雇用保険は、雇用の安定や就職の促進などを目的として運用されている社会保険です。一定の条件を満たした従業員は雇用保険に加入しなければならず、その保険料は会社と従業員双方が負担することになっています。
ただし、雇用保険料の会社負担割合は、業種によって異なるため注意が必要です。この記事では、雇用保険料の会社負担割合や計算方法について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
1. 雇用保険料とは社会保険料のうちの1つ
雇用保険料とは、社会保険のひとつである雇用保険にかかる保険料のことです。社会保険と一言にいっても、その種類は「広義の社会保険」と「狭義の社会保険」の2つに区分されます。
なお、雇用保険と労災保険は2つ合わせて労働保険とも呼ばれています。
区分 | 該当する保険料 |
広義の社会保険 | 厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険 |
狭義の社会保険 | 厚生年金、健康保険、介護保険 |
雇用保険に加入することで、失業給付や育児休業手当・介護手当の給付、失業者の職業訓練などを受けられます。
1-1. 雇用保険の対象となる企業
従業員を1人でも雇用している企業は、雇用保険の対象となります。健康保険や厚生年金保険とは異なり、強制適用事業所や任意適用事業所といった区分けはありません。
正しく手続きをおこなわないと罰則を受ける可能性もあるため注意しましょう。
1-2. 雇用保険の対象となる従業員
正社員やパート・アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、以下2つの要件を満たした従業員は、原則として雇用保険に加入しなければなりません。[注1]
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
- 学生ではないこと(一部例外あり)
正社員の場合は上記の条件を全て満たしているため必ず加入し、雇用保険料を納めなければなりません。パート・アルバイトなど、非正規雇用の場合は雇用条件によって加入条件を満たすかどうかが異なります。また、勤務当初は加入条件を満たしていなかった場合でも、途中から加入条件を満たす場合もありますし、その逆も起こり得るため注意しましょう。
雇用保険の被保険者は、事業主と折半する形で、賃金(総支給額)に雇用保険料率(労働者負担分)を乗じて求めた雇用保険料を納める必要があります。
2. 雇用保険料の会社負担割合は?労使折半ではない?
会社が負担すべき雇用保険料は、「従業員に支払う賃金 × 事業主負担割合」によって計算できます。年度ごとに変更されるケースが多いため、常に最新の数値を用いて計算しましょう。
2-1. 令和6年度の雇用保険の会社負担割合
雇用保険料率は業種によって異なります。これは、業種ごとに失業の可能性が異なるからです。一般の事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業の3つに分類され、それぞれ異なる保険料率が決められています。
一番保険料率が高いのは建設の事業です。失業の可能性が高いことに加え、建設の事業は助成金を受けられることから、公平性を保つために調整されています。
また、新型コロナウイルスの影響など、雇用保険料率は社会情勢に合わせて変更されるため注意しましょう。令和6年度の雇用保険料率は以下の通りです。
事業主負担 | 労働者負担 | 雇用保険料率 | |
一般の事業 | 9.5/1,000 | 6/1,000 | 15.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 | 10.5/1,000 | 7/1,000 | 17.5/1,000 |
建設の事業 | 11.5/1,000 | 7/1,000 | 18.5/1,000 |
2-2. 雇用保険料率は定期的に見直される
雇用保険料率は、失業手当の受給状況や雇用保険料の積立金残高によって、定期的に見直しがおこなわれています。
令和4年度も保険料率が引き上げになりましたが、令和5年4月にも引き上げが実施されました。令和6年度は引き上げは実施されず、令和5年度と同じです。
ただし、今後見直しがおこなわれる可能性は十分あるため、雇用保険料を計算するときは、その都度最新の保険料率をチェックしておかなければなりません。厚生労働省のホームページで示されていますので、忘れずに確認して把握しておきましょう。
