従業員の健康管理は、今では企業にとって重要な課題となっています。
そういった状況から注目を集めているのが「健康経営」です。経済産業省にて「健康経営銘柄」といった制度が実施されるなど、国を挙げての取り組みがなされています。
しかし、健康経営とは具体的にどういったものなのでしょうか。
本記事では健康経営とは一体どういったものなのかを解説したうえで、それによるメリットや取り組み方をご紹介していきます。
1 健康経営とは
健康経営とは、従業員の健康を経営的視点から考え、戦略的に実施することを指します。
従業員に対して健康投資をおこなうことで、従業員の活力の向上や組織の活性化をもたらし、結果として企業の業績向上につながることが期待されています。
1-1.健康経営が推進される背景
健康経営への関心が高まっている背景には、少子高齢化、深刻な人手不足、それによる健康保険料の企業負担の増加など、様々な問題が挙げられています。
人材の確保や従業員に長く健康な状態で働いてもらえる環境づくりの重要性に企業経営者が気づき始めたことで健康経営に対する関心が高まっているのです。
1-2.健康経営銘柄・健康経営優良法人とは
企業の健康経営への活動を評価する手段として、経済産業省は「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人」という基準を設けています。
・健康経営銘柄
「健康経営銘柄」とは、健康経営を実施しているなかで特に優れた企業を、上場企業の33の業種から経済産業省と東京証券取引所から各業種につき原則1社ずつ選定するものです。「健康経営銘柄2021」では29業種48社を選定しています。
URL:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_meigara.html
・健康経営優良法人
「健康経営優良法人認定制度」とは、健康経営に取り組む企業等の「見える化」をさらに進めるため、上場企業に限らず、未上場の企業や医療法人等の法人を「健康経営優良法人」として認定する制度です。
「健康経営優良法人2021」では、大規模法人部門に1798法人、中小規模法人部門に7935法人が認定されています。
URL:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html
特にそれぞれの上位法人には「ホワイト500」と「ブライト500」の冠が付与されています。
2 健康経営に取り組むメリット5選
健康経営に取り組むメリットは、以下の5つです。
- 労働生産性が上がる
- リスクマネジメントが可能になる
- 企業が負担する医療費を軽減できる
- 企業のイメージが向上する
- 従業員の離職率が低下する
それぞれについて、詳しく解説します。
2-1. 労働生産性が上がる
まずはじめに、健康経営によって従業員の健康状態を維持・増進させることで労働生産性の向上につながるというメリットがあります。
健康増進の取り組みによって従業員の心身のストレスが軽減することで、病気などによる欠勤率が低下し、仕事に対するモチベーションが上がるため、企業としても大きなメリットを享受することができます。
2-2.リスクマネジメントが可能になる
リスクマネジメントとは、全体のリスクを組織的に管理し、そのリスクによる損失を軽減する過程を指します。
健康経営でリスクマネジメントを実施し、従業員の突然の入院などの突発的な問題への対応をあらかじめ模索しておくことで、いざという時に損失するコストを最小限にとどめることが可能です。
2-3.企業が負担する医療費を軽減できる
従業員が健康被害にあった場合、それにかかる健康保険は企業が負担する必要があります。
健康経営に取り組み、従業員の健康維持・増進に貢献することで、従業員の医療費の負担を軽減することができます。
2-4.企業のイメージが向上する
健康経営をおこなうことによって、従業員の健康を大切にしている企業として良いイメージがつきます。
良いイメージがつくことによって、求職者からの印象が良くなるだけではなく、従業員も安心して勤務することができます。
先ほども紹介したように、健康経営をおこなっている企業は「健康経営優良法人認定制度」などによって社会に対して「見える化」されるため、こういった制度からの認定を目指してみるのも良いでしょう。
2-5.従業員の離職率が低下する
健康経営を実施することは、同時に労働環境の改善にもなり、それによって離職率も低下します。
従業員の健康を考えることは労働環境の見直しや改善にもつながるため、労働環境が良くなることで従業員が企業に定着し、離職率が低下するというメリットがあります。
3 健康経営に取り組むべき企業とは?
