同一労働同一賃金における労使協定方式は、派遣元企業と派遣スタッフとの間で締結する協定のことです。派遣先の企業と労使協定を結ぶわけではないので、派遣先が変わっても待遇が変化しないメリットがあります。
しかし「労使協定方式の活用方法がよくわからない」とお悩みの方もいるでしょう。
そこで本記事では、同一労働同一賃金における労使協定方式の基礎知識を解説します。
賃金の算出方法も紹介しているので、労使協定方式の活用をお考えの方は、ぜひ最後までお読みください。
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同一労働同一賃金とは、「正社員と非正規社員を平等に扱う概念」のように認識されていても、具体的にどのような対策が必要かわからない方も多いのではないでしょうか?
本資料では、どのような状態が「不平等」とみなされうるのかや、企業が対応すべきことを4つの手順に分けて解説しております。
自社でどのような対応が必要か確認したい方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 同一労働同一賃金における労使協定方式とは
同一労働同一賃金における労使協定方式とは、派遣元会社が決めた労使協定をもとにして、派遣スタッフの処遇を定めることです。従業員の半数以上で組織される労働組合もしくは、半数以上の従業員の代表との間で、労使協定を結び、従業員の待遇が決まります。
労使協定は派遣先企業と結ぶわけではありません。派遣元企業と派遣スタッフで結ばれる協定です。そのため派遣元の従業員は、派遣先が変わっても、同一の扱いを受けられます。
派遣スタッフに支払われる報酬が、派遣先企業の正社員の給料に影響されない点が特徴です。
2. 労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の2つの違い
労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の違いを、以下の2つに分けて解説します。
- 給料の決定方法の違い
- 提供しなければならない情報の違い
違いをきちんと理解して、どちらの方式を自社に取り入れるか判断してください。
2-1. 給料の決定方法の違い
労使協定方式と派遣先均等・均衡方式では、給料の決め方が異なります。
労使協定方式は、地域・職種別の平均給与を目安に、派遣元と派遣スタッフの話し合いのもと報酬を決める制度です。平均給与は、厚生労働省が定める「一般労働者の賃金水準」を基準にして、報酬を支払わなければなりません。
対して派遣先均等・均衡方式では、派遣先で働く正社員の報酬に合わせて、基本給や手当などを個別で検討します。
労使協定方式で、派遣スタッフの報酬と比べるのは、国が定めた一般社員の給与です。派遣スタッフは、派遣先が変化しても報酬が下がることはありません。
労使協定方式を活用すると、自社で抱えている派遣スタッフの不利益が少なくなるため、派遣元にとっては大きなメリットです。
2-2. 提供しなければならない情報の違い
提供しなければならない情報も、労使協定方式と派遣先均等・均衡方式で違います。
労使協定方式では、派遣先が派遣元に提供しなければならない情報は、以下の2つのみです。
- 業務に必要な教育訓練について
- 食堂・休憩室・更衣室などの福利厚生施設の利用について
一方で派遣先均等・均衡方式では以下の5つの事項の情報提供が必要になります。
- 職務内容および配置の変更の範囲ならびに雇用形態
- 選定理由
- 待遇の内容
- 待遇な性質および目的
- 待遇決定にあたっての考慮事項
労使協定方式を採用した場合は、派遣先均等・均衡方式と比較すると、派遣先が派遣元に提供すべき情報が少なく済みます。
3. 労使協定方式における派遣労働者への賃金の算出方法3選
ここでは、労使協定方式における派遣労働者への賃金の算出方法を、以下の3つに分けて解説します。
- 基本給・賞与・手当の計算方法
- 通勤手当の計算方法
- 退職金の計算方法
派遣労働者への賃金を正しく算出して、労使間のトラブルが起きないように注意しましょう。
3-1. 基本給・賞与・手当の計算方法
基本給・賞与・手当は「職業別の基準値×能力・経験調整指数×地域指数」を用いて計算します。
職業別の基準値は、以下の統計を基準にしましょう。
2つの統計から派遣スタッフがおこなう仕事に最も近い職業を選択します。
選択した職業の金額に、経験やスキルを数値化した「能力・経験調整指数」をかけましょう。能力・経験調整指数は、以下のように勤続年数によって定められています。
勤続年数 | 数値 |
0年 | 100.0 |
1年 | 114.3 |
2年 | 123.9 |
3年 | 128.8 |
5年 | 134.5 |
10年 | 151.1 |
20年 | 188.6 |
参照:「同種の業務に従事する 一般の労働者の平均的な賃金の額」|厚生労働省
職業別の基準値に、勤続年数に応じた指数をかけなければなりません。最後に派遣先地域の物価の違いを表した地域指数をかけましょう。
地域指数は、厚生労働省が公表している「職業安定業務統計による地域指数」から確認できます。
