新しい従業員を雇い入れる際は、労使間で雇用契約を結ぶことになります。民法上は口頭で雇用契約を結ぶことも可能であり、企業側に書面を作成する義務はありません。
ただし、口頭契約時にも労働条件通知書が必要な点や、起こりうるリスクもあわせて理解することが重要です。本記事では口頭で結ぶ雇用契約について解説します。
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従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
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1. 雇用契約は口頭でも成立する
一般的に雇用契約は書面でのやり取りを通して締結しますが、法的には口頭での契約も有効です。
民法で定める雇用契約は「諾成契約(だくせいけいやく)」とよばれ、双方の合意があれば口約束でも成立するものとされています。そのため、雇用契約書として書面で交付する義務はありません。
ただし、雇用契約書には賃金や就業時間など労働条件に関する重要な内容が記載されているため、口約束ではなく書面で残しておかなければ、後々労使間のトラブルが発生する恐れがあるでしょう。
このような事情から、労働基準法では労働者を守りトラブルを回避することを目的として「労働条件通知書」とよばれる書類を作成し、労働者に交付することを義務付けています。
1-1. 口頭での契約でも労働条件通知書の交付は義務
通常、雇用契約では賃金に関することだけでなく、あらゆる労働条件が細かく定められており、双方が内容に納得したうえで締結します。
契約期間や転勤の可能性など、従業員の生活に大きな影響を及ぼす内容もあるため、労働条件通知書として条件を明示しなければなりません。
労働条件通知書の作成は義務なので、労働者に交付しない、または労働条件を明示しなかった場合は、労働基準法で定める明示義務違反にあたり、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。(労働基準法第120条)
労働条件通知書は契約書と異なり、会社側が一方的に交付する通知書なので署名や捺印は必要ありません。そのため、労働者自筆の署名がある雇用契約書も交付し、同意を得た証拠として残しておくことが一般的です。
1-2. 労働条件通知書に記載するべき事項
交付が義務付けられている労働条件通知書には「絶対的明示事項」とよばれる記載必須の事項を明示しなければなりません。
以下は、明示義務のある絶対的明示事項です。
- 労働契約の期間
- 有期雇用契約の更新基準に関する事項
- 就業場所
- 業務内容
- 始業と終業時刻
- 時間外労働の有無
- 休憩や休暇について
- 交替制勤務に関する事項
- 賃金に関する事項
- 退職に関する事項
これらの事項を労働条件通知書に盛り込み、書面もしくは従業員が希望した場合は電子交付をしましょう。電子交付の場合は、従業員本人のみが閲覧でき、出力して書面作成が可能な方法である必要があります。
1-3. 労働条件通知書に記載したほうがよい事項
該当する場合は記載するべきとされる「相対的明示事項」には、賞与や手当、休職に関する事項などが当てはまります。そのほか、必要に応じて以下のような項目を記載しておきましょう。
- 賞与
- 各種手当
- 休職に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
相対的明示事項は口頭での説明でも良いとされていますが、トラブルを避けるためにもできる限り書面で明示しておきましょう。
この他にも、雇用契約の締結では注意しなければならないことが多くあります。当サイトでは、雇用契約手続きや解雇の条件までをわかりやすく解説した資料を用意しているので、雇用契約に関する基本を再確認したい方はぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
2. 雇用契約を口頭で結ぶリスク
前述の通り、雇用契約を口頭で結ぶことは可能ですが、さまざまなトラブルが発生する可能性もあるため注意しなければなりません。以下、具体的なリスクについて見ていきましょう。
2-1. トラブルが発生したとき不利になる
口約束だけでは「労働者との間で労働条件についての合意があった」という証拠がないため、万が一トラブルに発展した場合、会社側が不利になる可能性が高いでしょう。
もちろん、労働条件通知書を交付していれば法律上は問題ありませんが、口約束だけだった場合「言った・言わない」の問題が起こり得ます。
もし裁判にまで発展した場合、企業が不利になってしまう場合もあるため、書面で同意した事実を残しておくと安心でしょう。
2-2. 雇用契約を解除される恐れがある
労働条件が明示された書面が残されていないと、従業員から「〇〇について聞いていない」と言われる可能性があるかもしれません。
労働基準法第15条第2項では、明示した労働条件と実際の労働内容に相違がある場合、労働者は即時で契約を解除できる権利があるとしています。
前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
仮に会社側が契約時に口頭で説明していたとしても、その証拠はありません。
コストや手間をかけて採用した人材の離職を防ぐためにも、労働条件通知書はもちろん、雇用契約書を交付することが重要です。
3. 口頭による雇用契約に関するよくある質問
ここからは、口頭での雇用契約に関してよく生じる疑問について紹介します。
業務委託の場合の口頭契約の可否、就業規則と雇用契約の代替可否・優先順位について解説します。
3-1. 業務委託契約は口頭でも成立する?
