雇用契約とは、労働の対価として賃金を与えることを約束した契約のことです。本記事では、雇用契約の定義や、雇用契約書と労働条件通知書の違い、違反やトラブルを防いで雇用契約を締結するための注意点について解説します。労使トラブルを避けるためにも、企業は雇用契約について正しく理解しておきましょう。
「雇用契約手続きマニュアル」無料配布中!
従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
当サイトでは、雇用契約の手順や労働条件通知書に必要な項目などをまとめた資料「雇用契約手続きマニュアル」を無料で配布しておりますので、「雇用契約のルールをいつでも確認できるようにしたい」「適切に雇用契約の対応を進めたい」という方は、是非こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 雇用契約とは?
まずは雇用契約について詳しく解説します。
雇用契約とは、労働者が使用者に対して労働力を提供し、その対価として使用者は労働者に賃金を支払うことを取り決めた契約のことです。
契約内容を書面で明らかにしたものが雇用契約書であり、民法で定義されています。雇用契約書は会社と労働者の双方が納得して契約をしたことの証明にもなる重要な書類です。
雇用契約書には労働に関する基本的なこと、給与や休暇、勤務時間について書かれており、労働契約書とよばれることもあります。
1-1. 雇用契約書は作成しなくてもよい?
多くの場合、雇用形態にかかわらず労働者を雇用した際は契約書を交付することが一般的です。
しかし、雇用契約書を交付する法的な義務はありません。そのため、仮に口約束での雇用契約であっても契約としては成立するのです。
ただし、実際のところ雇用契約書を発行しない企業というのは多くありません。なぜなら、万が一労働者との間にトラブルが起きた際に契約書がなければ、労働者が雇用契約に同意したという証拠を示せず、企業側が不利になる可能性があるからです。
法律で作成義務はないとされる雇用契約書ですが、労使間のトラブルを防ぐためにも、作成しておくべきでしょう。
1-2. 雇用契約書と労働条件通知書の違い
雇用契約書と間違われやすい書類として、労働条件通知書があります。労働条件通知書にも雇用契約書と同じように、労働に関する詳細が書かれていますが、2つにはどのような違いがあるのでしょうか。
労働条件通知書は、雇用契約書とは異なり、必要な内容を明示して労働者に交付しなければならないものです。なかでも「絶対的明示事項」は、書面もしくは電子で必ず明示する必要があります。記載事項については後ほど詳しく解説しますので、参考にしてください。
また、これまで交付は書面に限定されていましたが、2019年4月からは労働者の同意を取ることなどを条件に、FAX、Eメール、Webメールサービス、SNSメッセージ機能などで交付することが可能になりました。ただし、書面として出力できる方法でなければなりません。
雇用契約書と労働条件通知書をひとつにまとめた「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成して交付することも可能です。
1-3. 雇用契約の期間とは?更新は何年ごとに必要?
雇用契約の期間については、1日~3年までとされています。ただし専門的な知識をもつ場合や、60歳以上の労働者においては上限が5年までとされています。
雇用契約を継続したい場合、雇用契約期間が満了するタイミングにて、更新をおこなわなければなりません。
1-4. 雇用契約と業務委託契約・労働契約・請負契約の違い
雇用契約と似た言葉として、業務委託契約・労働契約・請負契約が挙げられます。それぞれ意味が異なるため確認しておきましょう。
業務委託契約との違い
雇用契約と業務委託契約は、労働者として会社から保護を受けられるか否かという点で大きく異なります。雇用契約を結ぶと、雇用主のもとで労働者として働くことになるため、労働基準法に則した保護を受けられます。
一方で業務委託契約を締結する場合は、雇用された労働者ではなく事業主として扱われるため、労働基準法で保護される対象とはなりません。
労働契約との違い
雇用契約と労働契約は、基本的には同様の意味で用いられます。
ただし法律の観点からは、雇用契約は民法に基づいているものであり、労働契約は労働基準法や労働契約法などに基づいているという側面があります。
雇用契約と労働契約の違いは法律上明確には定義されていませんが、念頭においておくとよいでしょう。
請負契約との違い
請負契約とは、受注者に対して仕事を依頼し、成果物を納めてもらうための契約のことです。受注者が仕事を完了させたり成果物を納品したりした際、契約に従って報酬を支払います。
業務委託契約と同様、労働者として雇用するわけではないため、受注者は労働基準法による保護を受けることはできません。
2. 雇用契約書に記載すべき事項
前述の通り、雇用契約書を作成する法的な義務はなく、記載すべき項目に関するルールなどもありません。ただし、労働条件通知書兼雇用契約書として作成する場合は、法律に従って決められた内容を記載することが必要です。具体的には以下のような項目を記載する必要があります。
