ビジネスにおける「レジリエンス」とは?~自然災害にも対応できる組織にするために~ |HR NOTE

ビジネスにおける「レジリエンス」とは?~自然災害にも対応できる組織にするために~ |HR NOTE

ビジネスにおける「レジリエンス」とは?~自然災害にも対応できる組織にするために~

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※本記事は、インターナショナルSOSの酒井 亮治さんより寄稿いただいた記事を掲載しております。

近年、「組織レジリエンス(Organisational Resilience)」というコンセプトがビジネスの場でも注目を浴びつつあります。組織レジリエンスとは、英国規格協会(British Standards Institution)の規格であるBS 65000において、「組織が存続し繁栄するために、漸進的な変化や突然の混乱に対して予見、準備、対応、適応する能力」と定義されています。(参照:「組織レジリエンス|BSI Japan ホームページ」

社会情勢が目まぐるしく変化する昨今、ビジネス継続の視点から、危機や困難を乗り越えていくことの重要性が認識されつつある背景には、このような考え方の広まりがあると言えます。

本記事では、レジリエンスを高める上で最重要項目の一つである従業員の安全管理について、近年世界各地で頻繁に起きている自然災害を例に、普段の環境とは異なる外国で働いている出張中や駐在中の従業員に焦点に当てて検討していきたいと思います。

酒井 亮治(Ryoji Sakai)|インターナショナルSOS セキュリティマネージャー インフォメーション&アナリシス/アシスタンス、ジャパン

キングス・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)にて国際関係論修士号を取得後、外資系コンサルティング会社にて勤務。2016年より、インターナショナルSOSジャパンにおいて、日本企業からの渡航リスク管理に関わる相談対応、海外安全に関わるマニュアルの策定支援、机上訓練の実施等に携わる。

1. 自然災害及び異常気象による影響

2023年を振り返れば、世界各国のさまざまな自然災害の脅威がビジネスに影響を与えました。

2月には、トルコを震源とするM7を超える地震により、特にトルコのガジアンテップ県等が大きな被害を受けました。同地震により、4万を超える建物が損壊したほか3万人以上が死亡したとされています。

9月のモロッコにおける地震では、マラケシュでも旧市街の建物が被害を受ける等しました。トルコでは過去にもM7を超える地震が起きていますが、モロッコでのM6を超える地震は1900年以降初めてだったとされています。

また、米国海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration)によれば2023年は、大西洋やインド洋において例年以上の数の熱帯低気圧(ハリケーン、サイクロン)が報告されました。(参照:「2023 was the world’s warmest year on record, by far」

また、10月にメキシコ・アカプルコに上陸したハリケーン・オーティスは、当初の予報と大きく異なりハリケーンの分類上最も高いカテゴリー5の勢力へと発展し、大きな被害をもたらしました。

さらに2023年には、高温や乾燥による被害も報告されています。7月にはギリシャのロードス島やイタリアのシチリア島などで大規模な山火事が起きたほか、8月にハワイのマウイ島を襲った火事では、歴史的なラハイナの街において甚大な被害が報告されました。

カナダにおける山火事は、北米において記録上最も広範囲の地域を襲い、この山火事でカナダ及びアメリカ合衆国では大気汚染による被害も報告されました。

EUが発表した報告書によれば2023年は、エルニーニョ現象による影響もあり、1850年以降、記録上、最も平均気温が高い年であったとされています。(参照:「Copernicus: 2023 is the hottest year on record, with global temperatures close to the 1.5°C limit」

また、2023年3月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は第6次評価報告書において、「人為的な気候変動は、既に世界中のすべての地域において多くの気象と気候の極端現象に影響を及ぼしている。このことは、自然と人々に対し広範な悪影響、及び関連する損失と損害をもたらしている。」と警鐘を鳴らしており、今後も気候変動に関連する自然災害による影響は避けられないと考えられます。(参照:「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル)」

2. 環境問題に付随する課題

自然災害による直接的な被害に加え、関連した課題にも注目する必要があると言えます。

2023年には、一部の過激な環境活動家による直接行動が報じられました。例えば、イギリス・ロンドンでは美術館に活動家が乱入し、絵画に自分たちの手を糊で貼り付ける等の行為を行ったほか、道路の封鎖、建物にペンキをかける等の行動が確認されています。

