「企業年金とは?」
「退職金と何が違うの?」
上記のような疑問をお持ちではありませんか。
企業年金とは、企業が国の年金に上乗せして支給する、退職後の従業員を支援する制度です。
従業員に安心をもたらすだけでなく、企業にとっても多くの利点があります。近年、注目を集める福利厚生の一つです。
そこで本記事では、企業年金の概要や種類、メリットデメリットについてわかりやすく解説します。導入の流れや注意点についても解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1. 企業年金とは
企業年金とは会社負担で掛金を出し、退職後の従業員を支援する年金制度です。会社員が加入できる主な年金は以下4種類あります。
階層 |
年金名 |
分類 |
3階 |
・企業年金 ・個人年金(iDeCoなど) |
私的年金 |
2階 |
厚生年金 |
公的年金 |
1階 |
国民保険 |
公的年金 |
企業年金はこの3階部分にあたる私的年金です。企業が公的年金に上乗せして提供する年金で、従業員に対して加入義務はありません。老後資金への関心が高まる昨今、福利厚生の一環として注目されています。
2. 企業年金と退職金の違い
企業年金と退職金の違いは以下のとおりです。
項目 |
企業年金 |
退職金 |
受け取り方 |
分割受け取りが一般的 |
一括受け取りが一般的 |
所得控除 |
公的年金等控除 |
退職所得控除 |
企業のお金の準備方法 |
在職中に毎月少額ずつ |
退職時に一括して準備 |
企業年金と退職金は、どちらも退職後の生活を支えてくれるものですが、受け取り方や税制などに違いがあります。これらの違いを理解することで、企業年金制度の仕組みがより具体的に理解できるでしょう。
3. 企業年金の3つの種類
企業年金の種類は以下の3つです。
- 確定給付企業年金(DB)
- 企業型確定拠出年金(DC)
- 厚生年金基金
3-1. 確定給付企業年金(DB)
確定給付企業年金は、企業が拠出した掛金を金融機関に運用を依頼し、将来支給する年金の確保を目指す制度です。
運用結果に関わらず、将来給付する金額があらかじめ確定している特徴があります。このため、Defined Benefit(DB)ともよばれる制度です。
将来受け取る年金額が見込まれることから、従業員に老後の安心を提供できます。また、企業としては従業員満足度向上につなげられる仕組みです。
3-2. 企業型確定拠出年金(DC)
企業型確定拠出年金は、企業が拠出した掛金を使用し、従業員自身で運用をおこなう年金制度です。運用成績によって将来受け取る金額が変動する点が、先程の確定給付企業年金と異なります。
毎月の掛金が固定されていることから、Defined Contributionの略で企業型DCとよばれることもある制度です。
企業は資産運用の責任を負いません。そのためマイナス益が出たても、補填する必要がない特徴があります。
3-3. 厚生年金基金
厚生労働省の認可を受けて設立される、厚生年金基金とよばれる法人があります。この法人が厚生年金の一部を代行し、通常分に上乗せして年金を支給する制度です。
より多くの年金を受け取れる仕組みでしたが、運用の難しさから解散が相次ぎました。その影響もあってか、法改正により2014年4月1日以降新規設立は認められていません。現在ではごくわずかな厚生年金基金しか残っていないのが実情です。
4. 企業年金を導入する3つのメリット
企業年金を導入するメリットは以下の3つです。
- 人材の維持と確保につながる
- 節税効果が得られる
- 退職金支払いのコストを平準化できる
4-1. 人材の維持と確保につながる
企業年金の導入は、人材の維持につなげられるメリットがあります。退職後の生活を支える重要な福利厚生であり、将来の経済的安心感が従業員の定着意欲を高めるためです。
また、企業年金があることで採用面でも有利になります。福利厚生が充実している企業は魅力的に映るためです。さらに、企業年金には前職から引き継げる仕組みがあり、対応している企業は転職候補として挙げられやすくなります。
4-2. 節税効果が得られる
企業年金の導入は、企業にとって節税効果をもたらします。企業が拠出する年金用の掛金は、損金として算入できるためです。課税所得を減らせるので、法人税の負担を軽減できます。
