「健康経営のISO規格をつくる」これからの健康経営について企業が取り組むべき視点を考える |HR NOTE

「健康経営のISO規格をつくる」これからの健康経営について企業が取り組むべき視点を考える |HR NOTE

「健康経営のISO規格をつくる」これからの健康経営について企業が取り組むべき視点を考える

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※本記事は、インタビューを実施したうえで記事化しております。

健康経営を国家プロジェクトとして推進している組織「一般社団法人 社会的健康戦略研究所」。

今回は、株式会社フジクラ健康社会研究所の代表取締役と、社会的健康戦略研究所の代表理事を兼任している浅野さんに、「日本が取り組むべき健康経営の本質とは何か」教えていただきました。

健康経営を追求する中で見えてきた日本の社会的価値の変化や医療費問題の本質を考えながら、国家的なプロジェクトとして同社団法人が取り組む、ISO(国際標準規格)策定の背景に迫ります。

【人物紹介】浅野健一郎 | 一般社団法人 社会的健康戦略研究所 代表理事/株式会社フジクラ健康社会研究所 代表取締役

1989年藤倉電線株式会社(現株式会社フジクラ)に入社。光エレクトロニクス研究所に配属され光通信システムの研究に従事。2011年よりコーポレート企画室、2014年より人事・総務部健康経営推進室。2017年12月よりCHO(Chief Health Officer)補佐。現在、経済産業省 次世代ヘルスケア産業協議会 健康投資WG専門委員、厚生労働省 日本健康会議 健康スコアリングWG委員、厚生労働省 肝炎対策プロジェクト実行委員他、経済産業省、厚生労働省等の委員を多数兼任。

なぜ、健康経営が注目されているのか?

―まずは健康経営が各企業から注目を集めている背景を教えてください。


浅野さん
まず、我が国が健康経営推進に取り組んでいる背景をご説明します。健康経営は、経済産業省が主体となり国として普及に取り組んでいるものです。

日本は今、国民の医療費が高騰していることをはじめとする社会保障の課題があります。

そこで、これからの社会の担い手である若者たち、もしくは壮年の方々が「高齢になっても元気で過ごせる仕組み」が必要だと考えられました。

そのひとつの方法論として、最初に出てきたのが健康保険組合(以下、健保組合)が取り組む「データヘルス」です。

健保組合は、会社等の団体に所属している人たちの医療費の支払いだけでなく、健康を維持するための活動をしている組織です。

ただ、皆さんが健保組合からメタボリックシンドロームで保健指導の案内が届いたとしても、煩雑なこともあり、進んで指導を受ける人は少ないかも知れません。

このように、会社等に属している人たちに、健保組合がアプローチしてもなかなか大きな効果を発揮できませんでした。

そこで、企業の経営活動を通して「働いている人たちが健康を維持できるような環境を作る」ことを考えたのが健康経営の始まりです。


健康経営銘柄や健康経営優良法人認定というものがありますが、これらはどのような意味を持つのでしょうか。


浅野さん
健康経営銘柄、健康経営優良法人認定をつくることで、より健康経営を世の中に普及させ、企業が自社の従業員の疾病予防と活き活きと働ける環境づくりに取り組むことを期待しています。

健保組合は国の機関の一部でもあるので、法律の改正等により、活動内容を変えていくことになります。

しかし、企業の経営・経済活動は元来自由なもので、企業経営の中で方針を決めて自由に活動をおこなうことが出来ます。

このように、国が企業の経営方針等を変えて、活動を強制することが難しいため、健康経営銘柄や健康経営優良法人認定という表彰というインセンティブ制度を作り、企業の自発的な参画を促しました。

その結果、このインセンティブ制度は大きな効果を発揮し、健康経営は大きな注目を集めるようになってきたのです。


―なるほど。他にも健康経営が広がった理由はあるのでしょうか?