上で述べたように健康経営には様々なメリットがありました。
ここからは、どういった企業が健康経営に取り組むべきなのか、また、健康経営にどのように取り組むと良いのか、より具体的な内容を解説していきます。
まず、どのような企業が健康経営に取り組むべきなのでしょうか。
以下のような企業は健康経営に取り組むことを考えてみることをおすすめします。
- 中高年の従業員が多い企業
- ストレスチェックの結果が良くない企業
- 長期休業者が多い企業
- 人材不足で従業員の労働時間が長い企業
それぞれ見ていきましょう。
3-1.中高年の従業員が多い企業
現在、日本は少子高齢化社会の影響で労働人口の高齢化が進みつつあります。
そのような社会の中で、高年齢層の労働力というのは貴重な戦力です。
しかし、高年齢層の従業員は若い方に比べて健康状態は良くありません。
高年齢の従業員が多い企業は、特に健康経営に積極的に取り組み、従業員の健康維持・増進に努める必要があるでしょう。
3-2.ストレスチェックの結果が良くない企業
2015年から一定以上の規模がある企業の従業員に対して、ストレスチェックをおこなうことが義務化されました。この結果が悪く、ストレスを抱えている従業員が多いと出ている企業は、従業員の精神状態が悪化することを防ぐためにも健康経営に取り組む必要があるでしょう。
3-3.長期休業者が多い企業
従業員の中に、体調不良やうつ病などで長期休業をしている方がいる企業は、積極的に健康経営に取り組むべきでしょう。
健康経営の導入によって、従業員がストレスを感じずに働ける環境を作ることで、職場全体が高いパフォーマンスを発揮できるようになります。
3-4.人材不足で従業員の労働時間が長い企業
人材不足により長期労働や休日出勤が日常化してしまっている企業も健康経営に取り組むことが大切です。
そういった企業では、従業員は長時間会社にいなければならないため、体調が悪くても病院に通うことができずに病気が慢性化してしまう恐れがあります。
健康経営に取り組むことで労災から従業員を守りましょう。
4.健康経営の取り組み方
上記を踏まえたうえで、どのようにして健康経営に取り組むとよいのか、ここではその方法とステップを解説します。
4-1.健康経営をおこなうことを宣言する
まずは、社内外に向けて健康経営をおこなうことを宣言しましょう。
このとき、経営者が健康経営の重要性をきちんと理解していることが重要です。
宣言と同時に、経営理念に基づき、具体的に何をするのかという指針を示しましょう。
全国健康保険協会や健康保険組合では「健康宣言事業所の募集」をしている場合がありますので、事前にそういった組織に確認をとり、「健康企業宣言」もおこなっておくと良いでしょう。
4-2.組織の体制を作る
次に、健康の保持・増進に向けて実行力のある組織を作りましょう。人事部などに担当者を置いたり、効果を高めるために健康経営アドバイザーなど、外部の人材の手を借りてみても良いかもしれません。
他にも、担当者が健康管理についての研修を受けることも有効でしょう。
4-3.現状における課題を確認する
健康管理を進めていくために、現在の従業員の健康状態がわかるデータの確認・分析をおこない、部署・業務別の健康課題を明らかにしましょう。
そのうえで医療費の削減やメンタルヘルスの軽減に向けての具体的な目標を立てていきましょう。
4-4.計画を作成・実行する
上で明らかになった問題と具体的な目標から、何をどう達成するのかを計画し、従業員に向けて告知しましょう。
計画を実行した後は施策の効果を確認し、その評価を次の取り組みに生かしていきましょう。
5.健康経営の事例
最後に、実際に取り組んでいる企業の事例についてご紹介します。
- 株式会社ローソン
- 株式会社丸井グループ
- サントリーホールディングス株式会社
- TOTO株式会社
- オムロン株式会社
5-1.株式会社ローソン
特徴的な施策
ローソンヘルスケアポイント
⇒健康チェック、生活習慣チェックや健康増進に向けたタスクを実行するたびにポイントを付与するプログラム。
元気チャレンジ
⇒チームで歩数を競い合ったり、食事登録などの健康管理をおこなう、社員の健康増進施策。
スポーツ大会
⇒現場の店舗従業員から経営層に至るまで、垣根なく参加するイベント。
株式会社ローソンは2021年のものを含めて、「健康経営銘柄」に4度選定、「健康経営優良法人」に2度認定されています。
経営トップがCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)を兼務し、統括産業医、健康保険組合理事長がCSO補佐となって健康経営の推進強化をはかっています。