業務委託契約とは、自社の業務を外部に委託する契約のことです。企業に勤める会社員とは違い、個人と企業の間で雇用関係は結びません。
委託された受託者は業務を遂行し、発注した委託者は成果に対して報酬を支払います。雇用契約では、労働契約法や労働基準法が適用されますが、業務委託契約については労基法などが適用されません。
業務委託契約に記載するべき内容は以下の通りです。
- 業務に関すること
- 委託料・対価の支払い方法
- 委託期間
- 成果物の権利
- 秘密保持
- 禁止事項
- 損害賠償
- 契約解除について
このように業務委託契約に記載する内容は雇用契約の内容とは異なります。
業務委託契約についても口頭で結ぶことは可能ですが、書面を交付して署名付きの契約書を残しておいた方が良いでしょう。
なお、業務委託契約という言葉は、法律のなかでは存在しません。民法で定める「請負契約」「委任・準委任契約」が当てはまると考えられています。
3-2. 就業規則は雇用契約書の代わりになる?
就業規則とは、その会社のルールや労働条件に関する内容が書かれたものです。雇用契約書の内容と似ているため、「就業規則は雇用契約書の代わりになるのだろうか」と思う人もいるかもしれません。
雇用契約書は従業員の署名と捺印付きの書類ですが、就業規則は会社のルールブックのようなものです。
労働契約法第7条によると、就業規則で合理的な労働条件を定め、労働者に周知していた場合、労働契約の内容は就業規則で定める条件とするとしています。
要するに、雇用契約書を締結していなくても、就業規則で労働条件を定めて従業員に周知していれば、それが従業員の労働条件になるため、場合によっては雇用契約書の代わりになることもあります。
また、就業規則と雇用契約書がどちらも存在する場合で、内容が異なるときはどのように対応したら良いのでしょうか。
基本的には就業規則の内容が優先されますが、雇用契約書の労働条件が就業規則で定める内容よりも労働者に有利である場合は、雇用契約書が優先されます。
たとえば、就業規則に記載のない手当が雇用契約書に記載されていた場合、会社は手当を支払わなければなりません。
ただし、雇用契約書と就業規則の内容に差があるとトラブルが起こる可能性があるため、異なる点がないかどうか見直しをおこないましょう。
3-3. 口頭で雇用契約を解除することは可能?
口頭で雇用契約を締結できるのと同様、口頭で解除することも可能です。労働者・使用者のどちらかが契約を守らない場合や、労使間で合意した場合は、口頭で雇用契約を解除できます。
また、口頭で雇用契約の内容を変更することも可能ですが、内容が変更される可能性について労働条件通知書のなかに事前に記載しておかなければなりません。
3-4. 口頭で退職・解雇する旨を伝えることは可能?
従業員が退職する際は、会社へ退職届を提出するケースが一般的ですが、口頭で退職する旨を伝えることも可能です。退職する旨を伝える方法について、とくに法律上のルールは存在しません。口頭で伝えられた場合であっても、会社側は拒否することができないため注意しましょう。
また、会社側が従業員を解雇する場合も、口頭で伝えることができます。ただし、解雇する旨を伝えたという証拠を残すためにも、書面を交付するとよいでしょう。
4. 雇用契約は口頭ではなく書面で交わそう
今回は、口頭での雇用契約について解説しました。雇用契約は口頭でも成立するものですが、労使トラブルを避けるためにも、書面での取り交わしが大切です。雇用契約書の交付は義務ではありませんが、労働条件通知書は必ず交付しなければなりません。
雇用契約を結ぶとき、会社は賃金や業務内容などの労働条件を明示する義務があるため、口頭のみで契約をした場合はリスクを背負う可能性があります。
また、就業に関するルールがまとめられた就業規則は、適切に運用されていれば従業員の労働条件として認められる場合がありますが、従業員を雇用した際は契約書を交付して労働条件の同意を得た方が良いでしょう。
口頭での契約は後々大きなトラブルにつながる危険性がありますので、雇用契約書を取り交わして契約の証拠を残しておきましょう。
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