2-1. 絶対的明示事項
絶対的明示事項とは、必ず記載すべき項目のことです。労働基準法施行規則の第5条により、以下の項目を記載することが義務付けられています。
- 労働契約の期間
- 労働契約を更新する場合の基準
- 就業場所や業務内容
- 始業・終業の時刻
- 所定労働時間を超える労働の有無
- 休憩時間・休日・休暇
- 労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換
- 賃金の計算方法・支払い方法・昇給
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
上記の項目は、従業員の労働環境や収入に大きく関わります。記載漏れや間違いのないよう、しっかりと確認してから交付しましょう。
2-2. 相対的明示事項
相対的明示事項とは、該当するルールや制度を設けている場合に記載すべき項目のことです。たとえば、休職制度を設けている場合は、項目を作成して内容を明記しなければなりません。具体的には、以下のような項目が挙げられます。
- 退職手当が支払われる労働者の範囲
- 退職手当の計算方法・支払い方法
- 臨時に支払われる賃金・賞与
- 最低賃金に関する事項
- 労働者に負担させる食費・作業用品などに関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰・制裁に関する事項
- 休職に関する事項
相対的明示事項については口頭での説明でも問題ないとされていますが、トラブルを防止するためにも書面に記載して交付しておくほうがよいでしょう。
3. 雇用契約の結び方
労働者と雇用契約を結ぶには、どのような手順で進めればよいのでしょうか。ここでは、契約に必要な書類や手順について解説します。
3-1. 雇用契約書と労働条件通知書を交付する
雇用契約を結ぶために必要な書類は、雇用契約書と労働条件通知書です。前述の通り、雇用契約書の作成は義務ではありませんが、双方が労働条件に合意した証拠を残しておくためにも交付しましょう。
契約書の取り交わしは、正社員だけでなく非正規社員も対象にしましょう。雇用契約書に関しては、通常、企業側と労働者側でそれぞれ1部ずつ保管します。
書類を交付し、雇用契約書に署名と捺印をしたら雇用契約は完了です。
3-2. 手続きに必要な書類を提出してもらう
雇用契約自体は契約書の取り交わしで完了しますが、労働者を雇うために企業側はさまざまな手続きをしなければなりません。そのために労働者からいくつか書類を提出してもらいます。
必要な書類は、主に以下の通りです。
- 雇用保険被保険者証(中途採用の場合)
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 年金手帳
- 住民票
- マイナンバー
- 源泉徴収票(中途採用の場合)
これらの書類を提出してもらったら、保険や税金に関する手続きをおこないます。
3-3. 法定三帳簿を準備する
雇用契約を結んだら、法定三帳簿を準備しなければなりません。法定三帳簿とは、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿のことです。正しく作成して一定期間保管することが義務付けられているため、忘れないようにしましょう。
労働者名簿には、雇用した従業員の氏名・住所・生年月日などを記載します。新しく雇用契約を結んだ場合は、忘れずに内容を更新しましょう。
賃金台帳とは、従業員ごとの基本賃金や労働時間などを記載した書類のことです。賃金を正しく支払うために必要なもので、不備があると労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性もあるため注意しなければなりません。
また出勤簿には、従業員ごとの出勤日や休憩時間などを記載します。上記3つの書類を作成し、しっかりと管理しておきましょう。
4. トラブルなく雇用契約を結ぶ方法
雇用契約を結ぶための一般的な手順や流れについて説明しましたが、契約後のトラブルは避けたいものです。小さなトラブルから労働紛争にまで発展してしまうと、会社の信用にも影響が出てしまうかもしれません。
以下、トラブルを起こすことなく雇用契約を結ぶ方法を紹介します。
4-1. 相対的明示事項も忘れず記載しておく
前述の通り、労働条件通知書には絶対的明示事項だけではなく、相対的明示事項も一緒に記載しておくことが大切です。相対的明示事項とは必要があれば記載するべき項目のことで、たとえば、賞与や最低賃金に関すること、安全及び衛生に関する事項、休職に関する事項などが該当します。
これらは書面ではなく口頭での説明でも良いとされていますが、後々トラブルが起こる可能性もありますので、できる限り書面に記載しておきましょう。
4-2. 契約書は求人内容と相違がないようにする
労働者は企業の求人票の条件を見て応募するので、入社の際に求人に記載されていた内容と契約内容が異なると、トラブル発生の元になるでしょう。