浅野さん
その他の理由としては、企業の「優良企業」というイメージがありがたいという考えと、「他社が取得するなら我が社も…」という意識があげられます。

まず、優良法人認定を取ることで、ホワイト企業という認知が得られ、その企業は従業員に優しい会社・過酷な労働がない会社というイメージを獲得できます。

優良企業のイメージを世の中に発信することで、優秀な人材を確保したいという想いが、結果的に健康経営の広まりを後押しし、一つの大きな原動力になったことは否めません。

その後、さらに「あの企業も優良法人認定をとっているなら、自社も取らないとまずい」という理由で、企業に健康経営が広がってきたこともあると考えられます。いわゆる健康経営ブームと言ってもいいかもしれません。

その一方で、実際は、健康経営そのものが何かを深く理解せず、体裁だけを整える企業もあり、これらは課題の一つになりつつあります。


―社会的健康戦略研究所が考える、健康経営とはどのようなものなのでしょうか?


浅野さん
まず、企業経営とは政府に言われておこなうものではありません。そして企業は、社会環境変化に適応しながら利益追求をしていかないと生き残れません。

つまり、健康経営とは国の医療費削減のためにおこなうものではなく、この変化が激しい社会に適合していく方法論のひとつとして取り組むものだと私たちは考えています。

社会の大きな変化の流れの中で、日本は超高齢社会に突入し、企業経営を取り巻く環境にまで影響が出てきています。それは、高齢者の雇用問題です。

70歳でも働いていかなくてはならない、若い世代の働き手が急激に減少するという労働人口動態の変化が、大きく経済界に影を落としています。

2050年には日本国民の約40%が65歳以上になり、働く世代と老年人口が同じくらいの割合になると予想されています。

この状況下で、どのように経済活動を維持・発展させていくのか?これが今直面している日本の課題の一つなのです。

高齢になっても働き続けることが出来るシステムを今から作っていくこと、また、今働いている世代の方々をどのように健康にしていくのかを真剣に考えなければなりません。

浅野さん政府の動きを見てみましょう。一億総活躍や、女性の活躍、高齢者等、これまで、壮年男性と比較して働きたいのに働いていなかった人たちに向けて、働きやすい環境の整備を発信していますよね。

これらの取り組みで実際何が起こるのか。一億人の日本人が働き続けてくれれば、今まで働きたいのに働いていなかった女性や高齢者が労働することになれば、当然所得を得ることにあるので、国には所得税がたくさん入ります。

皆さんの所得が増え可処分所得が高くなれば、消費税を上げた効果が倍増し、より多くの財源が国に入ります。これは、両者ともW I N―W I Nの関係ですね。

現在の税収の中で、いかに社会保障費をまかなっていくかを考えた結果、経済の活性化と共に働き方改革や一億総活躍のような、あらゆる政策が実施されていると理解することができます。


―この政策で本当に日本の財政や医療費がまかなえるのでしょうか。


浅野さん
日本の医療費はこの先70兆円を超えるとも言われています。税金だけでまかなおうとするならば消費税を35%に引き上げなければならないという経済学者の試算した結果もあります。

北欧諸国は税金は高いですが、税金を支払っている分、社会保障制度が充実しています。

日本は、税金とは別に健康保険制度の保険システムにも高額の保険料を支払っているにも関わらず、さらに消費税を35%にしないとバランスが保てないというものです。

そもそもこの仕組みの中の何かがが間違っているのだと考えています。

ただし、これまでのさまざまな経緯の中で作られた現代社会の仕組みだからこそ、この先どのように仕組みを変えていくのか慎重に動かないといけません。多くの議論が生まれています。

