「こころの健康」を育むには?海外勤務者が多い企業にとって重要なサポート体制 |HR NOTE

「こころの健康」を育むには?海外勤務者が多い企業にとって重要なサポート体制 |HR NOTE

「こころの健康」を育むには?海外勤務者が多い企業にとって重要なサポート体制

  • 労務
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※本記事は、インターナショナルSOSのストッカー ウベさんと湯井真紀子さんより寄稿いただいた記事を掲載しております。

海外勤務というダイナミックな環境で働く従業員の「こころの健康」を維持する上で、人事管理者は非常に重要な役割を果たします。

本記事では、グローバル企業の健康増進プログラムの設計と構築、健康問題の特定後の維持、成果評価、行動計画に関する重要な問題について述べさせていただきます。

執筆者ストッカー ウベ(Dr Uwe Stocker)インターナショナルSOS リージョナル メディカル ディレクター アシスタンス サービス ジャパン

1999年ジャカルタでインターナショナルSOSに入社。バンコクとインドシナ地域を経て、日本、インドネシア、インドの地域医療ディレクターに就任。弊社会員に医療リスク管理ソリューション、避難、アシスタンスサービスを提供。1993年ドイツで医学学士号を、1995年神経生理学の博士号を取得。英国のNHSで6年半医療インターンシップを務める。英国総合医療評議会の下での開業ライセンスを持つ登録プライマリケア医。

執筆者湯井真紀子(Makiko Yui)インターナショナルSOS シニアコーディネーティングドクター / 医師

産婦人科専門医として日本で臨床業務に従事、さらに世界の紛争・災害地域で国際医療人道支援活動にも携わる。フィールドで得た経験と理論を融合させるべく、米国ハーバード公衆衛生大学院修士課程国際保健学科へ留学。2009年よりインターナショナルSOS医療チーム、コーディネイティングドクター。シンガポール、タイ、ニュージーランドでの勤務を経て、世界中の従業員の方々へ医療アシスタンスを提供している。

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1. はじめに

最近のオックスフォード大学の研究によると、職場のメンタルヘルス・ウェルネスプログラムは、従業員の全体的な幸福にほとんど、またはまったく影響を与えないとのことです(参照:「Workplace Wellness Programs Have Little Benefit, Study Finds」)。

健康増進プログラムの設計は、関係する人事および医療専門家によって解釈されるため、多くの柔軟性を残しています。また、世界中の従業員が直面するさまざまな問題をカバーするプログラムの構築方法については、ほとんど合意が得られていません。

海外勤務者とその家族のウェルビーングに関する十分なデータを研究者が得ることは難しい状況ではありますが、職場のウェルネスプログラムの約95%がメンタルヘルスに不十分であると推定されています。

世界保健機関(WHO)も、職場でのメンタルヘルスが全体的な健康に与える影響と、世界各国の専門家が直面する課題を最近発表しています(参照:「Mental health at work」)。中でも、海外勤務者のメンタルヘルスに注目することが必要としています。

パンデミック後、世界では慢性疾患の「健康への二次的影響」が増加しています。2020年以降の10年間における「三次的影響」の予測は、主に社会的・経済的要因に基づいており、特に先進国ではすべての人口統計でメンタルヘルスの問題が増加しています。

グローバル企業の従業員を対象とした最近の調査によると、従業員の63%が定期的にメンタルヘルスサポートを求める傾向があり、従業員の91%がメンタルヘルスをサポートする企業文化を期待しています。この傾向は、世界中のインターナショナルSOSアシスタンスセンターが提供するサポートの推移にも表れています。

2022年メンタルヘルス関連の医療サポートのリクエストは、対前年比で61%増加しました。精神状態が急激に悪化して医療搬送が必要となる(通常、複雑な準備を要し高額となる)ケースも増加しています。

メンタルヘルス関連の医療搬送の増加は、開発途上国での利用可能なメンタルヘルス医療の深刻な不足、および言語や文化の壁がある外国の医療システムにおいてメンタルヘルスサポートを受ける難しさを示しています。

2. 今、何が起こっているのか

従業員のメンタルヘルスの問題を理解する上で、米国国立職業安全保健研究所(NIOSH)の職業性ストレスモデルは有用です。このモデルは職場のストレスだけでなく、プライベートや職場以外など様々な要因が重なってメンタル不調に至ることを示しています。一方で、家族や職場等からのサポートはポジティブな要因となります。

メンタルヘルスの問題は従業員個人の健康とウェルビーイングだけでなく、業務の生産性と組織全体のパフォーマンスにも大きな影響を与えます。デロイト社(財務および商業的リスクを専門とする世界有数のコンサルティング会社)によると、職場でのメンタルヘルス関連の問題は、財務および生産性に多大な影響を与えます(参照:「Mental Health and Employers: Deloitte Report Summary 2022」)。従業員が何らかの疾病や症状を抱えながら出勤することにより、業務の生産性が下がるためです。

大手グローバル企業の従業員の約6人に1人がメンタルヘルスケアを必要としていることから、メンタルヘルスサポートプログラムへの平均投資収益率(ROI)は 5:1と予測されます。2022年のハーバード・ビジネス・レビューの分析では、これらの数字はさらに高くなる可能性があると指摘しています。

3. 海外勤務者が直面する課題

3-1. 異文化への適応と孤独

海外勤務は刺激的な体験ですが、様々な課題も伴います。文化の違いはプライベートだけでなく、職場の環境にも影響を及ぼします。現地でのコミュニケーション手法、意思決定プロセス、仕事上の人間関係に適応しようとする過程で燃え尽き症候群が加速し、自己認識が損なわれる可能性があります。