渡航者への直接的な影響は、渋滞等に巻き込まれることによる移動の遅延ですが、抗議運動が暴徒化することにより、治安部隊との衝突に発展することがあるため、警戒が必要です。

また、異常気象による影響で食料価格が高騰した場合、それに対するデモが行われる可能性もあります。

2023年にはパキスタンで食料価格の高騰に対するデモが行われましたが、食料価格の高騰に加え、生活必需品の価格の上昇や補助金の削減といった政策の変更等とも組み合わさって、デモやストライキの要因となる恐れがあります。

さらに、環境問題のみにその原因を求めることはできないものの、干ばつやその他自然災害等により住む場所がなくなったり、環境問題に何らかの影響を受けて生活の糧を失った人らが移住を余儀なくされたり、ということも懸念されます。

特に中米のエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスでは、環境問題等によって生活が困難になった移民が国外脱出を目指し、2022年には「移民キャラバン」と呼ばれるほど、多くの移民がアメリカ合衆国を目指して移住を試みました。

3. 事前準備の重要性

このような自然災害に対応するためには、事前準備が何よりも大切です。滞在する地域で起き得る自然災害を事前に調査し、取り得る対策を検討しておくことが、第一の備えであると言えます。

滞在する地域で地震のような特定の地域に多く起きる災害がないか、また、滞在する季節は熱帯低気圧や大雨といったリスクが高い時期ではないか等、訪問先のリスクについて知っておくとよいでしょう。

次に、災害に関する情報を事前に適時入手できるようにしておくことも重要と考えます。

日本のように、緊急地震速報が提供される等、迅速な情報提供がなされる地域は未だ限定的であると認識した上で、滞在先の現地メディアや気象が関連する災害については各国の気象庁、また地震についてはアメリカ地質調査所のような研究所等、信頼できる情報源を事前に特定・把握しておくと、万一の被災時に速やかな情報入手が期待できます。

一般的に、海外で被災した場合、言葉、文化、慣習等の観点から、外国人は災害弱者になり得るため、可能な限り事前に情報を確認しておくことが大切です。

なお、災害が起きた後、食料や飲料水等の物資が不足した場合には、地域によっては暴動や略奪に発展する可能性も否定できません。災害による直接的な被害のみならず、二次的な被害を予防するため、外務省が提供するたびレジ等に登録し、随時治安に関わる情報を入手できる体制を整えておくことも有用と考えます。

インターナショナルSOSは、全世界の治安に関わる情報を配信するサービスも提供しております。

4. 関連情報を評価する必要性

情報の入手に際しては、迅速性に加え、信頼性も重視する必要があります。

例えば日本においても、2024年1月1日に発生した能登半島地震の後、被害状況や生活支援に関連する誤った情報がSNSを通じて拡散されたことが報じられています。(参照:「能登半島地震 災害に便乗した偽情報・デマ・犯罪に注意を」

また、過去には、2017年9月にメキシコで発生した地震において、実在しない「フリーダ・ソフィア」という女児の救出作業に関する情報がSNS等で広く拡散されるといった事案も起きています。

これは、9月19日午後にメキシコ中部を震源に発生した地震の後、倒壊した建物に閉じ込められている同女児の救出作業に関連する情報が援助関係者から提供され、多くの人々がその行方を見守ったというものです。しかしその後、現地当局が同女児は実在しないと発表しました。

誤情報や偽情報をそのまま関係者に提供したり、それを根拠に行動を起こしたりすると、自身また他者への不利益へとつながる恐れがあります。SNS等の普及により情報をより容易に入手することができるようになり、災害時にも非常に有用なツールになり得る一方、誤情報や偽情報が紛れている可能性があることから、信頼性には注意を払い、適宜情報の真偽を確認することが重要です。

滞在先の自然災害に関わるリスクを理解し、事前準備や対策を徹底することが、従業員の安全管理の強化へとつながり、ひいては組織レジリエンスを高めるための一助となるのではないでしょうか。

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