変形労働時間制は、シフト勤務や時期による仕事量の変化が大きい業種の企業で広く採用される勤務形態です。ただし、変形労働時間制の導入にあたっては自社の勤務ルールを労使協定や就業規則で具体的に規定しなければなりません。
就業規則で規定すべき事項は労働基準法によって定められているため、違法性を問われないよう法令を遵守して勤務ルールを規定することが大切です。この記事では変形労働時間制の勤務ルールを就業規則で規定する方法について詳しく解説します。
変形労働時間制は通常の労働形態と異なる部分が多く、労働時間・残業の考え方やシフト管理の方法など、複雑で理解が難しいとお悩みではありませんか?
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1. 変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、特定期間を平均して、1週間当たりの労働時間が法定の範囲を越えない場合に限り、特定の日または週に法定労働時間を超えた労働が認められる勤務形態です。はじめに変形労働時間制の基本的な考え方と導入時の注意点を解説します。
1-1. 変形労働時間制では1日の所定労働時間を変更できる
1年単位や1週間単位の変形労働時間制は、1日あたりの所定労働時間を業務の都合に合わせて変更する勤務形態です。労働基準法では法定労働時間の上限を「1日8時間まで」と定めていますが、変形労働時間制を採用する企業では法定の上限を超える所定労働時間の設定も認められます。
一方、変形労働時間制では特定期間を平均して、1週間当たりの労働時間を法定の範囲(週40時間以内)におさめなければなりません。例えば、ある1週間の所定労働時間が50時間だった場合、別の週の所定労働時間を30時間とすることで平均が週40時間以内となり、法定の範囲におさまります。
このように、1日単位ではなく特定期間ごとの平均で所定労働時間を管理する考え方が変形労働時間制の基本です。なお、変形労働時間制は対象とする期間によって以下の3つに分類されます。
- 1週間単位の変形労働時間制
- 1ヶ月単位の変形労働時間制
- 1年単位の変形労働時間制
上記のうち一般的企業で主に採用されるのは「1ヶ月単位の変形労働時間制」と「1年単位の変形労働時間制」です。業務の繁閑差が生じる頻度や時期などを考慮して自社に適した変形労働時間制を導入しましょう。
1-2. 導入には就業規則の規定・労使協定の締結・届出の提出が必要
変形労働時間制を導入するには、事前に労使間で協定を結び、管轄の労働基準監督署長へ届出を提出する必要があります。そのため自社の労働状況を精査し、変形労働時間制の期間や対象となる社員、労働時間のルール等について具体的に取り決めることが求められます。
厚生労働省では、変形労働時間制の各期間に応じた協定届のフォーマットを展開しています。下記リンクからご活用ください。
参考:1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定届|厚生労働省
参考:1箇月単位の変形労働時間制に関する協定届|厚生労働省
参考:1年単位の変形労働時間制に関する協定届|厚生労働省
労働基準監督署から承認を経ずに変形労働時間制を運用した場合、労働基準法違反に抵触し、場合によっては30万円以下の罰金が科せられる可能性があるため注意しましょう。
変形労働時間制の詳しい導入手順について確認したい方は、当サイトで無料配布している「変形労働時間制の手引き」もご覧ください。本資料では、変形労働時間制の導入方法のほか、管理方法や注意点についても解説しているため、法律に則った変形労働時間制の導入・管理がしたい方は、こちらのフォームから資料をダウンロードしてご活用ください。
1-3. 従業員10名以上の企業は就業規則の作成・届出が義務付けられている
労働基準法により、従業員を常時10名以上雇用する事業者は就業規則の作成および届出が義務付けられます。変形労働時間制を導入する場合は、勤務時間に関する項に変形労働時間制の運用ルールを明記し、過半数労働者代表による意見書とともに就業規則の変更届を労働基準監督署長に届け出る必要があります。届出の後は変更した就業規則の内容を従業員に通知する必要があるため、漏れなく対応しましょう。
2. 変形労働時間制の就業規則で規定すべき事項
変形労働時間制の導入時に就業規則で規定すべき事項には以下の4項目が挙げられます。
- 変形労働時間制を適用する従業員の範囲
- 変形労働時間制の対象期間と起算日
- 変形労働時間制の労働日と勤務時間
- 労使協定の有効期間
上記の規定は労働基準法が定める企業の義務であり、規定に不備がある場合は適正な変形労働時間制とはみなされません。違法性を問われる可能性もあるため、法令に則した規定が求められます。
2-1. 変形労働時間制を適用する従業員の範囲
組織内で変形労働時間制を適用する労働者の範囲を規定しましょう。変形労働時間制を採用しても、全ての従業員に適用する必要はありません。現場で働く社員のみ変形労働時間制を適用し、人事や総務などバックオフィス業務を担う部署の従業員は固定勤務制であるケースも見られます。