職業安定法第65条第8号では、偽った条件で応募者を集めた場合、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金を科すとしています。
求人と契約内容に違いがあると、応募者からの信用を失ってしまい、内定辞退や退職につながってしまうかもしれません。応募者がハローワークに相談した場合、行政機関から指導を受ける可能性もあります。
4-3. 試用期間の有無・条件などを記す
試験期間の有無や期間中の処遇などについては、あらかじめ雇用契約に明示することが求められます。試用期間が延長される可能性や、期間終了後に所属部署が変更される可能性がある場合は、その旨を記載しておきましょう。
4-4. 労働形態が特殊な場合は条件をしっかりと明記する
通常の労働時間とは異なる、以下のような変則的な労働形態が存在します。
- 裁量労働制(専門事業型裁量労働制、企画型裁量労働制)
- 事業場外みなし労働時間制
- フレックスタイム制
- 変形労働時間制
上記の制度は、労働時間が変動的になるため、雇用契約を結ぶ際には条件を正確に明示するようにしましょう。
4-5. 転勤の有無を記す(正社員の場合)
正社員の場合は、他の雇用形態の従業員とは異なり、転勤が生じる可能性も高いでしょう。雇用契約時には、就業場所はもちろん転勤の有無を明記することが必要です。
あらかじめ雇用契約時に告げておかない場合、転勤を拒否されるほか、不当な命令として従業員から訴訟を起こされる可能性もあります。
このようなトラブルを防ぐためにも、雇用契約書へ記載したうえで口頭による説明もおこなうなど、事前に認知してもらうことが重要です。
4-6. 配置転換・職種変更の有無を記す(正社員の場合)
正社員は、業務内容においても他の雇用形態の社員と比較すると、流動的であることが多いでしょう。人事異動や職種の変更が生じる可能性がある場合には、あらかじめ選考時に伝えるほか、雇用契約書にも明記して了承を得ることが求められます。
4-7. 契約期間を必ず確認する(アルバイト・契約社員の場合)
アルバイトや契約社員などの有期雇用契約社員の場合は、「労働契約期間」と「契約更新の基準」を明記する必要があります。
契約期間は原則3年までと定められていますが、専門知識を有する者や満60歳以上の者は、上限は5年までとされています。また通算で5年以上の労働契約期間となる場合、従業員による申し出があれば無期雇用契約へと転換しなくてはならないため、あらかじめ把握しておきましょう。
5. 雇用契約を結ぶうえでの注意点
雇用契約を結ぶ際に作成する書類は、労使トラブルを未然に防ぐためにも重要な存在です。労働条件の明示義務に違反した場合は、労働基準法120条で定める30万円以下の罰金が科せられる可能性もあるため、注意点はしっかり把握しておきましょう。
5-1. 記載に漏れがないか確認する
雇用契約書や労働条件通知書を作成する際は、記載すべき事項に漏れがないか確認しましょう。
たとえば、賃金に関する記載は必須ですが、賞与に関しては記載義務はありません。ただし、賞与の支給に関してはトラブルにつながりやすいので、契約書に記載しておいた方が良いでしょう。
なお、パートタイム労働法においては、賞与の有無に加え、退職金や昇給の有無についての明示が義務付けられています。
また、試用期間がある場合はその期間を記載する必要がありますが、たとえば試用期間中の賃金が異なる場合などは、トラブルを避けるためにも試用期間用の雇用契約書を取り交わした方が安心です。
5-2. 雇用契約書のテンプレートをそのまま使用しない
雇用契約を結ぶための書類をインターネットで探すと、テンプレートがたくさん見つかるでしょう。労働条件通知書は厚生労働省のホームページからひな型がダウンロードできるため、基本はその内容に沿って作成して問題ありません。
ただし、テンプレートに含まれていない相対的明示事項には注意が必要です。たとえば、労働者が負担しなければならない事項や、休職に関する事項などは各企業によって異なる場合が多いでしょう。
そのため、契約書の内容は企業の実態に即した内容で作成することが求められます。
また、2024年4月からは明示ルールの変更があったため、使用しているテンプレートがいつ頃作成されたのかも確認しておく必要があります。古いテンプレートを使用している場合、明示すべき事項として追加された項目が反映されていないかもしれません。当サイトで無料配布している「雇用契約手続きマニュアル」の資料では、雇用契約の際に明示すべき事項についても詳しく解説しています。2024年4月からの変更点も解説しているので、テンプレートを変更するときのチェックリストとしてもご活用いただけます。興味のある方はぜひこちらからダウンロードしてご確認ください。
6. 雇用契約に関するよくある質問
ここからは、雇用契約に関してよく生じる疑問について解説します。
口頭での雇用契約や、就業規則の法的効力、途中変更や解除の方法について確認しましょう。
6-1. 雇用契約と就業規則の法的効力は?