異文化への適応は個人のレベルにとどまりません。帯同家族も同様にストレスレベルが高くなり、家族内でのメンタルヘルス不和に至る可能性があります。子供たちはこれまでのように学んだり社会性を築いたりできないため、学業や社会生活に支障をきたしてストレスを抱えてしまい、結果として家族全体が影響を受けます。

配偶者が渡航先の国で就労機会を得ることは通常難しく、それまで培ったビジネスパーソンとしてのアイデンティティは低下し、経済的自立もままならなくなります。それによるストレスは怒りや不満となり、配偶者や家族全体のメンタルヘルスにマイナスの影響を与える可能性があります。

このような文化の違いをどう乗り越えて行くかについては、インターナショナルSOSのeラーニングなどによる渡航前研修プログラムが不可欠です。渡航後に新たな危機が発生した場合には、海外勤務者とその家族がメンタルヘルスケアや心理カウンセリングを受けることも重要です。

また、新任の海外勤務者と、それを迎える現地従業員や先輩海外勤務者とが交流できる機会を設けることは、連帯感を育み社会的孤立感の軽減につながります。語学研修や悩みごと相談の機会を提供することも、現地コミュニティーとの相互理解を促進します。

人事担当者が海外拠点を視察する際には、海外勤務者それぞれの心身の健康状態に気を配り、異文化への適応に苦慮したり孤立感に苛まれたりしている場合は、それを解決することが重要です。結果として、各国の海外勤務者が同様の課題を克服し健康を維持することに寄与します。

3-2. 不確実な環境

政治的・経済的な不安定は、さらなる不確実性をもたらします。政情が不安定な地域に居住する海外勤務者は、常に不安定性とセキュリティリスクに直面しています。そこで湧き上がる不安感は、個人の精神的な健康に大きな影響を与えます。

グローバルなパンデミック、自然災害、地政学的危機は突然の混乱を引き起こし、業務の継続を妨げます。このような予測不可能な出来事は、ストレスや不確実性を増加させ、海外勤務者のメンタルヘルスにさらに影響を与える可能性があります。

このような状況下では、海外勤務者の最優先課題は家族の安全の確保となります。家族の安全を脅かす脅威に対して常に警戒している状況は、さらにメンタルに負荷をかけます。また、ビジネス環境の不確実性から自身の役割が曖昧になることも多く、専門以外の業務でも期待に応えようと四苦八苦する過程で自信を失うこともあります。

不確実性は通常、さらなる社会的孤立をもたらし、強力なサポートシステムがない限り孤独感はより深刻なメンタルヘルス問題に至る可能性があります。

従業員のニーズに合ったウェルビーングプログラムは、包括的な心身の健康増進を図るだけでなく、メンタルヘルスの課題にも対処できます。メンタルヘルス関連の課題による経済的影響を考慮し、海外勤務者のニーズに合った内容の健康増進プログラムを構築するには、グローバル企業の特殊性、地理的特徴、および海外勤務者の年齢層等にも配慮した個別の高度なアプローチが必要です。

従業員が外国人の場合、その意義はさらに高まります。つまり人事担当者は、当該医療コンサルティングの専門家と協力することにより、組織全体の業績に大きな影響を与える力を持っていると言えます。

健康増進プログラムは、海外勤務者とその帯同家族それぞれが置かれた環境で積極的に不確実性に対処できるようサポートするものです。各研修は海外勤務者が新しい環境に適応したり、回復力(レジリエンス)を育んだりすることをサポートし、不確実性にどう対処するかを習ぶ機会となります。

また危機管理研修は、不測の事態に直面した場合に効果的な行動を起こせるスキル習得を目指します。渡航が海外勤務者の家族全体に及ぼす影響を考慮すると、これらの研修機会を帯同家族へと拡充する意義は大きいでしょう。

3-3. メンタルヘルスサポートの主な戦略-海外勤務者への健康増進プログラムの一環として

①渡航前のトレーニング

包括的な渡航前トレーニングプログラムの提供-地域固有の文化の違いを理解し対処し、難しい局面にも立ち向かえるよう海外勤務者をサポートします。

②メンタルヘルスサポートサービス

健康増進プログラムの一環として、海外勤務者が新しいストレス、不安、その他のメンタルヘルスの問題に積極的に対処できるよう、24時間365日メンタルヘルスサポートを提供します。

③定期的なアウトリーチとチェックイン

海外勤務者の健康状態を定期的に確認し、従業員が問題について気軽に話し合うオープンで協力的な職場環境を構築します。

④コミュニティ構築

海外勤務者の支援ネットワークの構築を奨励します。同じ経験を持つ仲間とつながることで、孤立感を軽減します。 身体的健康増進に有益な活動(スポーツイベントなど)は、精神的健康増進とも密接に関連しています。

➄柔軟性とワークライフバランス

ワークライフバランスの重要性を認識し、合理的な労働時間を奨励し、個人や家族のニーズに柔軟に対応できるようにします。

4. 結論

組織は様々な潜在的影響を認識し、健康増進プログラムの一環としてのメンタルヘルスサポートへの積極的なアプローチを採用することにより、海外勤務者の心身の健康を向上させることができます。プログラムに強力なメンタルヘルス要素を組み込むためには、海外勤務者の特定のニーズを考慮し、それをプログラムに反映できる専門的な知識が必要です。

様々な課題に対処しつつ業務に集中できるように海外勤務者をサポートするプログラムへの投資は、結果としてグローバル企業の生産性と収益性を高めることにつながります。インターナショナルSOSは、組織の持続可能な事業の実現のため、世界90ヵ国で24時間365日、安全、医療、ロジスティクスおよびデジタルの専門家がお客様をサポートします。

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