もし計算の結果が最低賃金を下回った場合は、最低賃金を上回る金額にしなければなりません。
3-2. 通勤手当の算出方法
労使協定方式で認められている通勤手当の計算方法は、以下の2パターンです。
- 実費で支給する
- 通勤手当に相当する金額を時給71円で支払う
実費で支給する際は、通勤にかかった額をそのまま支払います。実費で支給しない場合、71円を時給にプラスして支払わなければなりません。
参照:令和5年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30 条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について|厚生労働省
3-3. 退職金の算出方法
労使協定方式における退職金の算出方法は、以下の3パターンに分けられます。
正社員と同じ退職金制度を整備する | 退職手当制度がある企業の割合、退職手当の受給に必要な所要年数、退職手当の支給月数、退職手当の支給金額および退職給付等の費用を示した資料を参照する |
一般労働者の退職金の額と同等以上を確保する | 基本給・賞与に対して5%の額を支払う |
中小企業退職金共済制度に加入する | 基本給・賞与の5%以上の掛金を設定する |
派遣労働者に退職金制度を設けていないケースが多いため、時給に含めて前払いする方法が現実的な選択といえます。
参照:令和5年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30 条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について|厚生労働省
4. 同一労働同一賃金における労使協定方式の2つメリット
ここでは、同一労働同一賃金における労使協定方式のメリットを2つ解説します。
- 情報の提供が簡単
- 派遣スタッフの賃金水準を派遣元会社で定められる
労使協定方式を実施する前に、メリットを把握しておきましょう。
4-1. 情報の提供が簡単
労使協定方式を採用した場合、派遣元への情報提供が簡単になります。労使協定方式において、派遣先が派遣元へ提供しなければならない情報は以下の2つです。
- 労働者におこなう教育訓練について
- 福利厚生施設に関わる内容について
労使協定方式では、2つだけの情報提供で済みます。一方で派遣先均等・均衡方式では、待遇の内容や選定理由についてなど、より多くの情報を提供しなければなりません。労使協定方式は、提供する情報が少なくて済むため、派遣元の書類の確認作業を削減できる点がメリットといえます。
4-2. 派遣スタッフの賃金水準を派遣元企業で定められる
労使協定方式では、派遣スタッフの賃金水準を派遣元企業で定められます。派遣先均等・均衡方式では、派遣先の正社員の報酬に合わせなければなりません。
派遣される場所によっては、派遣スタッフの報酬が下がる可能性があります。また派遣した企業の賃金が高いと、その高い水準に合わせないといけないため、派遣元の大きな負担になるでしょう。
労使協定方式を採用して、派遣元が賃金を決定できれば、派遣スタッフの収入の安定につながります。
労使協定方式のほうが、金銭事情でのメリットが大きいといえるでしょう。
5. 同一労働同一賃金の対応として派遣先企業に求められる3つのこと
ここでは、同一労働同一賃金の対応として派遣先の企業に求められることを3つ紹介します。
- 派遣元企業へ情報提供を実施する
- 派遣料金の交渉には誠実に対応する
- 派遣スタッフに対して適切な教育訓練を実施する
派遣先企業になったときのために、求められる対応を把握しておきましょう。
5-1. 派遣元企業へ情報提供を実施する
派遣先企業は、派遣元への情報提供を実施しなければなりません。
先述したとおり、派遣先均等・均衡方式と労使協定方式では、以下のように提供する情報が異なります。
労使協定方式 | 派遣先均等・均衡方式 |
・教育訓練の内容 ・福利厚生施設の内容 |
・比較対象となる正社員の職務内容および、配置の変更の範囲ならびに雇用形態 ・選定理由 ・待遇内容 ・待遇の性質および目的 ・待遇決定にあたっての考慮事項 |
自社で実施する取り組みに合わせて、正しい情報提供をおこないましょう。
5-2. 派遣料金の交渉には誠実に対応する
派遣料金の交渉には誠実に対応しましょう。派遣先企業は、自社で働く正社員と派遣スタッフの待遇に差ができていないか、常に配慮しなければなりません。
派遣スタッフに十分な待遇を与えるためにも、派遣料金の値上げを交渉してきた場合は、誠実な対応が必要です。
しかし、必ず値上げしなければならないわけではありません。値上げを断る際は、相手が納得できるような根拠を示しましょう。
5-3. 派遣スタッフに対して適切な教育訓練を実施する
派遣先企業は、派遣スタッフが業務に必要なスキルを身につけられるように、教育訓練を実施しなければなりません。
派遣先企業は派遣元企業と話し合い、派遣スタッフが教育を受けられるような環境を作ることが大切です。
もし派遣元企業で、教育訓練を実施していた場合は、改めておこなう必要はありません。
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