会社側が雇用契約を解除するには、社会通念上、正当と認められる理由が必要です。会社都合で雇用契約を解除する場合は、事前にルールや該当する法律を確認しておく必要があります。本記事では、雇用契約解除が認められる理由や、注意点、関連法律、雇止めの手続きについて解説します。
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従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
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目次
1. 雇用契約の解除とは
雇用契約解除は、「会社都合」と「自己都合」の2つに分類されます。会社都合の場合、企業が従業員に解雇を言い渡し、雇用契約を解除します。
一方で自己都合の場合は、従業員から企業に契約解除を申し出ることが一般的です。両方のパターンと定められている法律について、それぞれ解説します。
1-1. 企業から従業員を解雇するケース
使用者から一方的に雇用契約を解除することを「会社都合の雇用契約解除」といいますが、使用者はその権利をいつでも自由に行使できるわけではありません。
労働契約法第16条では、正当な理由がない限り、解雇は無効になることを示しています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする
ここでいう「正当な理由」は、解雇の種類によって異なります。のちほど「 雇用契約解除が認められる正当な理由」の項目にて詳しく解説します。
1-2. 従業員から解約されるケース
従業員側からの申し出による雇用契約の解除は、「自己都合」に該当します。
会社を退職することは労働者の自由なので、正当な理由がなくとも、「一身上の都合」で雇用契約を解除することが可能です。
ただし、あらかじめ契約期間の定めがある労働契約(短期アルバイトなど)では、原則として契約期間の満了とともに雇用契約が終了します。
民法第628条でも、雇用期間の定めがある契約については「やむを得ない事由があるとき」に限って直ちに契約の解除をおこなうことができると定めているため、期間の途中における雇用契約解除には相応の理由が必要です。ここでいう「正当な理由」については、病気やケガといった健康上の問題、介護などにともなう就労不能などが挙げられます。
1-3. 企業と従業員の話し合いで解約するケース
企業と従業員の話し合いによって雇用契約を解約するケースもあります。諭旨解雇は、その代表的な例です。諭旨解雇とは、従業員が解雇に該当するようなトラブルを起こした際、話し合いを通して従業員に納得してもらい、自主的に退職届を提出してもらうことです。
企業側から一方的に雇用契約を解約する懲戒解雇よりも、寛大な措置とされています。ただし、退職届の提出を強制することはできないため、応じてもらえないときは解雇を検討することになるでしょう。
1-4. 「雇用契約の解除」と「雇止め」の違いとは
「雇用契約の解除」と「雇止め」は、雇用契約が途切れるという意味では似た意味の言葉ですが、明確に定義が異なるため今一度おさらいしていきましょう。
まず雇用契約の解除とは、契約期間中に解約をおこなうことを指します。
一方で雇止めは、有期雇用契約をしている従業員の契約期間が満了した際、更新をおこなわないことを意味しています。
2. 雇用契約解除が認められる正当な理由
ここからは、解雇の種類ごとに、雇用契約解除が認められる「正当な理由」を解説していきます。解雇には3つの種類が存在し、正当と認められる理由はそれぞれ異なるため注意しましょう。
2-1. 普通解雇
普通解雇とは、労働者が雇用契約の内容に従った労務を提供しない場合におこなわれる解雇のことです。
具体的には、労働能力の不足、心身の疾患、勤労意欲の欠如などによって仕事の遂行に著しい支障が出ている場合などに実施されます。
ただ、雇用契約の内容に従った労務を提供できているか否かについては、使用者の主観ではなく、社会的な常識に照らし合わせて「妥当」とみなされなければなりません。
また、使用者側も現状を改善するためにさまざまな対策をおこなっておく必要があります。
2-2. 懲戒解雇
懲戒解雇とは、従業員が重大な違反行為をした場合におこなう解雇のことです。
具体的には、就業規則に違反し、会社に甚大な損害を与えた場合などは懲戒解雇の対象となります。
ただし、いくら就業規則に違反したからといって、一度きりの遅刻や無断欠勤などで雇用契約を解除すると、懲戒解雇には該当せず不当な理由による解雇とみなされます。
2-3. 整理解雇
経営上の問題に由来する人員削減を整理解雇といいます。いわゆる「リストラ」のことで、人件費を削減し、経営を立て直すことが大きな目的です。
ただ、経営を立て直す方法は他にもさまざまなものがあるため、整理解雇は最終手段とされています。
そのため、経営が苦しいからといって安易に整理解雇をおこなうと、正当な理由とは認められず、無効とされる可能性があります。