企業の経営者からすると、医療費をまかなうために事業経営をしているわけではないので、本来は事業活動と医療費の問題は関係ないはずです。

経営側が着目すべき点としては、医療費削減ではなく「社会における価値観が変わっている」ということでしょう。

Society5.0「人間中心社会」に突入した日本の価値観

―社会の価値観が変わってきている中で、企業経営にはどのような影響があるのでしょうか。


浅野さん
社会の価値観が変わるということは、経済的な価値観も変わっていくということです。当然ながら利益が価値に紐づくことから事業の根幹も変わっていきます。

人類の社会変化をたどっていくと、Society1.0は狩猟社会、2.0は農耕社会、3.0は工業社会と進化してきました。この時代、工業が盛んだった日本で、モノづくり産業が日本の世界における価値を生むと考えられていました。

そこからだんだんと、モノではなくて情報が大きな価値を持つようになり、Society4.0の社会では情報を持っているところが社会経済を牽引する重要なポジションを担うようになりました。例えばGAFAと呼ばれている企業群です。

モノづくりに価値を置いていた社会から、情報自体、およびIoTに代表される情報を得るためのテクノロジーに価値を見出すようになってきています。

しかし、次の社会は情報を持っているだけでは価値がない時代に突入しているのです。それがSociety5.0なのです。次の社会価値は何なのか?

Society 5.0 説明図

[引用:内閣府_Society5.0]

浅野さんこのSocety5.0は、「狩猟社会」「工業社会」のように、未だ定まった呼び方がなく、この社会が何社会なのかが明確になっていません。

私は、現在様々おこなわれている議論から、このSociety5.0は「人間中心社会」になると考えてます。次の社会価値・経済価値は私たち人間になるだろうという国際的な議論も始まっています。


―Society5.0が人間中心社会になるとは、どういったことなのでしょうか?


浅野さん
一言でいうと、「経済活動=社会課題解決」を実現しなければいけない社会環境になってきているということです。

今までの経済活動は、企業や団体が利益を上げて国の経済的発展に寄与していれば良く、一方で社会的課題は国が様々な政策や仕組みで対応してきていて、企業の経済活動とはいわば分業体制のような構造でした。

しかし、この分業体制では、社会課題の解決が進まない社会となり、国の医療費は高騰し続け、従来の社会保障制度ではまかないきれなくなりました。そこで現在、社会構造をガラッと変えていかなくてはならない持続不可能な状況まで来てしまったのです。

持続的な社会にしていく方法の一つとして、企業が経済活動=社会課題解決と結びつけて、利益追求をするだけではなく、社会の課題解決も同時におこなう必要が出てきているのです。

この状況は、世界を見ても同じで、国連が掲げている2030年ゴールに向けた、持続可能な社会を実現するためのアジェンダをSDGsと呼び、この開発の主役は、まさに企業なのです。

「SDG」の画像検索結果

 

浅野さん商業資本主義に始まった資本主義体制は、近代以降長らく産業資本主義となり、工業製品の生産に重きを置いてきた日本がその中で成長してきました。

しかし、現在の世の中はモノ消費からコト消費へ移行しています。

モノを購入し所有することよりも、シェアリングサービスを利用していけばいいと、人々の価値は大きく変化しています。


―たしかに、現在の社会では消費者の価値観も大きく変わってきているように感じます。


浅野さん
私たち生活者は社会が変わっているという事実を敏感に感じ取っています。社会が変わると、私たちの行動も変わっていきます。

たとえば、少子化の問題を挙げてみましょう。将来、自分の子どもたちが豊かな社会生活を送れないと思えば、子どもを産まない選択をする人々が増えます。

また同時に、子供を産むことで、自分たちが経済的に将来困窮するようであれば、子供を作ることを諦める人々も多くなります。

これは、誰かが指示して動いているのではなく、社会環境が決めているようなものです。

私たちは、生きていく中で社会の変化を敏感に感じ取り、社会の変化にあわせて行動の選択を知らず知らずのうちにしています。その結果として、社会は今までとは違う方向に勝手に動きはじめるものです。

社会の変化について、もうひとつ例をあげてみます。

私たち国民が何にお金を払うのか、という視点で考えてみます。お金を払うということは、そこに価値があるから払っていますよね。

さまざまな人たちが、どういうものにお金を払っているか調査をしていくと、社会の中で価値がどのよう変化しているかが分かります。

 