3. 雇用保険料の会社負担額の計算方法・税率引き上げ後の具体例
雇用保険料は、従業員に支払った総支給額に雇用保険料率を乗じることで計算できます。
以下、一般の事業に属する総支給額25万円の従業員を例として、計算方法を紹介します。一般の事業の場合、事業主負担割合は9.5/1,000、労働者負担割合は6/1,000です。
よって、それぞれの負担額は以下のように計算できます。
会社負担額:25万円 × 9.5/1,000 = 2,375円
労働者負担額:25万円 × 6/1,000 = 1,500円
この計算結果のように、会社負担額のほうが高くなるように設定されています。労働者負担分は給与から天引きし、会社負担分と一緒に納付しましょう。
3-1. 雇用保険料の対象となる賃金・対象とならない賃金
雇用保険料は賃金をベースにして計算されますが、この賃金には以下のようなものが含まれています。
- 基本給
- 賞与
- 通勤手当(課税分・非課税分ともに)
- 定期券・回数券(現物給与)
- 超過勤務手当・深夜手当など
- 扶養手当・子供手当・家族手当
- 技能手当・特殊作業手当・教育手当
- 在宅勤務手当
- 調整手当
- 地域手当・住宅手当
- 休業手当
- 皆勤手当などの奨励手当 など
一方で賃金とみなされないものは以下の通りです。
- 役員報酬
- 結婚祝金・死亡弔慰金・災害見舞金・年功慰労金・勤続褒賞金・退職金
- 出張旅費・宿泊費・赴任手当
- 工具手当・寝具手当
- 休業補償費
- 傷病手当金
- 解雇予告手当
- 財形形成貯蓄のため事業主が負担する奨励金
- 会社が負担する生命保険の掛け金 など
雇用保険料は賃金をベースにして考えます。超過勤務手当や深夜手当が発生した場合、賃金総額が変動するので、毎月計算する必要があります。
4. 65歳以上の従業員に対する雇用保険料の会社負担額は?
65歳以上の従業員に対しては、平成29年1月1日から令和2年3月31日まで雇用保険料が免除されていました。ただ、令和2年4月1日からは、免除がなくなり、65歳未満の従業員と同様に雇用保険料を納付しなければなりません。
以下の要件を満たす場合は、65歳以上の従業員であっても雇用保険に加入させ、保険料を納付しましょう。
- 週の所定労働時間が20時間以上である
- 31日以上の雇用見込みがある
65歳以上の従業員を雇用保険に加入させると、保険料の会社負担分も発生します。会社負担額は65歳未満の従業員と変わらないため、「従業員に支払う賃金 × 事業主負担割合」で計算する必要があります。
5. 雇用保険料の会社負担額を計算するときの注意点
雇用保険料の労働者負担額や会社負担額を計算するときは、以下のような点に注意点しましょう。
5-1. 賞与も雇用保険料の対象となる
前述の通り、雇用保険料の対象となるのは基本給だけではありません。各種の手当や賞与も雇用保険料の対象となるため、忘れずに計算に含めるようにしましょう。
ただし、金一封や大入り袋など、任意的で恩恵的な賞与については雇用保険料の対象外です。労働の対価として通常支給される賞与のみを対象として計算しましょう。
5-2. 端数処理に注意する
雇用保険料を計算する際に、端数が発生するケースもあるでしょう。端数の処理方法は、雇用保険料を源泉徴収する場合と現金で徴収する場合で異なります。
労働者負担分を給与から源泉徴収する場合は、50銭以下を切り捨て、50銭1厘以上を切り上げましょう。一方、労働者負担分を現金で徴収する場合は、50銭未満を切り捨て、50銭以上を切り上げます。
ただし、端数処理について企業独自のルールがあり、労使間で合意があれば、そのルールに従って計算することも可能です。
5-3. 適切なタイミングで徴収する
雇用保険料は、適切なタイミングで徴収することが大切です。基本的には、給与を支払うごとに天引きする形で徴収しましょう。
たとえば、月末締め翌月25日払いというルールを採用している企業の場合、5月25日に4月の賃金をもとに算出した雇用保険料を源泉徴収します。
6. 雇用保険料の会社負担額は最新の料率をもとに算出しよう!
今回は、雇用保険の会社負担割合や会社負担額の計算方法について紹介しました。条件を満たしている従業員を雇用している以上、雇用保険への加入は義務です。会社の信頼を守るためにも、従業員を守るためにも、正しく把握して保険料を納付しましょう。
雇用保険負担割合は定期的に見直しが実施されているため、常に最新の情報をチェックしておく必要があります。厚生労働省のホームページで料率を確認するようにしてください。