3. 雇止め(有期雇用契約の更新をしない場合)に必要な手続き
雇用期間の定めがある有期労働契約では、契約期間を更新することによって、引き続き労働者を雇用することが可能となります。
一方、雇用契約を更新しない場合も、然るべき手続きが必要です。
ここでは、雇用契約を更新しない場合に必要な手続きを2つ紹介します。
3-1. 契約を更新しない旨の予告
以下の条件を満たす労働者の場合は、契約期間が満了する日の30日前までに、契約を更新しない旨の予告をおこなわなければなりません。急な雇い止めをすると、労働者が生活できなくなる可能性もあるため避けるようにしましょう。
有期労働契約が3回以上更新されている
1年以下の契約期間の労働契約が更新または反復更新され、最初に労働契約を締結してから継続して通算1年を超える
1年を超える契約期間の労働契約を締結している
引用:有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について|厚生労働省
3-2. 契約を更新しない理由の明示
使用者は、雇用契約を更新しない理由を労働者に明示しなければなりません。
なお、雇用契約を更新しない理由について証明書を請求された場合、使用者は速やかに交付する必要があります。
以上が雇用契約を更新しない場合に必要な手続きですが、大前提として、雇用契約を締結する際に以下3点を明示しておかなければなりません。
- 更新の有無
- 判断の基準
- その他留意すべき事項
1は「自動的に更新する」「更新する場合がある」「契約更新はない」など、更新に関するルールを明示します。
2は更新する場合の基準を示すもので、たとえば「契約期間満了時の業務量による」「労働者の能力による」など、具体的な基準を明示しましょう。
3では、1や2以外で、労使間のトラブルを未然に防ぐために必要な事項を明示します。
参考:有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について|厚生労働省
3-3. 契約解除通知書へのサイン
雇用契約を更新しないことが決定したら、契約解除通知書を作成して労働者へ交付しましょう。その後のトラブルを防止するため、労働者に契約解除通知書の内容を説明し、サインしてもらうことが重要です。
とくに決まった書式はありませんが、契約解除に関する内容は網羅しておく必要があります。具体的には、解除する契約名、解除の理由、解除する日付などを記載しておきましょう。
4. 雇用契約解除に関して注意すべきポイント
会社側が雇用契約を解除する際には、不当な解約とならないよう細心の注意を払う必要があります。ここからは、雇用契約の解除の際に注意すべきポイントを解説していきます。
4-1. 正当な理由に該当するか
前述の通り、雇用契約を締結した労働者を解雇するためには、社会通念上相当であると認められる理由が必要です。勤務態度に問題があるからといって使用者の主観に基づき、安易に労働者を解雇すると、訴訟に発展するおそれがあります。
まずは客観的に見て、解雇に相当する理由があるか、冷静に判断することが重要です。
4-2. 雇用契約を解除する理由を就業規則に明記しておく
就業規則に記載する内容には、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」と、当該事業場で定める場合に記載する「相対的必要記載事項」の2種類がありますが、雇用契約の解除(解雇)の事由は前者に該当します。
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用している事業場では作成および届出が必須とされています。
それ以外の事業所でも、解雇を巡る労使間トラブルを防止するため、就業規則には必ず解雇事由を明記しましょう。
4-3. 解約の申し出期日を就業規則に明記しておく
従業員からの雇用契約の解除は、雇用期間に定めがない場合、退職日の2週間前におこなうことで可能とされています。(民法第627条)
とはいえ、業務の引継ぎや人員確保などを加味すると、それ以前に知らせてほしいと考える企業も多いでしょう。その場合には、就業規則にて「2カ月前までに申し出ること」などと申出期限を延長して設定しておきましょう。
ただし、あくまで法律では2週間前と規定されているため、それ以前の申出を強制することはできません。従業員による退職を拒否したり、意向を受け入れず働かせたりするなどの行為は労働基準法違反に該当する可能性があるため、注意してください。
4-4. 解雇する場合は解雇予告をするか解雇予告手当を支払う
従業員を解雇する場合には、解雇予定日から30日以上前に解雇予告をするか、解雇予告手当を支給することが義務付けられています。(労働基準法第20条)
解雇予告が30日前におこなえなかった場合には、日数に応じて手当を支給しなければなりません。
解雇予告手当は、以下の公式にて算出できます。
「解雇予告手当額=(30日-解雇予定日から解雇を言い渡した日)×直近3カ月の平均賃金」