浅野さんたとえばライザップさんは、「パーソナライズ・支援者・実体化」の3つを組み合わせたためヒットしました。

あれだけ高額な価格帯でなぜ集客し、大ヒットしているのか。それは、時代の価値を先取りしたからでしょう。

彼らが創業したタイミングは情報社会の真っただ中で、SNSのコミュニケーションやYouTube動画のビジネスを低コストで運用できるようにしたフィットネス事業のスタートアップ企業も多数いました。

この流れに逆行したライザップさんが、結果的に大きな利益を出したのです。

発見可能性を体現したのはGoogleさんですね。情報社会の中で、情報が氾濫すると必要な情報を見つけることが困難になります。その課題に着目したのがGoogleさんです。

また、Amazonさんは、当社商品が決して安いわけではありませんでしたが、着目したのは「時間」です。つまり、即時性の価値を提供していると考えられます。

Amazonさんは、当時の常識とは逆に、各地にリアルな倉庫を設け、配送時間を極端に縮めることで大ヒットしました。これらの企業のように、事業者は今の社会価値に合わせていかなければ絶対に成功はしないのです。

さらに、社会の価値が移っていったときに、その現象を表面的に見るのではなく、「なぜこの価値が評価されているのか」「この価値が注目されるようになった背景はなにか」と深掘りする必要があります。

例にあげた企業・サービスと同じ価値を提供すれば、必ず事業が成功するわけではありません。結局、「誰から価値を買うのか?」という信頼感が非常に重要でしょう。

Society4.0の情報社会は、信頼が分かりにくい社会となり、その結果、「多くの人が信頼している企業は信頼できる」という感覚が広まり、ある企業に一極集中する傾向にあります。

多くの人がGoogleを使い始めると、みんな集中してGoogleを利用しに行く。消費者は安心感を求めています。

安心感を求めるのはなぜか、それは情報社会の中でもっとも毀損したものが、信頼関係だからでしょう。

社会的健康戦略研究所の取り組みや目的とはなにか?

―ここからは、社会的健康戦略研究所の取り組みについて教えてください。


浅野さん
今までの話を通して、私たちは何より社会的健康を真剣に考えなくてはいけないと感じました。

社会的健康を良くする手法は、今までの先行例がほとんど見当たらないため、まずは研究をしていかねばなりません。そこで、立ち上げた社団法人には、研究所という名前をつけました。

日本は、世界に先駆け高齢社会にいち早く突入している課題先進国です。これをどうやって乗り越えていくのか、世界中が注目しています。

貧困格差や孤立・孤独死問題、さらには介護の問題もあります。これらを解決できなかったら、日本の将来はないのです。

これらの課題を、全体を俯瞰しながら考えていくために研究所を作りました。

―浅野さんが発起人として団体を作ろうとしたきっかけは何だったのですか?


浅野さん
単刀直入に申し上げると、今の健康経営が本来の意味での健康経営になっていないからです。

「健康経営とは従業員の健康管理をすること」と思われていますが、この認識にはどうしても解釈のずれが生じていると感じています。

経済産業省が掲げた健康経営の目的の欄に「医療費削減」が記載されていますが、企業が国の医療費削減のために経営リソースを多大に投入することは、考えにくいですよね。

平成30年度の健康経営度調査に回答した企業の集計結果を見ると、健康経営を進めている上位の企業、優良法人認定を取特している企業が取り組んでいる内容は、労働時間の適正化や生活習慣病の重症化を避ける施策です。

多くの企業は、健康経営銘柄や優良法人認定と言いつつも、健康管理にのみ注力している企業は経営的なメリットはほぼ何も生み出せていません。このままでは健康経営へ取り組む企業は減少していく一方です。

では本来、健康経営とはどのような活動なのでしょうか。それはいたってシンプルで、健康“経営”という名前ですから、自社の経営課題に直結している問題を健康で解決するものでなければ企業にとっての経営メリットはありません。