雇用契約の内容が、就業規則の内容を下回る場合、その該当箇所は無効となります。そのため、就業規則のほうが雇用契約よりも法的効力が強いです。基本的には、従業員に有利な内容が優先されるため覚えておきましょう。
6-2. 雇用契約違反に該当するケースとは?
雇用契約が労働基準法に違反しているケースとして、以下のものが代表的な例として挙げられます。
- 就業規則・労働条件通知書を作成・周知しない場合
- 休憩時間・休日・休暇を適正に与えていない場合
- 法定労働時間を超えて労働させている場合
- 労災申請をおこなわない場合
仮に雇用契約書に記載していたとしても、法律に違反している場合は取り決めが無効となります。
6-3. 雇用契約を途中変更するには?
雇用契約を途中で変更するには、大前提として合理性があり、従業員が不利益を被らない内容である必要があります。
途中変更をおこなう方法としては、従業員に個別で確認し同意を得たうえで、「雇用契約書の合意を解除して再度契約をおこなう」もしくは「変更部分について覚書・同意書を作成する」などがあります。勝手に内容を変更しないよう注意しましょう。
6-4. 雇用契約を解除するには?
民法627条1項によると、無期雇用の従業員(正社員など)が雇用契約を途中で解除したい場合、従業員が使用者に解約の申し入れをおこなうことで、2週間後に契約を終了することができるとされています。一方で有期雇用の従業員(契約社員など)の場合には、要件が異なるため注意が必要です。
6-5. 雇用契約書を電子化することは可能?
雇用契約書を電子化することも可能です。2019年4月の法改正により、労働条件通知書の電子化も認められるようになったため、労働条件通知書兼雇用契約書を電子化して交付しても問題ありません。
ただし、従業員が電子化を希望している場合に限られます。さらに、従業員本人のみが閲覧できる状態で送信すること、プリントアウトできる形で交付すること、という2つの条件を満たさなければなりません。
雇用契約書を電子化することで、ペーパーレス化や業務効率化を図れるため、うまく導入を進めましょう。
7. 雇用契約を正しく理解してトラブルを回避しよう
雇用契約は労働者を雇う際に必須であり、そのためには労働条件通知書の交付が必要です。雇用契約書の交付は義務化されていませんが、労使トラブルを回避するためにも、発行することが望ましいでしょう。
契約書は書面と電子どちらで交付しても問題ありませんが、労働条件が詳しく記載された重要な書類となりますので、内容に関しては正しく理解する必要があります。
労使間の信頼関係にも影響を及ぼす可能性があるので、雇用契約は双方が合意し、納得したうえで締結しましょう。
「雇用契約手続きマニュアル」無料配布中!
従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
当サイトでは、雇用契約の手順や労働条件通知書に必要な項目などをまとめた資料「雇用契約手続きマニュアル」を無料で配布しておりますので、「雇用契約のルールをいつでも確認できるようにしたい」「適切に雇用契約の対応を進めたい」という方は、是非こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。