また、グループ社員の良好な健康状態の維持・向上のために、社長直轄の組織として専門スタッフが常駐する「ローソングループ健康推進センター」を設置し、CSO補佐、人事本部、健康保険組合、労働組織と連携し、様々な施策を展開しています。
5-2.株式会社丸井グループ
特徴的な施策
ウェルネス経営
⇒「病気にならないこと(基盤)」だけでなく、「今よりもっと活力高く、幸せになること(活力)」を重要と考え、「活力×基盤のウェルネス経営」を進める。
ウェルネス経営推進プロジェクト
⇒主体的に参加したメンバーが起点となり、全社員を巻き込みながら様々なウェルネス活動を企画・実行し、社内だけでなく社外に向けても取り組みを波及。
レジリエンスプログラム
⇒トップ層が自信と周囲の活力を高める習慣を身に着けることが組織全体の活性化に繋がる、という考えのもと役員・管理職を対象として1期1年間の「レジリエンスプログラム」を実施。
小売事業、フィンテック事業などを手がける株式会社丸井グループは「健康経営銘柄」に4年連続で選定されています。
上記の施策の結果、全社調査において「職場で尊重されていると感じる」「困難に直面した時に前向きに取り組む」など、自己効力感などの「しあわせ」に繋がる指標が大きく伸びています。
そのほか、ストレスチェックを活用し、組織改善をおこなうことで、4年連続でストレス度やワークエンゲージメント指標が改善されています。
5-3.サントリーホールディングス株式会社
特徴的な施策
ヘルスマイレージ
⇒健康促進(ラジオ体操やウォーキングなど)や、働き方改革(有給休暇取得など)への取り組みに応じて、ポータルサイトにおいて従業員にポイントを付与し、たまったポイントを商品に交換できる制度。
Our Suntory Walk
⇒グローバル健康経営・環境経営の取り組みとして、世界のサントリーグループ全社員約4万人を対象にしたウォーキングイベント。参加人数・チームの順位によって、サステナビリティ活動に取り組む団体への寄付額が決定する仕組み。2020年には新型コロナウイルス感染症対策に取り組む団体へ寄付。
飲料の製造及び販売等を行っているサントリーホールディングス株式会社は、5年連続で「健康経営優良法人」に認定されています。
サントリーグループは従業員が心身ともに健康でイキイキと働くことは、企業としての競争力の源泉そのものと考え、2014年に「健康づくり宣言」を発信。2016年には「健康経営」と「働き方改革」を新たにスタートしました。
5-4.TOTO株式会社
特徴的な施策
オンライン運動セミナー
⇒コロナ禍において、参加を希望する従業員に対して、Zoomを使用したオンライン運動セミナーを実施。
ヘルスケアセンターの開設
⇒本社・人財本部内にヘルスケアセンターを設置し、生活習慣病予防の活動や情報収集、相談・助言など、従業員の健康を管理しているヘルスケアセンターを2006年に設立。
住宅設備機器などの販売を手掛けるTOTO株式会社は7年連続で「健康経営銘柄」に、「健康経営優良法人」には5年連続で選定されています。
TOTOグループでは、企業理念として「一人ひとりの個性を尊重、いきいきとした職場を実現します。」を掲げ、心と体の健康づくりを推進し、働きやすい職場環境の実現を目指しています。
そしてそのために、健康管理、メンタルヘルス対策、健康増進(健康づくり)を3本柱とした健康配慮の取り組みを展開しています。
5-5.オムロン株式会社
特徴的な施策
オムロン ゼロイベント チャレンジ
⇒社員自身が毎日血圧を測り、家庭高血圧の基準値である収縮期血圧135mmHG、拡張期血圧85mmHG未満に血圧をコントロールすることを目指す社内プロジェクト。
Boost5
⇒「食事・睡眠・運動・メンタルヘルス・タバコ」の5つの項目においての定量目標達成のための取り組み。
家庭用、医療健康機器の開発・販売、健康管理ソフトウェアの開発・販売、健康増進サービス事業の展開などを行っているオムロン株式会社は、「健康経営優良法人(ホワイト500)」に5年連続で認定されました。
当社は新たな価値創造に必要なイノベーションを起こす人財と組織の創出に向けて働き方改革(フレックスタイム制やリモートワーク制など)を推進しています。
6.まとめ
いかがでしたでしょうか。
健康経営に取り組むことで、従業員の生産性が上がるだけでなく、企業としての評判も高めることが可能です。
これを機に健康経営に取り組み、会社内外ともに良い会社と思われる組織作りを始めてみてはいかがでしょうか。