます。

4-1. 管轄の労働基準監督署で納付する

基本としては、毎年6月1日から7月10日に事業所を管轄している労働基準監督暑で申告と納付の手続き

を行います。その際、労働保険概算・確定保険料申告書の提出が必要です。申告書に保険料を添えて窓口で納付します。保険料は現金での支払いになります。

4-2. 口座振替で納付する

雇用保険料を含めた労働保険料は口座振替での納付も可能です。口座振替なら自動で保険料が引き落とされるので、納付忘れも防げます。

口座振替で納付する場合は、事前に申し込みが必要です。まず、厚生労働省や労働基準監督署のホームページで、申し込み用紙を入手します。オンラインでダウンロードできますが、窓口でもらうことも可能です。

必要事項を記入したら、金融機関の窓口に提出しましょう。申し込みを行うと、引き落とし日の3週間前にハガキでお知らせが届きます。引き落とし日までに納付額を口座に入金しておきましょう。あとは自動で引き落としが行われます。

口座振替での納付は手数料がかかりませんし、通常の納付期限よりも最大で2ヶ月納付の猶予ができるのもメリットです。また、雇用保険料は窓口での振り込みも可能ですが、口座振替なら毎回窓口に行く必要もありません。

4-3. 電子納付する

電子納付には3つの方法があります。申告自体もオンラインでできるので、申請に行く手間が省けるのがメリットです。

【電子申請後にe-Gov経由で電子納付をする方法】

e-Govの電子申請で申請データを送信すると、納付情報一覧画面から「電子納付する」が選択できます。指示に従って操作を進めると、e-Gov上でインターネットバンキングによる電子納付が可能です。

この方法で納付を行うと、自動的にインターネットバンキングに収納機関番号や納付番号などの納付情報が転送されるため、入力の手続きが楽になります。

【電子申請後にインターネットバンキングで電子納付をする方法】

e-Govの電子申請で申請データを送付したのち、Pay-esay(ペイジー)に対応している金融機関のインターネットバンキングで電子納付することもできます。

申請データを送付後、結果通知画面で表示される収納機関番号や納付番号などが必要です。e-Govの納付情報一覧で必要な情報を印刷しておきましょう。

【電子申請後にATMで電子納付を行う方法】

e-Govの電子申請で申請データを送付し、Pay-easy対応金融機関のATMでも電子納付が可能です。

この場合も結果通知画面で表示される納付情報が必要になるため、e-Govの納付情報一覧で印刷しておきましょう。

5. 雇用保険料の納付(年度更新)期限・未納リスク

雇用保険料の納付期限は、原則として毎年6月1日から7月10日です。この期限内に納付が行われなかった場合、政府が保険料を確定する認定決定が行われてしまいます。

また、追徴金として保険料の1割(日雇労働保険者の印紙保険料の場合は2.5割)が課されることもありますから、必ず期限内に納付しましょう。雇用保険料を含め、労働保険料の納付遅れは、企業の信頼を損なってしまいます。

5-1. 分割で納付する場合の期限

前述した通り、継続事業の場合であれば、雇用保険料と労災保険料が40万円を超える場合(雇用保険のみ成立している場合は20万円以上)や、労働保険事務組合に労働保険に関する事務を委託している場合は分割での納付もできます。

また、有期事業の場合であっても、期の区分は同様ですが、第1期目は保険関係成立の翌日から20日以内に納付することが必要です。

分割する場合の納付期限は以下のとおりです。

  第1期 第2期 第3期
前年度より前に成立した事業所 7月10日 10月31日 1月31日
4/1〜5/31に成立した事業所 成立した日の翌日から50日 10月31日 1月31日
6/1〜9/30に成立した事業所 成立した日の翌日から50日 1月31日  

5-2. 雇用保険料を納付し忘れた・納付できない場合の対処方法

納付期限を過ぎても雇用保険料が納付されない場合、事業者宛に督促状が送付されます。

督促状に記載されている期日までに雇用保険料を納めれば問題ありませんが、それを超えても納付しなかった場合、保険料とは別に、雇用保険料額に年14.6%(最初の2ヵ月間は軽減措置あり)を乗じて求めた延滞金を納付する必要があります。[注4]

なおも納付しなかった場合は財産差押が実行されることもありますので、やむを得ない事情によって雇用保険料が支払えない場合は、管轄の労働局に相談し、猶予の申請を行いましょう。

申請が通った場合、納付までの猶予が認められます。

[注4]鹿児島労働局「労働保険料納付しないと どうなるの?」|厚生労働省

6. 雇用保険料を納付するときの注意点

雇用保険料は、賃金が大幅に増加する場合には、追加での申告納付が必要です。

また、雇用保険料率も労災保険料率も変更が行われることがあります。変更があると当年度と次年度の保険料に影響がありますから、こちらも併せて注意しておいてください。

6-1. 賃金が大幅に増加する場合は追加で申告・納付が必要

雇用保険料を含めた労働保険料は、概算した見込み賃金をベースに計算します。

ただ、年度中に賃金が予定額の2倍を超えて変動し、概算保険料が13万円以上増加する場合は増加概算保険料申告と納付が必須となります。申告も必須となり、増加が見込まれた日の翌日から30日以内に行う必要がありますので、注意しておきましょう。

6-2. 雇用保険料率・労災保険料率も変更する可能性がある

雇用保険料率は失業手当の受給状況や雇用保険料の積立金残高などをもとに、毎年見直されています。

雇用保険料率は平成23年度以降、徐々に下がっていましたが、令和4年度(2022年度)に引き上げが行われました。
前年度(令和3年度)の雇用保険料率は一般の事業が9/1,000、農林水産・清酒製造の事業が11/1,000、建設の事業が12/1000でしたが、令和4年4月1日からはそれぞれ0.5が上乗せされています。[注5][注6]

さらに同年10月1日からさらなる引き上げが行われ、一般の事業が13.5/1,000、農林水産・清酒製造の事業が15.5/1,000、建設の事業が16.5/1,000と4.0の引き上げとなっています。

令和4年4月1日からの引き上げは事業主負担分のみが対象でしたが、同年10月からの引き上げは労働者負担分も対象となっています。

同様に、労災保険料率も3年ごとに見直されるため、今後料率が変更になる可能性があります。
料率に変更がある場合、当年度と次年度の保険料に影響が及ぶため、保険料の計算にミスが生じやすくなります。

保険料の計算および帳簿への記帳を行う際は、細心の注意を払うようにしましょう。

7. 雇用保険の納付は期限を守って正しく納付しよう

今回紹介したとおり、雇用保険の納付方法はいくつかあります。納付忘れを防ぐ便利な方法もありますので、自社に最適な方法を選びましょう。

また、基本的には毎年7月10日が期限ですが、分割の場合は事業所が成立したタイミングで期限が異なります。期限に注意して正しい納付を心がけてください。

[注5]「令和3年度雇用保険料率のご案内」|厚生労働省

[注6]「令和4年度雇用保険料率のご案内」|厚生労働省

【監修者】涌井好文(社会保険労務士)

涌井社会保険労務士事務所代表。就職氷河期に大学を卒業し、非正規を経験したことで、労働者を取り巻く雇用環境に興味を持ち、社会保険労務士の資格を取得。 その後、平成26年に社会保険労務士として開業登録し、現在は従来の社会保険労務士の業務だけでなく、インターネット上でも活発に活動を行っている。

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