本質的に健康経営を理解し、取り組んでいる企業が非常に少ないということが、現時点での健康経営の課題でしょう。

こうした課題を解決したいと考え、社会的健康戦略研究所を立ち上げました。

社会的健康戦略研究所が世界基準のISO策定に挑む背景

社会的健康戦略研究所がISO基準を策定する取り組みについて教えて下さい。


浅野氏
私たちは、社会的健康の考え方と具体的活動を幅広く普及させていこうと考えています。

世界は今、社会的健康の向上を求めています。そして、社会的健康への取り組みを世界に広げるために、世界基準の規格が必要であると考えました。

課題先進国日本の社会課題解決は、世界の社会課題の解決につながっていくと考えます。

Society5.0の概念のもと世界の社会課題の解決をすることは、結果的に日本の経済発展へとつながるはずなのです。そのためにはISOという国際標準は大きな力を発揮してくれます。

健康経営は、企業だけではなく地域や自治体に対して、社会にも良い影響を与えます。私たちの考え方では、健康経営に取り組むことは、社会的健康の向上に取り組むこととイコールなのです。

だからこそ、この健康経営を世界基準にし、日本がリーダーシップを発揮して展開していきたい、と思います。

課題先進国の日本の方法論が世界基準になれば、そこに付随するさまざまなデバイスサービス、指標など様々な具体的項目を付随する規格として展開することができます。

つまり、世界基準のISOをもとに、健康経営に関わるさまざまな活動を日本がリーダーシップを取り進めていけるメリットがあるのです。

この分野で日本が世界のリーダーになれば、当然、日本のヘルスケア産業界は世界で事業展開をしやすくなるでしょう。

もしかしたら皆さんは、世界標準に対してあまり馴染みがないかもしれませんが、ISOは基本的に貿易の交換契約となっています。

有名なところでは、品質管理のISO9000シリーズや環境ISOと言われている14000シリーズなど、ISOを取得していればどの国の企業であれ信頼することができ、世界の貿易市場で有利になるのです。

つまり、ISOを取得している企業は取引に値する企業かどうかの信頼を見極めるために使われています。

このように、国際舞台で事業展開をしていくためには、必要不可欠といってもいいでしょう。

人間中心社会の中では、サービスや製品の品質で判断されるだけではなく、人間中心のISOが世界の交換契約となるのです。

考え方によっては、日本には大きなチャンスが到来しています。日本は急速な産業発展や経済発展を実現し、その一方で高齢化、社会保障の問題が積み残されました。

これらの課題は外貨が獲得できれば解決できる可能性があります。

日本の自動車産業が世界で確固たる地位を確立できたように、「日本の健康産業は素晴らしいね、安心だよね」と評価される可能性があり、その実現のためには日本のヘルスケア産業を世界に発信していかなければなりません。

日本のヘルスケア産業の人たちが、世界基準をいち早く主導できれば、先行者優位で市場を開拓できます。

このブランド作りがISOという規格によって実現できる可能性があり、規格を取得した結果、世界に展開するだけではなく、逆輸入的に日本のヘルスケア市場や健康経営の普及をさらに加速させていくことも視野に入れています。

「健康経営なんてやらなくていいよ、そんな余裕はない」と言っている日本の企業経営者はまだまだたくさんいますが、健康経営の世界基準が発行されれば、健康経営を実施する企業は一気に拡大する可能性は大いにあります。


―ちなみに、社会的健康戦略研究所が考える「健康」とは、どのような状態なのでしょうか。


浅野さん
WHOは健康を次のように定義しています。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

日本語訳をすると、「健康とは、病気ではない、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、全てが満たされた状態にあることをいいます」となります。

病気であること、体が不自由であったり、弱ってきていたりすることが、健康かどうかを決める指標ではありません。

たとえば、パラリンピックの選手を思い浮かべてください。パラリンピックの選手は、病気や事故などのさまざまな事情があると思いますが、不健康でしょうか?

