「特定支出控除」は、個人事業主の経費の計上のように会社員も節税できる制度で、申告数が増えています。在宅勤務や複業などで働き方が変化しており、特定支出控除に興味をもつ人はさらに増える可能性があるでしょう。
この記事では、企業の経理担当者に向けて、特定支出控除について解説します。経理業務のためにぜひ役立ててください。
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1.特定支出控除とは
特定支出控除とは、収入から経費を控除できるようにした制度です。特定支出控除は、給与所得控除とは別の制度として設けられています。税法で定められており、業務のために使用した費用を経費として申請可能です。特定支出控除の適用を受けるには、会社員が自分で確定申告する必要があります。
1-1.特定支出控除が適用される条件・範囲
特定支出控除では、業務のために使用した費用のすべてが対象になるわけではありません。一定の条件が定められています。具体的には、給与所得控除額の2分の1の金額を超えている経費の金額が特定支出控除として認められます。
また、内容が税法で定められている範囲に該当しており、会社側から認めていることも条件です。
1-2.特定支出控除証明書
特定支出控除証明書として給与支払者による従業員の証明と従業員本人の確定申告の2つが必要になります。そのため会社として担当者は従業員が確定申告ができるよう、年末調整をおこない源泉徴収票を作成する必要があります。
1-3.特定支出控除額の計算方法
特定支出控除額は、特定支出の合計額から特定支出控除額として判定されるための基準となる金額を差し引いて計算します。特定支出控除額として判定されるための基準となる金額は、給与所得控除額の2分の1の金額です。
たとえば、年収500万円の会社員が、研修費30万円と資格取得費75万円の合計105万円を支払ったとしましょう。この場合の特定支出控除額は「105万円-{(500万円×20%+44万円)×1/2}=33万円」です。
1-3-1.給与所得控除額
令和2年分以降の給与所得控除額を収入金額ごとにまとめると、以下のとおりです。
給与等の収入金額 |
給与所得控除額 |
~162万5,000円 |
55万円 |
162万5,001円~180万円 |
収入金額×40%-10万円 |
180万1円~360万円 |
収入金額×30%-8万円 |
360万1円~660万円 |
収入金額×20%-44万円 |
660万1円~850万円 |
収入金額×10%-110万円 |
850万1円~ |
195万円(上限) |
2.特定支出は全部で6つ
特定支出としては6つの種類があります。ここでは、それぞれについて解説します。
2-1.通勤費
通勤費は、勤務先へ通勤するためにかかった費用です。電車やバスなどの公共交通機関の料金だけでなく、車通勤にかかるガソリン代や高速料金も通勤費として認められます。ただし、勤務先から通勤手当が支給されている場合は特定支出にはなりません。
2-2.転居費
転居費は、転勤のためにかかった費用です。生活用品の運送費や移動にかかった交通費などが転居費として認められます。生活用品を梱包する際に使用した資材の費用や、運送の際にかかった損害保険料も含められます。
2-3.研修費
研修費は、業務のためのスキルや技術を習得するための研修にかかった費用です。本人が研修費を支払った場合は、全額を研修費として申請できます。また、研修に参加するためにかかった交通費も対象です。
2-4.資格取得費
資格取得費は、業務のために必要な資格を取得するためにかかった費用です。学校に通って資格を取得した場合は、入学金以外の学費が資格取得費として認められます。弁護士、税理士、公認会計士などの資格取得にかかった費用も対象です。
2-5.帰宅旅費
帰宅旅費は、自宅と勤務地が離れている人が帰省するためにかかった費用です。たとえば、単身赴任をしている人は帰宅旅費の申請が可能です。ただし、帰宅旅費として認められるのは、1ヶ月あたり4往復までとなっています。
2-6.勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費)
勤務必要経費には、図書費、衣服費、交際費があります。図書費は、業務のために使用する書籍の購入費用です。衣服費には、仕事の際に着用するスーツや作業着などを購入するための費用が該当します。交際費は、顧客や取引先への接待にかかった費用です。
3.この費用は控除を受けられる?テレワークや複業で発生した費用について解説
3-1.テレワークに関わる費用
新型コロナウイルスの感染防止のため、多くの企業がテレワークを導入するようになりました。しかし、テレワークにおける特定支出控除については注意が必要です。