企業は従業員の福利厚生を充実させつつ、税制上のメリットも同時に享受できる仕組みです。
4-3. 退職金支払いのコストを平準化できる
企業年金を導入すれば、退職金の支払いコストを分散できます。従来の退職金制度では、一度に大きな金額を支払う必要がありました。
しかし、企業年金では定期的に掛金を分散して拠出できるため、財務負担が平準化されます。急な資金流出を避け、企業は長期的な資金管理の安定性確保が可能です。
5. 企業年金を導入する3つのデメリット
企業年金を導入するデメリットは以下の3つです。
- 掛金を用意する必要がある
- 制度導入や運営にコストがかかる
- 運用リスクに対応する必要がある
5-1. 掛金を用意する必要がある
企業年金を導入する際、従業員分の掛金を準備する必要があり、企業にとって負担となる場合があります。キャッシュフローが厳しい時期でも、掛金を継続して拠出しなければなりません。
退職金のように一度に資金をまとめて準備する形とは異なり、定期的な資金確保が求められる点に注意しましょう。
5-2. 制度導入や運営にコストがかかる
制度導入には、コンサル費用や口座開設費用などの初期コストがかかります。既存の賃金制度や退職金制度、就業規則の見直しも必要です。
その際には、人事部や経理部の対応に伴う人件費も発生します。掛金以外にも、こうした費用がかかる点に留意しておくことが大切です。
5-3. 運用リスクに対応する必要がある
企業年金は資産運用をメインに資金を準備するため、確実性がないリスクに対応しなければなりません。例えば確定給付型企業年金では、運用成績が悪化して退職金を十分に準備できない場合、企業が補填する必要があります。
企業型確定拠出年金では従業員がリスクを負いますが、損失が発生すればモチベーションが低下する可能性もあるでしょう。従業員向けに投資教育をおこなうなどの対策が求められます。
6. 企業年金の導入方法と流れ
企業年金の導入方法と流れは以下のとおりです。
- 制度の選定をする
- 運営管理機関の選定をする
- 社内向けに合意形成をおこなう
- 導入手続きを進める
- 運用開始の周知と教育をおこなう
企業年金の導入に際しては、各ステップを丁寧に進めることが大切です。まず、企業の財務状況や従業員のニーズを十分に理解します。そのうえで、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金などの制度を比較し、最適な選択をおこないましょう。
次に、運営管理機関を選定する際には、過去の運用実績や手数料をよく確認し、信頼性の高いパートナーを選ぶことが重要です。社内での合意形成も不可欠で、従業員や代表者としっかり話し合い、制度への理解と支持を得ることが導入の成功につながります。
導入手続きでは法的な要件を確認しつつ、書類の準備や契約を円滑に進めましょう。最後に、従業員に制度をしっかり周知し教育をおこなうことで、制度の運用がスムーズに進む体制を整えることが重要です。
7. 企業年金を導入する際の注意点
企業年金を導入する際の注意点は以下の2つです。
- 受給者が死亡した場合の対応が必要になる
- 法改正によってルール変更の可能性がある
7-1. 受給者が死亡した場合の対応が必要になる
企業年金受給者が死亡した場合、まずすみやかに年金支給の停止手続きをおこないます。その後、遺族給付に関する手続きなどが必要です。
必要な書類や手続きの流れをわかりやすく説明できる準備をしておくと、遺族の方にも安心してもらえるでしょう。詳細な手続きは専門家や運営管理機関と連携し、適切にサポートすることが大切です。
7-2. 法改正によってルール変更の可能性がある
企業年金の運営では、法改正によるルール変更の可能性があります。例えば年金制度や税制優遇の見直しが考えられるため、注意が必要です。
こうした変動にも柔軟に対応できる体制を整え、長期的な安定運営を目指しましょう。
8. 企業年金を導入して安心して働いてもらおう
企業年金は、退職後の従業員を支援する重要な制度です。導入することで、従業員が安心して働ける環境づくりにつながるでしょう。
また、企業にとっても従業員の定着率向上や企業の魅力アップ、さらには節税効果のメリットが期待できます。メリットとデメリットを十分に理解した上で、導入を検討してみてください。