浅野さん病気にならないこと=健康という方程式ではなく、肉体的にも精神的にも満たされていることを健康と考えるならば、疾病予防をすることのみが健康につながるとは限らないでしょう。

日本のような先進国での健康を考えるときに一番適切なのは「からだのことや、こころのことや、社会とのつながり等に不安に感じない」ということだと私はとらえています。

普段意識しなくてもいいぐらい、自然に健康について不安を感じていない状態、それが日本的な感覚での満たされている状態だと考えています。

「明日会社に行くの嫌だな」と真剣に思っているのも、社会的な健康がいい状態ではありません。「あの人と一緒に働きたくないな」と強く感じることも、同じように健康とは言えないでしょう。

私たちは、生きている中で、社会的に満たされているかどうか、というのが一番重要なのではないでしょうか。社会的に満たされていて、不安を感じない状態ではじめて、自分の体やこころを気遣えるとも言えると思います。

明日食べていけるかどうかわからないような不安状態の人が、自分の健康維持のために運動をしようなんて考える人は、極わずかだと思いませんか?

社会の中の一員として満たされているかどうか、それは私たちに大きな影響を及ぼします。

社会的安心、社会的健康が毀損されたら、私たち社会的動物である人間は生きていけません。ここを満たしてない限り、健康経営は進んで行きません。

つまり、健康経営でやるべきことは、まず社会的な健康が確保される環境をきちんと整えることでしょう。

この本質的な健康が維持されれば、その中にいる人たちは自然と、自分で自分の身体やこころの健康維持ができる余裕が生まれるはずです。

つまり私たちが健康経営を考えるときは、一般的に認知されている、病気ではない状態の健康という言葉のイメージと異なりますが、「人間が活き活きと生きているかどうか」を重要視しています。

WHOの健康の定義をベースに考えると、健康経営で目指すべきなのは、活き活きと仕事する、ということです。

病気じゃないけれど、会社の中の人間関係が悪く、やる気もモチベーションもない状態を健康的な生活と言えますか?

一方で、がんの治療しながら仕事をしているけれど、会社の中は信頼関係に溢れている状態を想像してみてください。どちらが健康的な生活を送っていると言えるのでしょうか。

私たちが潜在的に求めているのは、まず社会の中で満たされるということです。

健康というものはフィジカルなことだけでなく、メンタルの問題も大きいです。病気自体が悪いわけではありません。

病気にならない人は一人もいないのです。「なぜ私たちが病気になるか」という出発点に目を向けることが重要なのです。


―ありがとうございます。最後に、これから健康経営に取り組みたいと考えている経営者や人事の方に向けてアドバイスをお願いします。


浅野さん
まず、自分たちが何のために、なぜ健康経営をおこなうのかを考えてみて下さい。

特に何のためにやるのか、という問いが非常に重要でしょう。この会社として、経営者が健康経営をおこなう目的さえ決められれば、あとはその目的に向かって実行していけばいいだけです。

健康経営をおこなう理由は、なんでもいいのです。それが正しいとか正しくないという問題ではなく、経営の意思決定です。どうしてやるのか、なぜやるのかを決めること、それが非常に重要だと考えています。

さいごに

いかがでしたでしょうか。

浅野さんのお話にあった「パラリンピックの選手は体が不自由で不幸せなのか?」という問いかけに非常に考えさせられました。

健康経営と聞くと、運動を心掛けて病気を防ごう!と安易に考えがちですが、こころの不安がない状態が本質的な健康であることに気付かされました。

医療費問題や社会保障制度の崩落についてどこか他人事になっていたものの、健康経営は日本の経済発展のために必須なのでしょう。

世界基準の規格を策定し、健康経営を日本が主導する日は、遠くないのだと感じました。

今後の社会的健康戦略研究所の動向に注視していきたいと思います。

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