変形労働時間制の対象となる労働者の範囲に法令上の制限はありませんが、勤務ルールを正しく運用するためには適用範囲の規定が必要です。
2-2. 変形労働時間制の対象期間と起算日
自社で採用する変形労働時間制の対象期間を規定しましょう。先述の通り、変形労働時間制には「1週間単位」「1ヶ月単位」「1年単位」の3種類があります。各単位で運用方法が異なるため、自社で採用する変形労働時間制の期間を明確にすることが重要です。また、対象期間の起算日もあわせて明記しましょう。なお、対象期間と起算日はできる限り具体的に記載します。
2-3. 変形労働時間制の労働日と勤務時間
変形労働時間制の導入にあたっては対象期間における労働日と休日の規定、また各労働日における勤務時間の規定が必要です。勤務時間の項では始業時間、終業時間、休憩時間の規定も明記しましょう。
なお、シフト制の場合は期間ごとに労働日や勤務時間が変動するため、労使協定や就業規則での規定が困難です。その場合の解決策として基本の勤務パターンを複数記載する方法が考えられます。また「労働日は各期間で個人ごとに定める」等の文言を記載し、実際の通知はシフト表や社内カレンダーを用いる方法でも問題ありません。
2-4. 労使協定の有効期間
就業規則では変形労働時間制の運用に関する労使協定の有効期間も規定しましょう。変形労働時間制は雇用主と労働者の労使協定によって運用されるものであり、労使協定が適正に締結されていない場合はトラブルを誘発する恐れもあります。
なお、労使協定の有効期間は変形労働時間制の対象期間を超える期間で設定しましょう。1ヶ月単位の変形労働時間制の場合、労使協定の有効期間は3年が目安とされています。
3. 変形労働時間制における就業規則の記載例とは
変形労働時間制における就業規則の記載例を紹介します。一般企業で広く用いられる「1ヶ月単位の変形労働時間制」の記載例を紹介します。
1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月以内の一定期間を平均して1週間当たりの労働時間が週40時間以内となる場合に限り、特定の日や週に法定労働時間を超える労働が認められる勤務形態です。就業規則では以下のように規定しましょう。
3-1. 1ヶ月単位の変形労働時間制の就業規則記載例|厚生労働省の雛形
(始業時刻、終業時刻および休憩時間)
第〇条
毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、所定労働時間は1か月を平均して週40時間以内とする。
第〇条
確実の始業時刻、終業時刻、休憩時間は以下のとおりとする。
- 毎月1日から24日まで
始業時刻:午前9時、就業時刻:午後5時(休憩時間:正午から午後1時
- 毎月25日から月末まで
始業時刻:午前8時、就業時刻:午後7時(休憩時間:正午から午後1時)
(休日)
第〇条 休日は以下のとおりとする。
- 毎週土曜日および日曜日
- 国民の祝日
- 年末年始(12月30日から1月3日)
- 夏季休暇(8月13日から8月16日)
- その他会社が指定する日
3-2. 1年単位の変形労働時間制の就業規則記載例|厚生労働省の雛形
第○条 1年単位の変形労働時間制の労働日ごとの所定労働時間は8時間とし、始業・終業の時刻および休憩時間は次のとおりとする。
引用:(3)1ヵ月又は1年単位の変形労働時間制|厚生労働省
始業時刻:午前8時 終業時刻:午後5時
休憩時間:正午から午後1時
(休日)
第○条 休日は、1週間の労働時間が1年を平均して40時間以下となるよう労使協定で定める年間カレンダーによるものとする。
4. 変形休日制とは?
「変形休日制」とは、変形労働時間制に似ていますが全く異なる定義を持つ言葉です。
「変形休日制」を採用すると、毎週法定休日を設けず、4週につき4日の法定休日の付与が可能となります。ただし導入するには事前に就業規則にその旨と、起算日を記す必要があります。その起算日を基準に4週間につき4日の休日を付与していきます。
4-1. 変形休日制の就業規則の記載例
変形休日制を導入する場合、就業規則には下記を参考に就業規則に追記するとよいでしょう。
(休日)
第〇条 休日は、4週間につき4日与えるものとする。その起算日は、4月の第一日曜日とする。
2 各従業員に、毎月25日までに翌月分の休日を通知する。
5. 就業規則を規定して変形労働時間制を正しく導入しよう
変形労働時間制は、業務量の増減に合わせて所定労働時間を変動させることにより、効率的な働き方を実現する勤務形態です。ただし、導入にあたっては労使協定や就業規則で勤務ルールを規定しなければなりません。適切なプロセスを経ずに実施される変形労働時間制は労働基準法違反となるため、法令を遵守して正しく運用しましょう。
【監修者】涌井好文(社会保険労務士)
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