現状では、テレワークの環境を整備するためにかかる費用は、特定支出控除の対象になっていません。特定支出控除においてテレワークに関する項目がなく、業務のために個人で費用を支払っても自己負担せざるを得ない状況となっています。
3-2.複業(副業)で発生した費用
会社員で複業(副業)に取り組んでいる場合、給与のほかにも所得が生じます。たとえば、アフィリエイトなら雑所得、フリーランスとして業務を請け負ったなら事業所得、不動産を運用しているなら不動産所得が発生します。
複業(副業)のためにかかった経費は、所得とともに確定申告での計上が可能です。複業(副業)の所得や経費は、会社の年末調整とは別に個人で確定申告する必要があります。
5.従業員がやるべき、特定支出控除の申告の流れ
特定支出控除を受けるためには、確定申告が必要です。そのため経理担当者は従業員が確定申告ができるように、特定支出控除の流れについて正しく理解しておく必要があります。ここでは、申告の具体的な流れを解説します。
5-1.特定支出控除証明書の作成依頼書を用意
まず、特定支出の証明をしたい従業員は特定支出の証明の依頼書を用意する必要があります。依頼書は国税庁のホームページでダウンロードが可能です。特定支出の種類ごとに用紙がわかれており、申請する特定支出の内容にあわせて選ばなければなりません。申請したい項目がどれに該当するか確認したうえで、内容にあわせてダウンロードします。
5-2.確定申告に必要な書類の準備
特定支出控除を受けるためには、確定申告する必要があります。そのため、特定支出の証明をしたい従業員は確定申告書も用意しなければなりません。また、勤務先から受け取った源泉徴収票や、特定支出の領収書やレシートなどの添付も必要です。そのため従業員が過不足なく確定申告できるように、経理担当者は源泉徴収票を作成する必要があります。特定支出の証明の依頼書以外にも複数の書類が必要になるため、経理担当者は従業員が過不足なく必要な書類を集められるように事前に準備しておくことが必要です。
4-3.確定申告
特定支出控除を受ける従業員は、必要な書類を準備した後、税務署にこれらを提出します。確定申告は、翌年の2月16日から3月15日までにおこないます。直接持参して提出するだけでなく、郵送やインターネットで提出することも可能です。
5.会社が関わる必要書類と留意点
社員が特定支出控除を希望している場合、経理担当者は注意すべきことがあります。具体的な留意点を解説します。
5-1. 会社が用意する書類とは?
特定支出控除を希望する会社員は、勤務先に対して特定支出の証明の依頼書を提出します。依頼書を受け取った経理担当者は、内容を確認して業務との関連性を確認する必要があります。問題がない場合は証明欄に記入と捺印をおこないましょう。
また、企業の経理担当者は、給与所得の源泉徴収票を発行する必要があります。通常通り給与所得の源泉徴収票を発行すれば、それぞれの社員が確定申告により特定支出控除を申請する際に使用できます。
5-2.特定支出に認められるかの判断
社員が希望しても、内容によっては特定支出として認められない可能性があります。特定支出の証明の依頼書を受け取ったら、自社の業務に関係する費用を個人が支出したかどうか確認する必要があります。また、支出の妥当性や限度内に収まっているかどうかもポイントです。
すでに会社から費用が補てんされている場合は特定支出に該当しないため、その点についてもチェックしましょう。
5-3.年末調整は通常通りおこなう
社員が個人で確定申告をする場合も、会社は給与所得について年末調整をおこなう必要があります。社員が確定申告をする際は、勤務先が発行した源泉徴収票が必要です。源泉徴収票がなければ確定申告ができないため、特定支出控除を希望している社員についてもきちんと年末調整をおこないましょう。
6.個人事業主と法人の税金控除の違い
個人事業主と法人のいずれであっても、事業に関係する費用を支出したら経費として計上できます。ただし、個人事業主の経費として認められる内容は限定的です。法人は経費として認められる内容が幅広いため、柔軟にさまざまな費用を計上できます。
経費を収入から差し引くと、税金の計算のベースになる所得を減らせます。そのため、個人事業主と法人を比較すると、法人のほうが税制において有利です。
7.まとめ
会社員が特定支出控除を活用すれば、業務のために自己負担した費用について控除を受けられます。特定支出の証明の依頼書は企業側が確認する必要があるため、経理担当者はきちんと特定支出控除について理解しておきましょう。
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