4-5. 雇用契約の解除が法律に違反しないか確認する
労働基準法や労働組合法などでは、一定のケースにおける雇用契約の解除を禁止しています。
たとえば、業務上のケガを治療するための休業期間とその後30日間や、女性社員の産前産後の休業期間とその後30日間などは、解雇をおこなうことができません。
法に違反する雇用契約の解除は原則として無効になりますので、解雇事由がこれらのケースに該当しないかどうか確認しておきましょう。
5. 雇用契約解除に関する各法律の規定
従業員の雇用契約の解除に関しては、さまざまな法律にて規定が設けられています。
ここからは、雇用契約の解除に関する法律をおさらいしていきましょう。
5-1. 労働基準法
労働基準法第19条では、業務上の災害のために療養している期間と、その後の30日間の解雇を禁止しています。
また、同条では産前産後の休業を取得した女性が休業している期間と、その後30日間に解雇することも禁じています。
ただし、打切補償を支払う場合や、天災事変その他やむを得ない事情によって事業の継続ができなくなった場合はこの限りではありません。
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
さらに同法104条では、労働者が同法に違反する事実を事業所がおこなっていることを監督機関(労働基準監督署)に申告したことを理由に、解雇を言い渡すことも禁じています。
(監督機関に対する申告)
第百四条 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
② 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。
5-2. 労働組合法
労働組合法第7条では、労働者が労働組合の組合員であることや、労働組合の正当な行為をしたことを理由に、その労働者を解雇することを禁じています。
(不当労働行為)
第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。
5-3. 男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法では、性別を理由とする解雇を禁じています。
また、女性労働者が結婚、出産したことや、産前産後休業および育児休業を取得したことを理由に解雇することも認めていません。
第六条 事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。
一 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
二 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
三 労働者の職種及び雇用形態の変更
四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新
さらに、同法第9条では、妊娠中および出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇も無効とすることを定めています。
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第九条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
5-4. 育児・介護休業法
育児・介護休業法第10条では、労働者が育児休業の申請および取得したことを理由に、雇用契約を解除することを法律で禁じています。
(不利益取扱いの禁止)
第十条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
5-5. 労働契約法(雇止めに関する規定)
労働契約法第16条では、解雇が無効となる理由について記載しています。労働者を解雇するためには、客観的に合理的な理由が必要であり、解雇という重い処分が社会通念上相当であると認められなければなりません。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
また契約期間中の解雇に関しては、やむを得ない事由がない限り解雇はできないと規定しています。
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。
6. 雇用契約を解除する際は事前に正しいルールの把握が必要
雇用契約を解除する際は、決められたルールのもと、正しい方法で手続きを進める必要があります。
とくに会社都合で雇用契約を解除する場合は、正当な理由に該当するか、労働関連の法律に違反しないかなどを、しっかり確認しなければなりません。
不当な理由で解雇した場合、労使間トラブルや訴訟に発展する恐れがありますので、雇用契約を解除する際は慎重に検討・準備しましょう。
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